基本的に、マーヴェリックは悩み事を誰かに相談する質ではない。そして、心底の困りごとや、それこそ身動きが取れないような状況に追い込まれてからの相談先である友人は空に還ってしまった。
もちろん彼以外にも話を聞いてくれるベストフレンドは多くいるが、たとえ彼ら彼女が快く悩み相談に応じてくれるとしても、今回の件は相談できない、とマーヴェリックは頭を抱えた。
マーヴェリックは紆余曲折を経て、ルースターと恋人関係に至っている。
ベストフレンド達に相談できない理由が、年下の青年、親友夫婦の忘れ形見、部下、同性という関係性を秘しているからではない。マーヴェリックとルースターの周囲は二人が恋人関係であることを快く受け入れ、心から祝福してくれている。
目下頭を悩ませているのが、性事情に関してだからだ。
ルースターとの付き合いは長く、ほぼ人生の大半を占めていて、それはルースターも同様だ。お付き合いというものを始めてからは半年ほど、ハグもキスも交わすのだが、未だセックスには至っていない。
そもそもマーヴェリックは付き合い始めた時点で、まさかルースターがセックスまでをも望んでいるとは思ってもいなかった。
体の関係を持たないカップルも世にはいるし、六十才に近いマーヴェリックに対して男盛りのルースターが欲情するとは思っていなかった。
ルースターと恋人になるまでは、マーヴェリックは女性としか付き合ってこなかったので、そもそもセックスまでに考えが至らなかったというのが正直なところだ。
浅慮だったと今更ながらにマーヴェリックは思う。ルースターも同性相手は始めてだと聞いていたし、マーヴェリックとしてはハグやキスだけでも充分に多幸を感じていた。
しかし、時折ルースターの視線が熱を帯びたなら、マーヴェリックとて自覚せねばならないのだ。
ーーこの子は一人の男として僕を慈しみたいんだな、本気で。
どうやら自分のポジションはボトムらしいと察しがついてからは、医学書やその手のSNS、広大なネット情報を熟読し、タイミングに備えた。心配していた衛生面においても、マーヴェリックもルースターも職業柄一般人よりも検査の頻度も高く、マーヴェリック的には条件は揃いクリアしていると考えていたのだが。
しかし。ルースターは存外に紳士だった。
頻度の低い貴重な逢瀬でも、マーヴェリックの話の聞き役に回り、食事を用意し、穏やかな時間を過ごすことに終始務め、ただマーヴェリックとの時間を堪能することを優先していた。
ーー今時の若者ってこうなのか?
比する対象が自分であることはよろしくないので、マーヴェリックは自分の周囲の友人を例に考えてみるが、やはりその中でもルースターは〝男前〟で〝紳士〟という結論に至り、自分のピンクがかった贔屓目に再度頭を抱えた。
結局悩みに悩んだマーヴェリックは、マーヴェリックの中で最も重要な日ーールースターの生誕日ーーである今日を切っ掛けに、今一歩進んだ関係に至りたいと考えていた。
明け透けに誘うボトムの誘い方などの手管はもちろん無く、悩みに悩んだ末、マーヴェリックは時間ギリギリにモハーヴェの住処を飛び出した。
いつものTシャツとデニムーーそして、フォーマルな場でしか着用しない、とっておきのオーダースーツのジャケットを手に、空港へ向かった。
◇
ーーモハーヴェの住処まで行かなくてもいい。
ーー君が生まれたこの貴重な日に合わせて休暇をとり、西海岸まで飛んできてくれた君と、近くのホテルで、愛を確かめ合おう。
頭の中ではいくらでも愛を紡げるし、今まで付き合った女性には心底から告げられた甘い言葉。
けれど、相手があの〝ブラッドリー〟ともなると、マーヴェリックはやはり、面と向かって直接的な言葉を伝えることには羞恥が勝る。だから、察して欲しいと胸元をいじった。
先に着いた空港の待ち合わせ場所のラウンジにいるマーヴェリックに気づいたルースターが手を振る。手を振って、そのまま固まった。
マーヴェリックがいじる胸元ーーオーダースーツのフラワーホールーーに差し込まれた一輪の薔薇。
ルースターはそれに気づき、マーヴェリックの意図もすぐに察したようだった。
ーーずるい考えだろうか。でもいいだろう、おじさんは出来過ぎた年下の恋人に対し、少し贅沢になっているから、どうかどうか、察して欲しい。だってとうにーー僕は君のもの。
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