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えぬを
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あまいさかい
rsmv_20240622公開
ルスマヴェ成立後もちょこちょこ痴話喧嘩すると思うんだけど、愛情の深度が深いから、痴話喧嘩の要因紐解いたらますます相手のこと好きになっちゃう気がするっていう痴話喧嘩小話。双方向に愛情が底なしなルスマヴェのあまい小話です。
自基地では珍しいその人が廊下の向こうからやってくるのを見かけ、ルースターは手を上げた。
声をかける前に書類に目を落としながら歩いていたその人は、気配に気づいて顔を上げる。ルースターに気づく。そしてーーわずかに目を逸らした。逸らしてから取り繕うように笑顔を浮かべ、こちらに向かって手を振る。
ルースターはすぐに彼が〝あの人〟に関わるなにかを隠していることに気づいた。
「ホン、コールマン准尉」
わざと名前では呼ばず、職位で声をかける。ルースターの硬質な声色と貼り付けたような笑顔にホンドーはすぐに観念したようだった。
ホンドーは挨拶のために上げた手で額をぴしゃりと叩く。
隠し事のできない善人であることはルースターも重々承知している。
「やぁ、ルースター。久しぶりだな。えぇっと」
「うん、で?」
上官への態度としてはあるまじきだろうけれど、ホンドーは目に見える冷や汗をかいた後に、重い口を開いて秘密を打ち明けた。
◇
モハーヴェの倉庫はわずか開かれていた。
車のエンジ音は聞こえたかどうか、けれど迎えがないということはマーヴェリックはエアストリームの中にいるのかもしれない。
どちらにせよノンアポイントメントの訪いだ。約束もない。
怒れるルースターはそのまま荷物は車の中に、段々と小走りになって倉庫へと足を踏み入れる。
気配に聡いマーヴェリックがここまで近づいても気づかないのは、ルースターを心許せる相手としているからなのか、それとも。
「マーヴ」
「うわ!!」
果たしてマーヴェリックは倉庫内にいた。
着替えの入っているロッカーの前、ルースターの声がけにびくりと肩を震わせ、バランスを崩した。
ルースターは走った。
よろけたマーヴェリックを後ろから抱きとめる。
「ぶ、ブラッド??」
怒りとそれを上回る憂いが表情に出ていたのだろう、マーヴェリックは驚きの後に、すぐに後悔の表情を浮かべた。
言葉で告げなくとも、表情でわかるくらいには近い距離感の間柄だと自負していたのに。
マーヴェリックの右足の甲からその裏までが白い包帯に包まれていて、ルースターは眉を顰めた。
マーヴェリックは悪魔のように体幹が強い。例え驚いたのだとしても、容易くバランスを崩すようなことはない。
原因は右足の怪我だ。
マーヴェリックはルースターが足の包帯を凝視していることに気づいて、焦って身体を起こそうとする。
それを押しとどめて、ルースターはそのままマーヴェリックを担ぎ上げた。
「ぶ、ぶらっ、ぐぇ」
身構えていなかったマーヴェリックは、勢いよく持ち上げられた勢いで、ルースターの肩口で腹を打ったらしい。
苦しげなうめき声が聞こえたが、ルースターは気にせずにマーヴェリックを担ぎ上げたまま、倉庫のソファに向かって歩き出した。
ばたばたと暴れるマーヴェリックの足先の包帯が恨めしい。
そうしてルースターは担ぎ上げた勢いは打って変わって、いっそガラス細工を扱うかのような繊細さでマーヴェリックをソファに下ろした。
特に包帯の巻かれた右足首を、どこにも触れさせないよう細心の注意をはらって。
ソファにマーヴェリックを座らせ、ルースターはマーヴェリックの右足を持ち上げた。
よく確認すれば、足首から甲、足裏まで包帯が巻かれている。
「割れたガラスに思いっきり足をついたって?」
「
……
誰から聞いたのかは聞かないけど。黙ってたのは軽症だったからだからな」
「軽症?縫ったって聞いた。それに、療養休暇取ってるって。軽症かよ?片足でしか動けないくせに。よろけて転びそうになったのに?」
マーヴェリックが押し黙る。
ルースターは大きくため息を吐いた。
ホンドーが目を逸らした理由がこれだ。口止めされていたホンドーからしたら、一人で不便しているマーヴェリックの様子見をする最適な人物と遭遇したと最終的には開き直っていたが。
マーヴェリックは殊勝な態度ではなく、未だルースターから視線を逸らしている。その頑なな表情にいささかの違和感を感じて、ルースターは座るマーヴェリックの前に跪いた。
マーヴェリックの口元がぴくりと震える。
ーーまだなにか隠してんな。
察したルースターは作戦を変えた。
「マーヴ、俺別に怒ってないよ。そりゃ最初は、怪我したことなんで俺に言ってくれなかったのかって思ったけど
……
たしかに俺だって、プライベートで怪我したって、それが入院するようなものじゃなければ連絡しないかも、だけど」
マーヴェリックが横目でルースターをうかがってくる。ここに来てようやく視線が合った。
「俺頼りねぇ?不便してるなら駆けつけるよ。恋人だもん」
少し口を尖らせて伝える。マーヴェリックの口を割らせるための演技ではない。心底からルースターはそう思う。甘えてくれてもいいのに、と。
マーヴェリックは観念したらしい。けれど、その瞳に申し訳なさよりも、落ち込む色を見て取って、ルースターはマーヴェリックの顔を下から覗き込んだ。
「マーヴ?」
「
……
あのカップ、割っちゃったんだ」
「カップ?割れたガラスの話?カップなの?カップ?え?」
てっきり職務で怪我をしたのかと予測していたルースターは、予想外のもので怪我をしたらしいマーヴェリックの言葉の意味がわからず聞き返す。
「ごめん、君が買ってくれた鶏の絵が描かれたマグだ」
「マグ
……
?あ、ああ、あれか!」
ルースターが購入した鶏の絵の描かれたマグカップのことだろう。同ブランドで狼の絵が描かれたマグカップと揃いで購入し、マーヴェリックの住処を訪れた時にはそれぞれのTACネームにちなんだマグカップでコーヒーを飲むのが常だった。
「せっかく〝マーヴェリック〟とお揃いだったのに」
心底悲しげな風情を醸すマーヴェリックにルースターは衝撃を受けた。
「は?なに?怪我したこと黙ってたのは、単純にお揃いのマグ失くして悲しんでんの?」
「単純じゃない!せっかく君が買ってくれたのに
……
!」
「いやまさかそんな可愛い理由とか」
「可愛くない!そうじゃない!割ってしまった時は、君になにかあったんじゃないかと
……
!」
割れた〝ルースター〟のマグカップ。割れたカップもそのままに、マーヴェリックは素足で走り、すぐにルースターに電話をかけたのだろう。そん幻影がエアストリーム内に浮かんで消える。
そうだ、数日前にマーヴェリックが電話をかけてきた。内容は雑談だった。ただ、体調を気遣う内容と、次に会う予定が少し先になりそうだというマーヴェリックからの言葉ーーあの時、マーヴェリックの足元は血だらけだったのかと想像し、ルースターは頭をかきむしった。
なぜ気づかなかったのかと悔やむ。わかるはずもないけれど、でも、なんで、という言葉が口を突いて出そうになるが、ルースターは耐えた。
深呼吸して、マーヴェリックの両手を包むように握った。
握った瞬間びくりと震えたマーヴェリックの不安げな表情に焦れて、ルースターは下から掬い上げるようにマーヴェリックに口付けた。
唇を離して、至近距離で、吐息で訴える。
「言ってよ。呼んでよ。どこでも駆けつける。心配なら電話を繋げたまま明け方まで話したっていい。マーヴの心配事を払拭できるなら。マーヴが辛い方が俺も辛い」
「
……
ごめん」
マーヴェリックが同じように吐息で呟いて、目を瞑ったままルースターに額を合わせてくる。
「すごい些細なことだって自分でわかってる。幸い傷はそんなに深くないし、もうすぐ抜糸だ。なんだか自分が分別のない子供になったようで。そうなんだ、たかがカップが割れただけ。でも、君が大切すぎて、んぅ」
マーヴェリックが語る内容に辛抱がたまらず、ルースターは再度下からマーヴェリックに口付け、そのままソファに押し倒した。
「俺こそごめん、落ち込んでるのに理由が可愛いとか言って。でも可愛くてたまんないからこのままいい?足に負担はかけないから」
同意前にルースターはマーヴェリックに乗り上げて、早々にアロハシャツを脱ぎ捨てTシャツに手をかけている。
「マグカップの〝ルースター〟じゃなくて、本物のルースターじゃだめ?」
ルースターが笑いながらマーヴェリックをうかがう。マーヴェリックは一瞬目を見開いたのち、薄く笑った。
「
……
マグカップの〝ルースター〟もやっぱまたほしい」
「ふは。OK。終わったら買いに行こう」
ルースターは恭しくマーヴェリックの右足を持ち上げると、包帯に包まれたその甲に、キスを落とした。
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