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えぬを
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rsmv_20240414公開
マヴ愛されのアイサラとルマで、サラとマヴのお話し。ルマ要素薄めかも。カザンスキーファミリーとマヴの関係性が好きです。お花ちゃんとお花ちゃんでお花畑なサラとマヴ。
不意に上がった驚きの声に、マーヴェリックが声の主を振り返る。
アルバムを見せて欲しいと強請られ、ルースターが過去のそれを熱心に見始めてから、ゆうに一時間を超えている。今更に見返すものも特になく、ルースターからのアルバム内の誰何にこれは誰であれは誰でと幾度か説明したりを繰り返し、郷愁に駆られるなどをした午後。
「うわ」
「なんだ、どうした?」
アルバムの一ページを開いたまま、硬直しているルースターがいて、マーヴェリックはなにが恋人を驚かせたのかと、三杯目のコーヒを片手に真上からアルバムを覗き込んだ。
「あぁ」
写真を見て、マーヴェリックは合点が入った。
「可愛いだろう?」
ルースターは写真から勢いよく顔を上げて口を開いたり閉じたりして、再度写真に目を落とす。そうしてまたマーヴェリックを見上げてようやっと口を開いた。
「な、なにこれ、え、映画の撮影
……
とか?いやマジで、なに、なんなのこれ」
「映画の撮影?そんなわけないだろ。軍内のアフターパーティの時のだ」
「いや、そん、そ、は、はぁ?」
「この頃から綺麗で可愛いかったんだ、サラ」
ルースターが名にし負う鳴き声にも似た叫び声を上げた。
「うるさ。なんだ、気づいてなかったのか?彼女はサラだ」
そこに写るのは華やかなパーティドレスを身に纏う美しく可憐な女性と、ダブルのスーツに身を包んだ若いマーヴェリックだ。
その二人が互いに手を取り踊る様子の一瞬を捉えた写真。その情景ならありふれたものだったかもしれない。けれどルースターが思わず驚きの声を上げたのは、写真の二人がまるで世界一有名な夢の国のプリンスとプリンセスのようだったからだ。
「いや、これ、マーヴは分かるんだけどさ、このプリンセスみたいなのがサラおばさん!?」
「そう」
まとめられアップにしたヘアスタイルに、今でいうところのモダンなブラックのドレスの裾を翻し、若いマーヴェリックに腰を抱かれ楽しげに笑いながら踊る二人の写真は、正しく映画のワンシーンのようだった。
「いや、マーヴのプリンス振りは理解してるけどこれ、サラおばさんなのか
……
めちゃくちゃキュートじゃん」
「今もな」
「サンクス、うん、もちろん」
「ていうか僕のプリンス振りって。なんだそのワードチョイス」
マーヴェリックが笑って隣に座り、ルースターにコーヒーを差し出し言葉を付け加える。ルースターが謝意を述べて同意するも、その様子はいささか上の空だ。
マーヴェリックが苦笑する。
「分かるよ、すごく可愛いだろ、サラ。君がプリンセスっていうのも納得だ」
「うん、マーヴと並ぶとマジであの映画の実写だよ。てかこれどういう状況?」
トム・〝アイスマン〟・カザンスキーの婚約者である頃の彼女と踊るマーヴェリックとの写真に、ルースターが疑問を持つのも無理もない。
マーヴェリックは写真の中の出来事に思いを馳せた。
兎角、敵を作りやすい性格というのをマーヴェリックは自覚している。
良くも悪くも容姿も目立つ方であるからして、若い頃から目をつけられやすかった。
軍属となるとそれは二極化して、命を互いに託しあえる良き仲間たちに恵まれ、翻って組織内では悪しように扱われることもしばしば。
それは、とある催しでのことだった。
パートナー同伴が必須のパーティに、元々参加を呼びかけられられたのはアイスマンだった。
しかし彼は重要な職務の予定があり、名代として指名されたのがマーヴェリックだった。
こういった狐狸の類が出没する世辞と見栄と虚構が渦巻く獣の催しに於いて、それに慣れているアイスマンか、それを躱し楽しめるだけの余裕があるスライダーが本来なら努めるはずだった。
元から地上では存外人見知りなマーヴェリックは、そういった類の催しへの参加は極力避けていたし、適材適所がある。
けれど、アイスマンを指名してきた人物は組織の重鎮で、それこそアイスマンの進退にも関わり、且つ、スライダーはあいにく世界の反対側で絶賛任務中だった。
つまりは職務の関係者が集う公の場で、ドレスホワイトに身を包み、シャンパン片手に笑って社交という、マーヴェリックが最も苦手とする場への参加は避けようのないものだった。
そうして次に問題となったのはパートナーの女性だ。
催しにはパートナー同伴が必須で、それこそ女性を伴わなければそれもまた嘲笑の対象となる。
旧態依然の時代的象徴のそれに対し、マーヴェリックが伴える女性は居なかった。
それなりのポジションーー婚約者か配偶者の地位である必要もあり、時々のガールフレンド達に本気になられても困る。そもそもそんな政治が絡む場に、マーヴェリックはガールフレンドを連れ出す気はさらさらなかった。
アイスマンと頭を悩ませていたところに、名乗りを挙げたのがアイスマンの婚約者のサラだった。
フォーマルな催しに場慣れしていて紹介に困らない女性。
『それなら私がマーヴェリックのパートナーとして参加するわ』
アイスマンとマーヴェリックが止める前に、サラは小首を傾げてにこりと笑った。
『トムの名代であるマーヴェリックの供が務められて、ある程度場慣れしていて紹介に困らない女性が他にいて?』
アイスマンは天を仰いだし、マーヴェリックは手のひらで顔を覆った。
賢しく反論の余地を与える気のないサラの笑顔が眩しかった。
「それでな」
「うん、」
昔話を愉快げに聞いていたルースターを、マーヴェリックはちらりと横目でみた。
「その場に参集されていた同僚の一人と僕は折り合いが悪くて」
ルースターの眉がピクリと動いた。
「アルコールも入っていたからな。彼から侮辱の言葉を投げられて」
「
……
マーヴ、」
「父に関することで」
ルースターは痛々しげにマーヴェリックの手をぎゅう、と握った。
マーヴェリックはルースターの思いを汲んで、苦笑して、再度回顧した。
マーヴェリックの父の死因の真実を知る者はごく限られている。不名誉な書類上だけの処理を知る者の方が多数だ。マーヴェリックと折り合いの悪いその男も、その後者の事情だけを知る者で、マーヴェリックに対して父に絡めた侮辱の言葉を投げつけたのだ。
軍属になってからというもの、マーヴェリックは父の死の真実を知り、それを理解している者、そして自分がその英雄的最期を知るのならばそれでいいと考えていた。
だからこうして幾度めか投げかけられる心無い言葉に対しても、父の死の真実を知らない者ーーつまり機密を知る由もない小物なのだと自らを納得させていた。はらわたが煮えくりかえる心地を無視して。
父に関する侮蔑に関しては、心を殺すしかなかった。
けれど、それに怒りを露わにしたのはマーヴェリックではなく、サラだった。
『私の友人とその父君を侮辱しなければ保てないほどのちっぽけな矜持ならお捨てなさいよ。ダストボックスと出口はあちらよ』
マーヴェリックの真似た仕草と声音にルースターがコーヒーを吹き出した。
「は、はぁ!?サラおばさんが!?マジでその台詞言ったの!?」
「あの可愛らしくも美しいプリンセス然とした顔で中指おっ立てながらだぞ」
「か、かっけぇ」
「馬鹿いえトラウマだ。あんな麗しい唇と顔であんなこと言わせてしまった
……
」
本気で自己嫌悪に陥っているらしいマーヴェリックの様子に、ルースターは笑ってしまった。件の男の言動に対して、怒れるルースターよりも尚上回る親愛で、過去のサラが断罪してくれていたのだ。
これほどに愉快痛快な出来事があるだろうか。
ルースターは写真を見返す。ブラックドレスを翻したプリンセスが額にスジを浮かべて啖呵を切る様子を思い浮かべ、胸が空く思いがした。
「アントサラ最高」
「うん、そこは同意見だよ」
会場でひときわ目立って美しいサラがマーヴェリックのパートナーだったことも男の癪に触ったのだろう、頭の上からヒールの爪先までを舐め回すように見られたサラは、『ヒールの踵で両目潰してやればよかったかしら』と、口を尖らせて物騒な台詞を放った。
「初めて知ったわ。こんな柔で繊細なのに、ドレスって武器になるのね」
美しく可愛らしい女性であるということから侮られ、弱者という無意識下の見下しにも似た認識でサラを扱ったあの男は、サラの反論にさぞ驚き、自らを顧みることなく、今度はその性差を盾に陰で唾棄するのだろう。
それをサラは朗らかに、自尊心を失わずにたおやかに躱してみせた。
「今日の私はドレスという甲冑で武装したあなたの騎士なのよ、マーヴェリック」
「ふは、なら、踊っていただけますか?マイナイト」
「光栄だわ、マイプリンス」
戯れの誘いにサラは頬を紅潮させながら、マーヴェリックの手の甲にキスを施す。
手に手を取り合ってホールに躍り出た。
生演奏の曲調が変わる。
指揮者は会場の雰囲気や人々の様子から選曲をしている。サラとマーヴェリックは一等目立っていて、前衛的な印象を受けていたのだろう。指揮者は、本領発揮とばかりに指揮棒を振る腕に力が入る。それに気づいていたのは生演奏のメンバーだけだろうけれど。
上流階級のパーティでのサロン・ミュージックは、基本コンチネンタル・タンゴであるにも関わらず、サラの若々しく躍動的な様子と、マーヴェリックの甘い容姿の雰囲気からか、アルゼンチン・タンゴの名曲が流れ始める。
ブエノスアイレスの港町から始まった男性ソロのダンスから、それこそ象徴的な男性リードへと変遷を遂げたアルゼンチン・タンゴであっても、サラとマーヴェリックはそれぞれの役割を、自尊心を持って踊り続けた。
曲が終わる。
マーヴェリックは芝居がかった仕草で跪いてサラの手の甲に恭しくキスをした。
「
……
人生に於いて、異性の最良の友人を得ることは貴重だ」
「そうだね」
ルースターにも得難いほどの友人がいる。マーヴェリックの言葉に、恭しく頷いてみせる。
ルースターは写真を見返した。
綺羅綺羅しい男女が楽しげに踊っている。
「今度俺、サラおばさんダンスに誘ってみようかなぁ」
「あぁ、いいな。しっかりリードしてもらえよ、ひよっこ」
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