しらかば
2024-10-21 18:55:02
3693文字
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悪魔は希望の花束を携えて笑う

鷺内和希誕生日短編2024。本編第三部登場キャラネタバレ注意。

鷺内和希 誕生日祝短編2024
「悪魔は希望の花束を携えて笑う」
※一部登場キャラや内容が本編最新話までのネタバレ含みます






「和ー希っ!」
 ある日、有栖が机に突っ伏してる俺の目の前で顔を数センチのところまで近づけて言った。
「いやいやいや、近いよ有栖!?」
 離れるように俺は飛び起きた。
「購買行かへん!?購買!!」
「え?もう購買閉まってて……
「ええから!!行くで!!」
 その圧に押され俺は渋々有栖についていく。
 時刻は放課後。当然、購買は空いていない。ならば他の目的は何なのか。考えるが有栖の考えがわかるはずもなく。
……って、閉まっとるやん」
「いやいや俺言いましたよね?閉まってるって」
「しゃーない、クレープ食いに行こう。今から」
「は?」
 もう訳がわからない。
「待ってよ、有栖。まずどういう意図なのか教えてくれないと意味わかんないよ俺?」
 有栖は聞く耳を持たない。
 巻き込まれるがままに俺は下校し、あいつと中央の駅前にやってきた。男子高校生二人が。それはそれはピンクで可愛らしいクレープ屋さんに。
「ここのクレープがうまいってクラスの奴が言ってたんや」
「いや、それは俺も聞いたことあるけど……
 有栖が女の子役とか言うなら傍から見たらそれなりに場に溶け込むんだろうけど、残念ながらこいつに周りの空気は読めない。
 辺りは見るからに女子高生ばかり。ナンパしろって事か?お前は俺にナンパしろと?
「すいませーん」
 それに臆することなく有栖はカウンターに足を踏み込み、ショーケースに並ぶクレープを吟味する。
「和希、お前どれが好き?やっぱりフルーツゴテゴテのがええ?じゃあこれ2つ頂戴」
「俺の意見は聞かないのかよ!?」
 まあ事実、有栖の選んだそのフルーツクレープとやらが気になってたからいいんだけど……
 そして2つのクレープを受け取り、本当に2つ分支払った有栖は1つを俺に手渡し、そして辺りにある人混みを進んで適当なベンチに座る。
「いや、凄いよね本当に……
「は?何が?」
「そういうとこ」
 促されるまま俺はクレープを口に入れる。甘くておいしい。これは人気でも頷ける。
「でも、なんで奢り?クレープ代くらい困ってないのに」
 当然、高校生だし奢り奢られみたいなのはよくある。そういうの、憧れるし。
 でも今日の有栖の行動はそれだけじゃないような……
「ヒント。今日の日にち。さあ何月何日でしょう?」
「6月6日……あっ」
 そういう事か。
「男同士の誕生日って、どう祝うのがええんかなー、かっこいい祝い方あらへんかなーって思って。で、なんか奢ろうかなって」
「なんとも有栖らしいね」
「ってことで、誕生日おめでとう!和希!」
 それでも、有栖の笑顔を見ていると俺まで笑いたくなる気持ちになったんだ。
 照れ隠しのように再びクレープを頬張る。これ、本当に美味しいな。今度こっそり、父さんの分も買いに行こう。恥ずかしいから、女の子とかあんまいない時間帯を見計らってだけど。
「あ、因みにやけど、姉ちゃんに聞いたら今日って悪魔の日って言うらしいで。お前らしい日やなーと思ったから伝えとくわ」
「それ、どういう意味だよ!俺が悪魔って言いたいの!?」
「いやー、性格的な?和希って秘密特訓の時も容赦ないし、実は悪魔でしたー的な?」
「酷っ!」
 有栖に誤魔化すように笑い飛ばしたけど、あの時は胸が痛かったな。
「まあ理由までは俺は知らんけど……雷って神様の怒りみたいでかっこいいやん。それに、生まれた日も悪魔って。和希、向かうところ敵なしやんな!」
 あいつはいつも俺をキラキラした、憧れを見る目で見るんだ。
 俺にはお前の方が憧れるよ。
 まっすぐで、純粋で、疑う事を知らないお前が。


 戦場で、ふと思い出した。
 ……ああ、そうか。今日か、俺の誕生日。終わったら墓参りに行こう。あれだけは毎年すると決めているから。
「あはは、誕生日ね……?」
 幾度となく人を殺した。
 雨に濡れ、血に染まり、ただ目的の為に。
 俺の生きる道には、沢山の屍がある。
 俺の本当の家族。
 同胞。
 罪人のみならず、周りの人間をも俺という存在は見殺しにした。
 そんな人間が祝われることを、素直に喜んでいいのか。周りに大切な存在が増えてしまう度に思うんだ。
「悪魔」……そうだろうね。
 まあそりゃあ、親戚にすらお前は悪魔だって言われてたらしいし?俺にお似合いの言葉なんじゃない?
 俺は周りの人間を不幸にしてきた。大切な人をもそうしたのかもしれない。
 そんな自分が嫌だった。
 それでも、俺は悪魔で構わない。
 そう思ったのは、周りの奴らのおかげなのかな。
……今の俺を、君が見たらどう言うのかな。有栖」
 あの憧れに似た眼差しを俺に向ける君は、今の血濡れた俺をどう思うのか。
 柄にもないことを考えた。
 悪魔なら、いつかは裁かれる。
 だって、悪役が幸せになんてなれないじゃん?
 周りを不幸にしてきた男が幸せになる未来なんてあっていい訳ないでしょ?
 早かれ遅かれ、俺はきっと断罪される存在。正義でもないし。
 それでも、別にいい。
 俺がいなくなろうと、あの人が生きる未来が守れるならそれで。
「和希?どうかしたの?」
 俺はそれでも仲間の方へと歩みを進める。
「ううん、なんでもないよ。行こう?今日は奢ってあげるよ、クレープが食べたくなったんだよね」
「じゃあ私は抹茶クレープ。凍磨は?」
「俺もいいんすか?じゃあ……


 
……と、まあ任務報告は以上です。クレープも奢ってきたし。これ、お土産ね」
 執務室で怖い顔をする団長に、俺は可愛らしい紙袋を手渡す。さっきのクレープ屋さんで買ったんだよね、お土産。
 珍しく、団長の机の上には花が活けてあった。
「それは?」
「ああ、東雲が持ってきてな。6/6の誕生花、鷺内大佐に渡したいけどどこにいるかわからないからここに活けておきますねって」
「ひなちゃんが?オシャレなことするじゃん」
 同じ女性団員でも玲依ちゃんとは違う祝い方するな、ひなちゃん。
 まあ、玲依ちゃんには誕生日なのに任務に邁進する可哀想なチャラ男へって抹茶スイーツ詰め合わせを渡されたけど……絶対に「私が好きだから和希も好きと思って」とかそんな理由でしょこれ。なんと言うか玲依ちゃんらしいよね。
 因みに凍磨からはオシャレな帽子を渡された。チョイスが凍磨っぽくないから多分妹に相談しながら選んだのかな、かわいい後輩だよね。
 と、まあ悪魔の日に生まれたはずの俺は存外愛され者になってしまったんでびっくりなんだけど……どうしたもんかな。
「和希」
 しまった、父さんの前だった。全部聞こえたんだろうなと思うと恥ずかしい。センチメンタルかよ、俺は。
「この花の花言葉、知ってるか」
「え?花言葉とか、やけにロマンチックなこと言うじゃん」
 この花は……アイリスか。
 誕生花って言ってたし。
「アイリスの花言葉。東雲に聞いてお前らしいなって笑ったよ……希望って言うらしいぞ」
「希望?」
「そうだよ。その……俺にとっての希望だなっていうか、その……周りの奴に希望を齎す光というか……
 団長……もとい、父さんは顔を真っ赤にして俺から顔を反らした。
「やっぱりロマンチックじゃん、父さん」
 俺は思わず噴き出した。
 俺が悪魔だのなんだの物思いに耽てたから気を遣って花言葉の話出したでしょ、絶対。
「俺はお前に出会えて良かった。毎年言ってるけどな」
 そう言うと父さんは机の中から包を取り出し、俺に差し出した。
「これ、俺に?」
「そうだが。見てわからんか?」
 今年は財布のようだ。毎年実用性のあるプレゼントをくれるのはさすがあの騎士団長、望月大和だよなって感じがする。今年は値札とかも外してある。さてはちょっといいとこで買ってラッピングして貰ったな?
「ありがとう……貴方に、そして同胞に、希望を齎すならそれが何よりの救いですよ」


 父さんが、昔から俺の誕生日になると決まって言うことがある。
「お前が生まれてくれた事に感謝しているよ、和希」
 そんな、ありふれた言葉。
 それでも、子供ながらに偽善じゃなくて心からそう思ってくれているんだと痛いほどに伝わる言葉だった。
 それは俺にとっては救いで、こんな俺でも生きていていいんだと思う道標だった。
 この命を全て捧げてもいいと思う程に、俺は救われた。
 だから俺はここまで生きてきた。結果、同胞にも出会えた。
 だから悪魔はアイリスの花束を持って笑ってやるんだ。
 俺は、大切な人の希望を守る為にここにいる。
 ほんの少しでもこの日常が続けばいい、それが俺の希望であり幸せだろう。
 来年の今日も同じように過ごせるかはわからないけど、俺に望む事が許されるのならーーこの穏やかな日々が、少しでも長く続きますように。


2024.6.6 ハピバ和希!