しらかば
2024-10-21 18:53:03
4600文字
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陽光

朝霧凍磨×一条遥。凍←遥の戦わない恋愛もの。

SNSにて頂いたイラストから妄想拗らせました。
素敵なイラストの使用許可ありがとうございました!

※本編ネタバレあります
※珍しく戦わない恋愛もの書きました

朝霧凍磨×一条遥
(凍←遥)
「陽光」











「遥ちゃん!!!!遥ちゃん起きて!!!!一大事なんだよ!!!!!!」
 朝から大声が聞こえる。ドンドンとドアを叩く音が響き、一条遥は不快な朝を迎える。
「何よ、桜……おはよう、騒がしい朝ね」
 扉の先には予想通りの人物が立っていた。声の主は隣の家に済む朝霧桜。今日は学校なのか、制服を着て慌てている。
「おはよう遥ちゃん!!あのそのお願いがあって!!」
 手には男物の黒い長財布が握られている。この財布には見覚えがある。
「お兄ちゃんが財布を忘れちゃって!でも私、日直だから早く行かないと行けなくてそれで!!」
 事情はなんとなく理解した。
……凍磨に届けたらいいの?」
「うん!!」
 桜は遥に財布を手渡す。
「騎士団に行けばいると思うから!!じゃあ宜しくねー!!」
 そして手をぶんぶん振りながら走り去った。
……全く。私、いいよって言ってないんだけど」
 猪突猛進なのは彼女のいい所なのか悪い所なのか。このまま財布を持たずに勤務をするのも彼としても不便であろう。
 仕方ない。遥はため息を付きながら部屋に戻り、身支度を整える。
……どれ着ていこうかしら」
 お気に入りのゴシック・ロリータを選び、少しだけ気合いを入れてメイクをする。
 ただのお使いなのに私は何をしているのか。そう気づいた時に鏡に映る自分の顔は真っ赤になっていた。
……本当にバカね」
 少しだけ桜に苛立ちながら、これから会うであろう彼に思いを馳せる。
 せっかくだから差し入れでも買おうかしら。いや、昨日作ったスコーンがあるからそれを持って行こう。可愛く包み、財布と共に紙袋に入れる。
 早くしないと入れ違いになるかもしれない。遥は慌てて家を飛び出した。


 陰陽師の名家、一条の娘として私は生まれた。
 当主を継いだお兄様のように何かに長けている訳でもなく、いわゆる落ちこぼれと呼ばれた私はすぐに私は見放された。
 同じ陰陽師の男に、神童と呼ばれた男がいた。お兄様はすぐに男を己の弟のように慕う。
 強い者が全てで、弱い者は見放される「陰陽師」という世界。魔物の襲来の時に弱い私は生贄に選ばれた。
 弱者は生きる権利すらない。だから私は逃げた。家から飛び出して、大嫌いな陰陽師の奴らがいない海外に逃げた。そこは自由な世界だった。髪を金色に染め、かわいいお洋服を身に着けた。家のことなんて、お兄様以外忘れてしまおうと思っていた。
 頂点にあったはずの一条家は、魔物の消滅と共に没落した。宮代御鶴、全てはあの男のせいだ。私は男に復讐をしにニホンに戻る事を決める。
 そこから先の記憶はぽっかりと抜けている。
 私の記憶があるのは理由の知らない容疑者として拘束された牢獄。そしてそこが開いた時に私に手を差し伸べた男性。
「きっと俺が守ってやる」 
 監視対象でしかない私の目をまっすぐ見て、自分のことのように悲しそうに呟いた男性の姿を、私は忘れられない。
 彼との出会いはきっと、その時が初めてじゃないはず。なのに思い出せなくて、それでも彼は私を見捨てない不思議な人だった。
 朝霧凍磨。
 バカみたいに過保護でお人好しって言葉が似合う、私が兄以外で初めて特別な感情を抱いた男。
 この感情の答えは知っている。
 知っているけれど、知らないふりをする。
 答えを出したら、その答えを告げれば、きっと優しい彼との関係が壊れてしまうから。


……いや、来たのはいいけど」
 どうやって渡すのよ。遥は頭を抱えた。
 とにかく、意を決して騎士団の内部に入ったはいいがとにかく広い。確か最後にここに来たときは地下にある牢獄だったのでこんな綺羅びやかな出入り口など知らない。
 部外者である遥には、受付に行きこれを預ける手段が最適解と思うのだが朝のこの時間だからかずらりと人が並んでおり、どうにも勇気が出ない。
「私は一条の娘なのよ。こんなところで臆してる場合じゃーー」
「お嬢さん、何かお困りごとですか?良かったら俺とこれからアフタヌーンティーでも。まあまだアフタヌーンじゃないですけど……
 呆然と立ち尽くしていると、背後から男性が声をかけてきた。
 男性は軽い動きで遥の前に立ち、にっこりと笑う。薄茶色の髪に赤いメッシュを入れた、軽薄そうな印象を受ける男性は遥を見る。
「って、その顔は一条の妹か……危ない、口説いたのがバレたらご当主に殺されてしまうな。いや、まああの一条奏多とやりあうのも楽しそうではあるけど……いや、待てよ。って事は君が桜ちゃんの友人の遥ちゃんだよね?」
「なんで知ってるのよ、そうだけど」 
 いきなり口説いたと思いきややけに饒舌なこの男は何者なのか。思わず警戒心を顕にする。
「まあいいや。これ、朝霧凍磨に渡しておいて頂戴」
 一刻も早くこの男性に託して立ち去るとしよう。この場所はどうにも好かないから。遥は紙袋を前に突き出したが、男性はそれを受け取らなかった。
「それ、差し入れあるなら直接渡した方がいいでしょ。うら若き恋する乙女なんだからさ。凍磨ならすぐ来ると思うけどーー」
「呼びましたか?和希さん?」
 なぜ差し入れがある事に気づいたのか。遥が追求するより先に、男性の横にもう一人の男性が現れる。待ち焦がれた尋ね人に、遥はドキンと胸が跳ねた。
「ほら来たよ。凍磨、お客さん」
「は、俺に?って、遥?どうしてここに……
「じゃ、俺は先に行くよ。後はどうぞごゆっくりー」
 和希、と呼ばれた男性は凍磨の肩を軽く叩き、やけにニコニコしながら立ち去った。 
「いや、待ちなさいよ。和希ってまさか……あれが噂によく聞く雷霆なの?」
「そう。見えねえだろ?あれが大佐、しかも最強だぜ?俺も初めて見た時にはびっくりしたよ」
 凍磨は笑う。
「って、ここじゃ気まずいよな。ちょっと外に出ようか。俺に用なんだろ?話、聞くよ」
 ただ忘れ物を届けに来ただけ。
 そんなことを言えないまま、遥は頷いたのだった。

 外は晴天だった。
「ここの公園さ、たまに俺も一人で飯食べてるんだよな……って、ごめん。ちょっと待っててくれ」
 凍磨がそう声をかけるや否や、大木の下で上を見上げる子供たちに話しかける。
「どうした?」
「ボールが上に上がって取れなくて」
「分かった。ちょっと待ってな」
 二つ返事で彼は木に登り、ボールを取るとそれを地に落とし、飛び降りた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
 子供達はキラキラとした笑顔で凍磨を称え、そして再びボール遊びを始めた。
「おう、気をつけてな」
 それを見送る。
「あんた、すぐに人の手助けするわよね」
 それがあんたのいい所なんだけど。そんな言葉は言えないまま。
「いや、なんか放っておけなくて……あ、どっか座ろうか。俺に話だったよな」
「別に大した用じゃないのよ、ただ桜に頼まれて財布を届けに来ただけ」
 遥は紙袋を凍磨に手渡す。
 もう少し落ち着いたタイミングで渡すべきだったと後悔した時には遅く、凍磨はそれを受け取っていた。
「あ!本当だ、俺の財布……!ありがとな、遥!ところでこれは?」
「差し入れよ、任務お疲れ様」 
「って事は食べ物だよな、食べていいか?池の近くにベンチがあるから、そこで。行こう、遥」
 凍磨は遥の手を握り、その手を優しく引いた。
「ーーっ!?」
 彼の大きな手が私の手を握っている。
 大きな背中が目の前にある。
 心臓の音がうるさく響き、凍磨の声が聞こえない。
 遥の顔が火照る事など、凍磨には見えていない。
「遥?悪い、歩くの早かったか?」
 目的地にたどり着き、ふと立ち止まる凍磨は手を離して振り向いた。
……お前、今日顔赤いよな。体調悪いのか?大丈夫か?」
 そして遥の顔をじっと見つめる。
 胸の高鳴りがさらに早くなり、止まらない。
「ち、違っ!なんでもないわ!」
「そっか。ならいいんだけど……無理すんなよ。なんかあったらいつでも言ってくれよな」
「う、うん」 
「そうだ、ジュースくらい奢るよ。座っててくれ」
 不思議そうに首を傾げ、凍磨は自動販売機へと向かう。きっとそれも、本気で体調が悪いと思っての心遣いなのかもしれない。
 その背を見送り、熱の残る掌を見つめる。
 目の前にある池を見る余裕もない。
……早く気付きなさいよ。バカ凍磨」
 彼女のその抱く感情は、胸に残したまま待ち人は戻る。
「おまたせ。これで良かったか?」
 凍磨の手渡したものはカフェオレだった。
「ええ、ありがとう」
 そっと横に座り、包を開ける凍磨をじっと見つめる。先程握りしめたその手は戦闘行為に従事していることから僅かに傷がある。
「お、遥の手作りだよな!?これ、美味しいんだよなー!うん、やっぱ美味え!今度教えてくれよ、作り方!」
 少年のようにキラキラした瞳で、夢中でスコーンを食べながら訴えていた。
「え、ええ。仕方ないわね。今度教えてあげるわ、作り方。それで、一緒にお茶でもーー」
 ここまで話して遥は気がついた。
 これ、私は凍磨をデートに誘っている?
「ち、ちちちち違うの!!そそそそその、そういうのじゃなくてーー」
「いいじゃん、手作りスコーンでお茶会。桜も呼んでみんなでやろうぜ」
……ッ、そ、そうね」
 思わず顔を背けた。
 二人きりじゃないならそれでいいじゃないか、デートとかそういうのじゃないんだから。
 それなのにこの気持ちは何なのか。
 桜の事はむしろ好きだ。なのに、何故彼女の名前が出た時に少し寂しい気持ちになったのか。
……遥?やっぱ、熱あるのか?」
 凍磨の手がまっすぐ伸び、そして遥のおでこに触れた。
「うーん、熱いよな……悪い。俺、お前に無理させて……
 本当に心の底から心配しているのが伝わる。しかしすぐ目の前に彼の顔があるこの状況では身体が熱るのは当然だ。
「違うの!熱とか体調悪いとかじゃなくて恥ずかしくて……!!」
「あ、これ、か……?うわあああ!すまねえ!子供の時に桜にやったのと同じようにやっちまった!恥ずかしいよな!?ごめん!!」
 そういう意味ではないのだが、凍磨はハッとしたようにその手を下げ、コーヒーを一気に飲み干した。
「じ、じゃあ、俺行くよ。ありがとな!」
 恐らく自分が気まずくさせたと思っているのだろう。凍磨は慌てて残ったスコーンを再び包み直し、そして立ち上がり足早に立ち去る。
「と、凍磨!」
 遥は飛び上がり、思わずその背を呼び止める。
「その……今度!お茶会しましょう!貴方のスコーンが失敗したらいけないから、まずは二人でね!」
「ーーおう!楽しみにしてるぜ!」
 振り返り、にっこりと笑いながら小さく手を上げた彼の背を見送った。
……言っちゃった」
 胸の高鳴りはなおも止まらない。
 二人でのティータイムに思いを馳せ、彼のいないベンチに再び座り直した。
 再び見た景色は、池の水が陽光を浴びキラキラと輝いているように見えた。