しらかば
2024-10-21 18:42:26
3696文字
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青天の霹靂

2023.5投稿分
自創作二次創作ifで鷺内和希×小鳥遊玲依。

「うちの子で好き勝手cp組んでもらう」タグからif
鷺内和希×小鳥遊玲依
「青天の霹靂」



※泡沫夢幻 本編とは関係ない(はず)自創作二次創作です
※ノマカプのif話のくせに流血表現あり
※本編関係は無いけど和希が出てくるので内容が第一部終了までのネタバレと和希の設定文章のネタバレ含みます
大丈夫な方はどうぞ














 自分は戦場にいる人間。いつか死ぬ運命。愛する人には俺が殺されて悲しませたくない。
 それに、命令とは言え人殺しの自分に人を愛する事など許されてはいない。
 だから、かわいい女の子を口説いて、本命を作らないようにしている。
 それでも、相手がうっかり本気になってしまう事もたまにある。その度に逃げる言葉に詰まるのだ。


 カフェでお茶をした女の子に「また遊ぼうね?」と口説き、頬を赤く染めたのを見守りながらそっと立ち去る。
 今日は任務も無い。適当にミルクティーでも買って帰ろう、鷺内和希はそう決めて路地にたまたまあった自販機でボタンを押すと後ろから声がかかる。
「あら、またナンパ失敗かしら?いい加減にそのふらふらするのやめたらどうかしら、チャラ男さん?」
「あのー、人のことチャラ男って言うのやめない?」
 今一番会いたくない人間だな。和希はそう思いながら諦めたように笑って振りかえる。
 銀色の長髪を結び、今日はオフなのか黒っぽいワンピースを来た女性。
 小鳥遊玲依。和希と同じ階級の女性である。
 普段と違うその雰囲気に、和希は驚きを隠せない。
 どうしてここに、と思ったが片手に緑色の紙袋を持っていることからお得意の抹茶スイーツ巡りであった事を察する。
「オフなんだね、玲依ちゃん」
「そちらこそ。女の子とのお茶は楽しかった?」
 見てたのかよ。
 和希は少しいらっとしながら立ち去る事を決める。
 風が凪いだ。

……貴方は一人の女の子を愛して、戦いなんて止めて、幸せになればいいのに」

 玲依が寂しそうに呟いた一言に考えるより先に思わず身体が動いていた。
 路地の壁に彼女の身体を縫い付けるように壁に手を当てる。
 いわゆる壁ドン、という奴だ。
……玲依ちゃんは分かってないよ。男にそういう事は言っちゃ駄目だよ?」
 どうしてお前は頬を赤らめている?
 どうしていつものように殺すって言わない?
 どうして黙っている? 
 違う。
 違うんだ。
 この気持ちは何だ?
「それに……幸せになればいいのは君だよ。せっかく主から離れられたんだからかわいい女の子が殺しなんて、やめなよ。それこそ凍磨とかお似合いなんじゃない?」
 そうだ。
 俺は人殺しで、人を愛してはいけない。
 自ら名前を出した後輩の事を浮かべると苛立ちが募る。
 彼は人殺しとは無縁で、きっと愛する人を幸せにする男だろう。彼といた方が彼女は幸せだろう。
 だがそれは俺の幸せなのか?
「和希」
 やめろ。
 俺の名前を呼ぶな。
 俺の気持ちも知らないで。
 気が狂いそうになる。
……ごめん」
 言葉に出来ない感情に、手を離し逃げるように背を向ける。
……私は人殺しで、人を愛する事なんて出来ない。だから、貴方には幸せになって欲しい。それだけよ。変なことを言って悪かったわね」
 なんなのか、この気持ちは。
 やっと離れられる。
 きっとこの気持ちも消える。
 そう思ったのに。

……お前が悪いんだ、玲依」

 女の子と遊ぶ時とは違う何か。
「誰にもあげたくない」と言う明確な気持ちは、身体を突き動かし、去ろうとする玲依を後ろから抱きしめていた。
「お前が、俺を誘うから」
……和、希」
「人殺し同士ならいいだろ?俺達二人で神様裏切って幸せになろうよ」
 俺は何を言っているんだ?
 駄目だ。
 一人の人間を愛してはいけないのに。
 言っては駄目だ。
 君を幸せにしたいと思ってしまったなんて。
「答えは言わなくていいよ。少しだけ、このままで居させて?」
 互いに、手を離せば死んでしまうかもしれない関係。
 そんな不器用なやり取りが、愛しいと思うなんて。


 消えない。
 消えない。
 感情が、消えない。
 目の前からあの女が消えない。
 他の女の子と何人も遊んで、何人とそれに近い事をしようと消えない。
 俺は人を愛してはいけないのに。
 どうして俺はあんなことをしたのだろう?
「和希くん、私に重ねて他の女の子の事見てる?」
……そんなことないよ?」
「見てるでしょ。本当に好きな子なら、自分のものにしちゃえばいいのに」
 それは許されてはいない。
 俺は一人を本気で愛してはいけない。
 ならばこの感情は何なのか?
 答えなんて聞いてはならない。
 この感情に答えを出してはならない。
 どう足掻こうと俺では幸せに出来ないから。
 この血に汚れた手で人を抱きしめる事は許されてはいない。

「結局、俺は人殺しなんだよな」

 与えられた任務を熟し、地に伏せた敵を冷めた瞳で見る。
 敵を殲滅せよ。そんな簡単な任務で、敵も数こそいるものの強くはない。
 ただ殲滅するだけの簡単な任務。
 この仕事から降りるつもりはない。それがあの人への恩返しだから、ずっとあの人の元で力になる。それが生きる意味だから。
 言葉に出来ない感情が渦巻く。こんな感情、消えてしまえばいいとばかりに銃弾を放つ。
 敵の女性が長髪をはらりと靡かせ倒れて行く。
「ーーッ!」
 刹那、和希の脳裏によぎったのは銀髪の女。
 好きではないと言い張る抹茶スイーツを頬張り幸せそうに微笑む姿。
 寂しそうにこちらを向いた姿。
 触れた愛しい時間。
 どうして俺は彼女の事を?
 ナイフが背後から突き刺さる痛みで現実に戻される。
「っはは……馬鹿か、俺は」
 感情に絆されて戦闘が怠るとは。
 振り向き、銃弾を放った自分はどんな表情をしていたのか。
 腕から血は流れているが死にはしない。任務を続行する。
 むしゃくしゃした気持ちを晴らすように拳銃を収め、なおも向かってくる敵に雷撃を放つ。
 それでも、気持ちは晴れなかった。
「任務完了、只今戻りますよっと」
 返り血を浴びた自分は人殺しで、幸せになる事は許されない。この屍は自分が奪った命なのだから。
……今日は駄目だな」
 想像より血を流しすぎたか。
 目眩がする。ふらついた身体は倒れそうになる。
 地に伏せる事はなく、何者かの柔らかい腕が和希を支える。

「らしくないわね、雷霆様」

 これは夢か幻か。
 顔を上げると美しい銀髪を靡かせた黄色の瞳と目が合う。
「あれ、玲依……ちゃん?」
 玲依は表情を崩す事なく髪の毛を縛るリボンを解く。
「駄目だよ、そんなことしたら汚れーー」
「黙ってて」
 僅かに怒りの表情を浮かべながらそのリボンで傷口を抑え、止血をする。
 玲依の顔が近い。
 彼女が俺に触れている。
 そう思うだけでまた感情がぐちゃぐちゃになる。
「悪いけど、任務後だから布がこれ以外ないの。我慢しなさい」
「俺なら大丈夫だから、離してよ」
「駄目よ。傷口、かなり深いわよ?そんな判断も疎かにするような人間とは思えないけどーー」
「離せよ、これ以上はもう……俺がどうにかなっちゃうよ」
 お願いだから俺に近づかないで欲しい。
 この気持ちが好意だと気づいてしまうから。
「私は自分の気持ちに素直に生きると決めた。だから言わせて貰う」
 なおも手を離さず、リボンから滲む血が手を己の血で僅かに紅に染まる。

「私には人を殺す事しか出来ない。だけど貴方と居ると人殺しである自分を忘れてしまう。貴方には幸せになって欲しい。それでも……私以外の女に笑う貴方を見ていると、心臓がちくちくする……ねえ、和希。貴方が私に生んだこの感情って何?貴方が責任を取ってくれるの?」

 玲依の瞳から涙が伝う。
「あのときの答え、言わなくていいって言ってたけど返すわね。人殺し同士ならいいでしょう?私は貴方と幸せになりたい。例え神様を裏切っても」
 ああ、お前もだったんだ。
 人殺しで、人を愛したらいけないのに、一人の人間への好意を……愛する事を覚えてしまったんだ。
……俺は先に死ぬかもよ。それでもやっぱ、愛する人を遺して悲しませたくない」
「馬鹿ね。貴方より先に死ぬとでも?意地でも生きてやるわよ。死ぬ時は互いを殺して同時に死にましょう、それなら寂しくないでしょう?」
「ハハッ……君らしいね。賛成だよ」
 己の腕を抑えている彼女の背に反対の腕を回し、軽く抱きしめる。
 はらりと落ちる紅のリボン。
「女の子にそこまで言わせたら……俺ももう自分に噓はつかないよ、いいね?恥ずかしいから一度しか言わないよ?」  
 俺ももう諦めるか。この感情から逃げるのは。
 彼女の頬に口付け、囁くように呟く。

「好き。愛してるよ、玲依。俺で良かったら、喜んで」

 夢なのか、幻なのか。
 許されてはいない、人殺しの恋物語。