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しらかば
2024-10-21 18:34:27
2677文字
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雨過天晴
2023.6投稿分
鷺内和希誕生日短編
鷺内和希 誕生日記念小説
「雨過天晴」
※時系列は割とぐちゃぐちゃで凍磨、和希、玲依、大和がわちゃわちゃしてます。騎士団組シリアス話。
※和希の時点でお察しですがキャラ設定にある範囲の今後のネタバレあります。
「
……
」
男は目を閉じ、手を合わす。
そこには無数の生花が供えられている。
墓石に刻まれている「鷺内」と言う苗字。
ここに眠る人々は恐らく他者に愛されていた事であろう。
今の己を見た人間には今は他者の命を目的の為に躊躇いもなく奪う男が墓参りとか何を考えているのか、と言われてしまいそうで笑えてしまう。
男は己を嘲笑うように小さく笑い、言葉を発する事なく踵を翻す。
ぽつり、ぽつりと雨が降ってくる。
「なんの偶然かな、本当に
……
」
どうして俺は生きている?
この日になると考えてしまう。
雨に濡れながら歩き、思い出すのは幼い頃に見た頭に焼き付いて離れないあの光景。
ふと町中についた当たりで思わず立ち止まり、空を見上げる。
あれは雨の日。
そして今日この日。
目の前で。
魔物が。
家族をーーー
「和希」
「
……
あれ、玲依、ちゃん?」
ふわり、と抹茶の香りがして慌てて顔を上げると見覚えのある女性がいる。隠しているはずなのに抹茶の香りがするのが彼女らしい。
「泣いてるの?珍しいじゃない。女の子のナンパでも失敗してビンタされたのかしら?」
「え、俺のイメージが余りにも酷くない?」
玲依は傘を挿している。いや、自分が濡れる事を顧みず手を突き出し和希を雨から守っていた。
「
……
風邪引くよ?」
「そういう貴方こそ」
「俺はいいんだよ」
「困るのよ、主役が風邪を引かれたら」
「主役?」
「
……
呆れた」
玲依は和希に傘を押し付け、彼の空いた手をぐいっと引っ張り、歩みを進める。
「玲依ちゃん?おーい、答えは?」
怒っているのか、答えは帰ってこない。
この女が少し感情的になったのは、あの後輩が入ってからだ。きっと彼女も過去に暗いものを持っている。それくらい察しがついていたが、あの後輩には不思議と人の心を動かす魅力があるらしく、最近では自分の意思で動いているようにも見える。彼が少し羨ましい。
玲依はとある店の前で足を止め、本日貸し切りと書いてある札を無視して扉を開く。
「玲依さん、おかえりなさい。もう少しで準備がーー」
「予定変更よ。買い出しに行ったらずぶ濡れになりながら立ってるチャラ男にばったり合ったので連れてきたわ」
「はぁ!?そんな急に予定を変えられても
……
!!」
「いや、待ってよ凍磨?俺がチャラ男なのは否定しないんだね?」
店にはきらびやかな飾りが成されていた。
そこにいるのは騎士団の面々。あの後輩、凍磨が驚いた顔でこちらを見た後に玲依と言い合いをしている。
「あのー、何の事か全くわかんないけど、俺がお邪魔なら帰るよ?」
「は?チャラ男、これでも気づかないの?貴方バカなの?」
「え、玲依ちゃん酷くない!?今日は特に!」
「いやいやお二人共止めて下さいって!!準備するので!和希さんは奥で待ってて下さい!団長もいますし!ほら、こっちです。行きますよ!」
凍磨に腕を引っ張られ、奥にある個室へと案内される。ずっと玲依に睨まれていたが何か悪いことをしたのだろうか。心当たりがない。
和希が部屋に入るや否やバタン!と、扉を閉められた。
「
……
慌ただしいなあ、凍磨は」
やれやれ、とつぶやきながら足を踏み入れると、目の前からタオルを投げつけられた。
「
……
濡れているぞ」
「あ、ども。ありがとうございます、団長」
団長、と言っているが大和のそれは息子を心配する父親のような眼差しだ。
「
……
二人か。丁度良かった」
タオルで濡れた身体を軽く拭き、和希が大和の隣へと座ると彼はどこからか青色の包みを取り出して手渡した。
「え、何これ。俺に?」
「お前、本当に気づいていないのか?」
「何が?」
大和が深いため息をつく中で和希が包みを開くと、手袋が入っていた。
戦闘用に、と言うよりは普段使い用のお洒落な指ぬきグローブである。静電気防止!と大きく書かれている値札がそのままついているのが不器用な大和らしい。
「誕生日だよ、お前の」
「
……
あ、そうか」
もしかして、俺が自分の誕生日と気づいていないから玲依ちゃんは怒っていた?
騎士団の面々は俺に内緒で誕生日パーティーの用意を?
「
……
そういう事だ」
和希の心を読んだのか、短く返答される。
「朝霧から言い出したんだ、サプライズで誕生日パーティーをしたいって。そういうのをよく妹さんとするんだそうだ」
「凍磨から
……
?」
「いつも世話になっているからと小鳥遊に相談して、俺に声がかかってな。たまにはお前に賑やかな誕生日をと思ったんだ。お前には最悪の日かもしれないが、俺はお前が生まれた事に感謝しているよ。和希」
自分の生まれた日、それは同時に5歳のあの日から本当の家族の命日と成り果てた。
それでも、引き取りここまで共に生きてくれた大和には感謝しかない。毎年、忙しいなりに祝ってくれるおかげで最悪な日の概念は和らいでいた。
それでも自分の誕生日すら忘れてしまうほどに幼い頃に背負ってしまった過去というものは拭えないのだが。
「
……
俺、生きていていいんだよね。俺は父さんと逢えて良かったと思ってるよ」
「馬鹿か。お前が息子になってくれて俺は幸せだよ」
「
……
そっか。俺も」
隠していなければならないはずの関係。それでも、5年間しか共に過ごしていない実際の家族よりも大和の方が父親と思う程に家族で。
恩人に恩を返したいと思う程に、自分の人生をこの人の右腕として捧げていいと思う程に大切な人で。
今の俺は幸せだ。
父親がいて、仲間がいて、一人じゃなくて。
思わず笑ってしまう。
「俺は死ぬまで貴方の矛ですよ、団長」
「ああ。今後も宜しく頼むよ、雷霆殿?」
ドタドタという足音と共に扉は開き、賑やかな誕生日パーティーは始まりを告げる。
「主役の登場だろ?先に行け」
「じゃあ、お言葉に甘えますよ」
「おまたせしました!こちらへ!せーの!」
「お誕生日おめでとうございます!鷺内大佐!」
「
……
ありがとう、みんな」
俺、本当に生きていて良かった。
本当に、これからも生きていたいと思う程に
……
幸せだよ、俺は。
2023.6.6
Happy Birthday Kazuki!
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