しらかば
2024-10-21 18:26:43
3430文字
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雷霆対英雄

2023.3投稿分
タイトル通り。鷺内和希対宮代御鶴模擬戦話。

「え?御鶴さんと和希さんの模擬戦ですか?明日?」
 ある日の晩。
 凍磨は御鶴から珍しくかかってきた電話を取ってベランダで話していた。
「そうなんだよね。騎士団に用があって行ったら騎士団長から直々にお願いされちゃって。団員の戦力向上の目的で騎士団内に生配信されるみたいだよ」
「それは見てみたいっすね……絶対見に行きますよ」
「でも対人だよ?対人だとあの雷霆に敵わないと思うんだけど。まあ、全力は尽くすよ。騎士団の仮想空間を使うみたいだから、うっかり殺しても死なないらしいし」
 あ、開幕から四神出すな御鶴さん。凍磨はなんとなく察した。



「ルールは一本勝負。どちらかを殺す又は降参するまで続く。無論、仮想空間なので実際の生死には関わらないが身体への負荷は実際と同じように設定してある。術や武器の使用は自由。いいな?」
 騎士団長、望月大和の声のみが響く。
 この空間には御鶴と和希しかいない。
「なお、この戦闘は騎士団施設内に生配信、並びに後学の為に録画されている。双方、異論はないな?」
「ええ、僕は構いませんよ」
「俺も大丈夫です」
 御鶴は戦闘の際に使う陰陽師服で手始めに使うつもりの札を握っている他は何も武器は持たない。
 ああ、凍磨が見ているなら無様な真似は晒せないな。御鶴は気を引き締める。
 戦闘開始を伝えるように、大和の声はぷつりと切れた。
「じゃ、手合わせ宜しくね。英雄様」
 和希はヘラヘラと笑い、拳銃を取り出す。
「宜しくお願いします、雷霆殿」
 御鶴がお辞儀を一つすると同時に目隠しのように桜の花吹雪が舞う。
「ーーって、いきなり攻撃!?」
 慌てた和希が拳銃を前に向ける。花吹雪により狙いが定まらない。
……なんちゃって」
 クスッと笑い、ホルスターからもう一丁の拳銃を取り出し、そのまま後ろへと銃弾を放つ。
 それは背後に回った御鶴から放たれた札を撃ち抜く。
 撃ち抜かれた札は地に落ち、雷がバチバチと音を立てていた。
「雷霆殿に雷を当てる予定だったんですが、流石ですね」
「えっ、俺が雷使いなのを知っていて!?酷いな、英雄様は」
 相手に不足はない事を確認する。
 これで前哨戦はもういいな。
 御鶴は目を閉じる。
「うっわ、噂には聞いていたけど生で見ると本当に気配変わるね」
 大地が震えるようとはこのことを言うのか。
 余りにも異質な気配に、思わず和希は攻撃の手を止めて見つめてしまう。
 これが噂の、英雄最強の禁忌の術か。
「ーー四神降臨」
 目を見開くとその片眼は蒼い光を帯びており、御鶴の背後には四体の神々が降臨していた。
「うーん、これは俺も笑っている場合じゃないかな?」
 じゃあ俺も本気を出そうか。
 和希が拳銃をホルスターに収め、真っ直ぐに御鶴を見据えるその顔に笑顔はない。
 その身体からは雷がバチバチと帯電していた。
「さて、本番と行こうか。宮代御鶴」
「ああ、精々楽しませてくれよ。鷺内和希」
 強者を狩る事を愉しむように笑う御鶴。
 ここならば殺したとて凍磨との約束を破る訳ではない。心置きなく戦える。
 御鶴が手を和希へと付き出すと和希の周囲を囲むように風の刃が形成される。
「風よ、刃となり斬り裂け。青龍」
 その掌を上に返すと刃は和希目掛け放たれた。
「逃さないって訳か、上等だ」
 和希が軽く飛ぶとその身体は御鶴の背後へと移動し、帯電した右手で掌底をする。
「正直、想像以上だよ」
 恐らく、雷の起こっている場所に電流が走るように移動しての瞬間移動が可能なのか。和希の現れた場所にはちょうど先程御鶴が放とうとした雷の札が落ちていたはずだ。
 能力者も極めれば己自身を能力と一体化できるのか。これは面白い事を知った。
 瞬時に御鶴は考察し、咄嗟に振り向きその掌底に御鶴の右手が触れる。
「喰らえ、白虎!」
 それはどちらが先だったか。
 互いの身体が弾き飛ばされ、暫し距離の空いた二人。
「チッ……遅れたか」
 和希は自身の右腕が何者かに深々と噛まれ血を垂らしていた。痛みも酷い。あと少し防ぐのが遅れていたらこの腕はなくなっていただろう。
 対する御鶴の身体も痺れていた。
 掌底による雷を同時に放った白虎で受け、弾かれた身体を玄武で受け止める。それでも身体中が痺れて仕方がない。
 白虎の攻撃の寸前に雷を放っていたのか。受け止めた玄武の属性が水であった事が逆効果だったか。想定していた以上にダメージが大きい。
「騎士団最強……流石だね。凍磨より遥かに強い」
「それはどうも、こっちも英雄の名がお飾りじゃなくて困ってる所だよ」
 次をどうするか。
 恐らく四神降臨による御鶴の体力の消耗の激しさはこの男には読まれているだろう。戦況の把握、己の能力で出来る事を把握した上で戦況により寸前の所で戦い方を変えるスタイル。鷺内和希という男は対人においては本当に最強の名に相応しい。騎士団内に限らず能力者の中でも最強なのではないだろうか。
 短期決戦しか勝ち目はない。いつだったか、凍磨と共闘した時もそうだった。
 対して和希は端から長期戦に持ち込むつもりであった。宮代御鶴は英雄であり神ではない。人間だ。人間が神を使役してノーリスクハイリターン、そんなはずはあり得ないのだから。必ず身体には負荷がかかっている。長引けば体力の消耗を考えずに能力を扱える己に分がある。
 しかし予定外に自身の怪我が重い。あの一撃でここまでとは。
 どう動くか。膠着状態が続く。
 膠着が続けば不利になるのは御鶴。彼は必ず動く。
 それに賭ける。
 御鶴の右目が紅く輝く。
「行くぞ」
 御鶴は朱雀を召喚、その場から動く事なく和希目掛け炎を纏う怪鳥が突っ込む。
 和希はフッと笑う。
「そうだろうな、お前の性格なら!お前が動くなら今だろうなと思ったよ、御鶴!」
 御鶴の頭上から雷が落ちる。
「これしきの攻撃が僕に当たるとでも!?甘い!」
 それを防ぐべく御鶴は後ろへ一歩下がる。
 再びの跳躍。右腕はもう使えない。
 和希は御鶴の頭上に移動する。
「これで終わらせる!」
 その背後には無数の雷で出来た槍。
 空中から無数の一撃が御鶴へと振り下ろされる。
 御鶴が笑ったのはその直後であった。
「ーー降りてこい、朱雀!」
「!?」
 和希の身体に強い衝撃が走り、地面に叩き落とされる。
 放った後に消す事なく上へと朱雀を飛ばし突き落とす読みだったのか。防ぎながら撃ち落とす、そんな力が残っていたのか?
「違う、防ぐ事を諦めて攻撃に……!?化け物か!?」
「攻撃を放った直後なら防御する術は無い。それにお前も十分、化け物だろ?」
 相手は化け物だ。
 だから互いに止めはこれではなかった。
「穿て、青龍!」
「貫け、雷槍!」
 互いに相手の攻撃によるダメージで視界の失せた戦場で叩き落とした身体を真正面から風の刃が穿くのと雷の槍が背後から身体を貫くのはほぼ同時であった。



……いや、これ、参考になります?」
 騎士団内にある大型モニターで見ていた凍磨の一言には周囲にいた騎士団員も同じ思いだった。
「これ見て俺に意見を言えと言われましても……ただの化け物の戦いですよ?」
 最後の一撃。
 空中からの雷槍により雷を散らしていた和希による自身と散らした雷を一直線に貫く雷の槍。
 そして朱雀で突き落とし、そこを青龍の生み出す風の刃で穿つ。恐らくは白虎や玄武の力もそこに乗せていたのであろう一撃。
 結末は二人同時に戦闘不能という決着のない終わり方。
「でも戦闘のセンスがずば抜けているね。数々の死線を潜り抜けてきたんだろう、凄いよ」
「いやー、強かったね。俺が勝ったと思ったんだけど英雄様は尋常じゃないね。久々に本気出したよ、俺」
 そこに現れたのは先程まで戦っていた化け物二人であった。
 突然の当人の登場に辺りがどよめく。
「一つ言えることは、敵じゃなくて良かったっす。御鶴さんも、和希さんも……
 この二人を敵に回していたらそれこそこの世界の終わりだろうな。
 凍磨の心の底からの思いだった。
「また再戦お願い出来ますかね、英雄様。次は絶対に俺が一人勝ちするから」
「こちらこそ。勝負のつかないままは嫌いなのでお願いしますよ、雷霆殿」
 結局どちらが強いのか。
 その結末が分かるのはまだまだ先の話。