しらかば
2024-10-21 18:15:30
3578文字
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幻影迅雷

2022.12投稿分
小鳥遊玲依対鷺内和希。本編第一部ネタバレ注意。

「幻影迅雷」
小鳥遊玲依対鷺内和希。
本編第一部最後までのネタバレを含みます。
未読の方、ネタバレを気にする方はご注意ください。




「玲依ちゃん、今日暇?」
「ナンパならお断りよ」
「俺がいつでもナンパすると思わないで欲しいな……模擬戦しない?腕が鈍りそうだから本気で体を動かしたいんだけど」



「貴方とまともにやっても敵わないんだろうけど、気に入らないから負かしてやるつもりで行くわ」
 小鳥遊玲依は剣を抜く。
 手加減するつもりはない。
 本日貸切と札が立ててある騎士団の支部内にある施設、能力者の戦闘訓練が行われるここは仮想空間であり傷つこうが殺されようが実際の体には影響がない。
 最も、そのような危機に瀕する事など少ないのだがこの男と対峙するならば話は別である。
「で、なんのつもり?」
 いつでも来いとばかりに剣を構える。  
 目の前の男は騎士団内でも最強と呼ばれる男。戦闘以外の印象は何故か玲依をよく口説くのであまり関わりたくないくらいの印象しかない。
「やだなー、なんの魂胆もないよ。ただうちで俺が本気出してもやれそうな相手が玲依ちゃんしかいないから」
 男、鷺内和希はヘラヘラと笑いながらホルスターから拳銃を抜く。
「そんな事を言いながら本気を出すつもりなんてなさそうじゃない、和希」
 この男は普段は拳銃を使う。能力を一切使わず、だ。それは本気ではない。
 それは玲依も同じで、剣にある氷を放つ力のみで任務を熟している。
「そんな事ないよ。ここなら邪魔者も入らないし。たまには本気の能力者の戦いってのも、唆らない?」
 表情を崩したまま今から攻めますよとばかりに右手を一度上げ、軽く飛ぶと和希は距離を一瞬で目の前まで詰め銃弾を放つ。瞬間移動、正にその名が相応しい速さで。
 それを屈んで避けた玲依は無理な態勢から剣を振るい、拳銃を弾き飛ばそうとするがそれは叶わない。
「さすが戦乙女、伊達じゃないね」
 防がれた衝撃で玲依がバランスを崩したのを見て和希はフッと笑うとすかさず拳銃の背を顎目掛け叩きつけ、仰向けに地面へと玲依を倒す。
 地面に拘束するように馬乗になった和希の手にある銃口は眉間に突きつけられている。
「まだ本気じゃないよね。戦乙女、小鳥遊玲依ちゃん?俺からどう逃げる?それともこれで終わりかな?」

「ーーその余裕そうな笑みが気に入らないわ」

 逃げる必要なんてないですから。
 剣を強く握り、目を閉じ、そして開く。
 和希の背後には目の前で捕えているはずの玲依が斬りかかっていた。
 銃を背後の玲依に向け放つ。なおも止まらない彼女めがけ立ち上がり腰にあるもう一丁を抜き二丁で連射する。するとその姿は幻のように虚空に消えた。
 本物はーー後ろか。
 銃を構えたまま振り向くと既に玲依の剣は振るわれていた。和希の利き腕である右手を目掛けて。
「っーー!!」
 右手から血が溢れる。そして痛みで拳銃を手放してしまう。同時に放ったのか、その拳銃は凍っているように見える。目の前の本物が距離を取り、すぐに背後に再び現れた玲依の姿が間近にある。それを左手の拳銃を横に凪ぎ掻き消す。
 拾いに行く間もなく、態勢を立ち直す間もない頻度で分身が間髪を入れず攻撃に現れる。
 取りに行ったところで溶かすような余裕はあるのか?
 それに本物はどこだ?
 立ち尽くす和希。
 貰った。玲依が放つ複数の分身が和希を襲う。

「ーー褒めてあげるよ、小鳥遊玲依」

 俺にこれを使わせるとはね。
 その男の口角が釣り上がる。
 刹那、雷鳴が響く。
 男の体から雷が発し、全ての分身は雷に掻き消される。
 しかしタイミングを遅らせた玲依の剣に冷気を纏った一閃が和希を切り裂いた。
「えっ……!?」
 だが人間を斬った感覚が手に伝わらない。
 仮想空間であろうともその感覚は現実と同じのはず。
 つまり、斬れていない。
「正直な所、ここまで本気を出すことになるとは思わなかったよ」
 目の前で雷がバチバチと音を立てて人の形を取った。この瞬間に和希本人が雷となっていたと言うのか。そんな事が能力に長けた者ならば可能だと言うのか。
 斬られていない和希の手が状況の整理が追いつかない玲依の剣を掴んだ。彼の手が氷ついていく。
 このまま剣を握り続け氷漬けにすれば勝ちは決まる。しかしこのまま握り続けるのはまずい。何かが来る。玲依は咄嗟に剣を手放し距離を取った。 その瞬間、玲依が今までいた場所に雷が落ちていた。
「雷霆、鷺内和希……騎士団でも最強の噂はやはり本物ですね」
 騎士団にいる自分のキャラを裝う余裕がないとはこの事か。
 雷の皇帝などという人間ではない、最早自らが激しい雷のような化物。その言葉が一番しっくり来る男。
「ちょっとは信じて欲しいね」
 玲依は確かに距離を取った。
 それでも彼は背後にいた。確認するより先に振り向きざまに蹴りを一撃。確かに命中。しかし体が痺れ身動きが取れなくなる。
 痺れた身体で新たな態勢を取る事は不可能だった。
 そして和希はその手は蹴りを放った足を掴む。手は玲依の氷が溶けたことにより僅かに濡れていた。
「知ってる?電気って濡れてるとよく通るんだってさ。つまり……チェックメイト、だね」
 バチン、と体中に電流が走る感覚がした。


「ふー、ごめんね。楽しすぎて手加減する余裕なかったよ」
……貴方ってこれだから嫌いよ、配慮の欠片もない」
 そもそもの違いである。位置づけとしては彼と同じ大佐である玲依ですらまともにやっても敵わないと思う人間など英雄である宮代御鶴と彼くらいのものである。
 英雄はそもそも魔物を滅ぼすような力の持ち主。今や神も使役する存在。やるだけ無駄。彼が凍磨と組んでいないとしてももう再戦はお断りしたい。
 そして目の前の彼は能力を使わせたら化物過ぎるのだ。騎士団の人間として数多く人と対峙し、政府の人間として数多く人を殺してきたが和希以外に能力をここまで使いこなしている人間を玲依は見たことがない。
 最も、滅多に本気を出さないのだが並の相手など拳銃捌きのみで十分と言うことがうかがえる。
「ま、俺的には玲依ちゃんに能力を使わせたから満足かな。玲依ちゃん、滅多に能力使わないもん」
「貴方にだけは言われたくないわ」
 今までは自分の過去を思い出すから使いたくなかったのと基本的には主の命令がないと使わないと言う制約があったから能力である分身を放ちはしなかった。今は単純に、自分の気持ちに素直に命の危険があれば使う。つまりはそういうことだ。
「あ、そうだ。一つ聞いていい?記録には全く残っていないけども先の魔物騒ぎの件。あれ本当は英雄様じゃなくて噂の新人……朝霧凍磨、彼だよね?主犯である君の主を捕えたのは」
……全部知っていました、って顔ね。だから嫌いよ。貴方も、貴方の上にいる団長も」
 どういう理屈かは分からないが彼のその上、騎士団長に自分の内情を見抜かれていたのだろうか。今となっては別に知られても構わないのだが。
 それでも見透かしたように話すこの男は気に入らない。
「それはお互い様だろう?ここに潜入した君も、それを知りながら利用したあの人も」
 和希は笑いながら飲み物を玲依に投げる。缶に抹茶オレと書かれているそれを見て何故好みがわかっているのかと驚く。
 この男は他人への配慮が出来る人間なのかもしれないと少しだけ見直す事にした。
……本当の私を知っても軽蔑しないのね」
「する訳ないだろ、かわいい女の子を。少なくとも……今の玲依ちゃんの方が幸せそうに見えるからね、俺には。彼、本当に騎士みたいだね……人々を闇から救う、でも白じゃない。闇使いの黒い騎士」
「彼にお似合いじゃないかしら、少なくとも和希よりは凍磨の方がナイトに適任でしょうね」
 少なくともあの男は嫌ではない。これからも成長を見守りたいと望む程に。
 小さく微笑む玲依を見た和希は自分の手を見て呟いた。
……なあ、俺が彼を殺したらどうする?」
「その時は貴方を殺す。貴方だけじゃない、上の人間も全て」
「ハハッ、そうだろうね。それは困るから止めとこうかな」
「本当に殺すつもりなんてないくせに。何を考えているのか分からない所、女の子から嫌われるから直した方がいいわよ。せっかく顔がいいのだから」
 自分から女を口説いておいて自分の事は面と向かって言われる事が少ないのだろうか。玲依は不思議そうに顔を真っ赤にして手に持つ缶コーヒーを飲み干す和希を見ていた。
 そして彼は落ち着いたのか空の缶をゴミ箱に投げる。見事成功。

「凍磨、か。俺も会ってみたいな」

 雷霆が出会うまであと○日。