しらかば
2024-10-21 17:45:55
3027文字
Public
 

真話「吉川悠紀」

2022.11投稿分。
吉川悠紀のバトルもの。頂いたイラストから設定を頂いて書いたもの。本編ネタバレ

真話「吉川悠紀」
頂いたイラストから妄想したネタを自分用にメモしたはずが最早短編と化したもの。
素敵なイラストをありがとうございました!

※一応あらすじ
傭兵として一条奏多の元で暮らす吉川悠紀と市田理穂。理穂には悪魔を殺す力があった。
理穂は悪魔への復讐を果たし、その結果として双子の弟を殺した悠紀。
これは二人がニホンに来る少し前の話。

今後の本編ネタバレありです。


残酷な描写が若干あるので苦手な方はご注意下さい
以下からどうぞ↓








 男は走る。
 夜の森を走り抜け、開けたところに出る。

……俺も舐められたものだな」

 男ー吉川悠紀はそこで立ち止まり、背後にあるその気配に笑っていた。
 背後には敵が数え切れないほど立っている。それが人間なのか悪魔なのかはわからないが、敵は敵だ。
 何故追われているのか。おおよそ相方が天使に授けられた悪魔を滅する力を利用したい奴らの仕業だろう。どうせ上級悪魔を殺した事を知り、その力で何か目的を果たさせたいのだろう。
 つまり、相方をおびき寄せる為に今から己は殺されるなり捕まるなりすると言うことだ。
 満月が己の影をくっきりと写し出す。
 その影は紅い鎌を形取り、悠紀の手へと握られる。
「俺は戦えないとでも思ったか?」
 きっと自分を仕留めれば相方はその槍を振るうことを躊躇うとでも思ったのだろう。優しいあいつならそれもあるかもしれない。
 否。これはピンチではない。好都合だ。
 これを潰せば相方に行くことはない。
 このまま鎌を振るい戦うか、いつものように距離をとり離れて戦うか。
 何れにせよ余りにも人数が多すぎる。もし手練がいるならば全員を倒し切る前に己が死ぬだろう。
「ならば……始めから本気を出すしかないか」
 そしてあいつにはあまり見せたくないから。
 これを喚ぶ姿は。
……漆黒よ、我が血にて目覚め、我に従え」
 悠紀は振り返るや否や己の鎌で己自身の腕を切りつけ、そこから垂れる血を最短で足元に垂らすべく影に己の血のついた鎌を押し付ければ影は黒の中に紅の輝きを示し2つの物体……否、二人の人物を作り上げる。それはまるで異界から現れた紳士と貴婦人である。
【ご機嫌如何かな?悠紀よ】
 紳士は現れるや否や帽子を取りお辞儀をする。
【あら?今日は彼女はいないのね?もしかして喧嘩した?】
 貴婦人が悠紀をつんつんとつつく。
【ああ、なるほど……
 そして悠紀の表情を見て何かを悟ったかのように2つの影、否、人は前を向く。
「さて、遊びはここまでだ。俺はお前達を一人残らず生かしてはおかない」
 彼らを喚ぶと血を流しているからなのか、普段より高揚した気持ちになるような気がする。
 ふと、昔を思い出す。


「兄さん!」
 それはいつのことだったか。まだ幼かった頃だろうか。
「成功したね!」
 弟、美月が飛び跳ねて喜んだ。
 悠紀の右手からは幾度となく血が流れ、己の足元からは赤黒い影から二人の姿を形どった大人が現れた。
 まるで西洋にいるようなジェントルマンとマダムのその姿はあまりにも異質であった。
「よかった!きっと兄さんの影は血の契約により巨大なものを生み出すと思ったんだ!僕の理論は正しかった!」
 美月の純粋な声が遠くなる。目の前が霞む。
【あら、こんな小さな子に召喚されたの?】
 女性の声が頭に響く。
【どうやらそのようだね】
 次いで、男性の声。
【名前は?】
「悠紀。吉川悠紀」
 まだ受け答えする気力はあるんだな、そう自分の状況を把握出来る程に悠紀は何故か冷静だった。
 男と女はクスクスと笑う。
【悠紀、我等がマスターよ。気づいておるか?お前は血を流し過ぎている】
「俺は美月の理論を証明したかっただけだ。どうでもいい」
【まあ死なれては困るわね、悠紀。これから沢山壊していいのでしょう?】
 悠紀が二人と喋っている間、美月は不思議そうにこちらを見ていた。二人の声は美月には届いていないのだろう。
「ああ、約束しよう。だからーー俺に力を貸して欲しい」
 悠紀のまっすぐな瞳が2つの影を捉える。
【無論、我等を生み出したのはそなたである。従うのが紳士としての礼儀たるもの】
 彼らとは何故か会話が出来、自我がある。
 悠紀が能力で生み出したものにはあり得なかったことが起きているのだ。
 美月の言葉で言うなれば、血を流すと言う悠紀の命を削る行為を対価にし命を分け与えた存在であろうか。
「凄い、こんなことがあり得るなんて……これは本当に影なのか?もしかして召喚獣なのか?何れにせよ兄さんはやっぱり最強だよ」
「美月、何かいい名前はないか?外国の人みたいな名前がいいんだが……
「その二人に名前を?兄さんの相棒だもんね……そうだ、リアムとカミラなんてどうだろう」
 男性がリアムで女性がカミラ。
 意味は言わないでくれ、とばかりに美月が口に指を当てたが悠紀にはよく分からなかった。


「さて、終わりにしようか。リアム、カミラ。【踊り狂え】」
 彼らを呼ぶ度にもういない彼を思い出す。
 開戦の合図とばかりに鎌を敵へ向けると、彼らは笑った。実際は影であり表情などはないのだが悠紀にはなんとなくそう感じた。
【承った】
【待ってました!】
 二人はふわりと異なる方向へ舞い、そして踊るように敵陣を駆け巡ると辺りは影に包まれる。
「お見せしよう、死の輪舞曲を」
 響くのは悲鳴。
 目の前で踊り狂う人ならざるものを見てただ一人、夜の調べを眺め笑う。
「し、死神だ……
 背後で声がする。
 ゆっくりと振り向くと今にも逃げようとする声の主。
「死神か。それもいいかもしれないな」
 逃しはしない。
 己の持つ鎌を振るい、赤に染める。 それを斬り裂いた己は狂しく笑っていたのかもしれない。
 もう声を発する事も叶わない人であったものを背後から伸びた影が飲み込む。
【死神なんてお似合いの言葉ね、悠紀に】
「丁度今その話をしていたんだ」
 跡形も残さない。全て消えればそれは悪ではない。なかったことになる。
 それがせめてもの救いと思っている。いや、救いなどではない。既に罪を重ねた己への言い訳なのだ。
【先程の連中、全て我等が喰ったが宜しかったか?】
「構わない、好きにしていい」
 直接手を下さない。
 それでも己は人を狩る死神なのだろう。
「死神、なんて相応しい名前なんだろうな。俺は生けるものの命を奪う死神。もう後戻りは出来ない」
 跡形もなく敵を屠る。
 弟の命すら己で殺す道を選んだ。
 せめてそれを忘れない為に刈り取る事とする。
 終焉の踊りは終わり、その場には何事もなかったかのように男が立っていた。
 踊りを踊っていた演者もそこにはいない。
「悠紀、こんなところにいたんだ!探したよ、夜なのにテントにいないから」
「ああ、悪かった。もうこんな時間か。ちょっと外の空気が吸いたくなったんだ。戻ろうか、理穂」
 そして死神は日常へと戻っていくのだった。
 その手の傷にすべてを隠して。





ーーーーー

ちなみに名前付けるのに検索したところリアムには守護者、カミラには高潔なって意味があるそうですよ。悠紀の事を守る守護者、悠紀を見守る気高き汚れなき存在みたいなイメージです。兄のことを大切に思う美月らしいネーミングですね。