しらかば
2024-10-21 17:37:51
3039文字
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追想「朝霧凍磨・宮代御鶴」

2022.11投稿分
凍磨と御鶴の過去話。


「宮代先輩って、大変じゃないんすか?生徒会長してるだけで凄いのに周りが文句も言えないくらい頭いいし弓道部のエリート、おまけに陰陽師家系を継ぐことが決まってて。完璧過ぎると言うか、かえって大変そうと言うか」

 これはまだ宮代御鶴が英雄と崇められる前の話。
 いつものように生徒会室に手伝い(と言う名の御鶴の話し相手)にきた後輩、朝霧凍磨はふと思う。
「御鶴でいいよ、凍磨とは友達みたいなもんだし。これくらい大したことないよ、出来て当たり前だしね」
「それが当たり前って……俺だったら息詰まりそうですけどね」
 書類をホッチキス止めする雑務をしながら彼は呟いた。
「僕は周りに異質な人間ばかりだから。普通の能力のない人間ばかりの環境に放り出された凍磨の方が大変じゃない?って思うよ」
 まずいことを言ってしまった、と御鶴は気まずそうに目を背ける。
 家柄に縛られた人間には捨てられた人間の気持ちはわからない。その逆もまた然り。
 その気持ちも、痛みも、互いにわからない。
「天才だから凄いとかじゃなくて、次期当主だから凄いとかじゃない。それを奢らない、宮代先ぱ……御鶴さんだからすげーなって」
 ふと手を止めて彼の境遇に自分がいたらどうだろうと考える。
 きっと憎くて、苦しくて、周りを殺すのだろう。いや、自分自ら人生を終えるかもしれない。凍磨の過去のことを知るにつれて思う。
 何故彼は笑っているのか。
 何故彼は純粋な瞳で僕を見るのか。
 本当に凄いのは。
「凍磨だよ」
 その呟きは聞こえないように。


 そして時は経ち。
 俺の先輩は英雄となった。

「我々、宮代家の遣いの者で御座います」

 覚えている、あの春の日を。
「あのー……宮代家の方が何か用すか?」
 忘れてはいない。俺の憧れの人を。
 そんな人の遣いの人がなんで俺に用があって家に訪ねてきたのか?よくわからないがぞろぞろと来る和服の人達を俺はとりあえず家に上げる。
「当主様より朝霧凍磨様への資金援助を申し付けられまして、参りました次第で御座います」
「は?資金援助?」
 和服の一人が発した言葉の意味がわからなかった。いや、意味は分かるんだけど。
「つきましてはこちらの書類に振込先の方を……
「待て待て待て!勝手に話を進めるなって!」
 渡された書類にはとんでもない金額が書いてある。俺のバイト代の3倍以上あるぞ、これ。
「受け取れませんって!こんな大金!どんな理由か知りませんけど俺と桜は大丈夫ですんで!」
 正直なところ、目が眩んだ。
 政府の補助金なんて大したことはない。精々家賃が払えるくらいしかない補助金とバイト代だけで二人の生活を賄うのはキツイ。
 これを受け取れたら桜が困ることはない。妹には普通の女の子として普通の生活を過ごして欲しい。だからこうしてバイトしながら学校行ってるんだけど。
 それはそうだけど、人としてあり得ないだろ。よく読めば社会的に優位な地位を約束するとかなんとか書いてあるし。逆に怪しいわこんなの。
「と、申されましてもこれは当主様との契約ですので……
「当主との契約?いや意味わかんないですって。とにかく、こんな迷惑のかかることをはいそうですかとか言えないっす」
 他人には頼りたくない。
 頼ってもいつか捨てられる。
 俺はそうして生きてきた。

「全く……だから言っただろう?律儀に手続きに行っても凍磨は断るぞって」

 そこに現れた存在。
 和服が左右に捌け、出入口から俺まで綺麗に切り開かれた道。
 一際神々しさを放つその存在は、俺の憧れの人。
「御鶴さん、その……どういうことっすか?」
 御鶴さんは俺の方へと真っ直ぐ歩み、そして俺の目の前で書類を破り捨てた。
「こんなの必要ないんだよ。だって確定事項だもん」
「は?」
「僕の面子を潰すつもりかい?大人しく受けとってくれないと大恥なんだけど。だって魔物は倒しちゃったし」
「いや、それとなんの関係が……
 御鶴さんは顔を顰めた。どうやらあまり言いたくないことらしい。和服の奴らに下がれ、と一言言い、俺と二人になったことを確認して床に座った。
俺もそれに習い目の前に座る。
「こういうの、あんま言いたくないんだけど言わないと凍磨は察せないみたいだし」
 御鶴さんはため息をついた。
「僕、生贄となるんだったのは知ってるよね?」
「そりゃ知ってますよ」
 キレましたしね、俺。
「その時に約束したんだ。凍磨に援助しろって。で、僕は無事魔物を討伐。本家は大手を広げて僕の言いつけを実行したい訳さ」
「なるほど、それで……
 だから契約だのなんだの言ってたのか。
「って、だからってはいそうですかって言えないですよ!」
「でも言ってたよね?妹に普通の女の子としての生活をさせたいって」
「うっ……言いましたよ確かに……
「自分ばかりが頑張っても限界があるよ?時には他人を利用しないと駄目だよ、凍磨は」
 御鶴さん、こういう時に頭が回るから口じゃ絶対敵わないんだよな。
「僕の面子を守るってことで、受け入れてくれないかな?使う使わないはお前の自由だ。不満なら稼げるようになった時にでも返してくれたらいいし」
 そう言われて、俺は頷く事しか出来なかった。
 仕方ない、桜の高校入学資金にでも当てて後から俺が返す感じで使わせて貰おうかな……
 御鶴さんは微笑んで着ている和服の胸元から何かを取り出した。
「じゃあここにサインを……
「いやその書類複数枚あったんかい!?」
 俺の驚きを返して欲しい。


「凍磨はさ、どうするつもり?」
 ある日、高校の卒業が迫る彼に僕は訪ねた。僕は既に卒業したし当主という立場なんだけど彼はそれでも親しくしてくれた。
「強くなりたいです。御鶴さんみたいに、大切な人を守れるくらい」
 そうだよ。
 強くなってくれないと。
「俺は陰陽師じゃないし、この能力もどうしたらいいかわからない。それでも、この他人を傷つける能力で人を救えたらって。あの日、あんたを見て思ったんだ」
 嫌でも分かるよ。あの日からの君が僕を見る目を見れば。
「だから……卒業したら、騎士団に志願しようかなって。御鶴さんに色々返さないといけませんし」
「僕は反対だね」

 モット強クナッテクレナイト。

「その前に海外に行きなよ。守るには数をこなさないと覚えられない。平和なこの国にいるより実戦を積む方がいいと思う」
 彼ならばあんな魔物なんかよりずっとひりついた戦いが出来るだろう。
「それに、僕みたいになるならせめて騎士団でも大佐クラスにはなってくれないとね?」
 強くなれ。
 そしてここまで這い上がれ。
 僕が楽しめるくらい強く。
「いない間の心配をしてるなら、こっちの事は任せなよ。桜ちゃんの事はうちが責任を持って支えるから。それに、せっかく抱いた夢なんだろう?」
 守りたいだなんて凍磨らしい答えだと思った。
 こういう人間がきっと英雄になるんだろうなと思った。
 事実、彼といつか肩を並べて戦うことも楽しみだ。
 そして……乾きを癒やしてくれそうだ。
「海外で武者修行って事っすよね……確かにいいかもしれない。ちょっと、考えてみます」
 その時にはなんとなく分かっていた。
 それは数年先の話かもしれないが。
 彼に立ち塞がるのはきっと僕だし、僕に立ち塞がるのも彼なのだろうと。