蘇芳
2022-07-31 23:15:57
2660文字
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夏のいたずら

軌跡の小話。クロリンです。夏の暑さの所為でとある買い物を失敗したリィンの話。R指定まではいきませんが少しそういった描写があるので苦手な方はご注意ください。本当に少しですので逆に、そこのところもよろしくお願いします

 
 日が落ちても熱気が残っている外とは違い、涼しく快適な室内。少し動いたくらいでは暑くなる要素なんて、ひとつもないのに上がり続けていく体温に負けず劣らずの熱い息を、リィンは吐き出した。
 冷たかったシーツはリィンの体温を冷やすどころか、シーツのほうが温くなり衣擦れの音と共に皺がよっていく。よれて浮き上がったシーツを指先で引き寄せて握れば、どこか不機嫌さを滲ませた強さでお前が握るのはこっちだ、と言わんばかりのクロウの指がシーツを抜き取って変わりに絡まる。リィンの手に己より熱い指が絡まって手のひらが合わさり、じんとリィンの指先が痺れた。
 ふっ、と唇から掠れた吐息を溢しながらじんわりと痺れた指を動かして、リィンは合わさったクロウの手を握り返す。クロウの手のほうが熱いと思ったけど、己の手のほうが熱いかもしれない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。溶け合って交じりあって、わからなくなっていく感覚に微睡みそうになる。
「おい、こら。寝るんじゃねぇぞ」
……寝てない」
 柔らかい笑みを顔にのせて、クロウはリィンの額に己の額を合わせた。くつくつ喉を鳴らしながら、額に米神。まぶたに鼻先、唇を掠めて首筋を辿って、中途半端に肌蹴たシャツから覗くリィン胸元にクロウの唇が落ちた。ちくり、と甘い疼き。
……っ、ぁ」
 リィンの僅かな反応も、余すところなく拾い上げながら繋いだ手とは逆の不埒なクロウの手が、リィンの腰骨をするりと撫でてズボンに掛かった。
……ん?」
 意図も容易く寛げられたズボンを前にクロウから疑問をのせた声が零れたのを、リィンの耳が拾う。ぼんやりとし始めた頭で疑問だろう声に対する答えを探そうと思考を巡らせた瞬間、一瞬でぱちっと弾ける泡のように今、クロウが見ているものの経緯がリィンの頭の中を駆け巡った。
 暑かった。例年にない酷暑だったのだ。本当に暑くて、通気性が良くなった夏仕様の教官服だろうと暑いものは暑かったのだ。教官服は教官としての立場を表すものでもあり、着崩すのも限界がある。シャツの腕を捲って首元のボタンをひとつ、ふたつ外す程度がそうだろう。暑くても教官服は今以上にどうこうできず、だからか、リィンが目を向けたのは肌着、つまりは下着だった。
 今考えれば、暑さで頭が茹だっていたとしか思えない。下着を涼しい生地の物に変えるのに可笑しなことなんて、何ひとつないが選んだ物が問題だ。何でこれを選んだのか。何で疑問に思わなかったのか。本当に、暑さでどうかしていたらしい。よりによって、こんな。
 じわじわと先ほどまでとは違う理由で、顔にとどまらず首筋まで赤くなっていくのをリィンは自覚しながら、腿の辺りまで脱がされたズボンを見られたものを隠すために、引き上げようと手を伸ばす。
「随分えろいもんを穿いてんじゃねぇの」
 熱を、他の色より吸収しないという理由で白。シルク地で布面積を極限まで少なくした、下着。これなら涼しそう、という理由だけで選び取ってしまったもの。確かに一般的な布地のものより、涼しくはあるのだが。普段のリィンなら手に取らない類いのものだ。何度でも言うが、暑さで頭が茹だっていたとしかリィンは言えない。
「! あっ、これは……ちがっ、違うんだ!」
 違う、その言葉をリィンが発した直後。クロウと繋がっていたリィンの手は、そのクロウによって押さえ込まれる形に早変わりし、ズボンは引き上げられないよう流れるような動作でクロウの膝頭が踏みつけた。
 腰回りは紐と言ってもいいリィンの下着の中に指を忍ばせながらクロウは身を屈め、わざとリィンに体重を掛けて押し潰しながら耳元で囁く。
「へぇ……なにが、違うんだ?」
 どろり、とした重く甘い声がリィンの耳に注がれ、夏の暑さとは違う熱で、リィンの頭が茹だる。先ほどまでの行為や羞恥がない交ぜになって、ぼやけるリィンの視線の先にぎらりと苛烈な光を宿した触れれば、火傷では済まないだろう赤色があった。
「っ、んぅ……こ、れは、その……あ、暑くて」
……ん? 暑くて?」
「情けない話、なんだが……
「情けない話なんだが?」
 だんだんと、語気が緩んでいくクロウのおうむ返しに構わず、リィンはしどろもどろになりながら暑くて、涼しいのを。実際に普通の生地のものより涼しくて満足してしまって。涼しいばかりに気が取られて見た目に今の今まで、気がまわらなかった、と。唐突に、クロウに見られて意識して頭の中に選ぶ切っ掛けと選ぶまでが映像つきで早回しで流れ、最後に手にした下着が改めて思い描かれて、それで。
 クロウの膝に押さえ込まれたズボンを引き上げるのを諦めたリィンは、その手でぐいぐいシーツを引っ張り下半身を隠す。しかしリィンの僅かな抵抗でしかないそれは、呆気なくクロウの手によって暴かれる。
「やめっ! み、見ないでほしいっ……!」
「いやいやいや、こんな絶景見なきゃ嘘だろ」
 おそらく、絶景ってなんだ! と言いたかったんだろうなぁ、とクロウは思いながら言葉にはならず、はくはくと戦慄くだけのリィンの唇が、うっすら開いた瞬間を狙って己の唇を重ねた。開いた隙間から舌を潜り込ませたクロウは、傍若無人に我が物顔でリィンの口腔内を犯す。クロウが一番よく知っている弱い部分ばかりをねぶり、リィンは呼吸すら奪われる。
「っ、……んっ、ぁ……ふぅ、ん」
……俺が“違う”んじゃなくて良かったぜ」
 奪われた呼吸分を取り戻そうと、くたりとリィンは深くシーツに沈む。忙しい呼吸を繰り返すリィンの濡れそぼり赤く熟れた唇に指を這わせながらクロウは、俺以外がいないのは頭では、わかってんだけどな。失敗を誤魔化すような苦笑を溢しながらそう、呟いた。
「?……な、に」
「なんも……あー、色々と聞きたいことがあんだがまあ、後で、だな」
 この下着をどうやって買ったのか、とか。そんな頭がぼやっとするまでの過程だ、とか。そこんところは膝を突き合わせて話し合うとして、とクロウは前置きし。
……夏は熱いのが自然だっつっても、暑いもんは暑くて不愉快で鬱陶しかったが、たった今、許せた」
 いいもん見られたからな、と言いながらリィンに見せつけるよう己の唇を舌で舐めたクロウは、目新しいリィンの下着の上からリィン自身を撫で上げる。ふるりと震えたリィンと、どんな暑さとも違う、ふたりの間で生まれる不愉快とは程遠い熱の暑さに、クロウとリィンは進んで身を浸した。