蘇芳
2020-05-23 19:43:37
2075文字
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くちびるが惹き起こす

閃の小話 閃Ⅳ後のクロリン。キスの日ということでひとつ。甘いちゃしている2人のつもりです

 
 日が落ちて宵闇が辺りを包み、星の瞬きが一層の輝きを放つ頃。外では心地よい風が吹いてはいるが、当然のように人通りはない。そのためか草花が揺れて奏でられる音色が静寂に広がり、よく聞こえる夜。
 暖かな明かりが道を僅に照らしている家もあれば、暗く眠りに沈んでいる家もあった。そんなリーヴスの一画にある落ち着いた風合いの一戸建て。まだ、明かりが点いている家のひとつ。
 きしり、クロウとリィンが並んで座るソファから聞こえた小さな音が静かな、温もりのある部屋に響く。
 キス、と言えば、ここだろうと思われるリィンの唇にひとつ、ふたつとクロウは口付ける。それは柔らかく触れるだけのもので擽ったそうにくすり、と唇だけで笑ったリィンがみっつ、よっつとクロウの唇に唇で触れた。
 リィンと同じように笑ったクロウは次々に額に頬に目蓋にと、口付けを降らせれば目に甘さがとろけだしたリィンがクロウの動きをなぞるように己がされたのと同じ順番で、少しばかり身を震わせ熱くなった吐息を溢しながら口付けを返す。
 するすると、クロウの厚い皮膚に被われた硬い左手の指先が血流を撫でるようにリィンの首筋を這い上り、辿り着いた耳を弄ぶ。右手はリィンの腰に回り力加減から見て離すつもりが微塵もないことが窺える。リィンに離れるつもりは微塵もないのだが。
 クロウはリィンのシャツで見え隠れする形のいい鎖骨に、ぢゅっと音を立てて吸い付き赤い跡を残す。ギリギリ見えない、と思われる箇所。リィンからは甘い声しか聞こえなかったのだから、この位置までは許されるのかとクロウは脳裏に刻む。鎖骨から続けて指で撫でたのとは反対の首筋を唇で撫でたクロウは、赤く染まった頬に口付けをおくってから熱っぽい吐息ごとリィンの唇を貪った。
 何度も何度も、唇を合わせ擦り合わせるたびにリィンの唇の赤い色が鮮やかになり、それがクロウの目に堪らなく美味しそうに見えて飢えた獣のように貪るのを、止められない。止める必要なんてあるのだろうか。ないだろう。ないよな。クロウの欲に忠実な部分が、自問自答でこれまた欲に忠実な答えを出したところで、それなりに強い力でリィンに髪を引かれたクロウは名残惜しいと、最後にじゅるりとリィンの舌を己の舌で擽ってから離れた。

「っ、んぅ……次は、俺の番……ふ、ぁ」
「順番って話だったっけか? もーちょい、な?」
 
 クロウはリィンの唇に触れ、中に舌を忍ばせぐちゃぐちゃに蹂躙する。
 そもそもが、キスの日ということでクロウから子供のような口付けをリィンの頬にしたのが始まりだ。
 学院という場所は至るところで色んな話の花が咲いているのが常で、リィンの耳にだって今日がキスの日だという話は当然のように入る。クロウからされた小さな口付けはその話からだろうと察したリィンは、リィンの反応を窺っているクロウに対して笑みを浮かべながらクロウにされた子供っぽい口付けを同じようにやり返すことにして、返した。ほんの一瞬、目を見張ったクロウにしてやったりといった顔したリィンはご満悦である。
 そんなリィンを見たクロウはニヤリと悪どい笑みを態とらしく披露しリィンの側頭部に手を添えぐいっ、と引き寄せられたリィンの頬に落ちたのは妙に擽ったい口付け。どうやら口付けるのと同時に息を細く吹き付けているらしい。ははっ、と声を出して笑ったリィンはクロウと同じ動作で同じことをした。
 あとは、その繰り返し。
 別に順番だ、とはっきりと言葉にしたわけではないのだが何となく、そんな感じになっていったのだ。子供のような親愛の情が多分に込められた優しい擽ったいだけの口付けから、だんだんと甘さが増し疼きが走り、欲が滲む。
 欲まみれの長い、長い全てを飲みほそうとするクロウからの口付けが途切れて唇が離れても、熱い吐息が唇で感じられる細い透明な糸が互いを結んだままの、距離。

「そら、リィンの番だぞ? まだまだ俺の番でもいいけどな?」
 
 くっ、と喉を震わせて笑うクロウは色濃く燃え滾る欲を隠すことなく、その目に表す。リィンだけを映すクロウの目を認めぞくり、と甘い痺れがリィンの全身に走った。
 ふるりと身を震わせながらリィンはクロウの鎖骨に口付けるために動く。ぽてりと赤くなった唇を赤い舌で、ちろりと舐めながらリィンはクロウの鎖骨に唇を寄せた。
 クロウを見上げるリィンの目は熱で揺れ、震えている様は熟れて食べ頃だと全身で主張しているかのよう。クロウの渇きを潤せるのは、これだけだ。

「俺の、番だって……言っただ、ろ」
……存分に」
 
 どろり、と甘さが滴り落ちる低く抑えられたクロウの声がぐわん、とリィンの耳の中で何重にも反響して火花が散り、体中にクロウにしか消せない火が灯る。
 リィンの目の前には大口を開けて待ち構えている飢えた獣しかいないと分かってはいても、止まることなど出来るはずがない。くるくるとリィンの腹の奥底が切ないと、疼いて鳴く。
 触れる貴方だけが。戯れは甘く、甘い媚薬。