蘇芳
2020-02-14 19:21:40
3035文字
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いつまでもあげる

閃の小話 閃Ⅳ後のクロリン。一応バレンタインのお話です

 
 クロウの手によって口の中に入れられたチョコレートを噛めば、とろりと液体が流れ出て仄かな苦味がリィンの舌を刺激する。チョコレートの甘さと交わって少量でも酒精が強い事が分かる溢れた酒は、まろやかになりとても美味しい。
 チョコレートも滑らかで舌触りが良く香り高く、酒の芳醇さに負けず互いを良く引き立て熟考された組合せなんだなと思わせる。
 使われている酒も上等な物のようで、その酒そのものを買おうと考えるくらいにはリィンの舌に合った。
 酒が包まれている所謂チョコレートボンボンと言われる物。酒は同じ物だけどカカオの含有率が違うチョコレートで包まれた物が数種類ある。カカオの量が少し違うだけで随分と風味が変わる物は数ある中から、お気に入りを見つけるのも楽しみのひとつなのだろう。含有率によって違う種類のカカオを使っているのは流石の拘りだ。
 クロウとリィンが住むリーヴスの一戸建て。入居に際しては紆余曲折があったのだが無事に二人で住むに至り、周りの方がほっと胸を撫で下ろした案件だった、とだけ記しておくとしよう。
 その家のリビングのソファ。落ち着いた色合いの大の男が並んで座っても余裕のある大きさで、スプリングの具合と頑丈さは折り紙つきで実証済みのものである。どう実証済みかは推して知るべし。
 二人が並んでも余裕のあるソファには、果たしていつ頃からかリィンはクロウの膝の上に横向きで座り、しどけなくクロウの胸に身を寄せていた。
 またひとつ、クロウの指先から酒入りのチョコレートがリィンの口の中に移動する。目元を緩ませ、笑いながらリィンにチョコレートを食べさせるクロウは実に楽しそうだ。
 目は口ほどに物を言うと、リィンの目を指してよく言われるのだがクロウだって中々のものだとリィンは常々感じている。そう、実感しているのだ。
 あんな愛おしいと、優しい目で事あるごとに見られれば、いい加減に自覚もする。鈍い鈍いと言われるリィンだって、クロウに隠すつもりが微塵もなく伝える気しかないのだと行動に言葉に、仕草ひとつにすら現れていたから。
 好きだ。愛してる。俺のものになって。どこまでも一緒に。甘すぎる言葉の数々はリィンの中に降り積もり、確かな形となっていく。元々あったものが明確に強固になり、大容量となってリィンの内を占拠する。
 好き、好きだ。愛してる。何でもあげる。──いなくならないで。正直な気持ち。それに答えが返ってくる僥倖。抱き締めてくれる腕の暖かさ。確かに聞こえる、鼓動。
 喜んで貴方のものになるから、俺のものになって。
 一瞬の瞬き程度の時間。ぼう、としていたリィンが視線を上げるとふと、クロウが指についたチョコレートに気づき舌で舐めとる様が目に飛び込んできた。伏し目がちなそのクロウの姿には色気があり、つい見惚れてしまった。
 それも食べさせてくれれば、よかったのに。言葉にならない本音。
 全部一気に食べるつもりか? とクロウに聞かれたリィンだったが曖昧な返事をするばかりで明確な答えを返せない。食べさせてるのはクロウだろと言えば、食べたくなくなれば言ってくれと返ってくる。食べたくなくなるはずが、ないじゃないか。リィンは心の中で呟く。
 バレンタインにリィンがクロウに貰ったチョコレートはただひたすらに美味しく、もっともっとと食べたくなるばかり。気持ちの問題も多分にある事はリィンも分かっている。特別な日に、愛しい人から貰う意味が込められた物はこうも美味しいのかと、リィンは口の中で蕩けるチョコレートを味わう。
 一度に全部食べてしまうのは勿体ないなと思わないわけではないけれど、それ以上に甘く、甘い形をした幸福を食べて飲み込むと満たされて心地よくて、やめられない。クロウに手ずから与えられるのだから、尚更だ。
 チョコレートそのものも素晴らしく美味しいのだが、それとは違うこの中毒性と言っても過言でないものは如何ともし難い。
 本当にクロウはリィンをどうしたいのか。
 このままではクロウに甘やかされ続け、幸福で満たされて、クロウが側に居ないとリィンは生きてはいけなくなってしまう。離れていくかもしれないと不確かな事でも感じたら息が、出来なくなってしまうかもしれない。
 それが望みなのだと、低く笑う声。

……リィン、うまいか?」
「ん、おいしい」
 
 クロウはチョコレートを一粒摘まみ上げると、リィンの口元に持っていく。素直に口を開けたリィンは差し出され、指先に摘ままれたチョコレートを食む。
 離れていくクロウの指についているのが見えた、ほんの少しのチョコレート。それが口の中のチョコレートよりも、とてもとても美味しそうでリィンは舌先を尖らせ、ちろり。だって、これも食べるべきリィンの物。
 ぴくりと動いた指がおもしろくて何もついていないのに、ちろり。
 あまじょっぱい。

「あー、ちょっくら狙ったけどもな?」
 
 見られてたのは分かってたし。なんとも、想像以上の破壊力で。参った、参った。本当に、参る。何がだとクロウを見たリィンの目に映ったのは、グツグツと煮立つ寸前の熱を湛えた艶やかで、鮮やかさが増し、増してゆく赤い瞳。
 たべられる。
 クロウはリィンの腰に回していた腕に更に力を込めて引き寄せる。ぐるりとリィンを囲い留める腕に満足そうな笑みを浮かべるクロウに、とくりとリィンの鼓動が嬉しいと喜んで鳴く。
 長いクロウの指が軽やかに動き触れたさきから、ぴりぴりと熱を持って痺れる唇がむず痒くて、その感覚から少しでも逃れようとうっすら開いたリィンの唇の隙間に、待ってましたとクロウは舌を潜り込ませた。
 口の中で溶け始めていたチョコレートを掬いそれを、ふるふると羞恥と甘い期待で震えているリィン舌に塗り広げるようにクロウはリィンの舌をねぶる。そうして舌をじゅるり吸い上げればリィンの腰がびくりと跳ねて、クロウの一番好きな甘いものが更に、甘くなる。
 するすると跳ねるリィンの腰を撫でていた手は、シャツの下の素肌の上に移動しすべらかな肌の感触を楽しみだす。
 今も尚、リィンの甘い口腔内を蹂躙しているクロウの器用すぎる舌は一筋のチョコレートも溢す事なくリィンに飲み込ませ飲み込んだ。

「ふっ、あっ……んぅ」
「ふむ。ちと、甘いな。ま、一番甘いやつだったし、こんなもんか。次は二番目に甘いやつな!」
「つぎ……
 
 ぽいっと、クロウの口に放り込まれたチョコレートが素早く噛み砕かれたのが分かった。それは、もっと美味しそう。
 間髪いれずに奪われたリィンの唇は抵抗する気が一切ないので簡単にクロウの侵入を許し、繋ぎ合わされた舌からチョコレートと混ざった酒がリィンの喉に流れ、胃の腑に落ちクロウに植え付けられたものに、火が、つく。
 少し苦しそうにしながらも、んくっ、と飲み込み動くリィンの喉を、うっそりと目を細めたクロウが掻き撫でる。体全体を震わせ、涙で潤んだ目のリィンに睨まれてもクロウは痛くも痒くもない、寧ろ情欲を擽られるだけ。
 とろとろ二人の間で蕩けてなくなる甘い甘いチョコレート。残りはいくつ?

「なぁ、リィン。旨かった?」
……っん、はぁ……おいし、い」
 
 こんな食べ方覚えさせて、どうするつもりだ? 気に入ったんなら何時でも言ってくれていいぜ。なら今、なくなるまで。了解、もちろん尽きるまで。