蘇芳
2019-10-30 21:16:48
7891文字
Public
 

総じて俺の君

閃の軌跡
閃Ⅳ後のクロリンです。リィンが つらつら考えながらクロウとお出掛けする話。

 
 黄昏が終わり、その後始末や新たに出てくる問題への対処や修正。やる事は次々と増減してゆくのに丸一日の休みとは。トワに話があると何事かと思ってみれば明日は一日、リィンは休みだと言い渡された。
 今が踏ん張りどころで寝る時間は、しっかりとあるし一日中働いてるわけでもなしに休む時間だってある。
 分校宿舎の広い風呂に入れば、疲れなんてないも同然なので丸一日の休みなんて、ありがたいけど大丈夫です。と素直な気持ちをリィンが話せば目の前で、にこにこ笑っていたトワから言い知れない圧力が発せられた。笑顔に変わりはないのに。おかしいな突然の寒気がリィンを襲う。

「リィン君。しっかり休もうね?……お返事は?」
「はい!」
 
 心胆を寒からしめるとはこのことか。はい、以外の返事はないよね。トワの笑顔が言っていた。逆らうなんて以ての外である。
 そもそも、頼りになる人一倍頑張りやの、言うと怒られそうなんだが小さくて可愛らしい先輩が強弁する時は必ず誰かの為だと知っているから。

「トワ先輩。……ありがとうございます」
「うん! 休んで、楽しむのも忘れないでね」
 
 花が咲いたような満面の笑みを浮かべたトワに、この先も敵う気がしない。


 ※※※
 

 異様に気を使われているのが分かる。今日は一日休みだと明言されたリィンは、どうしたものかと首を傾げる。
 そんなリィンを見掛けた生徒達や町の住人、果ては通信で連絡してきた掛け替えのない仲間達にまで、あれやこれやとオススメのスポットを紹介され何人かには割引券やサービス券まで渡される始末。
 渡す物が、チケットその物ではなく割引券だというのがリィンのことを良く分かっている。チケットならばリィンは遠慮しただろう。
 用があり期限がと理由を付ければ、変われる用なら変わると穏やかながらも力強い言葉で言われ変われない用なら、リィンよりも他の人に渡すことを進められる可能性が高い。リィンが築き上げた関係性から、チケットの内容を見て誰それが好きだったなと、紹介までされそうだ。
 リィンの行動を予測して渡された様々なチケットは、到底一日では使いきれない枚数がリィンの手元に辿り着いた。リィンは己のことを考えて渡された優しさを大事に丁寧に懐に仕舞う。
 背後から、ちゃんと使えよ。と声が掛かり、リィンは笑って頷くことで答えた。

「あぁ、有り難く使わせてもらうが、一人じゃ使いきれなさそうだ」
「誘ってくれんなら、ご相伴に預かるぜ?」
 
 振り返れば銀灰色の髪を日の光を受けてキラキラと輝かせ、赤い目に優しさと分かりやすく愛しいさを滲ませながら現れた、リィンの愛しい人。

「クロウ。一緒に出掛けてくれるか?」
「もちろん」
 
 リィンとクロウは顔を見合わせて駅に向かって歩く。二人の表情に憂いなど露ほどもない。多方面から御膳立てされたのであろう十月三十日というリィンとクロウ、二人の今日の始まりだ。
 鈍い鈍いと言われるが、日付を見れば皆が何を思ってリィンを休ませようとしていたのか流石に察せられる。それはクロウも同じだろう。
 今日という日に問題があったのはリィンだ。クロウには信念があり、己が定めた道を違わぬ決意で、進んでいたのだから。

「俺は多忙なお前を、あらゆる奴らからの公認で独占出来るんだから願ってもないことだな。折角、休ませてくれるんだから文句なんて、ひとっつもねぇぜ。……有り難く休みを満喫すればいいんだよ」
 
 寧ろ文句なんか言おうものなら、この立場を追われるかもしれない。それこそ冗談じゃない。列車に揺られながら向かいに座ったクロウがニヤリと笑いながら言う。

「ふふっ、そうだな。気を使ってくれたんだろうな。まぁ、気を使う大半の理由は俺にあるんだろうが……
「ん? わりぃ、後の方なんつった?」
 
 ぼそりと呟いた後半をクロウは聞き取れなかったようだがリィンは何でもないと笑って誤魔化す。リィンが話すつもりがないと見てとるとクロウは一瞬、憮然とした表情をしたものの直ぐにひっこめて話題を変えてくれる。本当に甘い。
 だって、もう過去の事。リィンがクロウに話したことがないのだから、周りの誰もが話さなかった。まぁ、言っていなくてもクロウは察しのいい男だ。詳しくは知らなくとも状況から分かる部分はあるのだろう。
 十月三十日を境にリィンの心は沈み体調すら悪くなる。体調は何とか寝込んだりはしないよう、ギリギリのところで管理が出来ていたが、心ばかりはどうにもならなかった。
 有り体に言えば今の時期、当時のリィンは散々だった。要請などもあり結構ボロボロで、お世辞にも顔色がいいとは言えずパトリックに指摘されて初めて、リィンは己の体調が良くない事に気づいたのだ。
 
 今日の仕事や依頼の調整をパトリックが中心になって行ったと聞いた。一日休みだと言われて気もそぞろなリィンに、内緒にしてとは言われなかったしねと、トワがリィンに教えた事だ。これは口止めをうっかり忘れたのだと思われる。
 教官になると決めた後は安定し落ち着きを取り戻しはしたが、一番悪かった時期を間近で見ていて何だかんだと支えてくれたパトリックには心労を掛けた。
 四大名門の若様が随分と分かりやすく心配してくれるのが逆に心配になったり、それを素直に言えば君に言われたくないと怒られたのは、いい思い出にもなっている。
 十月でこれだけ気を揉ませるなら十二月はどうなる事やら。リィンとクロウを何処かの空間に二人だけで放り込むかもしれない。悪くないと考える辺りリィンも強かになったものだと己で思う。でも、心配のさせすぎは悪いので今回で周りには平気だと伝えたい。
 
 折角のパトリックの采配だ、しっかりと休んでクロウが言った通り休みを満喫するのが一番だ。
 大半の人間が、当時に分かりやすかった不良の原因を宛がえば間違いはないと考えた結果が、この現状。
 間違いはない。間違いはないが、ここまで気を使わなくても、もう平気だ。目の前にクロウが生きて、いるのだから。単純明快。リィンという生き物は分かりやすい。
 そして、クロウはそれを知っている。笑ってリィンに触れて、リィンの側にクロウ自身が居るのがリィンにとっての何よりだと自覚している目の前の男は、だから堂々とリィンの隣を永遠に陣取るのだと。もう、俺のものなんだから梃子でも動くつもりはない。リィンも俺の隣から動くなよ。と言われた時の歓喜をリィンは、言葉に出来ない。
 リィンが何の呵責もなくクロウに笑いかければ、リィンの好きなクロウの笑顔が返ってくる、今。

「まっ、帝都に着いたら、まずはブティックだな」
「欲しい服があるのか?」
「いんや、お前さんの服を見繕おうってな。……リィン、自分が有名人だって忘れてないよな?」
「あぁ、だから眼鏡を……
「ホントそれ眼鏡を掛けた、ただのリィンだぞ」
 
 遺憾の意を表明する。


 ※※※


「細身のパンツは外せないな」
 
 ブティックに入ってからのクロウの開口一番がこれである。ざっと店内を見回したクロウは当たりをつけて上下の服に羽織るもの帽子、と次々に手に取っていく。
 店内には自社ブランドの服に合わせた小物もあり、それらも選んでいるみたいだ。視力矯正の為の眼鏡ではなく、所謂おしゃれ眼鏡を眺めだしたクロウに眼鏡は持ってるんだが。と言ってみたが、いいからいいからと試着室に追いやられクロウが選んだ服を着てみろと渡された。
 大人しく試着してみればウエストも肩回りも丈も、何もかもがピッタリで少しばかりリィンは戦いた。

「サイズがピッタリすぎる。どうして、ここまで分かったんだ?」
 
 教えたことはないし、わざわざ教えるものでもない。観察眼が優れていると、こういうものも分かるのだろうか。

……そりゃあ、あんだけ隅から隅まで触ってれば分かんだろ」
「?…………っ!!?」
 
 言葉を発する事が出来ず口を開けたり閉じたりしているリィンを見て、くつくつ笑いながらクロウは帽子をリィンに被せて位置を調節し、眼鏡を差し出す。
 何かを言いたかったリィンだが場所は外だし何を言えばいいかも分からず、赤くなった顔を隠すように受け取ったフレームの色が蒼い、眼鏡を掛けた。
 リィンの全体を見回したクロウは、ひとつ頷くと腕に掛けていたストールを、ふわりとリィンの首に巻く。これも、蒼。クロウの色と、言っていい色。
 この色を選んでリィンに身に付けさせるクロウの執着の現れに、リィンは嬉しさで微かに身震いする。
 燦然とした輝きを放つクロウの視線は、リィンが蒼に巻かれる姿を見て満足そうに、でも直ぐ様、物足りなさそうな貪欲な光が瞳に灯った。隠す事をしないクロウに何度だってリィンはクロウのものなのだと、言われているようで。リィンは恍惚としてしまう。
 今回はストールだったが、クロウがちらりと視線を走らせた蒼いチョーカーでも良かったのに、とリィンは考える。今度こっそり買いに来て身に付けて見せたら、クロウはどんな反応をするだろうか。楽しみだ。

「うしっ! いいな。俺の目に狂いはなかった。……店員さん、これ着てくからよろしく」
 
 ささっと会計を済ませたクロウは、いつの間にか元々リィンが着ていた服が入れられた袋を持つとリィンの手を引き、ありがとうございました。店員の言葉を背後に店を後にする。

「クロウ! ちょっ……代金!」
「いいんだよ。俺が選んで俺が買って贈った服なんだ。なぁ?」
 
 意味、分かるだろ。色々と教えたもんな。クロウは酷く掠れた低い声で、目に獣の色をちらつかせて、囁く。
 リィンの喉から引きつった音が漏れる。追り上がってきた何かを、どうにか飲み下し慌てて引かれたままだった手を振りほどく。
 ここは外で、まだ昼時だという意味を込めてリィンはクロウの向こう脛を蹴っ飛ばした。悲鳴と文句は聞かない。


 ※※※


 昼を少し過ぎた時間。手頃な値段のレストランに入る。満席に近かったがリィンとクロウが座る席はなんとかあった。ざわざわと賑わう店内を席まで歩きながら家族連れや友人、カップルといった人々が楽しそうに食事をしている光景が、とても尊い。
 席に案内してくれた店員に貰ったサービス券を渡す。この店の季節のサラダが二人分食べられるものだ。

「さぁて、飯食ったらどうする?」
「そうだな。貰ったチケットは食べ物関係が多いんだ。でも、ガッツリした物じゃなくて歩きながら食べられる物とか……ジューススタンドの物もある。博物館と。あぁ、整体の割引券があるぞ?」
「ワリィが最後のやつは却下」
「へ?」
 
 最後のやつとは整体か。クロウの顔の良さが全面に出た故の恐ろしさすら感じる笑顔で、他の奴に自分から進んで触られるな。と欠片も笑っていない目で言った。はい。
 よくよく考えてみればリィンだって他の誰かが、例え整体という医療行為の一環であったとしてもクロウに多く触られるのは、申し訳ないが気分がよくない。とんでもない我が儘だ。今のところ絶対的に必要なわけではないので余計に。
 柔軟を、もっとやろう。それと整体の勉強をしようとリィンは頭の中の予定表に書き記した。ほぼ同時にクロウも同じ事を考えていたが、それはリィンの知るところではない。
 頼んだ料理の前に運ばれて来たサラダには旬の野菜がふんだんに使われ、これまた旬の里芋が揚げられた状態で乗っていた。野菜はどれも新鮮で歯ごたえが良くドレッシングも味が濃すぎず、さっぱりとしていて食べやすい。
 里芋の揚げ物は外はカリカリで中は里芋特有の食感を残しつつ、ほっくりともしている。これは美味しい。

……酒」
「合いそうだな……
 
 宿舎で作ってみよう。
 食事も恙無く終え、お気に入りになった蒼いストール巻き直したリィンは、まだ残る一日の時間を考えて楽しげに笑った。


 ※※※


 ぶらぶらと、リィンとクロウはゆっくり連れだって歩きながら街を眺める。たった一日とは言え戦争にまで発展した黄昏を越えて、やるべき事は幾らでもあった。後始末も起こる問題への対処も。第Ⅱ分校の事だって当然ながら捨て置けない。
 こうして、のんびり街を歩くなんて考えもしなかった。何もかも全てが終わってから、黄昏の引き金を引いたのはリィンなのだから誰よりも動くのは当然だと。くるくると、あっちにこっちにと仕事をして回っていれば周りは心配にもなるだろう。
 思い返せば隙間隙間に休息を取っても休んではいなかったような気がしなくもない。とリィンは往生際の悪い事を、つらつらと考える。
 その姿は何時かの学院生だった時の姿と、さぞかし重なった事だろう。パトリックが気を回すのも仕方がないかもしれない。
 
 本当にリィンの悪癖と多方面から言われるものは中々、変わらない。それでも今、気づけた。少しはリィンも成長していると思いたい。
 街を眺めれば人々の日常が広がっている。良いも悪いも、あらゆる感情が渦巻く人の営み。皆で守って、これからも続いていくもの。足早では通り過ぎて見過ごしてしまうもの。休んで、足を止めなければ見られないものが世界には沢山ある。
 リィンは周りに恵まれていると改めて実感する。隣を歩くクロウを見て強く、思う。
 ところで、ジューススタンドに稀に現れる、チャレンジでしかないメニューはなんなんだろうな。クロウは少なくとも口に含んだ物は飲み込むように。

「うぐっ!……にがっ……苦すぎるっ!」
「はいはい。説明書きを見たうえで自分で選んで買ったんだから頑張って飲んでくれ。ほら、向こうの人は平気そうに飲んでるぞ?」
……嘘だろ……無理……
 
 人によって味覚は違うからな。こうした光景を見れるのも、クロウの本気の半泣きを拝めたのも休んで、共に時間を過ごすが故だ。


 ※※※


 クロウの口直しにカフェで珈琲を飲み、ここでもチケットでクッキーを頂いた。甘さ控えめで美味しい。お土産に買って帰ろう。
 帝國博物館に行けば展示物の絵葉書が貰えた。職員であるドロテは居ない。休憩時間で席を丁度、離れていたようだ。
 自意識過剰ではなくリィンとクロウをドロテが認めれば赤く染まるものが出てきても可笑しくなかったので女神の采配かもしれない。
 まだまだ、食べ盛りの男二人で貰った食べ物に関するチケットが次々に消費される。一口サイズの、ふわふわと柔らかく甘い菓子。薄くスライスされた肉と野菜のバランスがよくスパイスが効いたソースのサンドイッチ。揚げ物の中にチーズが入っていて、とろりと濃厚なチーズが味わえた食べ物。どれも、チケットを差し出せば量が増えたり、好きなトッピングがひとつ選べた。腹も満たされ心が暖まる。ちょっと食べ過ぎな気もするが美味しいのだから仕方がない。
 のんびりと歩き見つけた公園のベンチにリィンとクロウは並んで座る。親が子を呼ぶ声や別れを告げて明日の約束を交わす元気な子供達の声が、そこかしこから響く。
 日が暮れる。本来なら帰路につくべき時間だ。リィンは外泊届けを出していないから帰らなければいけない。

…………
 
 帰りたくないなと、もっとクロウと二人でいたいと素直にリィンは思った。アークスでトワに連絡をすれば十中八九、外泊許可は下りるだろう。いや、でもクロウと一緒いたいと思うのはリィンの我が儘で、クロウは帰るつもりでいるかもしれないし用だってあるかもしれない。リィンは我が儘でクロウに迷惑を掛けたくないのだ。
 気にしていないつもりだった。つもり、なだけだったらしい。普通に楽しく一日を過ごせたのに。満足するべきなのに。今日は出来るなら朝までクロウの隣にいたい。

……おら、行くぞ」
「えっ?……行くってどこに?」
「俺とリィンが泊まる場所」
 
 クロウは自信満々に、リィンが断るなんて思ってもいない顔で宣言した。
 クロウ曰く、長期滞在の旅行者や仕事の出張で、それなりに帝都に滞在しなければいけない人向け。ホテルよりは安い料金で泊まれ、こじんまりとした一戸建てを泊まった人間だけで使用出来、一泊から数ヶ月単位で都合がいいように泊まれるのが魅力だ。
 長期滞在するなら他の宿泊客や、ホテルの従業員が常に行き交うホテルでは煩わしさを感じる人も一定数存在する。キッチンもあり料理は自炊か外食。掃除も自分でしなければいけないが家具は、しっかりとしたものが揃っていて自宅のように過ごせる宿泊施設は結構な需要がある。
 クロウに連れてこられた区画は、そうした宿泊施設が建ち並んでいる場所だそうだ。隣の建物とも、それなりの距離があり建物自体も防音が施されているらしく、日も暮れた時間な為か閑静な住宅街にしか見えない。

「んで、ここが今日、俺とリィンが泊まる所な!」
 
 ガチャリと響いた鍵を開ける音を聞いても、今だに状況に追い付けず呆然とした面持ちのリィンをクロウは引きずり込むように宿泊施設に入った。鍵が閉まる。
 予めリィンの予定を調べていたクロウは明日の朝までにリーヴスに戻れば何の問題もない事を知ってリィンの外泊届けをクロウの物とまとめて提出し、受理されたようだった。

「俺がリィンを、あっさりと……かえすわけがないだろ?」
 
 リィンはクロウに腕を掴まれたまま室内を進み、ぼすりとソファに体全体を押しつけられた。見上げれば底光りするクロウの瞳が見えてゾクリと、リィンに震えが走る。恐怖からではなく歓喜で。
 愛しい相手の鼓動を感じ、抱き締めて抱き締められることの何たる僥倖。でも、人間とは欲深いもので次々と欲しいものが増えていく。
 最初は姿を見て声を聞くだけで良かったのだ。クロウに関して言えば、それが途方もない奇跡の上に成り立っているのが分かっているから。
 一度、触れて触れられてしまえば、もっと強くもっと深く、全てが欲しくなった。強欲すら生温い。
 それでも、それでもと幼い子供のように欲しがる気持ちを抑えられず手を伸ばす。それに同じように伸ばされた手が重なった幸福。
 それでいい。それがいい。俺も同じだと、応えてくれる声が心の深いところに染み渡る。心が暖かくなり、消えない熱が灯る。
 リィンは当たり前にリィンのもので、同時にクロウのもの。だからクロウだけは、リィンを好きなようにしていいのだ。本当にクロウはよく知っている。

「リィンだって、もっと俺を好きにすればいいんだよ。俺だってリィンのものなんだからな。……まぁ、こればっかりは性格の問題か」
……十分すぎる」
「俺が足りてねぇの。……もっと欲しがれ」

 明かりも点けていない薄暗い室内で、クロウの手が動く。リィンの首に巻かれた蒼いストールの隙間から、するりと忍ばせた指先が擽るようにリィンの首筋に触れる。

「っ……ぁ!」
「やっぱ、いいな」
 
 クロウの、欲を隠さない激情を孕んだ目で見下ろされてリィンの全身に熱が巡り、腹の底で沸騰する。
 眼鏡とストールは着けたままがいいな。なんて不穏な言葉がリィンの耳に確かに届いたが、全てクロウの好きなように。
 日は暮れたばかりで、夜更けはこれから。夜明けは、まだまだ遠い。
 朝日は君と。