蘇芳
2019-07-15 11:56:37
5445文字
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約束をしよう

フォロワー様の誕生日に贈ったものです。閃Ⅳ後の話。主に新Ⅶ組とクロリンです。

 
 学院の自由行動日である今日。クロウは重大な任務を言い渡された。リィン・シュバルツァーを働かせず休息を取らせ適度な息抜きをさせるようにと。
 例え依頼が無くても、どこからか問題を見つけてきて手助けから解決までしてしまうリィンを見て、これは誰かが監視をしていないと休まないだろうというのが大多数の意見だ。
 とある自由行動日に新Ⅶ組の面子で先に依頼を片付けてしまい驚くリィンを、あれやこれやと言いくるめて連れ出した。
 ルセットでパンケーキ、ぽかぽかの陽気が気持ちいいから中庭でまったりして敷物を敷いて皆で寝転んでも、いいかもしれない。リィンが好きな釣りをして釣った魚を皆で料理して食べようと考えていたのに。
 いつの間にか魔獣を退治して失せ物を探し、新しいレシピの試食をしていた。
 
 どうしてこうなった? ユウナとクルトとアルティナの頭の中は疑問符で一杯だった。アッシュは遠い目をしミュゼは苦笑する。リィンの厄介事を引き寄せる体質を甘く見すぎていたようだ。ユウナも居て困っている人を見捨てるという選択肢は最初からない。
 すまなそうな顔するリィンに、新しいレシピの料理を最初に食べられたのは、お得でした。さっぱりとしていて食べやすいです。これから暑くなりますし、もう少し酸味があってもいいかもしれません。にこにこ笑いながら、つるつると麺を美味しそうに啜っているユウナ達の姿を見てリィンに笑顔が戻る。
 それでもと食後に好きなデザートや飲み物を頼んでくれと言うリィンは、ユウナ達が先に依頼を片付けた理由を察しているんだろう。
 
 嬉しそうに半分こしようよ、アル。やら酒を頼もうとしてリィンに最早お決まりの小言を言われているアッシュなど、これはこれで楽しいのだが違う。後半は良かったが前半が、どうにかならないものか。
 これは別の手を考える必要がありそうだと、少し悔しそうな顔を覗かせたユウナ達を見て思ったミュゼは考える。
 新Ⅶ組を低く見積もったりはしないが、やはりリィンが一番に心を傾けて隣に居て欲しい相手に、お出まし頂くのがいいだろう。
 そこでミュゼは、リィンに関する事なら誰だって一番に名前を挙げる男に依頼を出した。

 ※※※

「それで俺をご指名か」
「はい。リィン教官を働かせない事に残念ながら失敗しまして、ご助力を願いました」
 
 にこやかに笑うミュゼの前には銀灰色の髪に赤いタレ目の男。クロウ・アームブラストが立っていた。
 黄昏が終息した後。オリヴァルトの下で各地に赴き情報を収集したり問題の解決を図ったりと、遊撃士のような仕事をしているのが今のクロウの現状だ。
 それなりに忙しくしているはずのクロウだったがリィンの為だという依頼に、あっさりと第二分校に出向させられたのはリィンの人徳だろう。
 依頼だろうと久々にリィンと会えると喜び勇んでリーヴスに出発したクロウを生暖かく見送った幾つかの視線は黙殺された。
 浮き足立つのは仕方がない。リィンに関する事柄で、クロウに連絡が来るのが当たり前になりつつある現状が嬉しくて堪らないのだから。

「つっても、あいつの問題の引き寄せ方は何か、もう能力みたいなもんだからな……。どっかに閉じ込めても問題の方から突撃してくるのが簡単に想像出来るぜ」
 
 それな。という空気がクロウと新Ⅶ組の間に流れる。しかし、だからと言って諦めればそこで試合は終了だ。誰が言ったかは分からないけど。

「なんなら、シュバルツァーの足腰を立たなくしてやったらどうだ?」
「お前さんね。……嬢ちゃんはキラキラした目で見ないように。しませんからね!」
 
 ニヤリと悪どい笑みを顔に乗せて宣うアッシュに呆れながら肩を竦めていると恍惚とした視線をミュゼから向けられて、クロウは即座に否定する。
 多分という声は心の内に隠す。

「それも、ひとつの手ではないですか? 自分に手伝える事があれば手伝います。! なっ、何ですか? でもリィン教官ほどの使い手を鍛練などで、そこまで追い込むのは難しいでしょうね。それに何より休息になりませんし」
……驚かせんじゃねぇぞ」
「何に驚いたんだ?」
 
 クロウとアッシュの驚愕の視線を受けながらも言葉を続けたクルトの話を最後まで聞いて、胸を撫で下ろしたクロウだったが、まだちょっとドキドキしている。
 アッシュはアッシュで例の三人組に毒されすぎているのではと頭を抱えた。
 クルトは新Ⅶ組の中でも特にリィンに似てきたので将来が楽しみで少し心配ですねとミュゼは内心で思う。

「リィン教官を疲れさせるのは本末転倒だよね」
「そうですね。教官が、お好きな温泉に行ければいいのですが。日帰りというのが難しいです」

 明日だって授業があるのだから日帰りは絶対条件だ。

「あー、そゆ事。それなら、お誂え向きな場所に人物がいるな……
 
 クロウは、ちらりとミュゼに視線を向けるが向けられたミュゼは笑顔で、ウインクをひとつした。

「帝都で受け取ってきた土産は生徒の奴ら全員で食うにしても多いと思ったんだよなぁ。……この為か」
「クロウさん?」
 
 アークスを取り出したクロウは、お誂え向きな場所で人物のローゼリアに連絡を入れる。断られる事はないだろう。なんだかんだで優しい人物でもあるし。
 何よりミュゼが厳選した帝都のスイーツや体の事を考えて作られている、スナック菓子の詰め合わせが用意されているからだ。
 当然のように是と返ってきた答えに後は、リィンを捕まえてローゼリアに転位でエリンの里に連れ帰ってもらうだけだ。

「エリンの里ですか。あそこなら温泉もありますし、問題も起こりにくいでしょう」
「そっか、転位があったね。それじゃあ、クロウさん。リィン教官の事、よろしくお願いします!」
「はっ? お前らも行くんじゃねぇの?」
「僕たちは部活動がありますので、今回は遠慮します」
 
 珍しく呆然とした表情を晒したクロウだったが、ガシガシと頭を掻き回し気を持ち直すと、何かを察したのか照れ臭そうにしながら任せとけ、と言ってリィンが居るであろう場所に向かう。
 クロウにも休んで来いという所か。
 お人好しどもが。クロウの呟きは誰にも聞かれる事なく空気にとけた。

「回りくどいんじゃねぇか?」
「そうでしょうか? ふふっ、リィン教官の特効薬が何かは分かりきった事ですからね」

 その特効薬の特効薬も。

 ※※※

 リィンの気配を感じた場所に向かうと、そこは校庭でオーレリアとリィンが戦闘を繰り広げていた。周りに何人かの生徒達が居て固唾を飲んで見守っている。
 リィン曰く、今日の依頼がオーレリアとの戦闘だったようだ。渡された依頼はオーレリアとの戦闘のみで違和感を覚える前に明日の教壇には普通に立てるだろうか。と不安が先立ったが全力で向かい合い小休止を挟んでいたとこにクロウが顔を出したらしい。
 依頼の方にも手が回っていて、どうやらオーレリアも事情を了解しているようだ。
 
 突然の意外な人物の登場にリィンが驚いていると更にローゼリアが転位で現れ、オーレリアと楽しげに幾つかの言葉を交わす。すると突然「うむ。楽しんで来るといい」とオーレリアに言い渡されたリィンが困惑しているのが分かる。
 ローゼリアが行くぞと言うと、クロウがリィンの腕を掴んで発動された転位陣の中に入った。
 困惑に拍車が掛かるリィンに、クロウが大丈夫だと声を掛けると目に見えてリィンが安堵したのが分かり、クロウの心は歓喜で満たされる。無類の信頼を寄せらる歓喜。
 訳は分からずとも「リィン教官、いってらっしゃい」という生徒の声に「いってきます?」と小首を傾げながら返事をしたリィンに思わずクロウの胸が疼いた。これは、後で頭を撫でても許されるやつでは。
 転位した先のエリンの里では歓迎されリィンとクロウは、あれよあれよという間に妖精の湯に落ち着いていた。これぞ魔法のような手際。
 黄昏の時分から何度も入った湯だが体の芯から温まり、疲れが抜けていくのが良く実感出来る。場所も相まって文字通り、浮世の垢が剥がれ落ちて身も軽くなっていそうだ。
 ほっ、とした所でリィンはクロウに説明を求める。リィンの隣に座り肩まで湯に浸かって大きく息を吐いていたクロウが苦笑しながら今までの経緯を話し出す。

「そうか、ユウナ達が。随分と気を揉ませてしまっていたみたいだな」
「いい生徒達じゃねぇの」
「あぁ!」
 
 満面の笑みを浮かべて生徒の話をするリィンは可愛らしいが、ここで一つ釘を刺す。

「その可愛い生徒達に心配を掛けるのは、どうなんだろうな?」
「うぐっ……
「悪い事じゃねぇんだが、周りを心配させるのは頂けないな? リィンが絶対に、やんなきゃいけねぇ訳じゃないんだから適度にな?」
「分かってはいるんだがな……
 
 本当に分かってはいるのだろう。ただ、目の前に困っている人がいれば、リィンは迷う事なく手を伸ばす。歯痒く思わなくもないが、それがリィンだ。 
 今は、オリヴァルトの下で忙しくしているクロウだがリィンに何かあれば、何を置いても駆けつける事を決めている。
 リィンはリィンらしく真っ直ぐに進んで行けばいい。

「まっ、だから当分は自由行動日に約束させられるだろうから覚悟しとけよ? 一番手は僭越ながら俺だ」
「約束……?」
「そっ、先に約束事があれば、流石にお前も働き詰めにはなんねぇだろ?」
 
 これも新Ⅶ組の発案で旧Ⅶ組や色んな面子に連絡を回して都合のいい日に、リィンの自由行動日を先に予約してしまおうと。勿論、リィンの都合も考えて。

「次の自由行動日は一緒に行こうぜ。……ジュライの海は綺麗だぞ」
……一緒に行ってもいいのか?」
「とーぜんだろ」
「約束だな?」
「あぁ、約束だ」
 
 約束という、それだけの言葉で重くもあるものに、リィンの顔は嬉しそうに綻ぶ。クロウも未来に向けての約束が何の憂いもなく出来る事を嬉しく思う。
 これからは何度でも約束が出来る。それを守って続けて行こう。

「スタークとの約束は今度になるな。先にリィンと二人で行きたいんだ。あいつなら許してくれるだろ」
 
 むしろ先にリィンと二人で行っていなければ呆れた視線の一つや二つもらうかもしれない。何事も最初が肝心なのにクロウ兄ちゃんって案外ヘタレなんだね。という言葉を頂戴する気がする。

「そうだな。スタークには後で謝ろう。スタークは良く気が回るし手際も良くて、分校でも頼りになる存在なんだ。ふふっ、格好いい生徒で弟分だな?」 
………………
 
 弟分を褒められて悪い気はしないが、クロウの心境は複雑だ。いや、ここは正直に言おう。いくらリィンの生徒でクロウの弟分とはいえ恋人、しかも久々に会った。の前で他の男を褒めて格好いいとまで言うなんて、いい度胸だ。覚悟は出来てるな、リィン。
 クロウの顔を見たリィンは、びくりと一瞬体を震わせるとクロウと距離を取ろうとしたが遅い。
 隣り合って湯に浸かっていたのだから、クロウが腕を伸ばしてリィンを捕らえる方が断然早く、あっさりとリィンの腰にクロウの腕が回り引き寄せられた。

「んぅっ!……ぁん!」

 裸の胸が密着する。クロウは固く引き結ばれたリィンの唇を、ねっとりと舐め項に手を這わせた。瞬間、薄く開いた唇を見逃さず、舌を捩じ込む。温泉で上がった体温分、熱くなった舌がリィンの口腔を蹂躙する。
 歯列をなぞり上顎を舐め舌の付け根を擽り、逃げを打つ舌を押さえつけて強く吸う。くちゅくちゅと態と音を派手に立てながら舌を絡め捕ると、リィンの顔が一気に赤く染まった。
 
「っん!……クロゥ、クロウ! ここっ外だぞ。いつ人が来るか分か……んなぃ」
「ククッ、大丈夫だって。問題ねぇよ」

 転位で明日の朝にリーヴスに送られる手筈になっているので今夜は、エリンの里に泊まる事になっている。
 どうにかして転位を覚えられないものかと、クロウは考えるが難しいだろうか。ジークフリードの時に転位をしてた? あれはノーカンだ。
 クロウはローゼリアにリィンとクロウが泊まる部屋に転位出来る鍵を渡されている。今、この鍵を使えるのはクロウだけだ。だから安心しろと言うとリィンの体から力が抜け息を乱しながら、クロウの胸に寄り掛かるようにして縋り付く。

「色んな用途が考えられんだが、こんな物があるなんて流石は魔女の里だな」
「なっ、何でそんなもの……っ!」
「想像の通りだと思うぜ? あのナリだがロゼは八百歳越えだぞ。そもそも小っせぇのは本来の姿じゃねぇらしいしな」
 
 愕然とした表情をしながら顔を赤くするという器用なリィンを見ながらクロウは、リィンの腰に手を這わせ耳元に口を寄せ囁く。

「悪いな。ゆっくり、寝かせてはやれねぇが。──満足はさせてやるよ」
 
 普段に比べ低く少し掠れて、どろどろに煮詰めた蜜のように甘い声をリィンの耳に注ぐ。

「ぁ!……っん」
「うまそう」
 
 目の前の赤く色づいたリィンの唇を貪る。
 結局こういう事になるんだが、リィンは働かせないし誠心誠意尽くさせて貰おう。
 溶かして蕩けさせてクロウ以外の全てをリィンから追い出して。