蘇芳
2019-01-21 19:15:51
5398文字
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パイロープ・ガーネット

閃の軌跡。閃Ⅳ後の話でリィンとマクバーン。結構仲がいい感じで、だれおま状態?です。何でもバッチこーいな方よろしくお願いします。

 

「よう、シュバルツァー遊びに来てやったぞ」
マクバーン」
 
 ここは分校の小要塞の最奥だ。気配を感じて向かってみれば何故だが最近見馴れてしまった顔が当たり前ように佇んでいた。
 リィンは最近の出来事を振り返る。黄昏を越えて帝国が一定の落ち着きを取り戻し分校が再稼働した頃、小要塞の点検を兼ねた見回りで最奥に辿り着いた直後、計ったようなタイミングで炎の転位陣の中からマクバーンが現れた。
 
! マクバーン!」
「まぁ、そういきり立つなシュバルツァー。ちょっくら遊びに来ただけだからよ」
「あっ、遊び?」
「あぁ、遊びに」
 
 カラリとした笑みを浮かべた相手に警戒心が一段上がる。幻想機動要塞での戦いの後、どうやら無くしていた記憶を取り戻しこちらに力を貸してくれたが、それでも相手は結社の執行者なのだ。
 それに、マクバーンにとっての遊びだなんて嫌な予感しかしない。気を抜かず太刀に掛けた手を離さない。
 
おっ、そうだ。俺は今、結社から距離を置いている」
は?」
「色々と思う所があってな。まぁ、執行者は行動の自由を認められているから構わねーだろ」
「はっ?ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「世界を見て回ってる途中で、おもしれぇ魔物も時には居るが、やっぱり対人戦には遠く及ばねぇしな」
 
 ざわりとマクバーンから闘気が溢れ出る。記憶を取り戻した影響か以前と違って暗さはなく神々しいまでの苛烈な焔の気配。
 
「だから、ちょっくら遊んでくれや。剣聖」
 
 リィンは息を飲む。目の前には人の身では到達する事など不可能ではないかと思わせる魔人。リィンの武人としての性が歓喜する。自分にとって高みに至る為のこれ以上ない相手ではないかと。 
 
本来なら誰かに連絡をするべきなんだろう。貴方から悪意を感じなくても、嘘を言うとは思わないが結社から離れたと言われても根拠がないし、離れただけでまだ執行者である事に変わりはないんだろう?」 
「そうだな」
……ははっ、それでも誰かに連絡する気がないのが不思議だ。剣聖の名を戴いたばかりで、俺はまだまだ精進する身の上だ。だからこそ貴方の遊びに全身全霊でもって応えさせてもらおう」 
 
 真っ直ぐ向けられる強い輝きを内包する眼差しは悪くない。それどころか、マクバーンの闘争本能をいたく刺激する。
 
「上等だ。いい目じゃねぇか」
 
 そうして始まった魔人と剣聖の戦いは苛烈を極め小要塞の稼働が一週間遅れる事になった。 
 シュミット博士に、どんなお小言を貰うかと思っていたら「いいデータが取れた」と言われリィンは後々の事を思って戦慄した。
 
……ふぅ、分校長に報告しなくちゃな」
 
 
 
 それ一回きりかと思えばマクバーンは、ちょくちょくリィンの前に姿を現すようになった。現すと言っても小要塞の奥に転位で来てリィンにだけ分かるよう器用に気配を飛ばし今のようにリィンが来るのを小要塞の奥で待っている。
 
「暇なのか?」
「開口一番がそれかよ。だんだん遠慮がなくなってきたな」
「なんかもう今さらじゃないか?」
 
 そう言って苦笑するリィンは自然体だ。未来の事は分からないが今の時点でマクバーンが敵ではないと、すっかり自身の懐に入れてしまっている。
 
「そうだ。実は今日は来ると思って前に悪くないって言っていた、お茶と軽食を用意しておいたんだ。よかったらどうだ?」 
あー、来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「?来ただろ?まぁ、来なかったら自分で食べるさ」
……貰う」
 
 そういうところだぞ、リィン・シュバルツァー。
 どかりと地面に直接座りこんだマクバーンの近くにリィンも座りバスケットからポットとマグカップを取り出し丁寧な仕草で中身を注ぐ。こういう所を見るとこいつも貴族だったなと思う。
 
「食べ終わったら当然、遊ぶんだろ?」
「あぁ、遊んでやるよ」
 
 2人の間では、すっかり戦闘が遊ぶという表現で定着してしまった。少し子供っぽく笑うリィンは童顔も相まっていけない事を教えているように感じる時がある。まぁ、それはそれである意味楽しい。
 
 それにしても甲斐甲斐しすぎないか?両手で差し出されたカップの中身は熱くもなくぬるくもなく適温だ。バスケットの蓋を完全に開き中からサンドイッチなどの軽食も取れるように丁度いい位置に置く。
 面倒だから腹が減ったら適当に魔物の肉なんかを焼いて食っていると、うっかり漏らしたのがリィンの何かに火をつけたらしい。
 だが、丁度いいのでこれを利用する事にした。
 軽食の礼として世界を回って手に入れた珍しい茶や菓子、魔物からぶん取ったクオーツや装備アクセサリーをマクバーンはリィンに渡すようになった。
 最初に渡した時は零れ落ちるんじゃないかと思うくらい目を見開いて驚いていた。
 
「えっ? これマクバーンが?」 
「なんだ、俺が礼をするのがそんなに可笑しいのか?」
「あぁはっ、いや! そんな事ないぞ! ありがとう」
「本音が隠せてねぇぞ」
ははっすまない
 
 そんな普通なやり取りを自分がしている事にマクバーンは妙な心地を覚えるが悪くないと思っている時点でリィンを本当に気に入っているんだろう。
 結社の執行者No.1火焔魔人、異界の住人だという事を分かっていて身構える事なく普通に接してくるリィンの隣にいるのはおもしろい。
 そもそもマクバーンがリィンの前に顔を出すようになったのはクロウが切っ掛けだ。
 めでたく生き返ったという事で、わざわざ会いに行ってみれば情けない面を晒していたので生き返った記念に話を聞いてやる事にした。
 
 つまり愚痴なんだかノロケなんだか分からない話しを要約すると、リィンが好きすぎてどう接すればいいか分からないと。馬鹿か?
 帝国を見て回って情報を直接集めてくれないか?というあの放蕩皇子の頼みに、これ幸いと2つ返事で了承し今は帝国全土を回っている最中で定期的にリーヴスに寄る時にしかリィンと話さないと。もう一度言うが馬鹿か?
 うぜぇ、心底うぜぇ。あの、クロウ・アームブラストともあろう者がこれか。
 敵対していたマクバーンですらリィン・シュバルツァーのモテ具合が分かるというのにクロウがこれでは勝てる勝負も勝てない。
 クロウとリィンの様子を見るに一種の膠着状態に陥っているのだろう。互いが互いに生きているという事実だけで満足している節がある。この2人が想い合っている事は一部の人間からすればバレバレなのに肝心の2人が分かっていないという周囲ばかりが、やきもきする状態が出来上がっている。
 マクバーンはクロウ・アームブラストもリィン・シュバルツァーも気に入っている。この時のマクバーンはクロウという友人が明日に進める事を嬉しく思っていたんだろう。柄にもなくお節介を焼いてみようと考え即行動に移った。
 それが、今の現状に繋がる。
 
?俺の顔に何かついてるのか?」
「いや」
「そうか?それにしても俺は運がいい。どんな気紛れでもマクバーンみたいな強者とこうも頻繁に手合わせ出来るなんてな。俺にとってはありがたい事だふふっ、ありがとう」
 
 そう言って真っ直ぐな視線と言葉を送るリィンにマクバーンはむず痒さを覚える。
 最初はリィンに、ちょっかいを出してクロウを動かすつもりだった。ついでに自分の欲も満たそうと戦闘を仕掛けてみたが、これが中々おもしろい。それから、ずるずると会いに来てしまっている。
 それと、リィンを動かす事については「クロウは元気に各地を飛び回っているぞ」と、慈愛に満ちた微笑みで言われて色々と察した。こっちの根は深い。
 
 当初の目的は長期戦に変更した。礼と言って渡す物を態々、同じ入れ物に入れて渡している。そうする事で分校やリーヴスの町中でひとつの噂話が持ち上がった。
 曰く、あのリィン教官が同じ人物からの贈り物を遠慮せずに受け取っていると。ついに恋人が出来たのか?誰だ!?旧Ⅶ組の人間の耳にも入り、そろそろ全員がリィンに突撃してきそうだ。
 本人と何故かクロウの耳には入っていないが水面下で爆発的に広がり、この人物を特定しようと情報交換が頻繁に行われているが今だに特定には至っていない。こんな密会じみた会いかたをしていれば当然の事だろう。
 
「おい、シュバルツァー。土産だ」
「えっ?……イヤリングか?」
「あぁ、そのついてる石の産地で手に入れた物だ」
それを着ければいいのか?どんな企みがあるのかは分からないが生徒や町の人達に害はないんだよな?」
「ハハッ、流石に分かるか。害はないと思うぞ。ただの装飾品だしな。まぁ、精神的に疲れる奴がいるかもしれねぇが、大半はおもしろがるんじゃねぇの?」
 
 紫水晶の瞳がマクバーンの瞳を覗きこむ。この目がいけない。
 マクバーンはイヤリングを受け取ろうとしたリィンを制し自らの手でリィンの左耳にイヤリングを着けた。伸ばされた腕に一瞬ピクリと反応したが意図を察した後は大人しくイヤリングをマクバーンに着けさせる。
 リィンは本当に甘い。甘いが嫌いじゃないと思う時点で随分と毒されているんだろうとマクバーンは笑う。
 
っ!それにしても何でイヤリングなんだ?こういう物は俺には似合わないと思うんだが
「そんな事ねぇぞ。想像したよりずっといいな」
「驚いたマクバーンでも、お世辞を言うんだな」
「お前、本当に遠慮がなくなったな」
 
 心の底から、お世辞だと思っているんだろう。クスクス笑いながらリィンは呆れた目でマクバーンを見る。笑った事による振動でリィンの左耳で揺れるシンプルな赤い石のイヤリング。悪くない、本当に。
 これを見て何の行動も起こさないようなら。
 
 俺が貰っていっちまってもいいって事だろ?なぁ、クロウ?
 
ところで、これはどういう石なんだ?」
「あー、確かパイロープ・ガーネットだったか」
「パイロープ?ガーネット!本物の宝石なのかイミテーションじゃなく?そんな高価なもの!」
「おっと、外したら燃やすぞ?」
~っ!分かった。これは預かっておくことにする」
「まぁ、今はそれでいいか」
「今は!?」
 
 
 

 
「リィン教官」
 
 呼ばれて振り返るとシャラリと音を立てて左耳のイヤリングが揺れる。そこには寮に帰る途中らしい新Ⅶ組の全員がいた。
 
「おっと、こりゃあ
「あら、まぁ」 
「リィン教官そのイヤリングは?」
 
 リィンの左耳で存在を主張しているのは細いシルバーの鎖の先に楕円形の赤い石がついたシンプルなイヤリングだった。
 
「あぁ、これか?これは貰い物で俺にこういうのは似合わないとは言ったんだが
「そんな事ないですよ!そのイヤリング、リィン教官にとても似合ってます」
「はい、とてもいいと思います」
「似合っていますよ。教官」
そうか?ありがとう」

 照れて微笑むリィンにわいわいと話しかけるユウナ、アルティナにクルトという光景は大変心穏やかになるが。
 問題はそこじゃないと、ミュゼとアッシュは思った。あの知り合い全員に朴念仁と言わしめるリィンに装飾品を贈り尚且つ身に付けさせるという快挙を成し遂げた人物は一体誰だ。おそらくは、あの噂に聞く誰かなのだろう。
 ミュゼの中でヘタレ化が著しいクロウが即座に除外された。リィンに少しでも関わりのある色々な人の顔が浮かんでは消え浮かんでは消えていく。そんなミュゼの目にイヤリングの赤い石が写りこむ。そして頭に過ったのは炎。
 
(………おもしろそうな事になってきましたね。乙女の嗜み的に)
 
 おそらくリィンは意図してイヤリングを贈られた相手を言っていない。受け取っている事からそれほど問題はないのだろうが、いい予感はしない。
 前を歩く3人は、似合わないという自己否定的な発言に気をとられてイヤリングを贈った人物なんて気にもしていないようだ。
 
あー、そういやぁ今日、アームブラストパイセンが来るんじゃなかったか?」
「ん?あぁ、そうだな。各地を見て回って得た情報を分校長に伝えに来るのが今日だ」
 
 にこやかに答えるリィンを見やれば、どうしたってイヤリングが目に入る。
 クロウに用事か?と問うリィンに適当な返事をしてアッシュは晴れ渡る夕焼け空を眺めた。
 
「こりゃあ、嵐が来るな
 
 
 
 
 
 
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 パイロープ・ガーネット
 パイロープとは、「火のような、燃え立つような」を意味するギリシャ語の形容詞。
 石言葉
 友愛 真実 勝利 燃える愛 チームワーク フレンドシップ
 
 分校長は気づいてるし、ちゃんとリィンから改めてマクバーンの事の報告を貰ってる。
 そして「なんだシュバルツァー。今日も逢い引きか?」という爆弾を今か今かと放つ準備をしてる。
 
 マクバーンはリィンを連れていけば退屈しなさそうだと思ってるけど今後がどうなるかはクロウの行動によるぞ!