蘇芳
2018-12-25 18:33:10
3871文字
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これからも幸福な日々を

閃Ⅳ後クロウが分校の生徒やってます。リィンとクロウと新Ⅶ組でわちゃわちゃ。一応クリスマスの記念に、クリスマスは雰囲気で。根底はクロリンです。


 分校長の鶴の一声で黄昏の後始末が続く中、聖夜にリーヴスの町の人達も招待したパーティーを開く事になった。
 ミハイル教官は額に手を当て盛大なため息を吐いていたが、その口から否やの声は上がらなかった。リィンとトワは顔を見合せ、これから大変だろうが生徒達の息抜きにもなるし何より、きっと楽しい一時になるだろうと嬉しげに微笑んだ。
 そうと決まれば行動は早い方がいい。生徒達に連絡し料理部を中心とした有志達で聖夜に振る舞う料理を決めていく。ケーキは必須だか何ホール作るか種類はチキンも絶対だぞ、他の軽食はどうしようか。わいわいと楽しそうに意見を出し合う。料理に手が出せない面々は材料の買い出しや部屋の飾り付けを率先して行っていた。
 
 そうして前日に滞りなく準備を終わらせたパーティーでは定番の生クリームたっぷりな赤い苺が鮮やかなケーキからチョコやフルーツタルト甘さが控えめなチーズケーキ、ふわふわのシフォンケーキなどが用意されている。
 軽食は食べやすいサンドイッチが中心でさまざまな具があり、どれを食べようか迷うくらいだ。切り分けられたローストチキンの香ばしい匂いは食欲を誘う。いくつかの皿に山盛りになっている唐揚げはご愛嬌だろう。
 
「リィン教官!どうですか?料理はお口に合いましたか?」
「あぁ、ユウナ。おいしく頂いているよ、この卵のサンドイッチ美味しいな。急な事なのに随分と頑張ってくれたみたいで、ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして。久しぶりに皆で料理が出来て楽しかったですし、分校や町の人達がおいしそうに食べてくれるだけで作った私達も嬉しいです」
 
 にこにこと少し得意気に笑うユウナの頭をリィンが撫でる。優しい慈しみが滲んだ表情を見てユウナは頬を赤く染める。
 
「~っ!まったく、この教官は(ちょっと期待したけど)」
「あっ、すまない。嫌だったか?つい撫でてしまったが俺もこの癖を治さないと
「嫌じゃないです!ちょっと驚いただけです!」
「そっ、そうか?それなら良かった」
 
 本当に幸せだとリィンは思う。黄昏の時は考えもしなかった事だ。一人一人が懸命に足掻き前に進んで往き自分はその最後の手助けが出来れば、それでいいと思っていた。今は誰もが楽しそうに笑っている、この光景の中に自分がアイツがいる事の幸運を噛み締める。
 
「リィンきょーかん。頼みがあんだけどよ」
「却下だ」
「まだ、何も言ってないんですけど!」
 
 肩に腕を回してのし掛かってきた銀灰色の髪に紅色の目の分校の青い制服を着たクロウという名の年上の教え子は大袈裟な動きで嘆いてみせる。
 
「どうせ、お酒の事だろう?」
「それだよ。あの分校長が用意した酒だぞ!見てみたら、そうそうお目にかかれないような銘柄ばっかで、よっしゃーって飲もうと思ったら誰もくれないうえに自分で注ごうとしたら取り上げられてさ。理由を聞いたらリィン教官が俺に酒を渡すなって言って回ったみてーじゃねーか、何で!」
「今現在のクロウの身分が学生だから」
「簡潔明瞭!なぁ、成人してるんだから少しくらい多目にみてくれてもいいじゃねーか?なっ、頼むから~、リィンきょーかん、なぁ、なぁ?」
「猫なで声を出すな!他に示しがつかないから駄目だ。アッシュは絶叫に駄目だからな」
ちっ」
 
 いつの間にか近くに来ていたアッシュが舌打ちをする。クロウが飲めばおこぼれに与るか、クロウを出しに使って何とか自分も飲もうという算段だったのだろう。アッシュの隣にいるクルトは何時もと同じ事に苦笑している。
 
「そんなに飲みたい物なのか?」
「決まってんじゃねーか!そんなに高くねー酒だが分校長が選ぶだけあって一級品か珍品ばっかで今飲まなくていつ飲むんだよ」
「おー!流石はラクウェル育ち、よく分かってんな」
 
 クロウとアッシュの二人でどうすれば酒が飲めるかと話し合っているが聞こえてるからな?それに何より、こういった場において最強である執事のセレスタンさんを出し抜けるものなら出し抜いてみるといい。
 
「リィン教官。教官が探していたお酒はこちらではありませんか?」
「あぁ、アルティナにミュゼ。わざわざありがとう。まさか、本当にあるとは分校長の事たがら分かっていて取り寄せたんだろうな。うん、これは買い取らせてもらおう」
「その事ですが、分校長がここにあるお酒は自由にしていいと仰っていましたし、まだそのお酒は数本ありますのでリィン教官がお持ちになっても問題がないそうです」
「んそうか、しかしいや何か言うのは無粋か。有り難く頂く事にしよう。後でお礼を言わなくちゃな」
「おい、シュバルツァー。俺達には禁酒させといて自分はボトルキープとかいいご身分だな」
 
 リィンの回を新Ⅶ組のメンバーが取り囲む。アルティナがリィンに頭を向ければ心得たとばかりにリィンが撫でる。気持ち良さそうに受け入れているアルティナを少し羨ましそうに見ていたミュゼを、こういう時ばかり察しがいいリィンが何事か言いながらミュゼの頭を撫でる。年相応に照れながら笑うミュゼを見る事が出来るのは、このⅦ組という空間の中だけだろう。
 アッシュがクルトの背を叩き前に出すと、こちらも心得たリィンがクルトの頭を撫でる。気恥ずかしさもあるが、それ以上に嬉しそうな表情だ。
 ユウナとクルトが左右からアッシュの腕を掴み、リィンに差し出す。上手い具合に固められているらしくアッシュは動くことが出来ずリィンはユウナに言われるがままアッシュの事も撫で始める。声なき声を上げ耳まで真っ赤に染まった何だかんだと満更でもなさそうな珍しいアッシュを見れて新Ⅶ組は満足そうだ。
 そんな光景をクロウは眩しげに見つめる。
 それを見たユウナ達はニヤリと笑い一斉にクロウに群がり両腕を掴み背中を押し取り囲んで歩ませる。
 
「ちょっ、おい何だよ?」
「何をぼうと見ているのですか」
「そうですよ!クロウさんだって今はリィン教官の教え子なんですから」
「とってもおいしい光景が見られそうで私、楽しみです」
「こうなったらパイセンも道連れだよなぁ」
「ははっ、そういう事ですので覚悟してください」
!お前ら、まさかっ」
 
 クロウが本気で抵抗すれば振りほどくのは簡単だが、その場合ユウナ達に怪我をさせる可能性が高い。その事を一番理解しているミュゼがまた絶妙な位置取りで歩くものだから始末が悪い。
 五人がかりでクロウをリィンの前に引きずり出す。
 
「さぁ、リィン教官!やっちゃってください」
「待て!これは一体何の羞恥プレイだ!!」
「まっ、諦めろや」
 
 きょとんとした顔したリィンは次に満面の笑みを浮かべてクロウの頭を撫でる。

「いつも、ありがとうクロウ。お疲れさま」
「~っ!」
 
 その声音があまりにも愛しさに溢れていて、その手があまりにも優しく触れるものだから。じわじわとクロウの頬に朱が注がれる。
 にこにこと何も言わなければいつまでも撫で続けていそうなリィンを振りほどく。
 
「だーっ!頭を撫でるのは俺の方だろうが」
「うわっ、何するんだクロウ!」
「黙って頭を差し出してろ」
「何だそれっ!」
 
 わしゃわしゃと力任せに見えるが全くそんな事がない力加減でクロウがリィンを撫でる。リィンを見れば口ではやめろと言いながらも手を叩き落とそうとしないし目が嬉しそうに懐かしいものを見たように細められる。
 その目の奥に学生だった頃の自分達を見た気がした。何ものにも代え難い大切な時だった。
 最後にぽんぽんと二度ほど撫で頭から手を離す。
 
「まったく、髪がぼさぼさになったじゃないか」
「わりーわりー」
 
 ユウナ達を見れば素直なユウナとクルトは楽しそうに笑っているがアッシュはニヤニヤしていて、ミュゼはドロテ先輩にお話をと呟いている。ドロテは頼むからやめろください。アルティナが此方に向けていた黒うさぎのトイカメラは後で確認しなくてはと心に強く留め置く。
 
「あっ、ゼシカ達が呼んでるので私は失礼します」
 
 ユウナの言葉を皮切りに、クルト達もそれぞれの部活仲間や友人が居る方に散ってゆく。
 
「これ以上、お邪魔するのも申し訳ないので私も失礼させて頂きますね。それでは、良い夜を」
お前さんね」
「ふふっ」
 
 ミュゼがスカートの裾を摘まみ完璧な淑女の礼をして去ってゆく。
 
「だ、そうだが?」
「もう、ミュゼに関しては諦めている
「あの、嬢ちゃんだと相手が悪いな」
「はぁ
 
 深く息を吐き出して切り替えリィンは先程アルティナに持ってきてもらっていた酒瓶をクロウの目に入るように持ち上げる。
 
「これはユミルの地酒なんだが、クロウが卒業したら一緒に飲もうと思ってな」
卒業したら?ちょっと待て今の感じだと、これから飲む流れだろ!」
「は?教官である俺が生徒の飲酒を許すどころか進めるとか、ありえると本気で思っているのか?」
「思いません」
お酒は飲ませないが、ユミルから届いた茶葉があるんだ。よかったらパーティーの後、俺の部屋で飲まないか?」
 
 だんだんと小さく、しりすぼみになっていく言葉を一字一句聞き逃すことなく、その瞳に甘さと少しの熱を灯してクロウが答える。
 
「もちろん、俺が 恋人 リィン のお誘いを断るはずないだろ」