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えぬを
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Happily ever after
rsmv_20240407公開
喪ってから気づいてばかりの不器用マヴ。
目出たし愛でたし。
ふと気がつけば、靄の中に立っていた。
ふらりと一歩、二歩と歩み出す。
以前、似たような雰囲気の場所に来たことがあるな、と、マーヴェリックは他人事のように考えた。
あれは数年前、いや、数十年前だったかもしれない。記憶ももはや曖昧だ。
風景から朧げな記憶を辿れば、なぜ今ここにいるのかを思い出した。
衝撃ーー重力に従って機体ごと墜ちる感覚ーー即時の判断で引いた脱出レバーは、結局間に合わなかったということなのだろうか。
今、自分がここにいるということはそうなのだろう、記憶の彼方、いや、数年前だ。
あの雪山に墜ちて、一瞬だけここに来た時は、確か旧い友人二人に尻を蹴り上げられて、崖から落ちてーーそうして目が覚めて、ブラッドリーに救われた。
靄の先の道を進めば、今のブラッドリーよりも幾分年を取ったブラッドリーがそこにいた。
気づけば足下の道は二股に分かれていた。
右側には、年を重ねたブラッドリーがにこやかに笑って立ってる。腕には顔の見えない子供を抱いて。その隣には、髪の長い、顔の見えない女性が寄り添っている。
「やぁ、マーヴ、あんたの理想の俺だよ。あと数十年すれば『こう』なる、あんたが俺に説いた『幸せの先』の俺だ。なぁ、マーヴ、こっちにおいでよ。こっちに来れば、あんたの悩みも解決するし、俺の子供を孫のように慈しんで心穏やかに暮らせるよ」
ブラッドリーの甘言が耳にとろりと流し込まれる。
幸せだろう。幸せそのものだ。それこそマーヴェリックが恋焦がれた完璧な家族の形をブラッドリーが歩み、それを近くで見守れるなんて。
マーヴェリックはそうして右の道から視線を左へと移した。
そこには一人歩くブラッドリーの背が見える。
「ブラッドリー」
背を向けて道を歩くブラッドリーは、振り向かない。そのまま靄に揺らいで消えそうな背に、マーヴェリックは思わず手を伸ばそうとして躊躇う。
ブラッドリーの背を追う資格が自分にはない。
「マーヴ、こっちに来るよね?あんたへのプロポーズを断り続けられた結果の俺だもん。あんたの望む完璧な理想のブラッドリーだ」
右のブラッドリーは、子供と寄り添うパートナーを愛おしげに見つめて笑った。
とてつもない幸福の象徴がそこに在った。
マーヴェリックはそれを見て、涙が溢れた。
なんて幸せで、そして美しく、残酷で、それでいてなお愛おしい世界だろうか。
それでも。
「
……
君が隣にいる当たり前を、死ななきゃ理解しないなんて僕は大馬鹿だ」
滂沱の涙を流しながら、マーヴェリックは右のブラッドリーから視線を逸らした。左の道を歩む、あの一人の背中を追いかけなければ。
それが間に合うのならば。
「相変わらずだ。失くしてから気づくんだよな、あんたは。知ってるよ、分かってるよ」
右のブラッドリーと、子供と、パートナーの姿が靄に飲み込まれていく。小さくつぶやくような声だけが右の道から細く聞こえた。
「だから早く起きて」
蜃気楼のように右の道が消えた。
マーヴェリックは泣きながら左の道に踏み出し、やがて全力で駆け出した。
あと少し、もう少しで、一人先を歩くブラッドリーの背に手が届くーー寸前で、道が崩れた。
マーヴェリックは深く暗い奈落へと落ちていった。
「
……
断り続けたプロポーズは、まだ有効か
……
?」
「
……
目覚めの第一声がそれかよ。頭でも打った?」
病室のベッドの横、ブラッドリーから痛烈な皮肉が返ってくる。
マーヴェリックが意識不明の状態から目覚めたと聞いて駆けつけたブラッドリーは、やっと話せるようになった包帯だらけのマーヴェリックの第一声を聞いて、怒りと呆れと安堵で涙を流しながら皮肉った。
「生死の境彷徨った挙句の妄言とか、あとで言い訳すんなよ」
唇を引き結んで、記憶の靄の中から聞こえた声と同じように、細い声でブラッドリーがつぶやいた。
「どんだけ断られたと思ってんの。
……
あんたから言ってくれなきゃOKしない」
マーヴェリックが笑う。肋骨に響いたのか、わずか顔を歪めて、それでも絞り出すようにブラッドリーに告げた。
「
……
結婚しよう、ブラッドリー。君の永遠を僕にくれ」
「
……
もうとっくにあんたのだよ」
少し血の気の失せた指の先の爪をあたためるように、ブラッドリーは返事と共にマーヴェリックの手を強く握った。
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