涼華
2024-10-20 14:03:38
3826文字
Public 実装前幻覚
 

しんじるものは

ダングレ未満、実装前の狂気その4、7章中ネタバレあり、血鬼の親子の支配を信仰心でねじ伏せる血鬼おじ

 細い針が普段手袋で覆われている白い指先を突き刺すとぷくりと赤い滴が傷口から染み出してくる。獣のように浅ましくよだれを垂らしながらぎらぎら目を輝かせる己の姿がその小さく美しい滴に移っているような気がして空腹の前に自己嫌悪で頭がおかしくなりそうだった。
〈沢山飲んだら胃がびっくりするだろうから少しずつね〉
……、ぅ………あ」
 時計頭の同居人はそう言ってカチリと針を鳴らして笑う。血のにおいがする。暖かくて美味しい、血のにおいがする。今これを飲まなければ、無駄になる。もったいない。だから、仕方ない。そんな言い訳をして遠慮がちに舌を這わせた。

 共存は終わりなき忍耐から始まるものだ。あの方の言葉に従って血を飲むのをやめ、弱い人間を傷つけないように牙を折り、爪を剥いだ。痛くてつらくてくるしくて死にたくなって、それでもあの方の言葉と理想を信じて我慢して、我慢し続けて。ずっと我慢してずっとずっと我慢して。我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して──────
 そうして何百年と過ごした末にようやく与えられたのは人間たちの悪意と、このひとからの慈悲だった。

「美味しい?」
〈ぅ………ん、……おい、し…………んちゅ、おい、し……………
 与えられたのはほんの僅かな一雫。けれど飢えた身体には充分なご馳走だ。口の中には至高の味が広がっていく。残さず舐めとりだらだらとあふれそうになる唾液と一緒に飲み込んだ後もちうちうと塞がりかけた傷口に吸いつきひとかけらも残さず飲み尽くす。与えられた慈悲を残さず味わい尽くす。
 長く永く飢え続けたのでこれっぽっちの血で弱った身体を到底満たしきれはしない。けれど弱り切った身体はそもそも大量に血を飲んでも消化しきることすら出来ない。今は少量の血を定期的に飲み、少しずつ身体を慣らしながら飲める血の量を増やしている最中だ。
 もっと飲みたい、血を吸い尽くしたい。そんな願いがないわけではないけれど、恩があるこのひとを殺したくはない。名残り惜しくてまあるく削った牙を何度か当てたけれど諦めて唇をそっと指先から離した。
〈おかわりはいる?〉
「んんいら、な………ごちそ……さま
〈御粗末様でした〉
 共存のためには終わりなき忍耐を。王国を無理矢理連れ出された後もあの方の眷属である俺は支配されたまま。空腹は満たされほう、とため息を吐いたのも束の間、代わりに与えられた命令を破ったことへの不快感と罪悪感と金槌で殴られるような頭痛が遅れてやってきた。

 吸血は罪だ。人間との共存のためには許されざる行為だ。血鬼は飢え、衰えるがすぐに死ぬわけではない。血液バーなんて代用食だって生まれた。だから人間と共存するには血を断つべきだ。血で満たされずとも、幸福になれずともきっと幸福な人間達と暮らせば我等も満たされるはずだ。あの方は、我らの王はそう言った。
 けれども今の俺は他でもない人間 このひとに吸血をゆるされ血を与えられている。弱った身体を癒しながら細々とした家事を手伝って暮らしている。
 人間を大きく損なうでもなく、かと言って血鬼が飢え過ぎるでもなく共に暮らしている。与えられた分の恩を返して共に生活しているのだ。それはあの方が課した一方的な忍耐よりもずっと人間との共存と呼ぶに相応しいものなのではないか?
「っう、ぐあ゛………っい、た……い゛だ、ぃ゛!」
 家族への疑心と反抗を咎めるように頭が痛むし吐き気がする。言いつけを破ったことを咎め、飲んだ血を吐き出せと言われているようだ。
 いくらあの方の命令でもそれだけは譲れない。この血は俺のものだ。俺が貰ったもの、俺だけのもの。俺だけが哀れまれ、俺だけが慈しまれ、そして俺だけに与えられたもの。がんがんと殴りつけられるような頭痛に耐えようと目をぎゅっと強く閉じる。今は何も見たくないし、聴きたくない。
「ぃた、い゛っ、う……………おぇ゛
「大丈夫、大丈夫だよ、グレゴール」
………う゛ぁ、あ゛」
 吐き気に口を押さえて蹲る俺を人間が、俺を唯一助けてくれたひとが守るように抱きしめてくれる。このひとに抱きしめられていると自然と痛みが楽になる。前は頭が割れるような頭痛と内臓をひっくり返されるような吐き気に耐えきれず貰った血を吐いてしまったしその後何日も寝込んでいたけれど、今はそれほど長引かないし痛みも随分とマシになった。抱きしめられて体温を感じていれば痛みに強張り冷えた身体もゆっくりと温度を取り戻していく。

 もうすぐ終わる、楽になると自分に言いきかせながら浅い息を繰り返して痛みに耐える。身体を支えるのを諦めてくたりと身を預けてしまえば機械の頭と生身の胴体を繋ぐ細い首が視界に映る。獲物が目の前、手の届く場所にいるというのにそこに噛みつき血を啜ろうという意欲はわかず、今はただぬくもりを味わっていたくて肩口に鼻を埋めた。
〈少しは楽になったかい?〉
………ああ、かなり楽になったよ」
〈それはよかった。君がお腹いっぱいになるような量を用意してあげることは出来ないけど、私の血がほんの少しでも君の糧になれたなら嬉しいよ〉
……う、ん」
 段々と弱まる頭痛と吐き気。代わりに生まれるのは他の誰のものでもない、俺だけの唯一を見つけた満足感とそれを独り占め出来る優越感と、背徳感。血鬼になったからには親の言うことは絶対遵守。親子とはそういうものであるはずなのに。今までずっと我慢して、与えられた役割を演じ続けてきたのに。
「あぁ……………──────さま、どうか、おゆるしください……
 俺は親不孝者に、悪い血鬼になってしまった。つらくて、悲しくて、涙がこぼれた。

君をゆるすよ、グレゴール〉
 だからちゃんと私の血を飲んで早く元気になろう。抱きしめられた腕の中、優しくて残酷な言葉が今日も俺に与えられる。拒絶しなければならない甘い甘い誘惑を受け入れて、今日も俺は堕落していく。
………ごめんなさい、ごめんなさい、グレゴールは、わるいこです……おゆるしください
〈悪い子でもいいよ。君の家族がゆるしてくれなくても、私だけは君のことをゆるしてあげる〉
「ぐ、う゛っ、ごめんなさい、っぇう゛……、ごめんなさい、ごめんなさい………
 言葉だけの謝罪を繰り返す俺をゆるしてなどやるものかと怒鳴りつけるように頭痛が増す。“親”に逆らう不孝行ものだと罵られるように吐き気が増す。ひとり幸せになろうとした裏切り者だと糾弾されている。そんな苦しみでさえこのひとの腕の中にいれば耐えられる。
〈ねえ、謝る代わりに私の名前を呼んでよ〉
「ぁ………、だ、……………んて、……あ゛ぐ、っだんて…………だんてさ………あ゛ぁ………
〈うん、上手上手だよ、グレゴール〉
 こんなに美味しくて、優しいひとは初めてだ。俺がどれだけ我慢して、努力して、教えを守り続けたって誰も俺を救ってやくれなかったのに血鬼よりずっと弱いこのひとは俺を救ってくれた。このひとだけが俺の我慢を、献身を認めて、褒めてくれた。幸福になることを許してくれた。きっと今回も褒めてくれる。苦痛に耐え切った俺を強く抱きしめて、頑張ったね、なんて言って頭を撫でてくれる。そう思えば耐えきれないほどの苦痛ではなかった。
「だんてさ……ひ、っぁ、だん……てさん………
〈ゆっくり息をしようか。ほら、吸って、吐いて………いい子〉
 穏やかな声で呼びかけられ、命じられたままに名を繰り返す。名前を呼ぶたびに、褒められるたびに、頭の中で喚き続ける叫びが消えていく。
 信じるものは救われる、という言葉があるけれど、結局あの方は、あの方の理想は俺を救ってはくれなかった。救ってくれたのは、このひとだけ。ならば俺はこのひとを信じたい。このひとがいい。信じるものは、このひとだけでいい。
「だんてさん……だんて、さん………
〈いい子、いい子。君が落ち着くまでずっとそばにいるから安心して〉
「だん、て………
 今は何も見なくていいとでも言うように温かな手のひらが涙をこぼす両目を覆う。カチリ、カチリと規則的に刻まれる針音に合わせてゆっくりと息をしていれば少しずつ痛みも引いていった。ほら、やっぱり俺を助けてくれるのはこのひとだけ。言い訳を重ね続ける俺を、悪徳を重ね続ける愚かで醜く卑しい俺の全てをゆるし、受け入れてくれるのはこのひとただひとり。幸福であれと願ってくれるのはこのひとただひとり。信じていればきっと、このひとは何度だって俺を救ってくれるはず。騒ぎ続ける血鬼の本能は信頼と祈りに押し潰された。










グレゴール
SAN値ピンチな血鬼神父
王(仮)の命でもあったがかつて人間と仲良く出来たら、と心の隅で思っていたのは事実、けれども壊れていく仲間を気遣ううちに心が折れた
ついでにランドの調査をしにきたフィクサーに攫われ無茶苦茶された結果折れてた心が砕かれた
今のところは依存先が変わっただけ
メンタルが回復してダングレするかどうかは神の味噌汁

ダンテ
血を飲むたびに泣いて詫び続ける血鬼おじがあまりにも可哀想なので声かけをしてたらいつの間にか依存されたクソボケ一般人ンテ
血鬼おじには心穏やかに幸せに暮らしてほしい