えぬを
Public TGM
 

H.a.l.l.o.w.e.e.n.

rsmv_20231014公開

tl仮面様に影響されて、ハロウィンのちょっとダークな小話し書きたいな〜って思ってたやつ。考えてた以上に厨二病的設定に。
少しホラー、死や殺人にまつわる話。ツリーの下に設定あり。
右マのつもりですがルマ要素高め。
みんなにアイマスクを着けたくて…

土砂降りの中、街灯もなく、それでいながら足元には誘導路のような灯りが長く伸びていた。よくよく目を凝らしてみれば、それはジャックオランタンの灯りで、湾曲に道が続く遥か先には、ぼんやりと大きな建物が浮かび上がって見えていた。
それは遠目には古い屋敷の様に見える。まるで映画のワンシーンの様だった。
ーー体が冷たい。
背に腹はかえられぬとばかりに一歩踏み出すも、足が鉛の様に重かった。建物までがひどく遠く感じる。引きずる様に足を動かし、やっとのことで目的地に辿り着く。遠目で見た通り、そこは古く大きな屋敷の様だったけれど、銅の看板には『HOTEL』と銘打たれていた。
ーーこんな山奥に?
疑問は寒さと震えを凌ぐものでは無く、かじかんだ指先でドアの取っ手を握る。ギィ、と重たげな音がして、内側からドアが開いた。
「だぁれ?」
こんな夜更け、しかも古めかしい屋敷の様なホテルには不似合いな、いとけない子供の声が下方から聞こえ、若干の驚きと共に見下ろす。
……やぁ坊や、君はここのお客さんかな?あいにく車が故障してしまって……おじさんは怪しいものじゃないよ。道に迷ってここまで」
「はいって」
説明しかける言葉を遮って、金の髪に可愛らしいふっくらとした頬に、大きな瞳を瞬かせ、少年はドアを大きく開いて中へと誘った。少年に促され、ホテルの内部へと足を踏み入れる。
眼前の少年は、襟の立った黒いマント、大きな瞳がはみ出てしまいそうなアイマスクを着けている。サスペンスダーのショートパンツから伸びる素足に白いソックスが、この寒さの中では不似合いだった。手には古めかしい炎が灯るランタンを持っている。
……ハロウィンの仮装かい?」
ホテルの催しかなにかだろうか。客なのかホテルの子供なのか、少年はそのまま身を翻すと何処かへと消えてしまう。
ホテルの中は、四方に灯された炎の灯るランプのみだった。薄暗がりの中、目を凝らせばカウンターらしきものも見える。一歩踏み出すも、疲れ切った足取りはひどく重く、土砂降りでびしょ濡れとなった不快なべちゃべちゃという音が、ホールに響いた。天井には豪奢なシャンデリアが吊り下がり、螺旋階段は上へと続く。随分と古い建物の様だけれど、美しい意匠の施された柱は艶めいていて、手入れが行き届いていた。異世界の様な雰囲気に飲み込まれ、ふらり、と三歩ほど進んだところで、唐突に、ぼ、という音と共に周囲が照らされる。暖炉に火がついていた。
誰かが灯しただろうかと頭を掠める疑問はまたも寒さを凌ぐものではなく、足早に火の元へと向かう。暖炉のほの灯りに手を向けて、氷の様な手を温めている、と。
「ようこそお客人」
耳触りのいい優しげな声が後方からかかる。
振り返ればひとりの紳士が立っていた。
腰位置の高い壮年の紳士はグラスコードのついた眼鏡をかけていて、一瞬バトラーかと見紛うが、支配人かもしれないと慌てて向き合って背筋を伸ばす。
「よくもまぁこんな山奥にたどり着いたね」
優しげに微笑む顔が近づいて、明かりに照らされた顔をよくよくにみれば、大層な美丈夫だった。山奥の古い屋敷兼ホテルにこんな美しい紳士がいるとは、驚いて声が出せないこちらを気にすることなく、紳士は言葉を続けた。
「随分と辺鄙なところにあるホテルだから、ほとんど人なんて寄り付かないから。たまにあなたのように、車が故障したとかで迷って辿り着く場合が殆ど」
「あ、あぁ、さっきの……
マントの少年が彼に伝えたのだろう。眼前の紳士の子供だろうか。
「驚いたでしょう。今日はハロウィンなのでね。みなでパーティを楽しんでいたところで」
パーティを楽しんでいたという割に、一切の人気がないホールを思わず見渡す。先ほどの少年は確かにマントにアイマスクとそれこそハロウィンで菓子を強請るゴーストの格好に扮した子供そのものではあったが。
「マーヴェリック」
階上から低めの艶やかな声が降ってくる。思わず見上げてぽかんと口を開けてしまう。一人の美しい女性が立っていた。階段を降りてくるその姿はまるで天から舞い降りた女神の様に美しかった。真っ赤なドレスに少年同様に、アイマスクを着けている。片方にだけ、燃える炎の様な赤い羽が房飾りとして頭上に伸びていて、彼女が動くたびに、それこそ炎がゆらめく様にふわりふわりと跳ねる。
「フェニックス」
マーヴェリックと呼ばれた美貌の紳士が会場を見上げ、階段から降りてきたフェニックスと呼ばれた女性を途中からエスコートする。
その光景に思わず見惚れ、挨拶も忘れてぼんやりと凝視してしまう。
「こんな夜更けにお客様?」
「あぁ、道に迷ったらしい」
「ふぅん、珍しい」
マーヴェリックとフェニックスが会話を交わしていると、どうやら階上の各部屋から泊り客が外に出てきたらしい。数人が同じ様に階段を降りてくる。
「マーヴ、あなたまたひとりで出迎えたりして。俺やルースターを呼んでくださいっていつも言っているのに」
「そういえばさっきルースターがすごい勢いで走っていったけど。なるほどそういうことか」
「ハングマン、ボブ」
襟の形の異なるシャツに、カマーバンドを身につけた二人の青年が、階段上から見下ろして声をかけてくる。左右、階段手すりに肘をついてそこに顎を乗せた青年と、背筋よく佇む青年にマーヴェリックがそれぞれ呼びかける。彼らの名前はどうやら偽名の様で、それもまたハロウィンの一種の遊びのうちなのだろうかと推測する。肘をついていた青年がハングマン、背筋の伸びた青年がボブ、それぞれがやはり特徴のあるアイマスクを身につけている。まるでマスカレェドの様な雰囲気に、彼らは上流階級の若者で、この山奥のホテルでハロウィンナイトを楽しんでいるのではないかとあたりをつける。とたん、自分の今の見窄らしいずぶ濡れの格好が気になってくる。
「おっと、いけない。着替えを用意しよう、客人。どうか暖炉のそばで体を温めて。山奥なのでシャワーが温まるまでに少し時間がかかるけれど、湯を貯めておこう。もちろんこちらにお泊まりで?」
マーヴェリックがこちらに向かって矢継ぎ早に声をかけてくるのに、勢いよく首を縦に振る。
「も、申し訳ない!助かります!ありがとう、ありがとう」
頭を下げ、謝意を述べる。
故障した車などどうでもよかった。この美しい若く金もありそうな紳士淑女にこの屋敷兼ホテルの主人と過ごせるのならば安いものだ。どうにかして近づきになりたい。
「音楽でも聴いてどうぞリラックスして」
マーヴェリックが奥へと消える前に、これまた古めかしいラジオのボリュームを上げてから姿を消す。ひび割れた音楽が鳴り響き、ボブがアンテナを調整しようとラジオに近づいた。
その隙に美しい炎の女王に近づこうと足を踏み出す。しかし、未だ疲れと寒さが取れないのか、足が重く、一歩を踏み出すのさえ一苦労だった。そんな様子をハングマンが少し冷めた目で見ているのに気づいた。女王に近づこうとしているにがバレたのだろうか。するとハンサムな金髪の青年は不意に興味を失った様に、ボブに声をかける。
「おい、BOB、音楽はいいから別のもん流せよ。このメンツで楽しく踊ろうなんて気が起きねぇよ」
「同感。ニュースやってないの?」
ハングマンの言葉にフェニックスも同意する。
あぁ、せっかくの女王と踊る機会が失われてしまう。
「ニュース?ぇえっと、じゃあここで」
局番を合わせてボブがラジオから離れる。ホールには速報が流れていく。
『速報の続報が今……逃走中の、…………崖下で車が……、」
ラジオから途切れ途切れのアナウンサーの言葉が流れる。内容は判別不可能だったが、ボブがこちらを見て頷いた。
「あぁ、それで」
その発言を受けてフェニックスとハングマンもこちらを見る。
「だからルースターが慌ててたのね」
「どうりで。マーヴの、あの人の悪い癖だな。また変なのが寄ってきたってことか」
不可思議な会話を続ける三人称の若者に首を傾げる。すると、廊下奥からマーヴェリックが戻ってきた。しかし彼は一人ではなかった。
「だから何度も言ってるだろ!?毎回毎回地獄落ちの特に悪質なやつにまつわるもんを引き寄せやすいんだから俺を呼べって!今回もたまたま俺が先に出迎えたからよかったものの……!」
「わかったわかった!だからお前の言う通り、フェニックスもハングマンもボブも起こしただろう!
ゴールドのアイマスクに、立てた襟のマントを翻した、有名な映画に出てくるファントムの様な衣装に扮した青年を伴っていた。金の髪にマントに手にはランタンを捧げ持っている。
マーヴェリックとその青年がにぎやかにホールに戻ってくると、フェニックスがラジオのボリュームを絞る。
「兎にも角にも来ちゃったもんは仕方ないじゃない。どうする?誰が裁く?」
フェニックスに発言にハングマンが肩をすくめた。
「この〝ずぶ濡れ〟はお前のこと気に入ってるみたいだからそのヒールででも踏んでやれば〝あいつら〟の無念も晴れるんじゃねぇかうぉ熱っち!!」
ハングマンの野次に、壁に掲げられたランプの炎が大きく噴き出して、ハングマンの周囲にまで及ぶ。
「焼くわよ」
「もう焼こうとしてんじゃねーか!」
「うーん、僕がこの男餓死させようか?」
「こいつ死んでるじゃねーか」
フェニックスにボブ、ハングマンが訳の分からない会話をして行くうちに、足元から怖気が這い上がってくる。暖炉のそばにいるというのに、少しも暖かくなることがない。足は相変わらず重いままだ。
「いや、今回は俺がいく」
ルースターがそう宣い、こちらを睨みつけてきた。
「ルースター」
「マーヴは甘いんだよ。ていうか被害者たちはあんたに裁いてほしくてここへこいつを誘導したんだろうけど、こんな危ないやつ招き入れて門開くなよ!先に俺たち呼んでからにしろって!そもそもこいつ、本来はすぐに地獄行きなのに、ここに来ること自体腹立たしい。犯した罪に見合う裁きを受けるべきなんだ」
「でももう死んでるんだぞ」
「だからマーヴは甘いんだよ。死んでも罪を償わせるべきって被害者たちが訴えてるってことだろ」
ルースターとマーヴェリックが言い争いをしているうちに、どんどんと下半身が重く、立っていられなくなってやがてその場に座り込むしかないかった。
「こ、殺すつもりじゃなかったんだ……
「どいつもこいつも同じことを言うんだ。特にお前は絶対に地獄送りにはしない。足元をよく見ろ。お前を掴んでる何十人もの人の顔をお前は覚えているか?」
ルースターが断罪する様に説いてくる内容に涙が溢れる。警察の追手から逃げていくうちに、峠の角を曲がりきれずに飛び越えた崖。車が落ちる中、死への恐怖よりもこの状況に天に唾棄しながら、罪悪感など皆無のまま落ちていく先の海を見れば、下から何十人もの手が伸びていて、海へ引き摺り込もうとしていた。
「なんだよぅ、俺が悪いのかよぅ」
啜り泣いてみせ、同情を誘う様に肩を震わせて見せる。
……本来ここは仮死状態で辿り着くべき道の途中なんだけど……死んでからここに辿り着くと、正直地獄へ直行するよりも辛い目に遭う。まぁ、君の場合は同情の余地はないみたいだね」
マーヴェリックが静かに訥々と言葉を紡ぐ。
『なお容疑者の家の裏庭から、……十人に渡る女性子供老人の遺体が……、取り調べ中に逃走、……快楽殺人者との見方……
静まり返るホールに、音源の絞られたラジオからの続報が流れる。足元を顧みれば、何十人もの腕が絡みついていた。通りで思いわけだと今更に自嘲する。
「安心してほしい、無念を抱えた霊たちよ。ここにいるのは地獄の番人とその四騎士だ。それぞれの司る役割でもって、この極悪人を地獄に送るよりももっと辛いその先の煉獄に送るから」
マーヴェリックが折り重なるいく人もの腕の持ち主たちに語りかける。
あぁそうか。そうだった。確かに今日は〝そう〟だった。
死後の世界との扉が開くーーそれは死者が蘇る日ーーH.a.l.l.o.w.e.e.n.