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えぬを
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花束
rsmv_2023021公開
キャロルと息子とルマのお話。究極的に空気読めない男、マヴ🌹
花に例えられる人だった。
太陽に例えられる人だった。
ブラッドリーの母だった。
幼い頃に死んだ父の記憶は曖昧で、役割を担おうとしたおじ的立場の彼も、父を担える人ではなかった。そんな風に告げたらきっと彼は顔を曇らせるだろうけれど。そうではない、あなたは他人でありながら、血のつながらない自分をひとりの人間として愛してくれた人だ。
あぁ、そうだ、とブラッドリーは今更に気付く。
母は、父でもあろうとした人だった。
一時期から母はデニムをよく履くようになり、化粧っけもなくなった。それはある程度の年齢になってから気づいたことだ。気になっていたクラスメイトの女子の唇がわずかに赤く、キラキラとしていたことに気づいた時。化粧をしなくなった母を唐突に思い出し、悟り、その子には勝手に失恋した。本当に苦い思い出だ。
思春期真っ只中の自分はベースボールクラブに所属しながら、空いた時間でパートタイムジョブをした。思い返せばベースボールに夢中になったのも母の影響が大きい。
休日、パークにごった返す多くの親子の合間を縫って、母としたキャッチボール。
父と楽しそうにはしゃぐ少年の後ろで、軽やかなワンピースとつばの広い帽子を翻した母親が、シートを広げて持参したランチの用意をする。そこかしこで繰り広げられるその光景の中、母は履き古したデニムにTシャツを肩まで捲り上げ、ブラッドリーとキャッチボールをした。
額に汗して芝生に転がって、母は頭を鳥の巣にしたままシートを広げてランチの用意をしてくれた。
不幸に見えたろうか。
憐れんだ眼差しで見る者もいただろう。
気の毒そうに目を逸らす者もいたかもしれない。
幸せだった。
ブラッドリーの母は、母であり父であったから。
両得だ。
パートナタイムジョブで稼いだ初めてのペイは少ないものだった。母の誕生日に合わせ、クラブでの練習の合間を縫ってどうにか稼いだわずかなそれで、小さなケーキを二つ、そして花を抱えて家に戻った。
ブラッドリーの誕生日を盛大に祝うくせに、自分は後回しな母に、ささやかながら、と、手を洗いもせず、後ろ手に隠していたケーキの箱と、花を差し出す。途端、母の顔が喜びではなく驚愕に変わる。
「母さん、誕生日おめでとう。えっと、あの、」
母の驚いた顔。ブラッドリーは予測した反応との違いに戸惑った。
「
……
マーヴェリックに聞いたの?」
「え?マーヴ?なんでマーヴが出てくんの?ていうかなんのこと?それよりごめん、母さん。クラスの女の子に教えてもらったフラワーショップ、思ったより遠くて。俺のパートタイムジョブの初給料じゃ電車賃とラッピングと合わせて一輪しか買えなかった。あとケーキもちっちゃいんだ。マジごめん」
「あぁ、なんてこと。この子ったら。うふふ、あやまらないで、あやまらなくていいの。ありがとう、ありがとう、ブラッド。こんなに嬉しい贈り物、あたし、初めてよ。見えてる?ニック
…………
」
「
……
っていう俺が初めて稼いだ金で買ったケーキと一輪だけの薔薇の花に、母さんが親父との思い出を話してくれたわけ。親父からもらった一輪の薔薇。『親子ね』って母さんが泣き笑いで言うから俺嬉しくて。そんな母子団欒してたら家のベルが鳴ったんだよ。『ブラッドショーさん、お届け物です。ピート・ミッチェルさんから』って。驚いて母さんとドア開けたら、でかくて超豪華な薔薇の花束持った配達員が立ってんの。空気読まなすぎだろ。俺の心折れたね」
「
……
ひどいな、送り主のそいつ。僕が殴ってやろう」
「マーヴ、泣くか笑うかどっちかにしてよ。あーぁ、もう。俺そんなひどい人との結婚報告しに両親の墓前に来ちゃうんだから世の中わかんないもんだよね。しかもあんた墓前への報告に薔薇の花束?どんだけ空気読めないんだよ」
そう言ってブラッドリーの話しを静かに聞くうちに泣き出したマーヴェリックと顔を見交わし、二人で吹き出した。
本当に、飛んだ結婚報告だ。
ブラッドリーの人生において、父の死に係り、母を看取り、ブラッドリーの人生を愛と憎しみで無茶苦茶にした諸悪の根源との結婚報告を、両親に告げる日が来るなんて。
夢のようだ。逃しはしない現実だけれど。
マーヴェリックのバンカーに初めて訪れた日を思い出す。貼られたあらゆる写真に加え、保管した多くのアルバムの中の一枚ーー母とキスを交わす、幼い自分を片手に抱き上げた父ーー親子3人の写真。母の手に握られていた、赤いリボンのついた薔薇。
なんとささやかで大きな愛に包まれた贈り物だろうか。母の話しで伝え聞いていた、親子の血を実感するあの頃の思い出と、今がつながった。
そしてあいも変わらずブラッドリーの諸悪の根源は、空気を読まずに今日もまた薔薇の花束を持ってくるのだ。
「だって、誕生日も記念日も、全てにおいて薔薇の花束贈ったって、キャロルにとっての一番は君とグースからのものだ。だから僕は数で勝負」
「競うとこじゃないし。それにあんたからの贈り物なら母さんは充分嬉しかったに決まってる」
「ブラッド
……
」
「あとね、マーヴ。今後は薔薇の花束抱えてくんの控えて欲しい。目立ちすぎ」
「?そんな大きいか?これ」
「そうじゃない。そうじゃないんですよ、ミッチェル大佐。あんたいい加減空気読もうな、ほんと」
アースアイと大輪の薔薇の花束を抱えた美しいコントラストを成すマーヴェリックを、花束ごと抱え上げたブラッドリーは、墓前で誓いのキスを披露した。
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