えぬを
Public TGM
 

You Can't Hurry Love

rs+hnmv_20230128公開

「双子のルス+ハン×義父マヴ」のAU小話し
※マヴはお空の人
※グスキャロ生存
※ご都合主義満載

今日は特別な日だからとマーヴェリックの大切にしているバイクを借りた。
そのままひと晩返さなくていい、楽しんでこい、と朗らかに笑った真意ーーつまり、そのまま朝まで戻って来なくて構わないーーという振りだ。その言葉に、ブラッドリーとジェイクはマーヴェリックを振り返り、その顔を見る。悪意のない笑顔を確認してから、ブラッドリーとジェイクは目を見交わす。唯一の血縁者である二人は、無言の意思疎通でもって互いに肩をすくめた。
マーヴェリックは、愛し子たちの一生に一度の晴れ舞台なのだからとオーダーのタキシードを誂えるつもりだったが、双子はそういったスペシャリティに執着がなかった。今後、フォーマルな席がそう頻々とあるわけでもなく、とりわけそういった場面においてもカジュアルなスーツが主流となっている昨今、結局プロム用のタキシードはレンタルすることと相なった。プロムへの参加が決まってからは、双子たちよりもむしろマーヴェリックの方が嬉々として準備を進めていたほどだ。養い親の脳内には、逞しく育った双子が美しいパートナーと踊り戯れる姿が浮かんでいるのだろう。生憎双子の脳内とは根本が違った。そもそもブラッドリーもジェイクもとうに生涯の一人を決めている。それこそ幼き頃から双子はマーヴェリックだけを求めてきた。
あんたが、あなたが、一番だ、一番です、と告げても当然のように僕もだよと返答される。言葉は同じでも、込められた想いは全く異なるものだ。愛情であることに変わりはないけれど、ブラッドリーとジェイクが愛おしいと伝えたマーヴェリックへの想いは親子の関係を超えたものであるのに対し、マーヴェリックのそれはあくまで親愛だ。最も、血縁関係がないのだから、ブラッドリーとジェイクからすれば愛していると告げたならそれは情愛のはずだけれど、義父であるマーヴェリックは親愛としか受け取る器を持っていない。
マーヴェリックから双子に注がれる愛情は無尽蔵で、注がれるだけ注がれたそれを返したくとも、マーヴェリック自身が受け取らない。そもそも彼は自分が受け身となる情にひどく鈍感だ。
ブラッドリーとジェイクは二卵性の双子だ。二人は幼いころから養い親であるマーヴェリックに焦がれ続けてきた。
両親を亡くし、紆余曲折を経て、両親と親しかったマーヴェリックに引き取られた。マーヴェリックは天涯孤独で、彼自身もまた幼い頃に両親を亡くしている。
世界に一人ぼっちだったマーヴェリックの子育てはひどく不器用で、それでいて、無償の愛で形成されていた。双子にとっては世界一の義父だ。そして、世界で一番双子の情緒を乱し、時に憎しみを抱かせ、そうして性に目覚めさせた全てである。
そんな二人は、幾人もの人がマーヴェリックの見た目を称賛し、近づき、不埒な視線で持って侵し続けてきたかを、双子は一番近くで見続けてきた。
自分達よりも遥か上背も体格も勝る世の男性たちが、養い親の肩に親しげに手を回す様を指を咥えて眺めるしかなかった。たわわな胸を揺らしてしなだれかかる世の女性たちをどれほど苦々しく思ったことか。
麗しいマーヴェリックの赤い唇が、自分達を優先して名を呼び、彼女たちを放り出したなら。優しげな女性たちの美貌は途端に歪み、憎々しげな顔で自分達を睨みつけてきたあの様は、トラウマだ。結局マーヴェリックは最終的に、双子を最優先にして戻ってくる。
だからこそ彼は、いまだ独り身なのだ。



あからさまに、声高々に、四方八方から〝今年のプロムキングは二人いる〟と同級生たちが囃し立てる中、マーヴェリックのバイクに二人乗りしてきた双子は早々に校内に誂られた更衣室へと向かった。
エコな思考に依る昨今、プロムの衣装はレンタル業者が主で、こうして校内には事前に注文してあった衣装が届けられている。
今なお続く、プロムに選んだパートナーを自宅まで迎えに行く習慣を尻目に、二人は足早に更衣室に向かうと、最終の段取りを確認した。
「おい、ジェイク、フラワーショップの注文、忘れずにしてあるんだろうな」
「俺が失念するとでも?お前がどの花にするかぐずぐず悩んでなけりゃもっと早くに予約してたね」
見目よく人柄もよく、他者を惹きつける魅力的な双子は、圧倒的なカリスマ性で持って、校内でもとりわけ有名だ。そんなブラッドリーとジェイクのプロムの相手は未だに不明のままだった。
気まぐれで少しミステリアスで、恋愛話しに関しては、兎角ニュートラルな双子だった。ともすれば、プロム自体に参加しないのではないかと思われていた。けれど、勇気ある数人がブラッドリーとジェイクに参加の有無を尋ねたところ、二人ともが応と返事をしたのだ。俄然校内では、そのパートナーを務めるプリンセス、もしくはプリンスの話題で持ちきりだった。
無駄な争いを好まない双子は黙し、自分達の立ち位置をはっきりと自覚しているため、余計な軋轢を生まないよう、話題の中心でありながら、調整役をも自ら担っていた。浮き足立つ校内は、少し声をかけられたことがあるだけの、はたまた、同じ教科でたまたま隣に座ったことが2度連続しただけの、そんな生徒をも巻き込んで、ドラマティックな展開があるのではないかという期待に満ち満ちていた。
つまり、双子が選ぶ相手は自分ではないかという妄想に近いドリームを抱かせるほどの熱気を帯びていた。翻ってそれは、ブラッドリーとジェイクが秘する胸の内に、いずれかの誰かがいるのだと。
タキシードを着込んだ双子はまさに王子足るに過ぎて、いずれの誰をも魅了するだけの魅力に満ち溢れていた。レンタルのタキシードといえど、審美眼が確かなマーヴェリックが選んだ双子のタキシードは、あつらえたように彼らにピッタリだった。
養い親は職務に於いてトップオブエリートであり、国務の重鎮のパーティに参加することもしばしばあった。魅惑的なドレスホワイトに身を包む養い親に見惚れると同時、双子は余計な虫がつかないよう、マーヴェリックの親友でもある隣家の馴染みにくれぐれも義父を頼むと何度も頭を下げた。よくよくに心得ているマーヴェリックの隻眼の相棒は、妻ともども双子の恋心を応援している。
軍属でもある養い親が、幼い頃からブラッドリーとジェイクに教え施した、社交界のルール。知識として身に付いているだけで、双子は義父以外とダンスを踊ったことがない。それは、この先もずっとそうだ。双子が踊るのは、マーヴェリックとだけ。
お仕着せではないタキシード姿の双子が更衣室から出てきたならば、すれ違う生徒たちは目を見開き、やがてうっとりとため息をつく。
「おい、ジェイク、お前タイ曲がってんぞ」
「ブラッド、お前こそ。頭もう少し何とかしろ」
向き合い、抜群のコンビネーションで互いの不完全を直す。
ブラッドリーはグレーのタキシードで、ジレはブラックだった。ノータイに、ノーカラーのシャツは彼の太い首を強調し、その逞しく張りのある彫刻のような肉体美をなお一層魅力的に見せている。
方やジェイクは、光沢あるネイビーのタキシードだ。ストライプ柄のグレーのジレに、同柄の蝶ネクタイを結んでいる。目鼻立ちの整ったハンサムなジェイクがカジュアルダウンしたそれもまた、彼の魅力を際立たせていた。
知らぬ者が見たのならば、彼らが双子などとは決して思わないだろう。双璧をなす双子はそれなりに互いをリスペクトし、絶妙なバランスで周囲を魅了する。それぞれの華やかな顔立ちに合う衣装を着込み、距離近く向き合った双子は撮影をしているモデルか俳優かのようで、視線を一心に集めていた。
そんな群衆の中、勇気ある親しき隣人のうちの一人が焦れて声を上げた。
「なぁ、ブラッド、ジェイク、お前ら二人とも誰をパートナーに選ぶんだよ?」
数人がその質問の後に続く。
「校内中その噂で持ちきりなんだよ!いい加減教えてくれよ!」
「あのチアリーダーの彼女か?」
「いや、上級クラスの女史だろ?」
「フットボールエースの彼らでしょ?」
周囲の勝手な憶測に返答することなく、双子はいつものように貼り付けた笑顔で人垣を縫っていく。マーヴェリックが見たならば、『……なんだその作り笑い』などと称するだろう。養い親の知らぬ間に二人は成長し、処世術を自ら学び、こうして自らの意思で〝選択〟する。
ーーかわいい坊やたち、などと、もう二度と言わせるものか。
プロムはきっかけに過ぎない。
ブラッドリーとジェイクは追い縋る声や手をすり抜けて、駐輪場へと戻った。

「おい、ジェイク、今何時だ!?」
「1645!店は!?」
「17時まで!」
「飛ばせよ、のろまのブラッドリー!」
「落ちんなよ、ファッキンブラザー!」

バイクは制限速度ギリギリで道路を走る。安全運転を厳命する養い親の教育もあるが、なによりも自分達が怪我をしたならば、マーヴェリックが泣く。泣いて、打ちひしがれて、世界の終わりのような顔をする。遥か昔、二人揃って怪我をした時の、あの時の絶望的な顔が忘れられない。そんな風に自分達に家族として、人として依存しているくせに、マーヴェリックはいつだって平気そうなふりをする。
ーー世界一寂しがり屋のくせに。
タキシードを翻してバイクを駆るブラッドリーの後ろにジェイクが乗っている。行きは逆の運転だった。
プロムの晴れ舞台に、マーヴェリックが一等大切にしているニンジャを二人に貸し出したことーーそれは、マーヴェリックが二人との情をまたひとつ手放そうとしていることに他ならなくて、ブラッドリーとジェイクは家を出る前のやりとりを苦々しく思い出す。
たどり着いたフラワーショップに駆け込んで、注文していた花束を受け取る。バイクを見て心得た店員は、花びらが散らないよう、上部をビニールで覆ってくれた。
思い出はいつだって鮮明に思い出せる。
引き取られた最初の頃、亡くした両親を探して、マーヴェリックの家から黙って抜け出したことがある。歩幅の短い小柄な体で歩く距離などたかが数キロだ。あの頃はそれをとてつもない長い距離を歩いたのだと勘違いしていた。これだけ長く辛く悲しい距離を歩いたのだから、その果てには両親が必ず待っているのだと、手を繋いで泣きながら歩いた。
結局道ゆく他人に保護されて、警察に連れて行かれた。
血縁者はもう互いしかいないのだと痛感し、二人でぎゅぅ、と手を繋いで待っていた。マーヴェリックが迎えに来るのを。
きっと彼は怒るだろう。引き取り手のなかった自分達を、世話になった知人の子供たちだからと善意で引き取ってくれた彼への恩を仇で返すようなものだ。それは日頃の態度にもきっと出ていた。若い彼が与える振る舞いは、双子の父と母が施した深い愛情からは程遠いと、心が拒絶していたから。
あの時もニンジャだった。迎えにきた彼は、大層大事にしているそのバイクから降りると、バイクスタンドを立てることなく横倒しに放り、署内に駆け込んできた。二人を目にするや否やこちらに向かって勢いよく走ってくる。きっと雷が落ちるのだろうと身構えた二人を、マーヴェリックは両腕をいっぱいに広げて抱きしめた。驚く二人の耳にか細い声が届く。
……無事でよかった……
そうして彼は交互に双子の額に唇を押し付けて、もう一度強く強く抱きしめた。
マーヴェリックは泣いていた。
結局署員に声をかけられるまで、親子となった3人は互いを抱きしめ合って号泣した。
あの時横倒しされた時についた傷が残るバイクに跨り、ブラッドリーとジェイクは我が家へと急ぐ。



ガレージにバイクを停めると、ブラッドリーとジェイクは向き合って互いの格好を頭の先からつま先まで見返し、吹き出した。
校内ではしっかりと身なりを整えたものの、風圧に煽られ、二人の格好は乱れに乱れていた。
バイクを運転できる年齢になったと同時、マーヴェリックは揃いのヘルメットを双子に買い与えた。お陰で髪はへたりと潰れている。二人は頭を振って髪をかきあげ、最低限体裁を整えて、ポーチに向かった。外から見て、灯りがついているのはマーヴェリックの自室のみだ。
予想がつく。どうせ、今日のプロムで踊る双子の想像をして、感慨深く過去のアルバムにでも浸っているのだろう。
マーヴェリックは存外ロマンチストだ。ロマンチストでいて、双子を愛し、結局は人生を双子のためだけに使い、彼はまた一人に戻ろうとするのだ。それが、双子の幸せだから、と。
双子の幸せに、マーヴェリックの不在はあり得ないのだと、なぜ気づかないのだろうか。
我が家のチャイムを鳴らすなど初めてだ。ブラッドリーがチャイムを押す。ジェイクは蝶ネクタイを弄り整え、ブラッドリーは抱えた花束を意味もなく持ち替えた。
階段を降りる音が聞こえ、やがてドアが開く。ドアを開くと同時、タキシード姿に花束を抱えた愛し子達を前に、マーヴェリックが目を見開いた。
「ブラッド?ジェイク?どうした?なんでここに……
マーヴェリックが言い終わらないうちに、ジェイクがその腰を捉えて強引に室内へとマーヴェリックを連れ戻す。後に続くブラッドリーはドアを閉めて鍵をした。
「おい、二人とも!プロムはどうした!」
「今からだよマーヴ」
「俺たちのパートナーを迎えにきたんです」
「は、はぁ?」
そう言ってジェイクはマーヴェリックの腰を抱いたままリビングへと向かう。
「そういえば小さい頃に教えてもらったダンス。あれもここでしたね。あの頃はこの狭いリビングが俺たちのダンスホールだった」
「じぇ、ジェイク?なんのことだ?それに君たちそのかっこ、」
陽が既に傾きかけたリビングは薄暗い。ジェイクが誘導するままにリビングへと連れていかれるマーヴェリックの後ろ姿を見送って、ブラッドリーは花束を抱えたまま方向転換し、室内灯のスイッチへ向かう。ぱちり、と手探りでスイッチを押し、不自然に言葉を途切れさせたマーヴェリックを不審に思い、明るくなった室内で、ブラッドリーは視線を流すーーと。
「っおい、ジェイク!お前抜け駆け!!」
ジェイクがマーヴェリックに覆いかぶさり、その唇にキスを施していた。
ブラッドリーが勢いよく二人に近づいて、ジェイクの肩を掴んで戻す。
「んンぅ、」
「っ、ざんねん……っ」
引き際なお一層唇を押しつけ、ちゅむ、とリップ音を立ててジェイクは引き剥がされる。
「ふぁ、あ?ぇ?」
唾液にてろりと濡れた唇を晒し、何が起きたかわからないままに、マーヴェリックは呆然と双子を見遣る。
「おっまえ、そういった順番は勝負で決めるって言っただろ!!」
「うるせぇ。小せぇ頃、あざとさ満載でお前が先にマーヴにキスしたこと俺は忘れてないんでね」
「くそ、マーヴ!」
「へ?は?」
未だ事態に頭がついていかないらしいマーヴェリックに、ブラッドリーは花束を差し出した。反射でマーヴェリックが受け取る。
「よし、受け取ったな!」
「ちょ、ぶらっ、ん、む」
花束を受け取ったらキスをしてもいいだなんて、今この時だけの理屈で、ブラッドリーはマーヴェリックを胸に抱える花束ごと抱きしめて情熱的に口付けた。
血を分けた兄弟が義父との口付けに夢中になるのを眺めながら、混乱の境地にあるマーヴェリックの耳殻のふちを、ジェイクがなぞる。
「ふぁ」
鳥肌を立て、マーヴェリックがブラッドリーとの口付けを反射で解いて、あえかな声を上げる。
ーー感度抜群。
双子の脳内に、ピンク色の思考が共通で走る。
ブラッドリーとジェイクは、それこそそっくりな仕草で自分達の唇を舐めた。
「プロムの夜は長いじゃん、マーヴ」
「ひとばん楽しんでこいって言ったのあなたですよね」
「だから」
「責任とって」
「「ダディ」」