えぬを
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たとえばこんな恋のはじまり

hnmv_20230107公開

ちゃんと書いた初ハンマヴェ。うちには格好良くてスマートなハンギーはいませんでした。かわいいtopプライスレス。今んとこマヴの方が上手。
〝ピート〟って呼ぶのも実は心臓ドキドキしてるハンがいたらかわいいな。ハンマヴェですよ!

買い物に付き合ってほしいという唐突なメッセージを見て、マーヴェリックはその送り主を再確認した。
達成不可能と言われたあの任務から数ヶ月、少しの休暇を経てからあの作戦に参加したチームは皆がそれぞれ別れを惜しみながら、自分たちの基地へと戻った。
マーヴェリックはというと、渋々ながら守護天使に片足を突っ込み始めたサイクロンと、いやいやするその上司を手腕で支えるウォーロックの配慮で未だ戦闘機乗りとしての地位に甘んじている。
マーヴェリックの飛び方は今や遺物に近く、新しい世代戦闘機の機能からすれば不要なものと判じられてもおかしくはないが、特殊任務の完遂によってそれらは全て覆された。所詮は机上の空論。パイロットの腕次第を体現したレジェンドがその後継を生み出してしまったのだから始末に追えない。
マーヴェリックを各基地の若い世代への教官職として招致する声が多い中、とりあえずマーヴェリックは休暇をと指示された。
その間に同じように休暇をとったヤングガンズが入れ替わりにマーヴェリックの住まいを訪れ、間にブラッドリーが一人で訪れ、長い長い話しをした。もちろん足りない。だからまたくるよ、とぶっきらぼうに、ほの赤い顔でブラッドリーは告げて自基地に帰還した。
休暇中は今までの静けさが嘘のような日々を過ごし、ヤングガンズのグループチャットに請われ、それぞれとナンバーを交換した。優秀なアヴィエイターでもあるマーヴェリックに、個人的に悩みや相談事を持ちかけるメンバーも少なからずいる。
だから、最初マーヴェリックはそのメッセージを、自分宛ではない、他の人物への誤送信だと思った。
『送信先、間違ってないか?』
『コールしても?』
即時の返信がくる。ハングマンこと、ジェイク・セレシンは、そういったタイプではないと思っていた。そもそも最近の若い世代は、電話よりもメッセージチャットを主としているのが当然だと認識している。
わざわざ電話で話したい相手でもなかろうに、と、それでもマーヴェリックはOKを返した。コール音が鳴る。マーヴェリックは通話をタップした。
『ピートだ』
『、っ』
受話すれば、唐突に向こう側で息を呑む音が聞こえる。次いで、苦笑するようにジェイクが我を取り戻した。
『そうか、そうですね、そうでした。あなた〝ピート〟でしたね』
『ぁあ、』
ーーそうか、そういうことか。
息を呑んだジェイクの様子に、マーヴェリックは合点した。任務中はコールサインで呼ばれることが主だ。プライベートでも、マーヴェリックを空飛ぶ軍人と思い、声に出してそう呼ぶ仲間の方が多い。実際ホンドーやブラッドリーは、マーヴェリックをプライベートでもコールサインで呼ぶ。特別そこに何かを感じるわけでは無いけれど、そう言えば最近その呼び名で自分を呼ぶのはペニーくらいだと洋上の友に思いを馳せる。
『ピート、ピート。俺、プライベートで話す時はあなたのことそう呼んでいいですか?』
弾んだ声で唐突にジェイクが問うてくる。なんの要件かはさて置いて、自己の希望を真っ先に申し出る彼に、マーヴェリックは受話越し笑った。
『構わないよ、ハングマン、好きに呼んでくれ』
『手強いなぁ……
わざと聞こえるような音量で受話越しジェイクが呟く。
彼と距離が近いわけでは無い。おそらくジェイクの中では、〝ジェイク〟と呼ばれる流れを期待していたのかもしれないが、マーヴェリックは呼ぼうとはしなかった。そもそも教官という立場を弁えたままのつもりであるし、マーヴェリックからしたら他意はなく、〝ならば僕も君を名前で呼んでもいいか〟とはならない。
だからこそマーヴェリックは自分でわざわざ電話をしてきたジェイクに対し、彼でも思い悩むようなことがあるのだろうと推察した。買い物にかこつけた、何某かのマーヴェリックに会うための理由が。
『マイセイバー、僕だけは君のことをそう呼んでもいいのかな?』
……なるほど。あなたがモテる理由がわかります』
感心するようにジェイクは笑い、やがて話しを切り替えて、当初の目的らしい『買い物』の話しを切り出した。
『ピートとショッピングがしたいです』
『構わないけど、僕、で、いいの?』
『ピートと行きたいんです』
顔が見えないにも関わらず、あの口角の上がった顔で笑っているのが想像できる。
きっと、マーヴェリックの飛び方や技巧に関すること。ジェイク・セレシンという青年は自信に満ち溢れ、自他共に認めるだけの戦闘機乗りとしての実力がある。度胸もあるし、飛ぶことに関してならば、彼は将来トップオブトップを担えるアヴィエイターのうちの一人であることは間違いない。そんな彼がマーヴェリックに口実を作ってまで会いたいのなら、きっとそれは空を飛ぶことに関してだろうとマーヴェリックは推察した。
ジェイクが犬猿の仲であったブラッドリーとも固く握手を交わしていたことも、その後、他のメンバーとのコミニュケーションにいささかの難がありつつも、なんだかんだ仲良くやっているように見受けられたことからも、彼は将来リーダー的存在になるべき青年だ。
任務に参加したことで、彼のみならず、若きアヴィエイターたちは大きく成長した。悪友という言葉が相応しいのだろう。それは、マーヴェリックにもとても覚えのある愛すべき仲間たちだ。
『いいよ、ハングマン。ショッピングに付き合おう。いつがいい?』
……マジですか?マジで、いいんですか?』
『何が?』
『俺と、二人きりですよ?二人だけでショッピングに行きたいって言ってるんですよ?俺、あなたのかわいい雄鶏じゃないんですよ?』
自分から誘いをかけたくせに、途端戸惑いの声を上げるジェイクにマーヴェリックは片眉を上げた。
『ハングマン、僕が断るとでも?』
『だって』
ーーおや。随分とかわいい声を。
そういえばこの青年は、ブラッドリーよりも年下だったと今更ながらにマーヴェリックは思い出した。虚を突かれたような、そんな奇跡はあり得ないのだとでも言うような声で戸惑うジェイクに被せるようにマーヴェリックは告げた。
『誘ってくれて嬉しいよ、ハングマン。本当に』

待ち合わせ場所に先に着いていたジェイクは、性格が体を表すようなファッショニスタで、道行く数人が思わず振り返るほどのハンサムぶりだった。高価なブランドの服ではなく、センス良く品のいい着こなしはジェイクの家庭環境を想像させる。年嵩のマーヴェリックと並んで歩いても違和感がないように、羽目を外さず、且つ、流行を押さえながらも配色に気を配っている。プライベートにおいても自分を客観的に、見目よくアピールすることのできるジェイクの優秀さにマーヴェリックは苦笑する。翻ってマーヴェリックは、流石にフライトジャケットというわけにもいかず、無難にデニムにジャケットを羽織ってきた。ジェイクはマーヴェリックを上から下まで眺めて感心しきりだ。
「すごい。あなた、やっぱり華やかに過ぎるからシンプルが一番映える」
「それ褒めてるのかい?」
「もちろん。そもそもその体型が維持できてなきゃ着こなせませんよ、そんな難易度の高い服」
……デニムにジャケットだぞ?」
「だからこそですよ。ていうかあなた足どこから生えてるんです?ねぇ、写真撮ってもいいですか?SNSには載せませんから。俺がセルフォンに保存して見るだけならいいでしょう?」
ジェイクは断りにくい誘導がとてもうまい。最終的な判断は全てマーヴェリックに委ねられている。計算高く、それでいて、標準装備されていた嫌味を述べることがなければ、ジェイクは非常に頭の回転が速く、無駄を嫌う質だとマーヴェリックはすぐに理解した。
今少し捉えがたいこの若者は、マーヴェリックがいわゆる〝年下からのねだり〟に弱いことを重々に承知しているようだった。
軽く会話をしながら歩みを進める。せっかくのホリデーなのだから、とことんジェイクの買い物に付き合うつもりだったマーヴェリックはいささか拍子抜けした。ジェイクはマーヴェリックとの他愛のない会話を望み、まるでマーヴェリック自身のことを知りたがっているかのように、すぐに静かなカフェにエスコートした。その行動にあらかた察しのついたマーヴェリックは、さてどうするかと、重ねた年齢分それなりに思慮して思考せざるを得なかった。会話の中で、確信をつくように、けれど遠回しに、ジェイクが恋人の有無を尋ねてきたなら尚更に。そうしてマーヴェリックの〝ノー〟という答えに、躊躇いつつもジェイクは重ねて尋ねてきた。
「ペニーとは」
言葉の先を、ジェイクは口にはしなかった。恋人ではないのか、という、明確な言葉を避けたのだろう。意を汲んだマーヴェリックは、物事をはっきりと言う彼にしては珍しいと思いつつも、教官が生徒に教えを示すように説明した。
「教官に着任した当初、確かに互いにそういう雰囲気になったよ。これからは、ペニーとアメリアのそばにいようとした。本当に。けど、やっぱり僕は約束を守れないんだ。あの特殊任務の前、ペニーには別れを告げた」
〝そばを離れない〟、と誓った矢先だ。戻れない可能性の高い任務の編隊長に任命されたのならば、その重みを負う覚悟はとうにできていた。それを導いてくれたペニーは十分にそれを理解していた。ペニーは〝生きて戻ってきて〟、などと泣きながら請う人ではない。海辺で友情の抱擁を交わし、恋を終わらせた。
互いにしこりを残さないように。
愛する人を喪った、と思わせないために。
「僕らはとても似ている。彼女は洋上を滑る僕だ。そして、誰かがそばにいないと海に出られないとか、そんな人じゃない」
……あなたとペニーはすごく理想的な恋人同士に見えた。でも違うんですね」
「結局僕らは似たもの同士なのかも。最も、ペニーは僕みたいに約束を守らない不誠実な人じゃないし、僕よりも遥かに正しく素晴らしい。彼女は今でも僕の知る女性の中で、一番魅力的な人だ」
……あそこにいる連中は年齢性別関係なく、みんな一度はペニーに恋をするんで。よく分かりますよ」
ことさら軽い口調でジェイクが告げる。
……似てる。確かにあなたの言う通りかも。あの2分15秒で、俺たちはあなたにも恋をした。あなたに選ばれて、共に空を飛んで、共に死んでもいいと、あの時全員が思ったんだ」
「死ぬのはダメだ」
「えぇ、そうですね。それでも言わせて。あなたの住んでるあのバンカー。なんですかあれ。最初行った時寒気しましたよ。帰ってこられなくてもいい住処なんて初めて見た。シャッターを開けたまま任務に出かけてそのまま戻らなければ、ひと月も経たないうちに、あそこは砂に埋もれて廃墟になる。そんなとこでしょう?飛行機墓場の近くにいつでも人生の幕を下ろせる家の皮を被った棺を用意するなんて」
……それはブラッドリーにも言われた」
「くっそ俺が先に説教したかったのに!」
「そこなのか?」
任務後、ヤングガンズがこぞってマーヴェリックの住まいを訪れた。遠い昔のことではないはずなのに、マーヴェリックは懐かしくそれを思い出した。
あの賑やかな雰囲気の中、ジェイクがそう考えていたとは正直驚いた。そうしてジェイクが発した〝恋をした〟という言葉と同時に、マーヴェリックのテーブルに置かれた手に、ジェイクは自らの掌を重ねた。ジェイクの手は冷たかった。ジェイクが明言しないのならば、とマーヴェリックは躱すことのできるそのアプローチに敢えて挑んだ。
「僕を好くほど君は僕のことを知らないだろう?」
「もちろん。雄鶏ほど知らないですけど、あなたの性格を知るに足るだけのあなたの行動は全部見てましたよ。無線越しな上に命懸けでしたけどね。あなたを形成するであろうあなたの行動原理を知った上で好きになったのではダメ?」
「それは恋?自分よりも力量が上の人間に出会ったことや危機的状況に陥ったことによる錯覚なんじゃ?」
「最初は嘲り、次に嫉妬、そうして畏怖だ。これだけを短期間に思い知らされて恋に落ちるなという方が無理でしょ」
そう言ってジェイクはマーヴェリックの手を取ると口元に近づけてキスをするーー仕草の前に、マーヴェリックがジェイクと自分の手の間に、もう片方の手を差し込んだ。
それは明確な拒絶で、僅かに翳りと緊張を帯びたジェイクの瞳の変幻を、マーヴェリックは見逃さなかった。
「畏怖か。君は僕が恐いんだろう?だから恋にすり替えた方が気が楽なんだ」
「そんな風に、見えます……?俺」
「挫折を味わうとそうなる」
……
「恋にすり替えるのは珍しいけど、それが君のやり方なら、とりあえず色々試してみようか」
……は?え?マーヴェリック、マーヴ?」
「ジェイク」
「え」
「ジェイク、君、このままこのカフェで話しを続ける?それともどこか場所を変えて、デートらしいデートをしようか?」
「え?は?え?待って、あなた、おれのなまえ」
「ジェイク、さっきまでの君はハングマンだったから」
「、」
「もっと話しをしようか。ちゃんと僕が、恋を告げられた相手として改めて君と、過ごすよ」
……あなた、なんていうか、ずる、ずるい人だな!」
マーヴェリックは、ジェイクの頬を赤く染めることに成功したことに、満足げに笑った。
「あぁくそ!あなたこれから俺のこと〝かわいい〟って言うでしょ!そのたびに雄鶏が頭に浮かぶからやめてくださいよ!」
「ジェイク、君かわいいなぁ」
「マーヴ、ピート!ちょっと!」