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えぬを
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Flowerring
rsmv_20230102公開
『Uncle Mave's Day』の続編的な小話し。
新年あけおめrsmv初っ端はあまーいお話しで。
※匂わせ表現があります。
マーヴェリックの住処を把握して随分経った。つまり、工具の在処やキッチングッズの類がどこに仕舞われているかなどは大抵わかる。
特段隠すものはないらしいマーヴェリックは、ブラッドリーがマーヴェリックのバンカー内をうろつき、そこかしこを歩き回り、必要なものを探ったとて気にしない。見せたくない、見せなくてもいいような、それでも重要なものはどこかに仕舞ってあるのだろうし、ブラッドリーは、どこに何があるかをおおよそ把握しただけで、許可なく勝手にプライバシーを漁る趣味もない。
そもそもマーヴェリックのバンカー兼倉庫兼住居は、趣味と実益と彼を模る全てで形成されているので、衣食住が全て詰まったエアストリームには、必要最低限のものしか置かれていないようだった。
そしてそれは、マーヴェリックの所有する数少ないベストスーツ類が収められた備え付けのクローゼットを開けた瞬間に、ブラッドリーの頭を直撃した。
「あいて」
大した衝撃ではなかったけれど、オープンした途端に滑るように落ちてきたそれは、ブラッドリーに一撃を加えてから存外の重さで落下していった。不安定な上部に置かれていたらしい、ペーパーボックスは、落下と同時に中身が全てブラッドリーの足元にぶち撒けられる。
ーーはて、このようなものが以前からあっただろうか。
ブラッドリーがマーヴェリックの住処を訪れるようになって随分経つが、初めて目にするものだった。どうやら中身は契約書類らしい。プライバシーを尊重して、すぐに中身をかき集め、ボックスに戻す。見るつもりのなかったそれらは、捨てられないけれど、取っておかなければならない大切なものだ。この契約書類をマーヴェリックが受け取ったであろう当時は、今ほど電子技術が発達していない頃なのだろう。褪せた紙類を仕舞うその束の中、異質なものが紛れ込んでいた。
美しいレースが施されたハンカチーフだ。異質なそれを思考の隅に追いやり、ブラッドリーは忙しなく手を動かして、ペーパーボックスに契約書類を収めていく。
ーー紙の束は倉庫内の各種コレクションを購入した際の契約書や保証書だけど、そんな中にレースのハンカチーフ?随分と古い印象だ、そりゃそうだ、契約書だってところどころ褪せてるし、タイプライターで穿ったみたいな文字も見えた、いや、そうじゃなくて、確実にレディースもので、こんな、捨てられないけれど取っておかなければならない大切なもののボックスに、大切に、それこそ何十年も前の契約書と一緒に収められていたらしい、いや、駄目だ駄目だ、プライバシーは尊重しなきゃいけないし、マーヴにだって忘れられない女性の一人や二人や三人もいたら正直きっついなくそ、いや、つまりこのレースのハンカチーフ、誰なんだよ元の持ち主は。
頭をかきむしって、ブラッドリーはそっと床に落ちたハンカチーフを手に取った。
折り畳まれたままに落ちたそれの端をつまんだ瞬間、はらり、とーー散る。
「あ」
タオルを取りに行ったブラッドリーの戻りが遅い。
マーヴェリックは、ベッドの上ではなく、倉庫内のソファで励んでしまった行為を反芻して横たわったまま、意味もなく足首を組み替えた。
互いを堪能するのにわずか後方数メートルにベッドがあるにも関わらず、耐えられずと倉庫入口からキスとハグを繰り返し、ソファに押し倒してきたブラッドリーの熱い腕を思い出す。長距離を運転してきただけの日差しの熱ではない生身の熱と汗の匂いが、広いはずの倉庫内に未だ漂う気がして、マーヴェリックは再び足を組み替えた。
辛うじて掛けられたブラッドリーのシャツが滑り落ちる。拾い上げようとして諦めた。無理な体勢で励んだせいで、腰が鈍く痛み、抜けた。
ぬかるんだ体を一旦拭うためにブラッドリーはタオルを取りにエアストリーム内に消えたまま。
無理に抱き起こしてシャワールームに連れて行ってもらうこともできるが、果たしてタオルで拭われて、そうしてまた、なのか、今日はここまで、にしておくのか、マーヴェリックはブラッドリーの次の行動を想像して、甘い葛藤と断りの文句を脳内で考えて、すぐに考えるのをやめた。
ーー年甲斐もない、とは正に。
耽溺している自覚のあるマーヴェリックの耳に、足音が聞こえる。身を起こしてブラッドリーを迎えようと、ソファの背に腕をかけて後ろを振り返ってマーヴェリックは目を見開いた。
下半身に辛うじてボクサーパンツだけを履いたブラッドリーは、甘く蕩けるような事後の満足感と、未だ治らない熱に浮かされた雄味の強い顔でエアストリームにタオルを取りに行った。つい数分前のことだ。
「え?え!?な、なんだ、どうした?ブラッドリー?ブラッド」
甘やかな鈍痛が響く腰もなんのその、愛し子兼恋人の消沈した姿にマーヴェリックは驚愕した。
『マーヴ、ごめんなさい。マーヴがプレゼントしてくれた自転車、ぼく、転んで傷をつけちゃったの』
『そんなの気にしなくていいんだよブラッド。それより怪我はしなかったかい?』
久方ぶりに会った幼子の罪になるはずのない懺悔を唐突に思い出した。あの頃のままのブラッドリーの様子にマーヴェリックは慌てる。
「ブラッド?ブラッドリー?どうしたそんな泣きそうな顔をして」
ブラッドリーは、両手に何かを掲げ持ったまま、ソファの前に周り、マーヴェリックの前に膝をついた。マーヴェリックはその手の中のものを見て目を見張った。そうして懐かしさに思わず笑みこぼれた。
「
……
マーヴ、ごめん。これ、」
「
……
懐かしいな。よく見つけたね」
「クローゼット開けたら上からペーパーボックスが落ちてきて
……
これも一緒に。中に包まれてるなんて思ってなかったからそのままハンカチーフを持ち上げちゃって
……
」
「そりゃそうだ、知らなくて当たり前だよ。だから気にするな。ブラッド、これ、覚えているかい?」
「
……
やっぱり、これ、おれなの
……
?」
「そうだよ。君からの〝マリッジ・リング〟だ」
ブラッドリーの手の中から、マーヴェリックはそっとそれを受け取った。
折り畳まれたレースのハンカチーフには、褪せて萎れた、けれど辛うじて形を保ったままの、花びらが乗せられていた。茎部分が丸く編まれた、フラワーリングだったものが。
「『ぼくとけっこんしてね』
……
随分と君はおませさんだった」
きゅ、とブラッドリーは、唇を引き結んでから、マーヴェリックに問いかける。
「ずっと、ずっと大切に持っててくれたの?」
「君からの贈り物はぜんぶ」
遥か遠い記憶の彼方、マーヴェリックは回顧する。幼い少年が頬を染めて、マーヴェリックに差し出したフラワーリングは形が歪だったけれど、過たずマーヴェリックの左手薬指におさまった。
『サイズぴったりだ、ブラッドリー!ありがとう、嬉しいよ』
『ふふ、マーヴ、大人になったらぼくとけっこんしてね!やくそく!』
『そうだなぁ。ブラッドリーが、大人になるまでずっと僕を好きでいてくれたら結婚しようか』
『なんで!?マーヴいがいにすきなひとなんかいないよ、ぼく!』
『今はね。きっと素敵な子と結婚するんだろうなぁ、ブラッドは』
『だからマーヴとけっこんするっていってるのに!』
『あはは、分かったよ、オーケイオーケイ、ブラッドリー!』
そうして手を繋いでブラッドショー家に帰宅すれば、グースとキャロルがマーヴェリックのフラワーリングを見て、上へ下へとはしゃぎ倒し、そのままいつもの騒ぎとなったあの日を、つい昨日のことのようにマーヴェリックは思い出せる。
「ブラッド坊やからもらった大切なフラワーリングだから、どう持って帰ろうかと悩んでいたら、キャロルがそのハンカチーフに包んでくれて」
学生時代のデートでグースに買ってもらったプレゼントで、一番の気に入りのハンカチーフだとキャロルは言った。
『キャロル、次の帰還の時に、ハンカチーフちゃんと返すからな』
『あらぁ、いいわよ、そのまま持っていて。ずっとずっと大事にしてよ、マーヴ。いいわよね?ダーリン』
『もっちろん!俺がキャロルにあげたハンカチーフに包まれた息子からのフラワーリングだぞ、マーヴ!ブラッドショーファミリーの愛の塊を受け取れ!』
「
……
君の両親は本当にすごい」
「
……
」
ブラッドリーは冷えたマーヴェリックの肩に、今更ながらに落ちたままだった自分のシャツを着せ掛けて、そのまま抱きしめた。
「崩してごめん」
偶発的な事故とはいえ、フラワーリングは無惨に散ってしまった。ブラッドリーの謝罪にマーヴェリックは笑い、空いた手でブラッドリーの背を叩いた。
「気にするな。思い出までなくなるわけじゃないから」
ブラッドリーは鼻を啜り上げ、潤んだ瞳で天を仰いで、そうしてマーヴェリックの肩を抱いて真っ正面から向き直った。
「贈らせて。永遠」
「
……
ブラ」
「フラワーリング崩しちゃったからじゃないからな。少し前から、考えてた。形あるものや書類であんたを束縛したいとかじゃなくて、目に見えるものが欲しい。あんたも納得した上での、永遠が」
「ぶぇっくしょい!」
「ええええうそだろ今このタイミングでするか普通!?我慢してくれよ!」
「我慢して鼻がむず痒い変な顔しながらプロポーズ聞けっていうのか!?生理現象なんだから仕方ないだろ!」
「超いい雰囲気だったじゃんていうかマジごめん、寒いよな、マーヴ、立てるようになった?」
「
……
返事はいいのかブラッド坊や」
「くっそ、ずるい!先ずはあんたの体がこれ以上冷えないようにすることのほうが先決だよ!返事くれるならシャワールームで!」
「君だってだいぶ情緒ないぞそれ」
マーヴェリックは再びハンカチーフにフラワーリングだったものを包み込んでテーブルに置いた。
「君はきっと、素敵な子と結婚するんだろうと思っていたのに」
「マーヴ以外に好きな人なんかいないよ、俺は!ずっと昔から!」
「
……
ほんとブラッドショー家はすごい」
そう言ってマーヴェリックは抱え上げようとするブラッドリーを制止して、顔を傾けた。意を汲んだブラッドリーは、結局笑ってそれを受ける。触れ合う寸前で吐息のように宣言した。
「ていうかあんたもうファミリーの一員だったってことじゃん、ずっと」
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