えぬを
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ハロウィン

rsmv_20221022公開

極秘任務指示前に摩訶不思議現象で会ってたくせに覚えてない/無かったことにした/夢だと思ってる、のどれかを互いに秘密にしてるルスとマヴ。ダークスターの見せる夢なのか現実なのか。

気づくとそこは誰かの部屋だった。
ベッドは簡易的な造りだ。室内を利用しているいずれかの人物が、ピロウのそばに放置したらしいセルフォンがメッセージを受信した光で点滅している。ベッドヘッド備え付けの乏しい灯りのみの狭い部屋。室内の造りに見覚えがある。遥か昔の記憶を探ろうとしても、掴めない。
何故ここにいるのだろうか、と考える。
何があったのかと記憶を探っても、黒いもやが脳内に渦巻き、思い出せないのだ。
かた、と静かにドアが開いた。室内の入口に立っていたのは、一人の青年だった。
……マーヴェリック?」
……グース?いや、ブラッド、リー……?」
互いにぽかんと口を開けたまま見つめ合う。
室内灯に照らされたブラッドリーの顔が、呆気の表情から憤怒に変わり、それはすぐに戸惑いに変わった。
「え、え?マーヴェリック……?」
もう一度存在を確かめるようにブラッドリーがマーヴェリックの名を口にする。その声で名を呼ばれなくなってから幾年が過ぎたろうか。決別の日から今日に至るまで、憎しみ抜かれた自覚があるマーヴェリックは言葉を発することもできず、ただぼんやりとそこに立ち尽くすしかなかった。
──何故僕はここに?
「ま、マーヴ、だよ、な?」
「ブラッドリー、久しぶりだ……その、」
「ちょ、ちょ、ちょっとまって!」
──やはり会話を交わすことさえ許されないのだろうか。
声がけを遮るブラッドリーに傷つき、マーヴェリックは顔を伏せる。しかし、続いたブラッドリーの言葉はマーヴェリックでさえも戸惑うものだった。
「あ、あんた、何で若返ってんの……?しかも、透けてんだけど……
……は?」
ブラッドリーのよくわからない言葉を脳内で繰り返す。マーヴェリックはそこでようやっと自分の姿を見下ろした。見下ろして、両手を眼前に掲げてみる。
ダークスターに乗り込む際の、高機能な防護スーツ。そして、その真っ黒いはずのグローブの向こう側、驚愕した顔のブラッドリーの口髭を生やした顔が透けて見えていた。
……マーヴ、あんた、もしかして死んじゃったのか……?」
……久しぶりに会うけど、ブラッド、君グースにそっくりになったな……
呆然としたブラッドリーの言葉と、愛おしさと懐かしさを含んだ場違いなマーヴェリックの言葉が重なった。
朧げながら、マーヴェリックはここに至るまでの出来事を少しずつ思い出してきた。
……確か、テストパイロットを務めていて、さっきまで飛んでいたんだ、僕。マッハ10を超えてその先で……ぇえっと、その後の記憶がないな……多分爆散して僕も一緒に」
「嘘だろ……何で若い時の姿なのかとか思ったけど、あぁ、嘘だ、嘘だろ、マーヴ、あんたほんとに……
「あ、ブラッドリー、このテストパイロット飛行、機密だから内緒な」
「それどころじゃねーよ!」
ブラッドリーは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。どうやら透けているだけでなく、容姿も若返っているらしい。ブラッドリーの記憶の中の自分の姿なのだろうかとマーヴェリックは思考した。
大きくなったな、とか、何故この見覚えあるトップガン基地内の官舎にいるのかとか、ジャージ姿のラフな格好はきっと眠る間際で、邪魔をしてしまったな、などと、ブラッドリーに関することだけがマーヴェリックの脳内をめぐる。
マーヴェリックにとって、自身の死は近いうちに来る未来であって、それが現実になっただけのこと、と理解しているからだ。自身の死よりも、優先すべきは眼前の青年だった。
「何もかも、俺、知らないままだよ、マーヴ。あんたが今どうしてるのかとか、どこにいるのかとか、何で、願書を破棄したのかとか、俺、あんたに、ちゃんと」
「まってくれ、ブラッドリー。死んでなお君の前に現れた浅ましいゴーストの話しを聞いてくれ。夢でもいい。君に、きちんと話さなきゃ。そうでもしなければ、僕は死んでも死に切れない」
願書を破棄した真実を、今ここで話すことが正しいのかどうか、マーヴェリックにはわからなかった。けれど、こうして摩訶不思議な現象で愛し子の前に未練たらしく姿を現し、惑わせた責任を取らねば。死後の世界でグースとキャロルに怒られる。混乱の境地にあるブラッドリーの肩を掴んでやろうにもすり抜けてしまう寂しさに、マーヴェリックも自身の死を実感し拳を握った。
「君の願書を僕が抜いた、その、理由を話そう。どうかどうか、彼女を責めないで。全ては僕が招いたことだから」
……気付いてるに決まってるじゃん。母さんを愛してるよ。俺は、それを、マーヴの口からきちんと聞きたかった」
「話す。話そう、ブラッドリー。いつ僕は消えてしまうか分からない、から、僕と話してくれ、ブラッドリー」
Talk to me,と請う声に、ブラッドリーが顔を上げる。
そうして透けた体を晒し、グリーンアイズからぼろぼろと涙をこぼすマーヴェリックの頬に、ブラッドリーはそっと手を添えた。けれど、触れられない心地に、ブラッドリーも涙をこぼす。
「俺だってずっと、マーヴと話したかったのに、こんなのないよ」
「ブラッドリー、ブラッド、僕は少し早すぎた?」
……死ぬことが?そうだな、ハロウィンはまだ一週間も先だ。あんた相変わらずだ」
「ブラッド、僕は、」
「マーヴ、俺、」



「その顔は好きじゃない」
「この顔しかな……
「どうした、マーヴェリック。何か問題でも?」
「いや、今思い出したことがあって……
「?」
……何でもないよ、」
何か言いたげなホンドーに無言で笑みを返し、その口をつぐませる。友人でもあるホンドーの察して有り余る表情をも見ないふりをして、マーヴェリックは任務にのみ集中する。

〝任務から戻ったら話そう〟

ブラッドリーの緊張した顔を思い出す。
──こうしてまた、僕は、君に嘘をつく。