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net20156
2024-09-23 15:57:15
2507文字
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一夜の過ち
温かくて心地いい。
歌姫は目を瞑ったまま、肌触りのいいシーツに頬を擦り付ける。多少の頭の重さは残っているが、昨日は推し球団も勝ったし、生徒も昇級試験に合格したし、本当にいい酒だった。
今日は午後に京都に戻るだけだから、もう少し寝てよ
……
このベッド、すんごいふかふかだな
……
そこで意識が戻った。
目の前には大きな全面窓にブラインドが下りており、その隙間から細く朝日が差し込んでいる。真っ白な壁に観葉植物。
ここはどこだ。いつも出張の時に泊まってる駅前のビジネスホテルではない。
重い頭で昨夜の出来事を思い出す。
昨日は任務後に居酒屋で試合見ながら硝子と飲んでて、すんごい楽しくなったところで硝子が呼び出されちゃって、そしたら入れ替わるようにやってきたのが
――
「おはよ♡」
聞き覚えのある声に反射的に振り返る。
そこには枕に肘をついてこちらを見下ろす白髪の男。
「はあ!?」
歌姫は弾かれたように飛び起きる。同時に、身体にかかっていた毛布が腰までずり落ちた。
「お♡」
見下ろすと何も着ていない。というか下も履いてない。うそでしょ。なんで裸なの。なんでこいつと一緒に寝てんの。
混乱した思考のまま、おそるおそる五条に視線を向けると、こいつも見えている限り、上半身は裸だ。
そこから導き出されそうになる答えを頭の片隅に必死に追いやる。しかし逃げてはいけない。いや逃げ出したいのはやまやまなんだけど、裸だし、入り口側にはこいつがいるし
――
「
………
えーーーっと、一応、認識のすり合わせのために、念のために、確認しておきたいんだけど
……
」
「僕らがめちゃくちゃハメまくって歌姫があんあん喘いでたこと?」
「おい!!!!!!」
マジか。まったく記憶がない。
今までどんなに酒を飲んでも男と事故るなんて一度もしたことなかったのに。よりによってこいつと
――
「なんであんた
…
」
「まあテンション高く酔った先輩にのしかかられちゃったら?据え膳は食っとくタイプだからさ~僕」
嘘でしょそんなことしたの?!
……
でもケンタッキーおじさんを持って帰った時も、学長の髭をむしった時も、次の日は全く覚えてなかった。
いくら酔っていたとはいえ、こんなことに
―――
「
――――
責任は取るわ」
「は?」
歌姫はずり落ちた毛布を引き上げてしっかり身体をガードすると、五条に向かって正座で相対した。
「いくら酔ってたとはいえ、後輩を襲うなんて先輩として教師としてあるまじき行為よ。本当に申し訳ない。学長に報告してしかるべき処分を
――
」
「じゃあ式はいつにする?」
「は?」
今度は歌姫が聞き返す。
「いい年した大人が責任取るってそーゆーことでしょ。僕も五条家当主だし、こんなことになっちゃって家にも報告しなきゃいけないしさ~」
「いや、そうじゃなくて
――
」
なぜか楽しそうな顔をした五条が身を乗り出してきて、そのまま押し倒された。
さっきは碌に見てなかった胸筋が近づいてきて、いやでも視界に入る。無駄にいい筋肉ついてるな、くそ。
「じゃあもう一回しよ♡」
「なんでそうなんの?!」
「1回も2回も同じじゃん~それに結婚するなら身体の相性もすり合わせないと♡あ、昨日さんざん擦ったけど」
五条が遠慮なく首筋に吸い付いてきて、思わず身をよじる。顔に触れる白髪がくすぐったいし、ねっとりとした熱い舌の感覚に背筋が震える。触れた肌がしっとりと吸い付き合うみたいで、なんだかおかしい。
「歌姫
――
」
「ちょ、まって」
「昨日は僕がそう言ってもやめなかったじゃん」
「うそでしょ!? や、こら揉むな舐めるな!
…
っ、ぁ」
その日、京都には帰れなかった。
***
「実はあの時ヤってなかったんだよね~。気づかなかった?」
「
………
おい」
「まああの後、夜までしまくったから同じだよね♡」
「おい!!!!」
目の前でけらけらと笑う男に、歌姫の手の中にあった湯呑が中身ごと投げつけられる。しかし宙を舞ったそれは掌印を結んだ五条に容易に弾かれ、フローリングの床にむなしく転がった。
「歌姫、攻撃がワンパターンだって」
「あんたこそ
…
ほんっと
……
」
二の句が継げない歌姫をにやにや眺めながら、五条がテーブルに肘をつく。
「歌姫が暑い~っ!ってぽんぽんストリップ始めるから鑑賞はさせてもらったけどさ。さっさとベッド入って爆睡かましちゃうから、やりようがなかったよね。さすがに寝てる先輩を襲うのはさ~」
「じゃあ襲われたの私のほうじゃねえか!!」
思わず立ち上がった歌姫のスカートの裾を、小さな手が掴んだ。
「ケンカしてるの?」
見下ろすと、白髪の幼児が首をかしげてこちらを見ている。
「違うよ~坊。ママがパパのこと好き好き~♡って言ってたんだよ」
「ぐっ
…
」
歌姫は言い返しそうになる言葉を飲み込んで身をかがめ、目線を同じにする。
「パパがちょっといたずらしてたから注意しただけよ。ほら、夕ごはんにするから手洗ってきて」
「はーい!ごはんなに?」
「卵乗せのハンバーグ」
「やったー!!」
ごきげんに洗面所に駆けていった息子を見送って、歌姫は小さく溜息をついた。
「怒ってんの?」
五条の太い腕が後ろから絡んでくる。のしかかってくる体重が重い。
「もういいわよ。これでよかったと思ってるし」
「
…
ふーん」
五条が肩にぐりぐりと頭を擦り付けてくる。
「
…
バレたら私が逃げるとでも思ってたの?」
「いや逃がすつもりはなかったけどさ」
結局同じじゃねーかと思いつつ、なんだか可愛く思えて夫の頭を片手で撫でる。きっかけが何であれ、今、ここにある幸せを手放したくないと思っているのは自分も同じだ。
「じゃあ二人目作ろっか」
「なんでそうなんの?!」
「かっこいい奥さんにムラムラしちゃった♡」
結婚して何年も経つというのに、変わらぬ夫に呆れてしまう。
「
…
あの子が寝てからね」
嬉しそうな顔をする五条の頬に、歌姫は少し背伸びしてキスをした。
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