けろか
2024-10-19 23:31:40
3083文字
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竹くくワンドロワンライ「イタズラ」

初っ端からいちゃこらちゅーからのバトル描写、いっぱい詰め込みました

 昼休み、火薬倉庫。陽光を遮る厚い壁の中、荒い息遣いが静寂を破る。
「へーすけ、」
「ん、ふふ」
 すきだよ、と八左ヱ門の囁きが耳元で響く。兵助の背中が彼の大きな手のひらに押し付けられ、視界いっぱいに八左ヱ門の顔が迫ってくる。
「んう」
「んっ……
 柔らかい口唇が触れて、甘い吐息が交わる。
「はぁ……ね、八左ヱ門、」
「んー?」
 八左ヱ門は兵助の腰に手を回し、更に体を寄せる。袴の帯を引っ張ろうとした手のひらをペシっと叩いて阻止する。
「いてっ」
「もう!話聞いてよ……ね、次の授業さ、俺たち組み手の相手するだろ?」
「そうだったっけ?」
「そうだよ!先生の話聞いてた?んむ」
 ぐっと顔が寄せられて、上唇を喰まれる。話を聞いて欲しくて顔を背けたら、あーと不満気な声があがる。
「嘘嘘、聞いてたよ。兵助と組むんだもん、嬉しくってちゃんと覚えてたよ」
「ならいいんだけど。なあ、賭けしないか?」
「どんな」
 今度は耳朶を喰まれる。ひゃあっと声が出た。弱いからやめて欲しいって言ってるのに。
「っ、勝った方の言うことを何でも聞くって賭け」
「おー、兵助の方からそんなこと言うなんて珍しいじゃん。なんか俺にして欲しいことあんの?いでででで!」
「ある。し、勝算もある」
 袴の隙間から忍び込む不埒な手を思いっきり捻って、兵助は得意げに微笑んでみせた。挑発の色を口角に乗せる。と、八左ヱ門は答えるように片頬を上げた。
「そんな強気でいられちゃあやるっきゃないな。ほんとにどんなお願い事でもいいわけ?後で泣くなよ?」
「泣かないよ、俺が勝つもの。……決まりだな」
 約束、と日に焼けた頬に口を落としたら、ぽっと赤みが広がった。これで油断してくれるとは思わないけど、ちょっとは効いてくれるといいな。

 実技授業の内容はクラス対抗での組み手。武器の使用は可能。約束は、怪我をしないようなところで止めること。五年生ならではの授業内容だ。
「じゃあ本気で遠慮はしねーからな、兵助」
「それはこっちの台詞」
 にかっと笑う八左ヱ門の犬歯が、陽の光を受けてギラっと光った。先程、三十分程前に昼休みに火薬倉庫にてその犬歯を持つ口に食べられそうなほどの口吸いを受けた記憶が蘇る。どきりと脈が鳴いたが、飲み込んで、普段通りに返す。

 兵助の得意武器である寸鉄は、超のつくほど接近戦用武器である。リーチも短いので、止めを刺すまではその体術がモノをいうのだ。幼い頃から豆腐片手に鍛錬してきたわけで、近接戦では誰にも負けられない、その相手が恋人だろうと、それは変わらない。 
「先手必勝……っと!」
「うわっと」
 試合開始のホイッスルが鳴ると同時、掛け声とともに、寸鉄が空を貫く。八左ヱ門は身をひるがえし、木々の中へと消える。
(よし、計画通り……
 兵助は内心でほくそ笑む。八左ヱ門の武器も近接用だが、寸鉄が生きる距離に近づけばそれほどの威力はない。遠心力を使う武器なので、振り回す程度の距離が必要だ。そんなこと、五年も一緒に――この一年は恋人として過ごしてきた兵助にはお見通しだ。と、木の葉の影で八左ヱ門が何かを構える。
(やっぱり苦無に持ち替えてくるな)
 予想通り、八左ヱ門は得意の微塵ではなく苦無を構えていた。
(忍たまは苦無の扱いは基本的にみんな習う。もちろん八左ヱ門だって例外じゃない。でも、みんなが習うんだ。七松先輩のようにそれを極める者は少ない。つまり一番の得意武器じゃないものに、極めた寸鉄なら負けるはずが――
 木の幹を蹴って、八左ヱ門の胴体にかぶさるように飛ぶ。
「苦無で俺に勝てると思ったの?なんか、怪しいな!」
 キィンっと金属が擦れる音が響く。ギリギリで弾かれた。さすがにそこまで簡単には行かせてくれないらしい。
「お?怪しいところまでは気づく?さすが、兵助!」
「そりゃあ、ね!」
 寸鉄と苦無が数度ぶつかり合う。こちらが優勢だ。あと数十回合わさればこちらの寸鉄が首元に行くな、経験から計算して、距離が縮まって、八左ヱ門の足が高く舞った。それは兵助の足元を狙うように下されて――見えた。
「っ、動きが安直だよ!」
 円を描いて下される軌道を読んで、受け止めるように己の脚を上方向にずらし構えた瞬間。違和感を覚えた。
「え?」
「兵助の、足技を足で受けようって負けず嫌いなとこ、いいよなあ」
 ひやっとした風が股間を撫でる。なんで、理解が追いつかない。そこを覆う布、つまり褌がずれたと認識すると同時、八左ヱ門の目が、にやりと歪められた。懐に手が入って、ちゃりんっと鎖が鳴る。
「そーいうとこが好きだよ」
「ちょ、ま、わああ!」
 気づいた時にはもう遅かった。八左ヱ門の微塵が、蛇のように兵助の脚に絡みついていく。
 バランスを崩し、反射的に受け身をとって横向きに倒れ込む。っと、早く立ち上がって体制を整えて、ああでもその前にふんどし……!ぐるぐると思考は回るけど、片隅の理性で負けたな、と理解する。
「はい、俺の勝ち〜!兵助に、どんな言うこと聞いてもらおうかなあ」
「っ、」
 八左ヱ門の体が覆い被さってきた。もうこちらの負けなのに、ご丁寧に苦無を首元に当てられた。やめて欲しい。悔しい。ていうか、
「っおい!俺のこれ、さっきお前がやったんだろ!」
「これじゃ分かんないんだけど」
 息がかかるほどの至近距離に心臓が激しく鼓動を打つ。​​​​​​​​​​​とぼけた表情にも腹が立つし、このドキドキはきっと運動の後だけだからじゃないことにも苛立って、食いかかる。
「褌だよ!!さっきの口吸いんときになんか変な風にずらしたろ!ずるいぞ!」
「だって兵助、勝った方がなんでも言うこと聞くとか、自分が勝つ気満々だったから、イタズラしたくなっちゃった」
 体重をかけられたまま必死に抗議する。声が裏返って、八左ヱ門は悪びれずにまっと笑った。唇が弧を描いて、犬歯が光る。細められた瞳もぎらっと太陽の光を反射して肉食獣みたいだ。
 八左ヱ門の体温が、じわじわと伝わってくる。兵助は、心の中で深いため息をついた。ああ、もう今日は負けの日だ。抵抗する気もなくなった。
 抵抗する気力が抜けていく。
……言えよ、お願い事。負けは負けだ。何でも言うこと聞いてやる」
「じゃあね、兵助の豆腐料理お腹いーっぱい食べたい」
「え……!」
 八左ヱ門は、ご機嫌に歌うように言った。
 その歌声に、苛立ちも腹立ちも褌がずらされて股間がすーすーして気になって仕方がないことも全てが霧散する。純な喜びで胸がいっぱいになって、兵助の瞳が潤んだ。
「俺も……!俺のお願い事も、八左ヱ門にいっぱい豆腐料理の試作食べてもらうことだった……!」
「うれしい?兵助」
「嬉しい……!俺の豆腐料理フルコースの内容、いまから聞いてくれる……?」
 五割り増しで恋人がカッコよく見えた。いや、十割り増しかもしれない。八左ヱ門はさらににぃーっと無邪気に笑みを深めて、でも、と悪戯めいた光を双眸に宿した。
「フルコースの内容は後で聞く。……それで、フルコースの腹ごなしに、兵助と、いーっぱい、シたい」
 また激しく胸が鳴って、顔が熱くなる。目を逸らしたいけど、薄茶色の瞳に捕らわれて、出来なかった。
 なぜなら、兵助も全く一字一句同じことを考えていたからだ。八左ヱ門には絶対言えないけれど。でも、きっと今夜までにはバレてしまうだろうから。せめて今は顔を隠したくて、八左ヱ門の首をぎゅうっと引き寄せた。