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haru_haru0704
2024-10-19 20:00:07
3081文字
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欠けても満ちる
カカロ×忌炎 全年齢
お互いに気を遣いあっていた話
もう少し。
もう少し興味を持ってくれてもいいのではないか、とカカロは思う。
なんせ、カカロと忌炎が会うのは1ヶ月ぶりなのだ。
遠方での長期任務を完遂し、カカロは丸一日かけて破陣基地へと辿り着いた。その時点で既に午後10時だった。
忌炎はそれから1時間の間、ずっと書類を見つめている。
彼の集中ぶりは凄まじく、本当にずっと書類しか見ていない。ちらりともカカロのことを見ず、ひたすらにペンを走らせている。
最初の内は大人しくソファに座って待っていたカカロも、段々と面白くなくなってきた。
「忌炎」
控えめな音量で名前を呼んでみる。返事はない。
彼に悪気がないことは分かっているが、それでも少し傷ついた。
それを切っ掛けとして、彼を責めるような思考が次々に浮かんでくる。
事前に到着時刻は伝えていたのだから、仕事はさっさと切り上げておいてほしかった。だとか。
1ヶ月ぶりに恋人に会うのだから、もっと歓迎してもいいんじゃないか。だとか。
その書類はどうしても今日、片を付けなければいけないものなのか。だとか。
カカロはそんな自分の思考に辟易した。
我ながら、心が狭い。
何だかいたたまれなくなってきて、カカロは静かに立ち上がった。忌炎は気付いていない。
・・・今日はもう、帰ろう。
忌炎のデバイスに「また日を改める」とメッセージを残し、カカロは破陣基地を後にした。
最近はすっかり秋めいてきて、吹きつける夜風は冷たい。空に美しい三日月が浮かんでいるのを、寂しい気持ちで見上げながら歩く。
カカロは別に、いついかなる時でも仕事より何より自分を優先してほしいなどと考えていたわけではなかった。
ただ。
・・・ただ、1ヶ月の内のたった数時間くらいは。自分にくれたっていいのではないだろうか。
そう思ってしまっただけなのだ。
しかし同時に、そんなのは自分に不相応な願いだという自己批判的な考えも湧き上がる。
薄汚い野良犬風情が、あの美しく気高い青龍の愛を得られるなどと思ってしまったのが、そもそもの間違いだったのではないだろうか。
*
そんな出来事があってから、はや1ヶ月が過ぎた。その間、カカロと忌炎はメッセージのやり取りはせず、当然ながら会ってもいない。
それまでのカカロは、どれだけ任務で忙しくしていても2週間に1度は忌炎にメッセージを送っていた。そして、仕事に少しでも余裕が生まれれば忌炎のもとへ出向いていた。
・・・そう。メッセージを送るのも、会うために行動するのも、いつだってカカロからだ。
そのことに気付いた時、カカロは自己反省をより深くした。
もっと単純に言うのなら、自分ばかりが求めすぎている、と。そう思ったのだ。
だから、忌炎がちょうどいいと感じる間隔を探ろうと、彼はひたすらに連絡を待ち続けた。
前回からどのくらい空けば、忌炎はカカロを求めてくれるのか。1ヶ月か、2ヶ月か。それとも半年か。
永遠に連絡が来ないかもしれないという恐怖からは目を逸らし、彼は『待て』と命じられた犬のように、健気に待ち続けた。
そしてついに。
前回会った日から40日後、忌炎から「会いたい」というメッセージが届いたのだ。
*
「会いたい」
たったそれだけの短いメッセージを送るのに、忌炎は数日のあいだ悩んだ。
彼も忙しいのだから、自分の我儘で呼びつけるべきではない。
しかし、もう長いこと会っていない。
会いたい。会って、話をして、思う存分触れ合いたい。
そうは思うものの、罪悪感という枷が忌炎の行動を阻む。
前回会った時、カカロを放置して書類にかまけていたのは、紛れもない自分なのだ。
そんな自分が、どの面下げて「会いたい」などと言えるのか。
カカロもこんな恋人に呆れ果て、愛想を尽かしたからこそ、連絡してこないのでは?
そんなことをぐるぐると考えてしまって、中々メッセージを送ることができなかった。
普段の忌炎であれば、自分の落ち度について誠心誠意謝って、それから次の約束を取り付けることに躊躇などしなかっただろう。
だが相手がカカロとなると、忌炎はたびたび愚かな行動を取ってしまう。
カカロを縛りつけたくなくて、でも嫌われたくもなくて、どうしたらいいのかよく分からなくなって。
それはひとえに、カカロという男が彼にとって特別だからに違いなかった。
***
忌炎が連絡をした次の日の夜、カカロは破陣基地へとやってきた。
久しぶりに会ったカカロは、嬉しそうな顔をしている。
そのことに安堵しつつ、忌炎は口を開く。
「この前はすまなかった。本当に、悪かったと思っている・・・」
そう謝ると、カカロは少し驚いたような顔をした。
それから薄く口を開き、何度か瞬いて、そして視線を明後日の方へやった。
「・・・謝るのに40日もかかるのか」
カカロにしては珍しい、拗ねたような声。
いや、『ような』ではない。拗ねている。
あの泣く子も黙る幽霊猟犬の団長、カカロが。
そっぽを向いて、ほんの少しだがむくれている。
忌炎が呆気にとられていると、カカロは続けて言った。
「・・・いや、違う。何でもない。何十日に1回だろうと、お前から連絡が来るだけで喜ばしい。それは、お前にとって・・・野良犬に餌をやるような、ただの気まぐれなのかもしれないが」
「ま、待ってくれ!何か勘違いをしてないか!?」
野良犬に餌をやるような?ただの気まぐれ?
そんな風に気軽に、そして無責任に連絡ができるのなら、どんなに楽だったことか。
「・・・勘違い、とは?」
カカロはおずおずと忌炎に視線を向けた。
「俺が長い間連絡をしなかったのは、その・・・いつもお前の方から連絡をくれるから、それに甘えていた。時間ができたら連絡をくれるだろう、連絡が無いのは忙しいからだろうと思って・・・だけど一向に連絡が来ないから、さすがに、もう限界で・・・」
語尾が萎んでいく。
いざ口に出してみると、なんとも自分勝手で情けない話だ。
忌炎は自分を恥じた。
だが、カカロは怒りも呆れもしなかった。
代わりに、縋るような目で忌炎を見る。
「・・・つまり、俺を気遣っていたということか?もし俺が暇だと分かっていたなら、もっと早く連絡をしたと・・・そういうことでいいのか?」
「ああ・・・本当は、もっと早く会いたかった。ここ最近、ずっと寂しかったんだ」
きちんと言葉にするのは、少し気恥ずかしい。
けれども、どうやら随分と自分を卑下していたらしい恋人に対して言葉を尽くさぬほど、忌炎は薄情ではなかった。
「だからその、もっと自信を持ってほしい。お前が思っているよりもずっと、俺はお前のことが好きだ。お前が会いに来てくれるのはとても嬉しいし・・・些細な話題でも、メッセージが来たら嬉しいよ」
「・・・頻度は、どれくらいがいいんだ?」
カカロが真面目な顔で聞いてくるので、忌炎は思わず笑ってしまった。
以前から真面目な男だとは思っていたが、ちょっと真面目すぎるのかもしれない。
「頻度なんか気にせずとも、お前が送りたい時に送ってくれればいい。毎日でも問題ないくらいだ。俺の方からも、もっとちゃんと送るようにするから」
「分かった」
カカロは頷くと、そっと忌炎の頬に手を這わせる。
「俺も、お前に会いたかった」
囁くように言うと、彼は忌炎に口づけた。
最近はすっかり秋めいてきて、忌炎の部屋の中も少し寒い。だから、恋人の唇の温もりは殊更に心地よかった。
口づけを終え、ベッドへと倒れ込む彼らを月上がりが照らしている。
今夜は、満月だ。
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