とはり
2024-10-19 02:54:41
3239文字
Public ひめこは
 

サテンの蝶がひらく夜

「プレゼントはわし……♡」をするひめこは
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今年のめる誕に急に思いついてその日のうちに出来たほやほやを投稿した、私にしては珍しいパターン やればできるんじゃん
受が「好きにして」って囁くの大好きだから書けて満足

 コンコン、と控えめなノックがされてHiMERUは腰かけていたベッドから渋々立ち上がる。
 七月七日、二十一時。自身のバースデーイベントを終えたHiMERUは用意されたホテルで、SNSに流れる祝いのメッセージを眺めている最中だった。
 ルームサービスなどを頼んだ覚えはないが、一体誰が部屋を訪ねてきたというのだろう。余韻に浸っていたところに水を差されて幾分かささくれだった気持ちでドアの前に立つ。
「どちら様ですか」
「HiMERUはん、こんばんはぁ。わし……桜河こはくやけど。開けてくれへんやろか」
「桜河?」
 ドア越しの声はくぐもって聞こえるが、確かにこはくの声だ。HiMERUは警戒を解きながらも、はて、と顎に指を添える。どうしてここにこはくがいるのだろう。
 こはくからは今朝に祝いのメッセージを貰ったきり特に会う約束もしていなかったはずで、このホテルに宿泊することも知らせていない。こはくの情報収集力をもってすればそれくらいの情報は秘匿していたとしても容易に把握できそうではあるが。
 じっくりと推理を進めていると二度目のノック音に続いて「HiMERUはん、できれば早う開けてほしいんやけど」と催促の声が聞こえる。
「ああ、すみません。今開けますね」
 ドアの奥の声に焦燥が滲んでいるような気がして、胸にひっかかるものがあるが、今日という日にこはくに会えることはHiMERUにとって願ってもない幸運だったので、促されるままに扉を開く。
 開いた扉の先の光景にHiMERUの思考が一瞬止まった。
「HiMERUはん、お疲れはん。お誕生日おめでとう」
 HiMERUの顔を見るなり、可憐な花が開くように控えめにはにかむ表情は、まごうことなき愛おしい恋人である桜河こはくその人物だった。気になったのは、色づいた頬のもう少し下、首に巻かれて蝶ネクタイのような形で結ばれたピンク色のサテンリボンだ。
「あの……それは?」
 祝いの言葉に対する礼も忘れて首もとを指で示すと、こはくの顔が更に色を深める。視線をどこというわけでもない宙に彷徨わせ、唇を何度か開いたり閉じたりした後、「お誕生日のプレゼントな。何がええかなっち思うたんやけど……」とたどたどしく前置きをされる。
「た、誕生日のプレゼントは、わし……! 受け取って、くれるやろか……?」
 おずおずと上目遣いに首を傾げられる。リボンの先が愛らしくふわりと揺れるのに目眩がして、HiMERUの思考は完全に停止した。
……
「な、何か言うてや……!」
「誰の入れ知恵ですか」
「そういうことやなくて!」
 一番最初に浮かんだ言葉をそのまま口に出してしまった。こんないかがわしい贈り物をけしかけてくる人物など思い当たるのは一人しかいない。自明の問いをこぼしてしまうなど理知的なHiMERUらしくない。強い動揺を自覚してひとつ深呼吸する。
「これをしたら絶対喜ぶっち言うたくせに、無反応やないかっ。あのボケ、わしをからかいよったな……っ」
 拳を握りしめたこはくが地面に向かってぼそりと悪態をつく。
 件の人物には帰ったら一発お見舞いすることとするが、今だけはほんの少し感謝してやってもいい。
 こはくには無反応と捉えられてしまったがむしろ、喜びすぎて浮かれているくらいなのだ。あまりに刺激的な贈り物に、嬉しいだとか可愛いだとかそういう感情表現を全部すっ飛ばしてしまった。今すぐこの愛らしい生き物を腕の中に掻き抱いてその肌の全てにキスの雨を降らせたいが、ドアを開け放ったままでそれを実行するわけにもいかない。
「とりあえず中にどうぞ」
 持てる理性を総動員して逸る気持ちを押さえつけながら、こはくの手首を掴んで部屋に招き入れる。こはくの体が部屋の領域に収まったのを確認するや否や扉を閉めて鍵をかけた。
「HiMERUはん、ごめんな。こんなしょうもないことに付き合わせ、て……っ」
 溜め息がてらリボンをほどこうとしたこはくの手を咄嗟に掴んで、体ごと壁に押し付ける。もうほどいてしまうなんてもったいない。
 顎を持ち上げて唇を奪うとこはくの言葉じりが口内に消えた。
「ん、っ……ふ、ぁふ」
 不意な口づけに開いたままだった唇のあわいに舌を差し込んで口内にを味わうように蹂躙すると、甘さを含んだこはくの吐息がこぼれて背筋を興奮が駆け上る。空いている指先でしがみつくようにHiMERUの服に皺を作りながらも懸命に応えてくれるこはくのいじらしさがなけなしの理性を甘い蜜の中へと溶かしていく。
 舌の表面も歯列の裏も、上顎のざらざらとした部分も、丹念に舌で味わうとこはくの膝から力が抜けていき、唇を離して腰を支える。肩で息をしながら見上げてくるこはくの顔はもう既に蕩け始めていて、水膜の張ったすみれ色はHiMERUを扇情するのに十分な色香を放っている。
 腰を抱きながら額に口づけると、HiMERUの肩にしがみつく指先に力が籠る。HiMERUに体重を預けて、甘えるように肩口に額を擦り付けてくるこはくを抱き寄せてうなじ辺りにぼんやりと視線を向ける。首筋に一本通ったリボンを見て「首輪みたいだな」と疚しい感情がふつりと沸き上がり、掻き消すようにこはくの髪に鼻先を埋めて深呼吸する。
 『次』に進む前に伝えなくてはいけないことがある。腕を緩めてもう一度こはくと向き合う。
「とても嬉しいです、桜河。あなたが会いに来てくれたことも、祝いの言葉も、こちらのプレゼントも」
 爪先でリボンの縁を引っかけながら首筋を撫でると、肩を震わせたこはくが長い睫毛を伏せて小さく「おおきに……」と息を吐いた。
「わざわざHiMERUの泊まるホテルを調べて来てくれたのですか?」
「ん。ホテルもスケジュールも事務所に訊いたら教えてくれたわ」
「こちらのリボンも自分で選んで着けてくれたのですか?」
「そ、うやけど。こんなもん着けて廊下に突っ立っとるんが恥ずかしゅうて、HiMERUはんが後一秒ドアを開けるんが遅かったら帰ろうか思うた」
「それは、すみません。まさか桜河がここまで会いに来てくれるとは思わなくて、驚いてしまいました」
「プレゼントといえばサプライズ……なんやろ? ほんなら作戦成功やね」
「桜河はこの後、寮に帰るのでしょう。終電は何時ですか?」
「あ、えっと。今晩はここに宿とったから、終電は心配せんでええ、よ……? てかHiMERUはんキスしすぎ、っ。くすぐったい……!」
 欲望のままこはくの肌にキスの雨を降らせていると、腕の中でもぞもぞとこはくが照れ隠し混じりに身を捩る。キスで気を逸らしながらベッドまで連れ込んだが、こはくの告げた言葉に耳を疑い思わずそのままシーツの上に押し倒した。覆い被さるとこはくの顔に自分の影がかかる。
「今夜は帰らないって言いました?」
「そ、そこまでは言うてへんけどっ」
 下から両腕が伸びてきて首に絡みつくと、こはくの顔が徐々に近づいてきて唇が押し潰される。
「今日のわしはHiMERUはんへのプレゼントやから……
 好きにして、と熱い吐息で肌を撫でられてしまっては、瓦解寸前だった理性の糸などたやすく灼き切れてしまう。返事の代わりにもう一度深い口づけを交わすと、こはくは鼻を鳴らしながら膝頭を擦り合わせた。
 唇を離して見つめ合いながら、HiMERUはこはくの髪を撫でた指をするすると下へおろしていく。こめかみ、耳、火照った頬、顎先、そして喉の膨らみへと辿り、そこを彩るサテンの繊細な感触を指先で楽しむ。
 滑らかなサテンの端を摘まんで焦らすようにゆっくりと引っ張っていくと、こはくの喉を飾る蝶が羽根の形を歪に崩していく。どちらからともなくこぼれる期待に熟れた吐息がふたつの唇の中間地点でぶつかる。
「とびきりのプレゼント、いただきますね……♪」
 桜色のリボンがほどけたら、甘い夜がひらいていく。