とはり
2024-10-19 01:16:38
1237文字
Public ハデ少
 

最初で最後の隠し事

ごめんな、ハーデイ。俺は今からあんたに最初で最後の隠し事をする

『あんたになら、俺は殺されてもいいって考えてたんだ』周辺の拡大解釈妄想
『氷結の死神』から受けたダメージで少年の命が既に致命的な状態になっていたとしたら……?という根拠も何もないところから生まれた妄想
【Twitter(現:X)からの再掲】

黒雪1周年に投稿してた pixivにはあげてなかった

 心臓が痛い。胸が痛い。息が苦しい。
 これは寒さのせいか、それともハーデイから真実を突きつけられたせいか。
 いや。きっと、教会で襲ってきたあいつのせいだ。
 紫色の長髪を揺らめかせながら近づいてきたあの狂気じみた笑みを思い出して身震いする。あいつから放たれた冷気に当てられてからずっと身体の芯がしんと冷えている。ハーデイが助けに来てくれなかったら、俺は今頃凍り漬けの標本にでもなっていたことだろう。
 心臓が脈打つ度に、身体の中心に凍えるような痛みが生まれる。心臓の一部が凍り始めて動きが鈍くなっている感覚がある。
 神様が決めたっていう運命に従おうが抗おうが、俺の命はどのみちもう長くないのかもしれない。他人事のように頭の隅で思う。
 コレクターだかなんだか知らないが、見ず知らずのおかしな奴に殺されるのは絶対に嫌だ。
 どうせ、殺されるなら……
 そう考えた時、もう会うことも叶わない大切な友達の顔が脳裏を過る。その顔と共に浮かぶのは暖かな思い出ばっかりだ。
 凍えた身体を抱えて思い出の温もりに縋る様は、ハーデイに教えてもらったあるお伽噺の少女のようだ。心細さに空を見上げると、見慣れた漆黒の影がゆらりと突然目の前に表れた。
 夜より深い黒の髪、それと対照的な白い肌。ヒトの血の色より濃い真っ赤な瞳。疑いようもないハーデイの姿そのものだった。
 幸せな追憶が見せた幻覚かと思った。
 その上、すっと細められた深い赤の瞳が「元気かな」なんて問いかけてくるから心底驚いた。俺の心臓の状態が見透かされているのかと、凍った心臓が飛び出してしまうところだった。
 けれど、見つめ返したハーデイの瞳が少し照れくさそうに伏せられるのを見て、まだ勘づかれていないことを感じ取る。
 だからこそハーデイの問いかけに、襲われた時に受けた傷で心臓が凍ってしまったみたい、なんて打ち明けることはできなかった。
 伝えたらハーデイはどんな顔をするだろう。心配してくれるだろうか、怒ってくれるだろうか、悲しんでくれるだろうか。だけど、そのどれもが俺の望む表情ではないから。何でもない振りをして言葉を交わした。
 ハーデイの唇が夜の雪みたいに静かに俺たちのこれからを話そうと告げる。
 人間離れした容姿と雰囲気に、手のひらの温度。ハーデイが死神だって聞かされてどこか腑に落ちるところもあった。死はきっとこんな風に冷たくて美しい形をしているのだろうとも思った。
 ヒトよりうんと冷たいハーデイの手のひら。けれど、そのぬくもりを知っている。
 この心臓が凍りきってあいつに殺される前に、どうか。
「あんたになら、俺は殺されてもいいって考えてたんだ」
 俺の命を、全部を、ハーデイが奪って。
 それまでは、どうか気づかないでくれ。運命に従順な振りをして、本心ではあんたに手を下されたがっている俺の身勝手な欲望に。
 エゴと氷の毒を秘めたこの身体ごと包み込んで。暖かなあんたの腕の中で眠らせて。