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とはり
2024-10-18 23:57:30
2633文字
Public
ひめこは
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からから、きらきら
琥珀糖をつまむひめこは
ワンライのお題『琥珀糖』をお借りしたもの
タイトルつけてなかったから今つけた
20220327
20250726加筆修正
20250809加筆修正(再)→pixivへ
からから。
こはくが瓶を揺らすと軽やかな音が鳴って色鮮やかな砂糖菓子がガラスの中で踊る。
「おや。琥珀糖ですか」
レスティングルームの奥で頬杖をつく横顔に声をかけると、はっと顔が上がって視線がぶつかった。
「HiMERUはん、おつかれさん」
HiMERUの姿を映すだけで嬉しそうに綻ぶ瞳が健気で、きゅうっと胸がときめく。
「これ、差し入れでもろたんよ。量もあるし綺麗やし、一人で食べるんはもったいないっち思うて」
「それで、HiMERUを誘ってくれたのですね」
「おん。突然呼び出したのに来てくれておおきに」
「他ならぬ、桜河のお誘いですから」
言いながら、こはくの向かいの席に腰を下ろす。それと同時に、こはくは蓋を開けて瓶の口を差し出した。宝石と見紛うほど煌めく琥珀糖が溢れんばかりに詰まっている。
それには手を伸ばさず、あ、と口を小さく開けると、こはくは眉を下げて困惑の表情をした。
「えぇ
……
自分で食べぇや」
向けられる冷ややかな視線を微笑みで受け流す。あーん、を諦める様子のないHiMERUの頑なさに屈して、こはくは摘まんだ琥珀糖をおずおずと差し出す。ぽいっと半ば放るようにHiMERUの口に投げ入れると、はぁ、と詰めていた息を吐いた。
「人の目があるっちいうんに
……
」
「誰もこんな隅の席のことなど気にしていないのですよ」
落ち着かない様子で辺りを伺うこはくを宥める。廊下を行き交う人々、遠くのテーブルで資料を読み込む人、窓の外の景色を眺めながら軽食を摂る人、向こうのソファーで談笑をする数人のグループ。皆一様に自分のことに夢中で、こちらに向かう視線はひとつも見つからなかった。
まさかここで恋人たちが逢瀬を交わしているなどとここにいる誰も思いはしないだろう。こはくとHiMERUが恋仲であることだって知られていないのだし、万が一、距離が近い瞬間を見られたところで同じユニットに属するメンバーの二人が仲睦まじくお菓子を食べている画にしか見えないのだから、周りの視線など気にするだけ損だ。
舌で転がしていた琥珀糖を噛むと、ほどけるように繊細に崩れる結晶の中から、甘く柔らかい感触が溢れてくる。
堂々と恋人との逢瀬を楽しむHiMERUの傍らで、こはくはどこかそわそわした様子で、時折所在なげにHiMERUに視線を向ける。自意識が膨れ上がってしまうほどの初々しさが可愛らしくてどうにも口元が締まらない。
「気になって食べられないようでしたら、HiMERUが食べさせてあげましょうか?」
「そ、そんなことしていらん!」
揶揄うと頬にぽっと色が差す。白い肌の奥から滲む朱は琥珀糖のもつ淡い色彩のように美しい。
HiMERUの言葉で思い出したように琥珀糖を口にしたこはくは「あ、おいしい」と口角を緩めてすぐさま次の粒に指を伸ばした。
「そういえば、琥珀糖の名前の由来を知っていますか?」
琥珀糖をシャクシャクと噛み砕きながら、こはくは首を横に振る。
「んーん。考えたこともなかったなぁ」
「一説によると、クチナシの実で寒天を琥珀色に色づけしたことが由来になっているのだとか。昔は琥珀糖と言えば、一色しかなかったようですよ」
「ふぅん。てっきり寒天が砂糖に閉じ込められとるからやと思うたわ。宝石の琥珀が生き物を閉じ込めるみたいに」
琥珀糖を放り込んでいた手を止めて、こはくは手元の瓶をじっと見つめる。その視線は中の砂糖菓子だけに注がれている訳ではなさそうだった。
どこか遠くを見つめる視線は、琥珀の成り立ちと自身の生い立ちとを少なからず重ねているに違いなかった。長い間、座敷牢で囲われていたというセピア色の思い出が、その視線の先に映し出されているように思えた。
かける言葉を探している内に、こはくがふと顔をあげる。そこに憂いの色は既になく、代わりに気恥ずかしそうな色がみえる。
「それにしても、HiMERUはんにこのお菓子の名前を連呼されると、くすぐったい気持ちになるわ」
瓶を一度揺らしてはにかむ表情は真新しい蕾が綻ぶような愛らしさを覚える。大人びた憂色を纏っていたと思えば、途端に初心な可愛らしさを見せてくるのだから、たまらない。その甘美な表情をもっと引き出したくなる。
「お望みでしたら何度でも呼びますよ、こは──」
呼ぼうとした唇に琥珀糖が押し付けられる。
「そんなん頼んどらんっ」
差し出された甘い塊を口に含んでカリッと歯を立てる。舌の上に優しい甘さがじんわりと広がった。
「遠慮しなくてもいいのに」
こはくが握る瓶の中からひとつ摘まんで桜唇に押し当てる。
淡く染まった頬の上、すみれ色の瞳が逡巡するように揺れる。HiMERUを見つめる瞳が、砂糖のように甘くとろけていく。受け入れるように唇が開くと、指先の琥珀糖がころん、と口内に消える。
単一の色で作られていた琥珀糖が、時代を経て様々な色彩を得たように、きっと彼もこの世界で自らの人生を歩みながら豊かな色彩で輝いていくのだろう。願わくば、鮮やかに色づいて満開に花開く瞬間をいちばん傍で見つめていきたい。
「好きですよ、桜河」
レスティングルームの喧騒に溶け込むようなささやかさで。されど、目の前の愛しい恋人に届くように、一音ずつ丁寧にささやく。
「
……
っ!?」
きちんと届いたらしい言葉に、硬直したこはくの顔がみるみる赤に染まっていく。目の前で色彩が生まれていく瞬間に愛おしさが溢れて、甘やかな幸せが体の隅々まで満ちていく。
「こ、こら! せやから、誰かに聞かれたらどないするんや!」
口内の琥珀糖をザクザクと噛み砕き飲み下したこはくは、きょろきょろと不審なほど辺りを見回した。ひとつひとつの戯れに毎度新鮮に反応してくれる様にくすくすと笑みがこぼれる。
「桜河は言ってくれないのですか?」
言いながら、再び瓶に手を伸ばす。しかし、瓶はこはくの胸に引き寄せられてしまい、中身を掴むことは叶わなかった。
「っ、意地悪なお人にはおあずけじゃ!」
瓶を両手に抱えて、ふいっとそっぽを向くこはくの横顔に目を細める。
「お預け
……
ということは、後のお楽しみということですね?」
「
……
」
返事がないのは肯定だと都合よく捉えて、これからこはくが与えてくれる甘い未来への期待に胸を踊らせた。
きらきらと音鳴る瓶の中には、美しい宝石がまだたくさん詰まっている。
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