キャンドルの淡い灯がゆらゆら揺れる。照明を全て消して、遮光カーテンを引いた部屋の中では幻想的に揺らめくオレンジ色がなければ互いの輪郭をつかむことさえ難しい。
「綺麗やね」
隣に座る少年、桜河こはくがぽつりと呟く。その言葉に同意すると灯を映した彼の瞳が少しばかり細まる。
薄い毛布一枚を二人で分け合って壁にもたれかかると、体の下のベッドが軋む。
秋めいてきた気候に多少肌寒さは感じるが、肩を寄せ合っていると気にとめるほどのことでもなかった。
Crazy:Bがとうに手離した過去の住み処、旧館の一室。住み処といっても元々集まりの悪かったユニットメンバーはほとんど使うことなく、その役目を終えた。捨て置かれた場所に二人で忍び込み、用もない遮光カーテンまで使って締め切ったのにはこれからやましい行為を行うからに他ならなかった。
静かな部屋では潜めるような自分達の息づかいを拾うことも容易い。か弱くも温かな灯が蝋を溶かしていき、辺りに甘い香りが満ちていく。
隔離されたこの空間で、二人きりの時間を楽しんでいた。
隣で大きく息を吸う音がしたと思えば、こつんと肩に衝撃を受けた。軽く顔を向けて確認すると、こはくの頭がぴっとりとくっついている。
「ええ匂い。アロマキャンドルっち洒落たもん、はじめてや」
膝を抱えていたこはくの指が毛布の中のHiMERUの手を探り当てると、ゆっくりと絡まる。触れた手は冷たく、少し汗ばんでいた。一回り小さいその手の緊張を解すようにそっと握り返す。
「お気に召したようでよかったのです。選んだ甲斐があります」
灯りに照らされるこはくの髪は陽光を受けた桜の花を思わせて、今宵自分がその美しく儚い花を乱れ散らすのだと思うと罪悪感と共に抗いがたい高揚感が胸に沸き上がってくる。
「緊張していますか?」
落ち着きなく絡めた指を動かしているこはくに問いかける。
「HiMERUはんは緊張してへんの?」
「していない、と言えば嘘になりますね」
こはくの問いに自分の心を偽るべきでないと考え、胸の高鳴りを隠さずに伝える。
「ほっか。一緒やね」
ほっと息を吐いたこはくの表情がわずかに緩む。
「HiMERUはんは、はじめて?」
「もちろん、なのです。……桜河は?」
「はじめてに決まっとる」
互いに初体験だろうと思ってはいたが、今まで言葉にして確認したことはなかった。HiMERUもまた、こはくの言葉に安堵し息を吐いた。
会話を交わす内に、甘く華やかな香りが部屋と体内を満たして、こはくの体がうっとりとHiMERUにしなだれかかる。触れる熱に、こはくの緊張が徐々にほどけていくのを肌で感じる。
「桜河」
名前を呼ばれてこはくの顔がHiMERUに向く。
HiMERUの指がすみれ色を縁取る眦を撫でると、覚悟が出来たと言わんばかりに頷いて、その瞳を閉じる。
ちゅ、と触れるだけのキスを薄桃色の唇に落として、キャンドルの灯を消すために腰を浮かせると、引き留めるようにこはくの指先に力が籠る。
「消してまうの?」
「え?」
思いもよらない言葉に声が上擦る。
「真っ暗になったら、HiMERUはんが見えんくなってまう」
こはくの眉尻が下がっているのを見て、お留守番を言いつけられた子犬が脳裏に浮かんだ。
普段の勝ち気でしっかり者な印象とはおおよそ真逆な言動に戸惑い、HiMERUはもう一度腰を下ろす。
「このままでいいのですか?」
不安げに揺れていた瞳に問いかけると、こくりと桜色の頭が控えめながら縦に振れる。
再び見えたこはくの頬がほんのりと色づいていて、部屋を満たす香りと相まって匂い立つような甘美さにくらくらと脳が揺れる。今すぐに体の奥まで滅茶苦茶に暴きたいという性急な衝動を深呼吸で押さえ込む。リラックス効果のある香りを選んでいて正解だった。
息を吐いて向き直ると、こはくはこれから始まる行為を意識してか、瞳に欲を滲ませてHiMERUを見つめていた。
頬に手を添えただけで華奢な肩が大きく跳ね、みるみる首まで朱に染まって熱をもつ。こはくの初な反応を目の当たりにして愛しさがあふれ、つい口元が緩む。
「真っ赤ですね」
「う……っ、キャンドルのせいでそう見えとるだけやっち……!」
「そういうことにしておきましょうか」
愛らしい言い訳にくすりと微笑み、すぐ傍にある柔らかな唇を奪って、絡まるようにシーツの海になだれ込んだ。
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