米田
2024-10-18 22:29:22
3373文字
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歌会黒閃の読み

2024年10月18日に開催された歌会黒閃の、詠草への読みです。

1.頬に泥 はらいもせずに立っている向日葵の目はどこまでも黒(夜際さん)

景がぱっと浮かんでくる、すごく鮮やかな、でも少し暗く翳っている部分があるのも伝わってくるような歌だなという第一印象でした。
向日葵という語のチョイスから、日車さんの歌なのかなと思いました。
自分の信念をもはや信じられなくなってしまって、自分の手を汚したから頬につく泥。
それを否定することも隠すこともせず立っている彼の姿が目に浮かびました。
彼は、偽装するということをしないのですよね。自分がやったことの罪を誰よりもわかっているし、自分が受けるべき罰についても誰よりもわかっている。
けれど彼の考えているそれは本当は彼の罪を償うためには不適当で、彼は生きて罪を償い続けることに意味があると、最終回あたりを読んでいて私は思っていたので、すごく、こう、グッとくる歌だなあと思って読みました。
向日葵の目はどこまでも黒、という下の句が、その黒の度合いが、本当に黒々とした黒なんだろうな、と思えると言いますか、引き込まれてしまうような黒なんだろう、と思ったんですよね。黒ってちょっと怖いけど、でも魅力的である、という。呪術師全体にも言える歌なのかな、と最後まで読んでみて思いました。





2.きみが手に割った柘榴あふれ続きおり愛の烈しき不整脈聞く(あばよさん)

これ、誰の歌なのかというのが最初わからないまま読み進めました。
でもそう言えば直哉くんがコミックスの表紙を飾ったあれの、直哉くんが頭上で潰している果実が柘榴だというのをたしか展示会で見た気がするので、直哉くんの歌なのかなあと思いましたね。
主体の見つめる人が手に割った柘榴は、溢れ続けている。あふれおり、ではなく、あふれ続けおり、なのが重要なのだと思います。
上の句を5・9・5と読むべきか、5・7・7と読むべきなのかは人によると思うのですが、あふれている、それが続いている、ということを表すものとしては、5・9・5が適切なのかな、と思いながら私は音読したりして読んでみました。
その上で、下の句がかっちりと7・7で終わっているのが美しいと感じました。
個人的には柘榴ってすごく耽美な果物だと思っているんですけど、それを割り開く、その果肉が溢れ続けている、ってすごくエロティックだしグロテスクだと思って、勝手にすごくドキドキしましたね。
で、主体が見ている人は柘榴を割っていて、その脈は不整脈のように乱れている、烈しい愛によって。ということで、下の句もすごくドキドキする歌になっていて、これを直哉くんの歌として読む時、直哉くんと愛という語が結びつくのって、私としては甚爾への感情以外に思いつかなかったんですよね。
直哉くんって概ね最低だけど、甚爾への憧憬だけは美しい男なので。
なので、直哉くんの甚爾への感情を、誰か第三者が見ている、その第三者が主体の歌なのかなと思いました。
直哉くんじゃなかったとしたら誰だろうなと考えたんですけど、脹相の歌としても読めるのかなと思いましたね。
脹相から兄弟達への思いの歌。
柘榴を割るのは血のイメージで、それがそのまま後半の不整脈まで繋がるので、これもなかなかいいかなと思います。
脹相の歌として読むと、柘榴の語のイメージがちょっと綺麗めになるのがおもしろいなと思いながら読みました。





3.その百合の余生のように白く在る愛にあなたの名だけをしるす(ふみさん)

これ、読んだ時にすごく綺麗で、美しい愛だと思いました。
直感で、裏梅さんの歌だと思いました。
百合の余生ってどういうことなんだろうと考えて。花が咲いて、美しい時期が過ぎて、萎れて枯れていく、そのことを余生と言っているのか、それとも土に埋まっている球根だけの状態になっているのを余生と呼ぶのか。
でも花って、枯れても次の年にはまた花が咲く。もしかしたら白百合の花弁が落ちる、その花弁のことを言っているのかなと思って読みました。裏梅さんの身にしてみれば、死滅回遊に参加している今こそが余生なのかなとも思います。
裏梅さんは、今を生きている理由は、全てあなたなんだよと思っているんだろうなと思って、だから私の愛は全てあなたに向いたもので、あなたの名だけが刻まれたものです、と言い切ってくれそうで。
二人の関係性ってこんなに綺麗じゃないと思ってたのに、最終回あたりを読んだら、いや、綺麗だわ……めちゃくちゃ綺麗だわ……となったんですけど、裏梅さんと宿儺さんの関係って裏梅さんからの一方的なLOVEなのかなと思いきや、ちゃんと宿儺さんからのお返事があり……すごくいいなと思ったんですよね……





4.傷でさえあなたの傷にならぬまま完璧になる 馬鹿、夢みたい(米田)

自作でした。
真依ちゃんから真希さんへの歌。
真希さんは心がとっても強いので傷なんかは彼女にとっての傷にはなり得なくて、唯一傷になるとしたらそれは真依ちゃんの存在だった、と思っています。
実際に彼女達は片方を失って片方は完璧になった。
双子は双子のままでは一生完璧にはなれない存在だから。
だからと言って、自分が死ぬ選択をできてしまう真依ちゃんのことを悲しいなと思うし、彼女達を二人のままで生きさせてあげられないあの世界のことが憎いのですけど。
真依ちゃんの愛って、自分は別にどうなったって、あんたが生きて全部壊してくれるならそれでいい、という愛で、見返りを求めない無償の愛ではない。でも相手のために自分の全部を渡していなくなるって、そんなのって……と思うわけですよ。
真希さんがどんな気持ちになるかも知らないで、自分の全てを与えて死んだ真依ちゃんの、自分勝手な愛のことを、忘れたくないなと思いながら読みました。





5.白百合の花なぞ手向けてやらないよ ふたり並んで正座で待ってな(mofu.さん)

硝子
これは、家入硝子さんの歌だと思います。
硝子から、悟と傑へ向けた歌。
花なんか手向けてやらない、というのがいかにもさっぱりとした硝子らしくて、でも二人に向けて待ってな、と言うのが、くう〜……硝子……!!
最終回あたり、硝子が恵と二人で墓参りに行っているのが印象的でしたけど、悟はともかく、傑の墓は作られていないんじゃないかなあと思うので、彼女はきっと、傑の墓参りに行ったことがないんだと思うんですよね。
それを踏まえての、悟と傑に向けた、花なぞ手向けてやらない、という上の句は彼女にも如何ともしがたい現実の部分と、彼女自身の意思としての手向けない、という感情の部分があり、複雑でいいなあと思います。
正座で待ってな、という下の句もいいですよね。きっと彼女は二人に言いたいことがたくさんあるわけで、文句と説教をするために私が行く時まで待ってろ、というのは、彼女なりの愛情のようなもの、二人への呆れを含んだ愛着を感じますね。





6.耳の奥底居座った正論は口うるさくて 心地よい響き(のゆきさん)

これは悟と、悟から傑に向けられた感情の歌ですね!?
耳の奥底に居座っている、というのが人じゃなく正論にかかっているのがおもしろいですね。傑が何度も言って聞かせたかもしれないお小言や彼の理想なんかが、今も悟の耳には記憶として残っていて、それが色褪せていないんだろうなあというのがありありと伝わってくるかのようです。
今でも青は澄んでいる、じゃないですか
口うるさいのに心地よく感じる、という矛盾のようで彼の中ではそうじゃない、両立している感情が、悟から傑に向ける感情らしくていいですね。
正論は嫌いだし口うるさいと感じるのに、今でも彼の声が耳の奥底に居座っているし心地いいんだ、というまだ比較的若い頃の悟の歌という感じがしますね、もしかしたら傑の離反直後くらいなのかもそう考えるともう隣にいない人の声を思い出しながら、「でもアイツの声って俺にとって心地いいものなんだ」と自覚する瞬間というか、その時の歌なのかなと思いました。切ないですけど、でも自分にとっての確かなことを確認する瞬間って、大切なので。
すごくいい瞬間を捉えた歌だなあと思います。


皆さま素敵な歌と読みをありがとうございました!