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gib_fox
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スモロ
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49:51
転生後現パロ、スモやんも同じ思いで、スモやんの方が先に勇気を出したという話
49:51
記憶がないと言う。だから前世で見たことのない表情を向けられる。笑顔なんかもわずかだがある。おれはそこに半分ざわめき、半分はこの先を心配する。その口から「ロー」と出る口調が、いつ疑惑と胡散臭さを全開にした低い声に変わるのか、常に様子を窺っている。
窺い疲れ、しばらく会うのを控えていれば、街中で違う人と歩くあいつを見かける。それでいい、と思う。おれは
諦念
ていねん
を抱えて背を向ける。するとまた会う機会ができ、仕方なく月に一度は会うようになり、付かず離れず、おれたちはこの街に住んでいる。
そういう生活を、一年ほど続けている。
手を挙げて少しやわらかい顔をするスモーカーは滑稽だ。おれにとってその顔は、見ることのないものだと思っていた。おれなんかにそんな表情をするのは、歯が浮いてしまいそうだ。口元を押さえながらベンチへ腰かけていたスモーカーに手を振り返す。
「もういいのか、仕事は」
「まだだ。飲んで帰って一眠りしたら、また行く」
タバコをふかし、息を吐くとすっかり馴染みの顔になる──この世に落ちてくるまえに、行きていた世界での馴染みという意味だ。眉間にシワを寄せてため息をつく瞬間、おれの心臓は変な向きにはねるが、すぐに体勢を整えられるのは、そのあとのスモーカーの表情から力が抜けて、やんわりと話し出すからだ。
力が抜けるといっても、露骨な変化はまるでない。ただ肩肘を張っていなかったり、緊張感をもたらしたりはしないというだけだ。それはおれも同じなのかもしれない。だがおれには前世の記憶があり、相手にはない。だから違いを知っているのはおれだけで、おれだけがひたすら、会うたびに歪んでいると感じながら過ごしている。
どんな拍子で、なにがきっかけで記憶が蘇るのか。そもそも記憶は舞い戻るのか。戻るとすれば、断片的になのだろうか、それとも全部が? このぐるぐると回る疑問は、スモーカーと会っているときはもちろん、会っていないときも頭を駆け巡っている。もともとのおれはスモーカーの脳内がどうなろうと、関係がないとたかを
括
くく
っていたはずだ。おれには興味のない話だと、割り切れるはずだ。
……
こうも気に病んでしまうのは、ひとえにあのスモーカーの、今まで見たことのなかったニュアンスに気がついてしまったからだ。
たぶん、あいつはああして初対面の人間を口説くのだろう。最初から海賊だと警戒し、牙を剥き出しにさえしなければ、あの男はほほえみこそしないものの落ち着いた出立ちで現れて、他愛のない話だってできる。話し上手ではないから聞き手に回ることが多いだろう。それもまた、相手の心をくすぐるかもしれない。笑顔もやさしい言葉も花束のプレゼントもなく、スモーカーは簡単に相手の心に深く刻まれる──相手が、因縁深い海賊でさえなければ。
おれは海賊だった。今もその記憶を色濃く持っている。海賊として海を渡り、時に寛容に、時に冷徹に判断を下したこともあった。旗を掲げて荒々しく名乗り、
蹂躙
じゅうりん
した。そのたび近くを管轄している海軍から追われた。その中には真っ白い頭と煙をまき散らす、この男の姿もあった。
──スモーカーのことを、腑抜けたとは思わない。世界が違い、次元が違い、記憶もない。元に戻ればおれを見る目はいかつく、険しく変わる。おれは、あの鋭い眼光をもう一度と願っているのか、それとも、生ぬるいスモーカーをまだ間近で観察したいと感じているのか。
おれの心こそ、不安定な立場を楽しんでいて、恐れていた。そして恐れの方が半分を超え、とうとう膨れたなと思った今日、スモーカーと待ち合わせをしていた午後。それが今だ。
最後のタバコを終えた男の額に、浅く刻まれた傷跡を見つけた。少し遅れるからベンチに座って待っていてくれとメッセージをしたから、上から見下ろすなんていう珍しい機会を得て、おれはその傷跡をたまたま発見できた。その傷は、おれの知る限り右まぶたを通り抜けて頬骨を超えて走っていたであろう跡で、生まれ直してもまだ残骸のように小さな切り込みだけを額に残していた。あれは一体誰につけられた傷だと説明していただろう。昔々、はるか昔、スモーカーによって渋々教えられたその話を、おれはちゃんと迂闊に外へ出したりはせず、記憶の中へしまい込んで今生まで持って来た。
やはりこれは、おれのよく知るスモーカーなのだ。ただし、記憶がずっと戻らない状態の。傷跡に手を伸ばしかけて、やめる。曲げた指先がそのまま氷のように硬直した──スモーカーがこちらを見ていたからだ。
今日、おれの名を呼ぶ声に棘が混じるのか。次に会うとき、おれのことを見る目が冷たく光るのか。
記憶がなくても、目の色は変わらない男が、落ち着いた表情のまま話し出す。
「ロー」
その言葉も、まったく棘はない。
「もうてめェの船の仲間には、会ってねェのか」
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