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gib_fox
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wt穂荒
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絶滅した鳥に名前をつける話
映画を見た後感化されて、ついかっこつけちゃうあらふね君の話 まだ無自覚な時の穂←荒17歳くらい
絶滅した鳥に名前をつける話
食べ終えたポップコーンの残骸をゴミ箱へ入れた。穂刈は先にトイレへ行ったから、近くのベンチで待つことにした。
頭に思い描くのは先ほど見た映画の内容だ。新進気鋭の監督が製作費をかけて作ったアクションの珠玉と言われ、正しくその通りだと思った。穂刈が戻ってくるまで、荒船の頭の中での反芻は続く。
夢の続きを空想するようで楽しい。この先は、この後は、あの二人はどうなるのか。あの時放し飼いにされていた猫は──そして鳥は。
穂刈が帰ってくる。長身だから人混みでもすぐにわかった。並んで立つと映画館の薄暗さでも少し目立つ。荒船は自分たちが周囲がどう思われているかなんて興味がないから、近づく穂刈にためらいなくまっすぐに目を向けて、「今な」と話しかける。
「思い出してたんだ」
ベンチはもう一人、知らない女性が誰かを待つために座っていて、穂刈の方をちらっと見ていた。が、荒船がすぐに立ち上がってその場を離れたから、その視線に二人が気づくことはなかった。
「なにを?」
「映画の最後の方に出てきた鳥だよ」
「ああ
……
いたな、猫に」
その先は穂刈も押し黙る。荒船も黙る気持ちはわかるから、先を続けた。
「あれが世界で一羽しかいなかった鳥だったら」
──アクション映画は、実はこのごろ新作制作が前途多難でかなりストーリーや映像表現を練り込まないと、見向きもされないものになってきた。特に特撮、SFの類は昔よりはるかに少なくなった。出せばこのご時世に、とやっかみを買う。この星に、近界民たちの侵略が来てからずっとだ。大怪獣バトルのような激闘は、実はそんなにいいものじゃないと現実でみんな知ってしまった。家や人は瓦礫に埋もれ、対抗して戦う隊員は少年少女、格好良く変身を決めて出撃するなんていうアニメも、リアルを見れば黙るしかない。
今日の映画に出てきた鳥に、名前はなかった。鳥籠に入れられていたわけではなく、戦線から解放された村で自由に飼っていた鳥だ。野良猫も至る所にちらほらといて、鳥が猫に捕えられてしまうシーンがあった。食べ尽くされるのではなく、とっさに止めた人間によって鳥は姿形を留めたのだがすでに絶命してしまう。主人公の友人が悲しみながら墓を作った。小さな墓に名前は刻まれない。ペットとして慈しんでいたのに、名前をつける間もなく死んだからだ。見かねた主人公が死んだあとだが名をつけたらと提案する。友人は、涙で濡れた頬を拭おうともせず、小さな字で名を掘る──
あれが世界に一羽しかいない希少種の鳥ならば。荒船はその存在があんなところで羽ばたいているわけはないだろうと最初は思う。けれどふとした偶然であの場にしかいなくて、たまたま命を落とし、それがただの野良猫相手であり、親切な人間のいたところで、墓を作られた。
きっとこの世界に降りてきた近界民たちには、名はもちろん、墓も残されない。そちら側の気持ちになんて誰も立つことはない。今のところは。荒船だって、映画を見るまでは考えなかった。
彼らも誰かのなにかであり、家族であり、かけがえがなかったりするのだろう。たとえ絶滅する種族であろうとも、その一つ一つは誰かの、なにかなのだろう。
そう思えば、全ての生き物は絶滅危惧種なのかもしれない。誰かのなにか、という唯一を、どの動物も人間もステータスとして持ち合わせている。
特に荒船にとって、穂刈がそうであるように。
「
……
気にしてんのか、昨日のを」
穂刈に言われ、荒船はゆっくり顔を上げた。穂刈の目に映っている自分は歪んだ表情をしている。昨日、荒船のまえでベイルアウトした穂刈にはなかった目の光が、今日は粒のようにまばゆく反射している。
「少なからず気にはするさ」
荒船は苦々しく応えるが、穂刈はそれに対して返事をしない。
──昨晩の防衛戦。荒船を庇って穂刈の体が目のまえで、爆風と熱線に焼かれて複数の穴を開け、それでも荒船を逃してベイルアウトした。加賀美の、穂刈に対する高い評価の声、半崎の「あとは俺が撃ちます」という冷静な判断、最後まで近距離で戦うことなく済み、荒船隊が守り切った。帰ってきたら穂刈が私服で出迎えてくれて、いつもの笑顔をたたえていた。
トリオン体というのは便利である。生身であれば肉塊は巨大な近界民の足に潰れて消え、映画で見た鳥のようになる。トリオン体というその利便に意識は薄れ、ベイルアウトのまばゆい光が目のまえで飛び出し、空へ舞い上がったとき、荒船は喪失感さえなかった。なかったことに、慣れへの恐ろしさを感じた。
初めてベイルアウトを経験したとき、誰かがベイルアウトしたとき。荒船の心臓の一部はガラスの角が割れたような感覚になった。そのガラスは埋まることはなく、かといって埋める余裕もない。日々は続いて追われていく。いくうちにガラスは角を丸くして触れても傷まないようになる。
忘れるな、と胸に叩きつけるように刻む。忘れるな。それぞれが、唯一人の存在である。体が崩れ、喪失し、あとで名をつけるなんてもう遅すぎるのだ。
「次は死なせない」
格好つけたようになってしまったか。荒船は言ったあとに、照れを隠すように帽子で顔を隠した。穂刈のやや苦笑めいた声が上から聞こえてくる。
「珍しいな。感化されたか、映画に」
「
……
俺だって、そういうときくらいある」
隊長だからな。と言ったあと、妙に胸のあたりが焼けたように熱くなった。小さいころ、親に嘘をついたときと同じ感覚だ。荒船はその感覚に眉を寄せた。けれど先を行く穂刈が「どれなんだ、次に見たい映画は」とパンフレットのコーナーへ移動しかけていて、慌ててついていくうちに胸の内へ感覚は溶けていってしまった。
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