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スモロ
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太陽の話
ハートの海賊団とポーラータング号と、ある海王類のアイザメの話
海王類にこういったのがいるか等は全て捏造です
海底に沈んでいるポラタンを引き上げる時にこんなことが起きたらな、と思って書きました
スモロの人間なので最後にちょっとだけスモロをつけたので、cp無しで終わりたい方はそこまでで終えていただければ幸いです
太陽の話
太陽の光を生涯見ない生物は、この世界に意外と多い。
彼らは地中で一生を終えたり、家の隅で外を知らぬまま過ごしていたり、海の底を這うように泳いでいたりする。
──海に住む「彼」は、海が悲鳴を上げるように恐ろしく泣いていたある日、頭上から丸くて黄色いものが落ちてくるのを見た。それは昔、親兄弟から聞いた太陽というものに似ていた。
親の話によると太陽は、丸く、熱く、そして万物の生育に必要らしい。兄弟がその話に冗談で付け足したのは、太陽というのはもう少しやわらかく、食べられはしないものなんだということだ。しかし「彼」は見たことがないから、どこまでが本当か判断できなかった。
「彼」は見聞きした数々を大事に胸にしまっていた。親から離れ、兄弟とも海域を分けて暮らし、一人で海の底をなわばりとして生きてきた。それが当たり前だと思っていたし、孤独を感じない──というより、孤独そのものがなんなのかを知らなかった。
だから、太陽の落下は「彼」にとって衝撃的な出来事だった。
落下地点までたどり着くと、「彼」に驚いた他の生物はみな四方八方へ逃げてしまった。「彼」は逃げていった餌となる生物より、地底の砂に刺さるように埋まっている黄色い太陽が、ぴくりとも動かずにその場にいるのを見る方が大事だった。
まずその太陽は、丸くなかった。突起のようなものもあったり、中心がひどく破損して触れれば自身のひれを切りそうだった。
熱さは多少感じた。限界まで動いていたらしい部品の数々が、海の冷ややかな流れに乗せられて少しずつ温度を下げている。
そうだ兄弟が言っていたな、と思い出し、「彼」は歯を立ててみた。ようやく剥ぎ取った表面を試しに口に含んでみても、ざらざらと不快な味しかしなかった。太陽はまずい。なにより、食べてしまったらここからいなくなってしまう。「彼」は二度と太陽を食べないでおこうと誓った。
「彼」はその黄色い物体の周りをぐるりと回りながら考えた。岩陰から他の生物たちがじっと様子を探っている。あいつらにこの獲物を取られるのは嫌だな、ととっさに「彼」は思った。「彼」は大きな目でぎょろりと睨みつける。怯えた生き物たちが体を引っ込めた。これでこの太陽は「彼」のものだと主張できる。
「彼」の大きな体は太陽を易々と包み込めた。尾ひれで隠してやると、太陽はちょうどよく胴体にすっぽり収まった。
太陽が来てから「彼」は初めて、一人ではないという満ちた気持ちを知った。たとえこれが太陽でも、太陽でなくても、「彼」にとってそれははあたたかい感情をくれた唯一無二の存在である。
◇
手元の分厚い図鑑を、ずいぶん長らく睨んでしまった。
「アイザメ、っていうらしいですね」
ペンギンから伝えられて、そうみてェだな、と返答をする。
「それも海王類だから、とんでもなくでかいみたいで」
「なるほど」
ペンギンがさらに続けても、ローは本から目を離さない。一通り、アイザメの生態を頭に叩き込む。
──深海の生き物が巨大化し、海王類としてその名を馳せることは多々あった。特に今回相対する
鮫
さめ
の一種、アイザメは親も兄弟も大きく、世襲制でその海域に住み、ずっとなわばりを保持している強者だ。
深海の生き物らしく光には弱いが、巨大な体躯を揺らし、素早く音を拾って襲ってくる。敵から身を隠すために体にメラニンを溜め込んで真っ黒な色だから、自分たちのように深い海に慣れていない者でないと非常に見えづらく、対策も立てられない。
その自分たちでさえ苦戦するそのアイザメの胴体近くで、潜水艇が隠されているのを見つけたのだ。真っ黒な体のそばの、鮮やかな黄色。
──あれは間違いなくポーラータングだ。
と先に潜って様子を見たシャチがはっきり告げたとき、ハートの海賊団は色めきたった。さらにハートの何人かを投入してアイザメの横を通り、ポーラータング号の状態をくまなく確かめようとした。引き上げるための算段を立てながら待っていると、一人のクルーが傷を負って帰ってきた。
──鮫にやられた。
クルーの言葉に全員が唇をきつく結んだ。
いつもならローが能力を使うか、潜水能力と戦闘値の高いクルーが海王類を相手にする。けれど今回はそういうわけにいかなくなった。攻撃をすればポーラータング号の破損が進む。潜水艇を庇うように覆うアイザメは、なわばりを守ることではなくすでにあの船体に固執している。もしもポーラータング号が少しでも壊れれば、どんな牙を剥いてくるかわからない。
だが、海王類とどう戦うのか。数時間、あるいは日単位で長期戦を覚悟するか。
ロー以外、皆が静まり返った。真っ二つに裂けたあの潜水艇は、海水の侵食も進み始めているから一日も早くサルベージしたい。だが、あの海王類の強さは周辺の島でもかなり有名だ。警戒レベルはますます上がる。
「大事にしてもらってんのは、嬉しいですけどね」
ペンギンが独り言のように呟いたが、ローの耳にはしっかり届いていた。
あのアイザメがどういう経緯でポーラータング号を大事に守っているのかはわからない。大切に守ってくれているおかげで、潜水艇の外側や船室の状態などが非常の良い。だから早く引き上げたいのに、もどかしさは続く。
サルベージのために借りた大型民間船は、今はペンギンたちハートの海賊団しか乗っていない。備え付けの救援用ボートの他、潜水のためにあらかじめ潜水用の小さな艇を借りている。破格の値段で貸し与えられたそれらをローはぐるりと眺め、最後に小型の潜水艇をつないでいるロープに目を止めた。
「おれが行く」
「
……
海底に?」
ペンギンが眉をひそめる。
「他にもクルーを乗せる」
これでいいだろ、とペンギンに確認──というよりもはや決定事項を告げると、長年連れ添った男は渋い表情をしていた。これは理解してやりたいが納得はしていない、という顔だ。
「今までの海王類に比べて、あいつはかなり知能指数が高い」
ペンギンが納得していない理由を話し出す。
「もしかしたら、ローさんの乗る潜水艇を尾びれ一発で叩き潰すかも」
ローは映像電伝虫でしかその姿を見ていない。海の中を自在に泳ぐペンギンでさえそう言うくらいなのだから、警戒度はかなり高いと見て間違いない。
「どういう作戦があるのか、ちゃんと説明してくれないと今回ばかりは無理ですよ」
帽子の下の目は、怒っていた。ローの悪い癖を暗に指摘している。なんの説明もなしでふらっと行かれても困るとペンギンは言いたいようだ。それはローも反省している。察してくれるだろうと甘えてなにも言わないでいることは、甘えられている側からすれば不明点だらけなのだ。その不明点から正解を模索して心の支柱とすることは、実は心細い。
「
……
悪い、それはちゃんと話す」
ローはそう言って、クルーたちを集めるように伝えた。ペンギンの顔がパッと明るくなる。
「わかればいいんです」
白いつなぎをひるがえして、ペンギンが走る。空の青との対比がまぶしかった。
◇
久しぶりの潜水艇の感触だった。感触、と言っても実際に海水に触れているわけではないし、外の空気を肌身に受けているわけでもない。それでも、金属製の壁の向こうからひたひたと海の感覚が流れ込んでくる気がするのは、潜水艇特有ではないかとローは思っている。たとえそれがポーラータング号ではなく、今回だけの付き合いである小型潜水艇なんだとしてもその感覚に変わりはない。愛おしささえ生まれる。
低い温度に包まれ、潜水艇はゆっくり進む。水面がずいぶん小さくなったころ、周りの岩肌が一部崩れているのを見つけた。ハートのクルーたちと巨大アイザメの交戦の跡だ。ここが人間の肺の潜れる限界の深度だ。こんな場所でケガをしたのだから、水圧で血管への影響はひどかったはず。下手をすれば悲惨なことになっていた。よく帰還した、とローは今さら胸を撫で下ろす。
(帰ったらケガしたやつを褒めてやらなきゃな)
と思いつつ、視線を持ち上げた。
薄暗い海の中で、潜水艇の明かりだけが左右に動いている。深海にとっては突然の光の出現だ。自分の姿を隠すように生き物は息を潜めたり、様子を
窺
うかが
ったりしている。何百という目がローのいる潜水艇に注がれ、ほとんどが恐怖の気配を灯していた。今のところ、アイザメのいそうな様子はない。
どこか遠くへ行ったか。ポーラータング号を置いて? いや、ポーラータング号自体を持ち運んだ可能性もある。そうであれば、船室にあった物が海底に散乱しているはずだ。ローはライトの先を眺める。細かい砂粒の中には魚や貝類はいるが、人工物はない。
澄んだ海だ。汚れてもいない。ここでローと黒ひげが争った跡なんだとは思えない
淀
よど
みのなさだった。あの黒ひげの恐ろしい攻撃を思い出すと、ローは怒りと屈辱で苦々しい顔をする。ベポと逃れた悔しさは、一生かかっても消えない。そんなローから放たれる怒気に潜水艇にいたクルーが気持ちを察しているとも知らず、ローはこの海での戦闘を、記憶の中でぐちゃぐちゃと混ぜ返し、塗りつぶしていた。
「キャプテン、あそこ」
ローの意識を裂くように、ベポが声をあげた。青ざめた顔から正気に戻ったローは、深海の中でもぽっかりと開けた広い場所に出たことを知る。
どうりで今までアイザメの姿がなかったわけだ。彼はなわばりを縮め、ポーラータング号の近くからちっとも動かなくなっていた。人間と交戦した辺りの場所も彼の領地だったはずなのに気配がなかったのは、彼はもうこの黄色い潜水艇からひとときも離れたくなかったからだろう。
普通、生物の本能としてそれは危険であるとわかるものだ。餌は取れなくなるし、他の生物に生命を脅かされる可能性も高くなる。それでも彼の了見は、この黄色いかたまりを守ることだった。
(どうしてそこまで、あれに思い入れがあるのか)
ローたちは、あの船に絶対の価値を見出している。価値などと呼べるものではなく、体の一部のように思っていた。物を知らなかった自分たちが、友達から譲り受けた数多くの内の一つだ。発明、という胡散臭さを、いつしかローや友達を繋ぐ魔法のように思い、そこから生み出されたポーラータング号はいつも輝いて見えた。
(お前も、わかってくれてるのか?)
そんなことはないだろうと思いつつ、期待するようにアイザメを見つめた。彼は獰猛な目と牙を剥き、じっとこちらを見据えている。クルーたちの唾を飲む音がはっきり聞こえた。
ローは拡声器付きの電伝虫で、外へ声を飛ばす。
「手は出さねェ、交渉しに来ただけだ」
ここにトニー屋がいればな、とローの脳裏をあのトナカイの医者が横切った。今は贅沢を言えない。案の定、言葉は通じていないからアイザメは警戒を緩めなかった。潜水艇の決して大きくは見えない窓から対峙する一人と一匹は、互いの視線を外さないままだ。
「キャプテン、やっぱり戦闘準備を
……
」
「待て、絶対にするな」
厳しい口調で改めると、クルーが押し黙る。手には武器も握っていたが、それもだめだ、と制した。
「あー
……
こうして見せたらわかるか?」
電伝虫の話し口を一旦置き、持っていた鬼哭をわざと掲げる。アイザメはあれが武器だと分かっているようで、喉奥から威嚇するようにうなった。ローは鬼哭を壁に置き、手を広げてなにも持っていないというジャスチャーをする。
「武器も置く。お前に手出しはしない」
なるべく落ち着いた声で語りかける。アイザメが、武器を持たないローをまじまじと見た。
──アイザメは、深海の生き物の中でもかなり特徴的で、その名の通り瞳がとにかく大きい。光に照らされると金色に光る。けれど深海に光はほとんど入らないから、彼の目が金色に見えるのは貴重な一瞬である。
今、潜水艇のライトに照らされて光っているアイザメの目を見るのは、そんな珍しい瞬間でもある。クルーたちが息を潜め、成り行きを見守りつつも、その物珍しい目の輝きにどこか親近感を覚えたのは、自分たちの船長が放つ瞳の光と似ていたからだろう。
じっと待つ間、誰も、なにも発しなかった。重苦しい静寂が辺りを包み、暗い海の底でそれは気が狂いそうなほど長く感じられた。
沈黙を破ったのはアイザメだった。大きな体をぐるりと一転させると、ポーラータング号のそばからわずかに離れる。同時に、ローは潜水艇を鮫の近くに寄せた。近づけば近づくほど、海王類であるその鮫の大きさがはっきりわかる。黒々とした体に張りついた艶やかな肌が、潜水艇の窓から見えた。クルーの一人が「ひえぇ
……
」と頼りない声を出す。
「取ってきてくれ」
ローは窓から見える引き裂かれたポーラータング号の、船長室の扉を指さした。ベポが、
「アイアイ!」
と背筋を伸ばし、操舵室から離れる。やがて潜水艇から一匹の白熊が潜水服を着て出てくると、アイザメは不安そうにその泳ぐ先を見ていた。
「大丈夫だ、なにもしない。信じてくれ」
拡声器で訴えはしたが、そんなものに意味があるのかはわからない。
自分だって、そうだった。真っ二つになったポーラータング号を見て、海に散らばったクルーたちの姿を見て、体が引き裂かれたのも同じだと思った。黒ひげに散々にされた体は海を泳ぎ、海水を浴び、じんじんと痺れるような痛みもあったはずなのに、それよりも自分の内側から焦がすような思いが生まれ続けた。
あのとき、ローはベポから信じてと言われた。その言葉が同じように今、自然と口をついて出る。鮫は黙ったまま、揺れる瞳を向けていた。きっとこの鮫も、理由はわからないがこの船に愛着を持ってくれていて、似たような思いを持っているんだろう。
まもなくベポが潜水艇へ戻ってくる。潜水服から滴る海水を払い、「あったよ」とローに告げた。
「キャプテン、これは
……
」
他のクルーが一様に驚いた顔をする。ローは口の端を吊り上げて笑うと、もう一度アイザメに向かって声を発した。
「これはコインっていうんだが」
ローの手に光る小さなかたまりを見て、アイザメは金色の瞳をさらに輝かせた。大きな目に映る小さなコインは、彼に少なからず明るい感情をもたらしているらしい。ローは咳払いをして続ける。
「これ全部と、ポーラータング号を交換っていうのはどうだ?」
瓶に詰まったコインを一つ一つ、取り出して見せてやる。
「これはサウスの珍しいものらしい、これは新世界に入りたてのときにもらったもんだ。このデカめのはレアってわけじゃねェんだが、その島の貴重な鉱物でできててな」
ローの説明をまるでわかっているかのように、鮫はじっと聞き耳をたて、ローが話し終えるのを待っていた。潜水艇のライトで光っていたはずの鮫の目は、さらに溢れんばかりの粒状の光を灯していた。コインの反射でしかないのだが、ローを始めクルーの目には、幾千万年のときを経て生まれた琥珀のような、そんな輝きに見えた。
「
……
おれの宝のうちの一つだ。一個一個が、太陽みてェだろ」
なんの気なしにその言葉を選んだが、ローは言ってから、そうか太陽か、と気づいた。
──自分がコインを集め始めたころ、スワロー島でヴォルフとベポたち三人と、ささやかな時間を過ごしていた。銃声も、炎の渦も、恐怖もない世界を知り、心に少しばかりの余裕が生まれたんだろう。収集をしよう、と思えたのは、そんな心持ちになれたからに他ならない。
初めて一つ目のコインを手にしたとき、日の光にかざした。ローの中での太陽は、父と母と妹と、コラソンだったとふと思う。でもみんな故人となってしまった。そのことはもう、覆せない事実なのだ。今こうして生きているうちに彼らを思い偲ぶことは、ローの中の太陽を忘れないためだ。やがて友達も、ベポたちも、自分にとってかけがえのないものとなるだろう。もしも激動の日々に過去が薄れ、未来が待っているのなら、このコインを眺めて思い返すときがあってもいいだろう。
「お前も、ポーラータングを太陽みてェだと思ったか?」
真っ黄色だもんな、と冗談めかして笑うと、アイザメは小さく体を揺らした。魚の、ましてや海王類の感情表現なんてわかりはしないが、ローはそれを肯定だと受け取った。
「コインなら、運ぶのだって便利だ。巣に隠しておけば、なわばりも気にしなくていい
……
どうだ、魅力的な取引だろ」
さっきベポが戻ってきた潜水艇の脱出用エアロックから、ふたたび瓶だけをそっと送り込む。真っ暗闇にうろつく透明な瓶は、あっという間に姿を見失ってしまいそうだった。しかし深海を統べるアイザメは、簡単に瓶を歯の先に当て、やさしくくわえた。そして巨体を起こし、真っ二つに裂けたポーラータング号がローたちの目のまえに広がった。
水面で待っているペンギンとシャチに、潜水艇から合図を送る。通信用の電伝虫から慌ただしい声が聞こえて切れた。サルベージの準備のため、今ごろ
檄
げき
を飛ばしているんだろう。
「悪かったな、お前のなわばりを荒らして」
ローはアイザメの肌を撫でるように窓に触れた。鮫肌が見えるほど、彼は近くに寄ってくる。親愛の証なのかもしれないが、クルーたちは引きつった笑いを浮かべるだけだった。
「いつかコインを持って海の上に出てみろ、本物の太陽に光らせたらきっときれいだ」
まあそれは難しいのかもしれねェが。とローは肩をすくめる。真っ黒い体と大きな瞳は深海に適応するための体だ。海の上へ向かうには環境がなにもかも違う。それでも、彼はまた体を揺らした。
ローは、あの目が、潜水艇のライトなんかではなく本物の太陽に照らされて光るのは、さぞうつくしいだろうと想像する。
「戻るぞ」
クルー全員に声をかける。これからポーラータング号を直すための大仕事が待っているのだ。ここで時間を潰すわけにはいかない。
ただ──潜水艇が浮かび上がる後方で、ずっとアイザメがこっちを見たまま動かないでいるのを、最後まで見ていたのはローだった。
「だから、お前からもらったコインも全部沈んじまった」
とローは真面目な顔でスモーカーに伝えた。
「そんなことか」
とだけ放つと、スモーカーは葉巻の煙を天井に吐く。言うと思った、とローは肩の力を抜いた。
「結構希少なのもくれたじゃねェか、特に含有鉱物が違うやつなんかは」
あのコインの入った瓶の中でも、一際目立つコインだった。大きさ、色合い、光に反射したときの虹色の屈折。島の隅にある古道具屋でスモーカーが買ったのだと知ると、ローは男の行動にむず痒さを覚えたものだ。
しかしアイザメの目に映るそれを、きれいだと思ったのも事実だ。きっとこいつなら、おれ以上にこのコインを愛するだろう。
「お前の一番大事なもんはなんだ」
「
……
船とクルーだ」
「そう即答すんなら、悪く思う必要はねェだろ。交換材料として、コインが最適解だった。それだけだ」
書類へのサインを終え、ペンを戻す。次の書類は束になってスモーカーを待ち構えていた。眉間のシワはしばらく取れなさそうだ。相変わらずこの男の部下たちは、面倒くさい後始末を全て上官に任せる。
けれど文句を言いつつも処理をしてやるのは、この男にとってそれが大事だからだ。
「また送ってくれるか、スモーカー」
ローはソファに座ったまま呟いた。声をあまり張らなかったのは、耳のいいスモーカーにはこれくらいの音量でも聞こえるだろうと読んだからだ。
大きな声で贈り物が欲しいと言うのは、小さなころから苦手だった。それだけはローの中の一番である家族にも、コラさんにも、海賊団のクルーにも、うまくできていない。
人は、あまり太陽には願いをかけない。静かな夜に奇跡的に見つけた流れ星に願う。
「
……
瓶を買っとけよ」
それきり、室内にはペンの音だけが無機質に響く。
ローは男のやさしさを笑いたくなったが、やめておいた。機嫌を損ねてせっかくの午睡の時間を失いたくはない。ソファに転がり、久しぶりに少し深く寝入った。
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