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gib_fox
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スモロ
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シャンプーの話
酒を浴びて帰ってきた🚬の話、スモ(→)←ロ
あの世界にシャンプーがあるのか不明 雰囲気でお読みください
この🚬は色々終わった数年後グラン…ラ…ンのどこかの島に家を買って住んでいて(ちゃんと海兵も続けてる)、🐯は数ヶ月に一度ふらっと遊びにくるという設定です
シャンプーの話
スモーカーは、文字通り、酒を浴びて帰ってきた。帰り着いたのは夜中になった。
普段は明かりがついていないはずの自宅に、薄いオレンジのライトがついていて、「来てんのか」と思わずつぶやき、額を抑えた。
(いつもこんな夜中に来やがって)
いや相手は礼儀を知らない海賊か、と思い直し、扉を開けた。ドアの取っ手に酒がまとわりついて鬱陶しい。早くこれを洗い流さないといけないと思っている矢先に、次々と面倒ごとは起こるものだ。
ずぶ濡れのスモーカーのまえで、ソファに座ってくつろいでいた男が、こちらを見上げて驚いていた。
「
……
そういう趣味があったのか?」
「んなわけねェだろ」
男──ローは珍しく素直に「そうか」と言って、スモーカーが歩く後ろにぽたぽたと落ちる、酒臭い液体を眺めていた。
脱ぐのを手伝うか、とも、酒臭い、とも言わず(もちろん言われたらどちらも断るが)、ただ黙って背中を見られているのはいささか気分が悪い。
そのうち、ローの息を吸う音が聞こえた。
「喧嘩か?」
「おれじゃないがな」
思い出すのも億劫で、疲弊した体にまとわりついているベタベタとした服を脱いだ。
「医療用と変わらない化合物なのに、こうも嫌な匂いに変わるのはなんでだろうな」
しかめ面のまま、ローは読んでいた本を閉じてそう言った。手術を行うこともあるローの手が、鼻のあたりで匂いを払った。もう読む気にもなれないほど悪臭を感じたんだろう。ウイスキーとビールとが混じり合ったシャツは、匂いが染み付いてひどい有様である。スモーカーはそれをバケツの中へ放り込んだ。履いていたズボンも取り去ろうとしたが、ローの見ているまえではなんとなく嫌になって、浴室へ向かうことを先決する。
「所詮味のついたアルコールだ、治療をするエタノールとは違うだろ」
そう話すと、ローはつまらなさそうに鼻から息を吐いた。
「物資がなければ酒で治療をするときもある」
「
……
酒は嫌いか?」
「飲むのはいい、浴びるのは嫌だ」
「好きで浴びたんじゃねェ」
「だろうな」
ローがようやく小さく笑って、スモーカーの濡れた服を受け取るために手を差し伸べた。普段なら家のことなんて一切やろうともしないで来た途端寝床へ直行する男が、どういう風の吹き回しか。
「『交換』してきてやるよ、酒かけたやつの服と」
「やめろ」
さも子どものかわいいいたずらくらいの感覚で能力を使おうとするローを制止する。喉奥からおかしそうに笑う男に呆れ、スモーカーはため息をついた。吸っていたタバコの煙が漏れ、短くなっていたそれを灰皿へ押し付ける。このタバコも、飲んだ店で「詫びだ」と言われてマスターがくれた一箱のうちの一本だ。タバコの箱には店の在庫品だとわかるように、店の名前が印字されている。シャワーに入ってからもう一本吸おうと、テーブルの上に置いた。
上半身になにも着ないまま、浴室に向かった。まだ湯気の名残があったそこは、ローがついさっき先に使ったんだとわかる。意外に人のものをきれいに使う男で、スモーカーがその点で困ったことはない。
水栓をひねり、水から湯に変わるまでを全身で感じた。シャンプーは、まえにローがきたときに置いていったものをそのまま使う。
(そういえばあいつ、今回はずいぶん短かい内に来たな)
シャンプーがそこまで減っていないから、とっさに考える。さっき、これと同じ匂いが近くでした。揃いの匂いを身につけると思うと、なんでおれが海賊と
……
とうめきたくもなるが、ローは気にしていない様子で過ごしているのだから、自分だけがギャアギャア文句を言うのもガキくさい。スモーカーは刈り上げた襟足を洗いながら湯を流した。
(今日のあいつらも、そんなようなことで揉めてたな)
──久しぶりに寄った飲み屋は盛況していた。ただ、盛況しすぎると羽目を外す者も当然いた。二人組の男が喧嘩を始め、スモーカーは仲裁した。
「こいつがおれの女をバカにしやがった!」
……
呆れるほど、なんとも仕方のない話題だ。スモーカーは目眩がして、額を抑える。運悪くそこで酒を浴びた。二人組の内の一人が、相手にかけようとして間違え、スモーカーにかかってしまった。二人組は一気に青ざめて、涙目になっていた。
スモーカーは怒鳴る気にも、わめく気にもなれなかった。今日の海軍での仕事は散々で、酒を一杯引っかけたらすぐに帰って寝る、と決めていたくらい疲れていたのだ。たしか今日で三徹目、だっただろうか。
そのうち男二人が、口々にバカにした理由や言い訳を述べ始めた──喧嘩の事由なんざ、おれの知ったこっちゃねェ。そう言いたかったが、混乱のあまり許しを乞おうと、経緯や言い訳をベラベラ話すのはよくあることだ。
そのときだ。スモーカーの耳に「シャンプー」という、あの場で全く想像していなかった単語が現れたのは。
「一緒に買いに行くだろ、あんたも恋人と⁈」
「花の匂いだの石鹸の匂いだの、なんの匂いがいいか気にしながら店を回るなんて、おれなら嫌だね!」
ふたたび喧嘩を始めそうな二人を、スモーカーは今度こそ「
…………
うるせェ」と地を這うような声で黙らせた。
マスターがタバコをくれ、「うちのシャワーで良かったら使うかい?」と心配そうに言った。スモーカーはどうせ服の替えもねェから、と断った。歩いて帰る道すがら、遠くの自宅に明かりがついているのが見えた。ふと、あのくだらない論争の火種になった話題を思い出した。
恋人と一緒になにかを買いに行く、なんて行為は、スモーカーの人生になかった。男でも女でも、特定の誰かは作ったことがない。一時期同僚に勧められたこともあったが、結果は散々で、そこからは誰もスモーカーにいい人を紹介しよう、などとは思わなくなった。散々だったのは自分の責任ではない、とスモーカー自身は思っているのだが、見合いの席で趣味は「カジノ」と述べた時点で、家庭での節制や秩序を大事にするようなお嬢さんたちの頬を引きつらせるだけだったのだ。
モテないわけではないのだが、スモーカー本人は気づかない。商売女は抱いたことがある。それはあくまで欲求解消のためで、なければないで生活できる。
(恋人、な)
柄にもないことを考える。いつもならそんな単語は一秒も待たずに頭の中で即切り捨てるのに。
恋人の定義、とは。
不特定多数を相手にするのではなく、一個人と親しく過ごすこと。距離、場所、時間は離れていることもあり、互いの干渉度の違いでそこは近くにいた方がいいのか、遠くの方が楽なのか、互いに推し量りながら日常生活を両立すること。その個人と共に食事をしに出かけたり、キスをしたり、セックスをしたりすること(後者二つに関してはあくまで合意の上でとする)。
スモーカーは三徹目で、疲れている。あまりに頭を酷使しすぎていた。
だから家にたどり着いてローの姿を見たときに、恋人の条件を思い返し、まあまあ半分以上はこいつに当てはまっているから、
(六十点くらいか)
という点数を叩き出していた。
残り四十点に該当するものといえば、食事、キス、セックスになるのだが──
スモーカーはそこまで考えて、ローが買ってきたシャンプーを流しながら、自分がいかに変なことを考えているかにようやく気づいた。そして気がつけば、全身があの海賊と同じ匂いに包まれてしまった。
スモーカーは三徹目で、疲れている。あまりに頭を酷使しすぎて、いよいよおかしくなってきていた。
スモーカーの考えるその定義でいけばG5の面々だってそうだ。ヒナやたしぎだってそうなる。けれど、彼や彼女らは残念ながら、自分との物理的距離を近いか遠いかを気にしたことなんてないし、住まいについて話し合ったこともない。むしろたしぎは「引っ越し、いいですね!」と笑顔で勧めたし、G5のやつらも酒や食べ物をせびりに来るくらいだ。
(寝ちまおう)
どんどん、思考が違う方向にそれる。それすぎて恐ろしいくらいだ。睡眠不足というのはそこまで深刻で、ひどいことなのだ。
スモーカーは浴室から出て、下着と新しいズボンだけを履いた。少し腹ごなしをしてから眠ろうと思ったのだ。
ドアを開けるとローは出かけていたのかいなかった。ただ、いつもの帽子もコートも置きっぱなしになっている。すぐに帰ってくるであろうことは想像がついた。
果たしてその通りで、玄関が開いて帰宅したローは、片手に紙袋を持っていた。
「推測だが、」
ローはがさごそと紙袋からなにかを取り出しながら、話し始める。
「飲み屋で、お前は喧嘩に巻き込まれてろくに飯を食えなかった。違うか?」
「
……
まあ、そうだな」
「ん」
ぶっきらぼうな押し付けと共に差し出されたのは、凝った作りをしたハンバーガーだった。
「中身はスモークチキンらしい」
「
……
てめェ、なんか企んでんのか」
「まさか」
ローは心外だ、というふうに肩をすくめ、さっきのいたずらめいた笑いを再び作った。
「ただちょっと、おれも飯でもと思っただけだ」
男はもう一つ紙袋を持っていて、それはどうやらパン類ではないものが入っている。よく見れば紙袋にはスモーカーがもらったタバコと同じ印字がされていて、たぶんローがマスターに、パンは嫌だと駄々をこねたんだろうというのもわかった。あそこは洋風のメニューしかない店なのに。
スモーカーはだいぶくたびれた頭で考えるのを一旦やめて、長くなった前髪をガシガシとかいた。
ひとまず、腹の虫は鳴っているし、どうして知っているのかわからないが好物の入ったハンバーガーを食べないという選択肢は、自分の中では生まれてきそうもない。ローはダイニングテーブルに備え付けの椅子を引いて、紙袋から自分用の飯を取り出している。
(いや、外食じゃねェから、これはセーフか?)
そうだ、これは外に食べに行ったわけじゃない。ローが買ってきたものを家で食べるだけだ。家での食事なら、幾度となくしてきた。それに今は腹も減っていて、ローも偶然同じタイミングで腹を満たそうとしているだけで。
スモーカーは、唸る。
──これじゃ、まるで、混乱のあまり理由や言い訳を述べているみたいだ。
ようやく椅子を引いてどっかりと座り、観念して受け取った紙袋から丁寧に包装された夜食を出した。
ハンバーガーにかぶりつく。マスタードの辛味が程よくて、うまい、と思った。明日マスターに礼を言うか。スモーカーはなるべくそういうことを考えるようにして、それ以外の定義だとか、同じ匂いのことだとかは脳の端へ追いやることにした。深夜の食事はあっという間だし、あとは眠るだけなのだ。できるだけこの疲労を回復させてから、もう一度考えればいい話だ。食べ物を咀嚼しながら、はてローが寝るために使っているマットレスはどこへやったかと思考を巡らせた。
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