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gib_fox
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hq治北
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ある二人のロマンス
ヤク△ザパロ、流血少々注意。
約束をした二人の話。この世界で、約束は絶対的な意味を持ってしまうから、このお話以降二人は約束には気をつけるようになる。
ロマンスって、物語、事件、みたいな意味もあるので、色んな意味も込めてタイトルにしました。
『ある二人のロマンス』
信介よりも後ろに立つな、常に前に立て。
頭
かしら
にそう言われて、わかりましたと言いました。
まるで絵本を読み聞かせるように、そう北さんに伝えたら、北さんは「そんなもんいらん」と小さく言いながら、真っ赤な手で俺の傷口を押さえている。近くにいた大耳さんから「侑呼べ」と誰かに伝える声がした、地を這うような唸り声。ここは敵地のど真ん中、大きく騒げば侑以外にも、いらん奴らまでうじ虫みたいに沸いてくる。面倒になる。だから大耳さんも北さんも俺も、最小限に抑えなくちゃいけない、気遣いも心配も吐く息の荒さも。
まあもし敵が来たとしても俺は立つし、たとえ手足ちぎれてもこの人を守るためにここに留まるけど。
そんな言葉を掠れた息混じりになぞると、
「だから、そんなん求めてないんや」
今度は小さいが、はっきりした怒声。視界の端に、北さんの憤怒の瞳が見えた。瞳は俺を凝視し、震えている。
恐ろしい。背筋が失血の感覚よりもゾッとした。あんたに泣かれて許されないより、いっそ体中の血を失って、カラカラに干からびた方がマシ。排水溝へ流れ落ちていく俺の血は、少しずつ少しずつ、量を増す。ポタンポタンと滴る音がする。
血はやがて地下の泥水に混じって処理場を通り、海へ続くんやろう。そこで俺の細胞たちが見る朝日や夕日は、今、目の前にいるこの人の崇高な姿よりもきれいやろうか。
「北さん、きれいやなあ」
「なに言ってんねん」
「きれいや」
「治、頭おかしなったか」
ずっときれいやと思っていたことを、やっと言った。ついに言えた。目の前の人は、俺ん中でまぶしいくらいに光っとる。
「あんたは、人を殺さんと生きて」
俺はこの人の頬に手を伸ばしかけて、やめた。俺の真っ赤な手で汚れるのは見たくない。けれど北さんは、その手をがっしり掴んだ。北さんの頬に血が数滴飛び散る。掴んだ手は結構痛い。「離さんぞ」と言わんばかりに爪立てとる。
「死ぬな」
北さん、それは約束ですか。
俺のもはや声にもならない薄れた息は、しかし北さんにはっきり伝わっていて、
「約束や、守れ」
と爪がとうとう皮膚に食い込んだ。あかん、やっぱ痛い。
すっかり失われた意識の奥底で、閉じた目の奥と、北さんの爪痕が熱かった。
これは約束、絶対に守らなあかん。全身が機能しなくなっても、あの人のところに帰らな。
いや、機能しなくなっても、なんて気弱なこと言った、ほんまは全身がすっかり回復して北さんの横にまた立ちたい。体に受けた鉛玉だけコロッと取って北さんとこ戻りたい。美味い飯作ってあげたい。抱きしめたい。キスしたい。
そんで、約束守りましたよって言いたい。そしたらあの怒った顔、晴れるやろか。
◇
摘出された弾を見ると、こんなちっぽけもんのために俺はぎゃあぎゃあわめいとったのか、と頭を抱えたくなる。あのあと俺を引き上げて病院へ運んだ侑は「あほ! 何発もくらってぎゃあぎゃあわめくのんは当然や!」ってけが人の俺の頭を思いっきし
叩
はた
いたせいで、病室を出禁になった。出禁中もスマホのメッセージはうるさくて、全部侑からのけったいな悪態ばっかだった。
でも、そのメッセージの合間に、北さんの様子をちょくちょく挟み込んでくる。だから見なあかん。腹立つ。
『北さん、お前の病室一度も来てへんで』
『定例会にお役目もある。お前のとこなんか寄る暇あるわけないやろ』
『死に損ないが。一生北さんに怒られてろや』
怒られたないからこうしてちゃんと病院から言われとるストレッチこなして、大人しく味のない病院食食っとるやないか。
濃い味付けの肉と飯、甘い菓子、太った魚に箸を入れる瞬間。目の前にあの人がいて、たらふく食う。夢でなんべんも見た光景。あのときをもう一度。だから今は五体満足であの人のところへ戻るために、よだれを垂らして我慢をし続ける。約束守りました、と言うために。
頭には、ちゃんと謝ろう。前にもう出られません。あの人が死ぬのは許さないと言うから。その代わり、俺もあの人が死なないように立ち回ります。
俺の中の絵本は書き換えられる。脳裏で場面を変更する。するとスマホが鳴った。今まで一度も病室に来ず、連絡さえもくれなかった人から。
『治の作った飯が食いたい』
病院の窓から見える夜空に、星が降った。遠い宇宙のどこかで星の命が尽きて落ちている。俺の代わりに燃えた星。海に流れた俺の細胞は、それを見たか。俺は見た。やっぱりあの人の方が、何倍もきれいや。そう思いながら、俺は手の甲に残る爪痕をなでた。
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