三毛田
2024-10-18 20:55:23
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84 04. 香りの記憶

84日目 夢か現か

「金木犀咲いてる!」
「穹、走るな。前を見ないと転ぶし、誰かにぶつかる」
 少々肌寒くなってきた今日この頃。
 深い緑の合間合間にオレンジの小さな花が咲き出した。
 鼻孔をくすぐる甘い香りは、夕方に嗅ぐとお腹が空く。
 そんなのは俺だけだと呆れられたが、この香りでお菓子を食べたくなるのだから仕方ない。
「この家の金木犀、すごくデカいよな。それなのに、綺麗に整えられてるんだから手間暇かかってるな……
「ありがとうよ。さっき剪定した枝がある。持っていくか?」
「わっ。い、いいんですか?」
「ウチの金木犀を褒めてくれたんだ。少し待ってろ。細かい枝を落とす」
 急に話しかけられて飛び上がると、金木犀の家のお爺さんは小さく笑って塀の向こうへ消える。
「ふっ」
「丹恒、笑うなって」
 ワンテンポ遅れて、丹恒も笑う。
「そっちの坊主も持っていけ」
「いいのですか? ありがとうございます」
「じいちゃん、ありがとう!」
「また見に来てくれよ」
「うん!」
 小さな木のように整えられた枝をそれそれ渡され。お礼を告げて、帰路に戻る。
「この匂い嗅ぐと、何となく懐かしくなるんだよな」
「幼い頃に、金木犀に関する思い出があるんじゃないか」
 花が潰れないようビニール袋へ入れながら、丹恒がそんなことを。
「全然覚えてない。カフカに聞いてみる」
「そうすればいい。気になって夜も眠れないだろうからな」
「夜しか眠れない!」
「言うと思った」
 俺の言葉に、珍しく苦笑せずに笑みを浮かべて。
 その姿が誰かに重なった気がして、目をこする。
「穹。そんなことをしたら、眼球が傷つく」
「あ、うん」
 長い黒髪に、白い服。
 どうしてか顔は塗りつぶされて見えない。
 翠が似合う人。
 顔も名前もわからないのに、何故かそれだけはわかる。
「ただいまー」
 丹恒と別れ、帰宅。カフカはまだ帰ってきてないみたいだ。
「よし」
 手洗いうがいを済ませ、適当にあった便に水を入れて枝を挿す。
「うっ」
 それを見ていたら、急に頭痛が。立っていられなくなり、その場にうずくまる。
……!」
 誰かが俺を呼んでいる。でも、誰?
……う!」
「たん、こ?」
「大丈夫か!?」
「あれ、丹恒? 眼鏡は?」
 心配そうな顔で、俺を見ていたのは丹恒。
「眼鏡? 頭を打っていたからな……まだ起き上がるな」
 起き上がろうとしたら、止められた。
 さっきまで見ていたのは、夢?
「必要ならば、白露を呼ぼう。忙しいだろうが、お前のためなら来てくれる」
「それはさすがに悪いって」
「だが」