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めまめ
2023-01-03 21:09:04
2154文字
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村荒
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旅愁
村(→)(←)荒
むらかみ君の出身地ネタ。自覚はしてないけど本能的には気付いてそうな二人がお喋りしてるだけの短い話。
作中のお菓子は実際にあるやつ(い◯ろくタルト)
方言を喋るむらかみ君に夢見てる
黒く艷やかな小皿には愛媛の銘菓がのっている。一見ロールケーキのような洋風の見た目だが、クリームではなくあずき餡が巻いてあった。
荒船は皿に添えてあった分厚い楊枝で、菓子を適当な大きさに切る。口に放り込むと、まずは砂糖の甘さがやってきて、次いで柚子の香りが主張をはじめた。どちらかといえば洋菓子よりも和菓子を食べることが多い荒船にとって、好みの味に近かった。
飲み込んでから湯呑みに手をのばす。どこかの土地の焼き物らしく、表面がざらざらしている。菓子が盛り付けてあった皿も湯呑みも、
今
こん
が選んだものだろうか。来馬の趣味かもしれないが、いずれにせよ器の価値など全く分からない荒船が見ても、いい湯呑みだなという感想を抱く代物だった。
濃い目の緑茶が舌を撫でていく。
「けっこう甘いけど、うまいな。お茶とあう」
「ほうか。なら良かった。いま食べてるのと同じものだけど、こっちは家族みんなで食べてくれ」
村上は安堵したように笑った。
向かいから渡された紙袋はずっしりと重い。ご丁寧に、箱詰めされた菓子が入っていた。この男のことだから支部にはもちろんクラスメイトにも土産を買ったはずだ。両手いっぱいに土産を抱えた村上を、わけなく想像できた。
「俺んちの分までありがとな。じいさん甘いやつ好きだから喜ぶ。
……
そういや、実家じゃゆっくりできたのか?」
「ああ。久々に帰ってきたんだから座ってろって言われて、皿洗いもさせてもらえなかった。ずっとごろごろしてたよ」
村上はソファの背もたれに深々と身体を預けている。ずいぶんとリラックスした様子だった。そして昔話のような調子で話を続けた。
「
……
うちの庭に一本だけ蜜柑の木があって。オレが産まれた時に植えてくれた木なんだ。それで、毎年甘い実がなるから、村上のとこの蜜柑はよー出来とるって近所でも評判で」
今日会ったときから、村上の紡ぐ言葉には生まれ育った土地のものが混ざっていた。正月休みに実家に帰り、向こうの言葉が完全に抜けきれないでいるのだ。
そもそも生駒隊の面々はずっと西の訛りのままなのだから、普段の村上が三門の言葉に馴染みすぎている気もする。もちろん生駒隊はほぼ全員が西の出身であり、自然とそのまま崩さないでいられるのもあるが、村上のこれはサイドエフェクトが関係しているのかと、つい考えそうになる。しかし荒船は余計な思考を捨てて、懐古する村上の話にただ耳を傾けることにした。
きっと明日には元通りになってしまう。
思い出したように挟まれる彼の故郷のリズムは、どこかやわらかく、耳馴染みがいい。荒船が知らない村上の過去を追いかけている気分になった。
ボーダーにスカウトされてきたとはいえ、村上は縁もゆかりもない三門を護っている。対してこちらは村上の出身地を地図上で知っているだけだ。
だから、自分たちと同い年だという蜜柑の木を、いつか見てみたいと思った。
村上はゆっくりと喋り続けた。今日の村上はすこし饒舌で、それでいて静かな語り部だった。
「今年のは酸っぱさもちょうど良いけん、オレもつい食べすぎてしもうて」
「ああ」
「けど荒船と食べたらもっとおいしいんだろうなって」
「ん?」とつぜん自分の名前を出されたことに、荒船は困惑した。
「荒船は三門で何してるんだろうとか、むこうに居る間もずっと考えてた」
じっと見つめられていた。穏やかな海を内包したような両目に、自分だけが映っている。途端に羞恥に似た感情を覚え、それがじわりと沁みて全身に広がっていくのを感じた。
「来年は、一緒に食べられたらいいなと思ったよ」
「
……
蜜柑を?」
「そうだな。蜜柑だけじゃなくて、他にもたくさん。あとはきれいな海もあるんだ。遠くから眺めるくらいなら、海に行くのも大丈夫だろ?」
「水辺に近づかないならいい。が、もう来年の話か」
新年は始まったばかりだ。荒船には一ヶ月先の予定もわからないし、三月には高校の卒業式も控えている。なのに村上は、もっと先の一年後も荒船と共に居るのだと疑ってすらない様子だった。
気がつけば、出してくれた菓子の表面が乾いてしまっていた。荒船はそれをひと息で口にいれた。舌のうえでほどけるスポンジ生地は、やはり甘い。
降って湧いたような戸惑いも一緒に緑茶で流し込む。それでも胸のうちには甘さがこびりついたままだった。
村上も菓子を頬張っている。いつの間にか訛りは無くなっていた。
「そうかもしれないけど。おまえは忙しいから、来年分はもう先に予約しておこうかなって」
「俺はおせちかよ」
半ば当然のような口ぶりに、荒船は呆れてしまった。しかし、どうしたって嫌な気持ちにはならなかった。
「来年まで待つ必要ねえだろ。あったかくなったら
……
春とか、いつでもいい。案内してくれ」
「え
……
いいのか?」村上は目を丸くした。
たしか、みかんの旬は寒い時期だったはずた。それなら一年後の冬にも向こうにいけばいいだけの話だ。その頃には、村上に見つめられてざわざわと騒いでいたものの正体がわかるだろうか。
耳のふちを赤く染めあげて喜ぶ村上に、そういえば、と前置きをした。
「明けましておめでとう。今年もよろしくな、鋼」
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