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とはり
2024-10-18 01:38:24
2446文字
Public
ハデ少
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断罪と氷と少年
黒雪イベ劇中劇『La Mort』の余白部分(『半死神の少年』が『氷結の死神』に閉じ込められた後のシーン)の妄想。
合法的に桜河こはくの怯えた表情が観れるってマジ……?!と興奮し、いてもたってもいられず書きなぐった産物。公式からの儚げ美少年桜河こはく供給にMAXキュン。
【pixivから移行】
pixivのキャプションのテンションの高さに自分で驚いた。若い。まだハデ少に気づいていなかった頃のみずみずしい新規の悲鳴だった。
桜河こはくの怯えた表情を妄想で補って喜んでいた約10ヶ月後に半泣き桜河のスチル(ヘルスパイベ)が発表されて笑うしかなかった。いい思い出。
これほど視界に映る吹雪が煩わしいと思ったことはない。
──少年が『氷結の死神』に狙われている
その先にある考えたくもない結末が何度も頭を過り、その度にかぶりを振って教会までの帰路を急ぐ。
どうか今日は教会には来ないでいてくれ、こんなに天候の荒れている日は家で大人しくしていてくれ。そんな淡い希望も教会の前に立って現れた光景に打ち砕かれる。
ようやく辿り着いた扉は分厚い氷で覆われていた。自分が教会を出た時には何の異変も見られなかった。これほどの氷がこの短時間でそう易々と自然に生成されるとは思えない。
こんな芸当が出来る人物は一人しか思い浮かばなかった。
「『氷結の死神』
……
!」
怒りと焦りで氷の壁に拳を叩きつけても、もちろんびくともしない。
「う、うわあぁぁ!? な、なんだこれっ!」
教会の中に響き渡る悲鳴が氷の奥から聞こえる。聞き馴染みのあるその声は少年のものに違いなかった。
「ああ
……
その恐怖に歪んだ顔
……
! 懸命に神に祈るお顔も怒るお顔も朗らかに笑むお顔もどれも素敵でしたけれど、今が一番美しいですねぇ
……
!」
慎ましくも昂りを隠しきれない響きの声は『氷結の死神』のものだ。二人はもう邂逅を果たしてしまっている。予想していた最悪の事態が目の前の氷の壁を隔てた先で起ころうとしている。
「その美しさが損なわれない内に心臓から凍らせていきましょうか
……
後でゆっくり私特製の氷の棺に納めてあげますからねぇ♪」
恍惚に満ちた声が凍った地面を這って伝わり、ぞくりと冷たいものが背筋を這い上がってくる。獲物を捕捉して今からありつこうとする爬虫類のイメージが脳裏に浮かぶ。
「嫌、いやだ! はーでい
……
っ」
少年の消え入りそうな声に名前を呼ばれて我に返る。切実な声を最後にぱったりと音が途絶え、既に一刻の猶予もない状況であることを直感する。血も凍るような思いで教会の裏手に回る。正面の扉を閉ざす氷が少年を閉じ込めるためだけに張られたものであれば、裏口までは手は及んでいないかもしれない。
「間に合ってくれ
……
っ」
死神らしくもない祈りを込めて白く凍った地面を蹴る。暖かな光を受けながら敬虔に祈る少年のあどけない横顔を今ここで失うわけにはいかない。
幸いなことに開いていた裏口から教会内部へ入ると、恐ろしいほどの寒さに体が震える。室内だと言うのに白い息が自分の呼吸に合わせて絶え間なく部屋へと吐き出される。外と内のどちらが寒いかなんて考える暇もなく、二人がいるであろう広間へと駆ける。『氷結の死神』の能力の影響がここまで及んでいることに強い焦燥を覚える。人間がよく言う生きた心地がしない、とはこんな感情なんだろうか。
駆け込んだ広間はもっと酷かった。凍てつく空気が呼吸の度に肺を通って内側から全身を凍らさんと蝕んでくる。
「何をしている!」
自分の怒号が凍えた部屋にキンと張りつめて響く。
声に驚いて目を見開いた『氷結の死神』と視線がぶつかる。奴のことは今はどうでもいい、まずは少年だ。氷のせいか照明の切れた部屋は薄暗く、一目見ただけでは全貌が測れない。
視線を動かすと視界の端に薄桃色を見つける。『氷結の死神』の向かいに立つ柱の傍に縛りつけられるようにそれはあった。
「少年!」
ほとんど叫ぶように呼んだ声にも少年はぴくりとも反応しない。胸を押さえて苦悶の表情を浮かべたままの少年の輪郭がいつもより淡いのは、その体に霜が降りているからだ。
教会を走り抜けて乱れた息を整える間もなく少年の元へと駆け寄る。触れた少年の体は体温の低い自分の体よりもずっとずっと冷たく、心臓が凍るように痛みに襲われる。かつて陽の下で触れた彼の温く柔らかな体温の面影すらない。
絶望に凍えた指先で硬直した少年の頬に触れた時、薄く開いた唇から白いもやが断続的にか細く漏れていることに気づく。
まだ、息をしている。
少年の肩を強く引き寄せて、ありったけの憤怒と軽蔑を込めて『氷結の死神』を睨み付ける。
「残念ですねぇ
……
あともう少しだったのに」
不服そうに言いながらも薄ら笑いを浮かべて霧のように『氷結の死神』は姿を消した。その瞬間に張りつめていた空気と温度がふっと緩み、消えていた照明がぽつりぽつりと光を取り戻していく。
纏っていた氷が溶け始めたのか、柱に張りついていた少年の体が床へと崩れ落ちるのをすんでのところで受け止め、脱力した体を支えながら共に腰を下ろす。
「はぁでい
……
?」
血の気を失った真っ青な唇が微かに空気を震わせて名前を呼ぶ。
君に近づくために作った名前。君に呼んでもらうために作った名前。危うくもう少し二度と呼ばれなくなってしまうところだった名前。私の、名前。
「あぁ
……
そうだ。良かった、間に合って」
少年の口からもう一度名前を呼ばれたことでようやく全身を包んでいた緊張の糸が緩む。自分の鼓動がはっきりと分かり、己の体にも心臓があったのだと思い出す。
まだ体の節々が凍ったままなのか、腕の中の少年は目を動かすのが精一杯のようで、きょろきょろと瞳だけが周囲を確認するように揺れている。
「ここにいる」
少年の視界に入るように体を動かすと彼の瞳にもうっすらと安堵の色が滲み、眦がほんの少し緩んだように見える。けれど、怯えの色もまだ深く濃くそこに残っていた。無理もない、得体の知らない者に訳も分からず命を奪われかけたのだから。
普段の気丈な振る舞いの彼とはかけ離れたひどく繊弱な様子が痛々しくて、その小さな体を両の腕で強く抱き締めずにはいられなかった。
ハーデイ、と胸の中で何度も名前を呼んで縋りつく、桜のように儚く美しい少年を愛しいと思ってしまう。このままずっと閉じ込めて手離したくないと考えてしまう。けれど。
こんなことをもう二度と繰り返してはいけない。これ以上、彼を苦しめるわけにはいかない。
決断の時が、来たのかもしれない。
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