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とはり
2024-10-18 01:18:29
7012文字
Public
ジュンこは
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孤独な獣たちのララバイ(R-15)
ジュンくんが好奇心と衝動に突き動かされてサクラくんに手を出しちゃった話。
一応R-15つけときました。
二人部屋というつよつよシチュエーションを利用しない手はないなと思い立ったままの勢いとノリで書きました。雰囲気を楽しむスタイル。
妄想と捏造のオンパレード。
【pixivから移行】
黒雪イベが発表されてすぐの頃にあげたものらしい。
桜が綻ぶ瞬間を見た。
薄紅の花弁がうららかな温もりに誘われて姿を見せたような、美しい光景。
それをもう一度目の前で見てみたいと、そして触れてみたいと思ってしまったんだ。
「あ、サクラくん」
自分以外いない少し肌寒くて静かな部屋。静寂がもたらすもの寂しさを紛らわせるため、何気なく付けたテレビに同室者が映っているのを見て、ジュンは思わず声を漏らす。
何かのコーナーだろうか。こはくだけでなくCrazy:Bの面々も画面に映り、各々動物と触れあっているようだった。
やんちゃなイメージの強いCrazy:Bがほのぼのとした動物ふれあい体験をしている様はちぐはぐで不思議な愉快さが込み上げてくる。
「茨のイメージ戦略ってやつですかねぇ」
ぼんやりと同じユニットで活動するアイドル兼プロデューサーの顔ももつ男の顔を浮かべて首を傾げる。
茨の言う戦略というものにはよく分からない部分もあるが、世間がそれで盛り上がり、反応を返しているのだから間違いではないのだろう。
「それにしても、サクラくんは可愛い動物でも似合うっすね」
小型犬を両手で抱えるこはくの姿に頬が緩む。愛らしい顔立ちのこはくと毛玉のようにふわふわとした小型犬の画はジュンだけでなくお茶の間も和やかな気分にさせるに違いなかった。
小型犬を撫でるこはくの足元に、不意に大型犬がすり寄る。
ぬしはんも構ってほしいんか? と大型犬に声をかけてこはくが膝を揃えて屈むと二つの頭が同じ高さに並ぶ。体格がいいとは言えないこはくが襲われたらひとたまりもなさそうだ、と庇護的な思考がジュンを過る。
「あれだけ大きいと犬って言うより獣っすねぇ」
小型犬を腕から降ろしたこはくが両手で大型犬を撫で回していると、しっぽを激しく振り続ける大型犬がわんっと吠えてこはくに飛びかかる。
勢い余った犬の愛情表現にバランスを崩したこはくは、間の抜けた悲鳴をあげて尻餅をつく。
思考を読まれたかのような展開にジュンも思わず声をあげる。つい前のめりになって、目まぐるしく状況の変わる画面から目が離せなくなる。
こはくとっては思ってもみなかった展開に唖然として犬を見つめる無防備な唇を、犬の大きな舌がぺろりとひと舐めした。
わ、っと声を漏らし、ぱちくりと瞬いて犬と視線の交換をした後、こはくが見せた表情にジュンの視線は釘付けになった。
──花が綻んだようだった。
えらい甘えん坊やねぇ、とあやしながらはにかむこはくの表情に、花が開く瞬間を重ねた。
ジュンの喉がごくりと鳴る。
こはくの唇を奪った獣は、再び撫でられて目元を蕩けさせながら、大きな口から舌を出してはふはふと満足げに呼吸を繰り返していた。
「ただいまぁ」
テレビの中から聞こえていた声がクリアに耳に届いて意識が現実へ引き戻される。背後から靴を脱ぐ音や手荷物を置く音が聞こえて、同室者が忙しなく動いていることが分かる。
「夜は冷える季節になってきたなぁ。薄着で出たから寒うてかなわんかったわ。温もりたいからシャワーもろてもええやろか?」
食い入るように見ていたテレビは今はもう違うコーナーを流しているけれど、脳裏に焼き付いた残像は消えるどころか同室者の気配を感じる度に濃くなっていくようだ。どんな顔をして振り返ればいいのだろう。
「ジュンはん、聞いとる?」
「わっ!」
視界に突然こはくの顔が飛び込んできて反射的に後ずさる。意識的か無意識なのか今までも時折こうやって気配なく近づいてくることがあったが、今ほど心臓に悪いと思ったことはない。目と目が合って心臓がばくばくと鳴って、恋に似ている、と頭の隅で恋なんて知らないはずの冷静な自分が俯瞰している。
「お、かえり
……
?」
実際のジュンは全くといっていいほど冷静ではなかった。え、今?と言いたげに呆気にとられた顔でこはくも「ただいま?」と首を傾げる。
「で、ええの?わし、シャワー浴びて温まりたいんやけど」
こはくの手元にはしっかりと入浴の準備がされている。
「あ、あぁ
……
オレ、先に浴びたんで構わないですよ」
「そうなんか。ほな入らしてもらうわ」
ぱたぱたと浴室へと向かうこはくの背が浴室の扉の向こうへと消えたのを確認して溜め息をつく。
胸の中に渦巻く靄を少しでも晴らしたくて、ジュンはテレビを消して部屋を後にした。
夏の終わり、秋の始め。その狭間の窓辺で外を見つめるこはくの横顔は夜に溶けてしまいそうだった。
その憂いを帯びたような顔も、部屋へ戻ってきたジュンの姿を捉えるといつもの快活なそれに変わる。
「おかえり、ジュンはん。ジョギングにでも行ってきたん?」
「いやぁ、頭を冷やしに共有ルームでぼーっとしてただけですよぉ」
「ふぅん? あ、沸かしたお湯余っとるからジュンはんも何か飲みたかったら使うてや。今日はこの季節にしては珍しくよう冷えるさかい、あったかくせんとなぁ」
言いながらこはくは窓から離れてテレビの前のソファへと移動する。ソファの前のローテーブルにはこはくが煎れたであろう湯気を立てた煎茶の入ったコップが置かれている。
確かに今夜はやけに肌寒く感じる。秋冷えの季節はまだ先のはずなのに、先程まで居た共有ルームも何だか冷え冷えとしていて、ジュンはたまらず帰ってきたのだった。この部屋はこはくが湯を沸かした影響もあるのだろうか、いくらか温かく感じる。
自室の温度に満足し特に飲み物を必要と感じなかったジュンは何の気なしにこはくの動きに追従してソファへと向かう。
「ジュンはんテレビ見るん?見たいテレビあったら点けてもろてええよ」
こはくは後をついてきたジュンを一瞥し、一口煎茶を啜ってほっと温い息を吐く。
テレビの存在を思い出して、ジュンの頭に画面の中で見たこはくの微笑みが再び浮かび上がる。
「あー、いや。見たいのはテレビじゃないんですけどぉ」
サクラくんの笑顔がみたい、なんて言ったら絶対変な目で見られるだろうなあと思いながら横顔をじっと見つめていたジュンの顔を、訝しげな表情のこはくが覗き込む。
「ジュンはん今日どないしたん?疲れとるんやったらはよ寝た方がええよ?」
「え?」
「それともわしのこと試しとるん? アイドルは求められたらいつ何時でも笑顔をつくらなあかん、とか何とかっち話?」
「え、えっ? 何のことっすか?」
流れの見えない話に混乱する。
「は? ぬしはんが言うたんやろ、わしの笑顔がみたいって」
「口に出ちゃってました!?」
こはくの言葉に一番聞かれたくない胸中の願望が口に出てしまっていたという現実を突きつけられ、ジュンは羞恥のあまり声をあげて今すぐ部屋から逃げ出したくなった。実際、心底心配そうに眉を下げたこはくがジュンの腕を掴んでいなければそうしていただろう。
「最近忙しそうにしとったし、ほんまに疲れとるんちゃう?」
疲れている、と言われれば思い当たる節がないわけではない。レッスンに仕事に駆け回り充実した日々を過ごしていると思っていたが、思い返してみればここ数日は寝るためだけにこの部屋に帰ってくるような有り様で、ずっと気を張っていたような気がする。
知らず知らずの内に疲労が溜まっていたのかもしれない。きっとそうだ。そうでなければ同性相手にこんな落ち着かない感情を抱くはずがない。
自分を心配してじっと見つめてくれる視線がこんなに心地よく感じるなんて。
「ははっ
……
ほんとに疲れてんのかもしんないっすね」
乾いた笑いを溢して沼に嵌まったように重くなったジュンの体へとこはくの両腕が伸び、背中に回ったそれはゆっくりと、されど力強く体を引き寄せる。
「あの
……
サクラくん、これは?」
自ら望んで胸の中に収まりに来たこはくに、行き場のない両手を広げたまま問いかける。
「ハグするとストレスが軽くなるっち教えてもろたんよ」
こはくの声と体温が肌を通して伝わる。こはくの真似をして華奢な背中に腕を回して抱き締めると、より体が密着して、相手の鼓動さえ伝わってきそうだ。鼓動を感じられるほど傍にある体温は凝り固まって冷えた心と身体を解していく。
「どないやろか?」
「なんか、いいっすね」
「ん。こうやって触れ合うんはこそばゆいけど、ええね」
こはくから与えられる温もりも声が伝える振動も、心地良いと感じる。目を閉じてあるがままの感触を受け入れる。
このまま温かな夢に包まれて眠れそうな気さえした。けれどそうしてしまうのはもったいなくて、もっと、と欲が顔を出す。
「お?」
抱きしめられたままソファに倒されたこはくから怪訝な声があがる。
「ふふ、ジュンはん重たいで」
押し倒された状況にもかかわらずジュンの背中をぽんぽんと軽く叩くだけのこはくからはまるで警戒心が感じられない。
誰に対してもそうなのか、自分に心を許しているからなのか。こはくの真意が図れず、心が振り回される。いつも通りの同室者に、いつも通りじゃない自分。自分が勝手に振り回されているだけで、それが何だか悔しかった。
こはくの体の傍に手をついて上半身を起こすと、革製のソファの表面が軋んで歪に形を変える。温もりと離れるのが少し惜しいなんて思ってしまったのは、きっと相手の触れ方が優しかったせいだ。
こはくは覆い被さる形で自身に影を落としているジュンを静かに見上げていて、ジュンの出方を伺っているようにも見える。
ソファに寝そべって腕をだらりと降ろして、弱点である腹を相手に晒す形は野生で言えば服従と同意義だ。何をされてもいいと思っているのか、それとも何かされる可能性などないと信用されているとでもいうのだろうか。
黒地のソファはこはくの白い肌と桜色の髪を際立たせて、その輪郭を綺麗に浮かび上がらせる。
「そんなに見られると、何や照れるわぁ」
すっと目を伏せたこはくの黒い睫毛がすみれの瞳に影を作る。色素の薄い頬が淡い桃色に染まったように見えたのは、自分の見間違いなんかじゃない。
色づき始めた桜に、頭の隅に追いやったはずの好奇心がうずうずと這い上がり、ジュンの脳内を支配する。
こんな欲望が沸き上がってくるのは、少し肌寒いこの夜にうららかな春の木漏れ日のような微笑みを画面越しに見てしまったからだ。その温度に触れたいと思ってしまった。
「サクラくん」
「ん?」
呼ばれてこはくはジュンに顔を向ける。眼前に晒された無防備な桜唇に、ジュンの瞳が獲物を捉えたように細まる。
こんな時に「美味しそう」と思うなんて。自分は本当に獣にでもなってしまったんだろうか。眠れない夜にホットミルクを口にするように自然と唇を近づけていた。
しんと静まった部屋に、ちゅ、っとささやかなリップ音が生まれる。
「え
……
?」
離れた唇から微かな吐息が零れて、二人の僅かな空間が震える。まんまるに開いたすみれ色の目がジュンに向けられている。
「あ、っ、すんませ
……
っ」
我に返り自分のしでかしたことに反射的に謝罪の言葉が出る。思わず目を逸らしてしまい、見てみたかった表情を見ることも温度を感じる余裕もなかった。
そんなことよりも自分の衝動が招いた行為への混乱と戸惑いでいっぱいだった。取り繕い方が分からずしどろもどろに視線が揺れる。
「ジュンはん」
「っ
……
」
伸ばされたこはくの手が頬に触れ、やけに熱っぽく名前を呼ばれる。
触れた指先は案外冷たくて、熱と冷たさの間で混乱だけが膨らんでいく。
再び見つめたすみれ色の奥にくゆる熱を見つけて逸らせなくなる。紫苑の熱の中で自らが炙られるようだった。
「今夜はよう冷えるみたい。人肌は温かいっち聞いたけどほんまやろか。なぁ、ジュンはん」
──わしに、教えてくれる?
たっぷりと吐息を絡めて囁きながら緩慢に近づいてくるこはくの顔に微動だに出来ず、自分たちの間にあった距離が再びなくなっていく。
唇に押し付けられた感触の、あまりの柔らかさに驚く。吸い込んだままの空気が出口をなくして肺の中でぐるぐると渦巻く。苦しくて、唇がぬるくて、愛しい。
「あったかいなぁ」
頬を桜色に染め、眦をとろけさせて控えめに微笑むこはくの姿に全身の皮膚が粟立つ。唇から伝わった温もりが灼熱に変わって全身の肌を舐めていく。自分も知らない奥に潜んでいた澱に温もりが触れて、きゅうっと胸が切なく鳴き出す。
こんなはずじゃなかったのに。こんな顔するなんて思わなかった。想像していた可憐な一輪の花開きとは異なる、こはくの妖しいまでに艶やかな表情を、美しいとさえ思った。
ふと、毎年街で見かける満開に咲く桜の木の姿が映像となって頭の中に流れ出す。
そういえばサクラは美しい花の名前だったな。
ぱちん、と果実が弾けるような衝動だった。
気がつくとジュンはこはくの体をソファに押しつけてその唇に噛みついていた。
逃げる素振りも見せていない体をソファと自分の体とで挟み、気が変わってもどこにも行けないように逃げ場を潰して、獣のように食らいつく。キスなんてしたこともないのに、体が勝手に動いて捕食対象の口内をくまなく侵し尽くしていく。
ダメだなんて思わなかった。理性も自制心もどこか遠くへ吹っ飛んでしまったみたいだ。越えちゃいけない一線なんて見えなかった。トップスピードで走り抜けて、越えた感覚なんてものもなかった。触れたい、暴きたい、という衝動にひたすらに突き動かされていた。
どちらから誘ったのかも分からないまま、こはくのベッドの上で二つの影が重なる。
林檎のように赤く熟れた首筋に顔を埋めると、肌とシーツに染み込んだこはくの匂いが全身を包むように香る。甘くも感じる懐かしいような匂い。
───自分の匂いに染めたい
獣の本能とやらに目覚めたのだろうかと思うほど強い衝動が胸に沸き上がる。
肌を舐めて、肌同士を擦り合わせて、こはくの敏感な体が色づく毎に彼自身の香りが薄れていくのに言い様のない悦を感じる。
翻弄されているこはくはジュンが与える熱に抗うことなくされるがまま受け入れていた。
頬を撫でて、濃紺の髪を撫でて、汗ばんだ浅黒の肌を撫でて、まるで動物を愛でるかのようにこはくの手のひらがジュンの全身をなぞっていきながら、切ない声で何度もジュンの名前を繰り返す。
それは幼子をあやすように。
あるいは愛に飢えてのたうちまわる獣を宥めるように。
あるいは愛し合う恋人のように。
こはくはジュンに触れる。
答えはここにはないけれど、二人は答えも正解も求めてはいなかった。
終わらない衝動がもたらす熱に、頭も体も融けていくようで、このまま融けてしまえたらどれだけ満たされるんだろう。
これは、幸せなんだろうか。
これが、幸せなんだろうか。
乾いていた心が潤っていくようなこの感覚に、名前をつけていいのだろうか。
「昔からこうやって誰かと一緒のお布団に入ったことないんよ。あったかくて、ええね」
布団の中の二人分の温もりに身を埋めて、掠れた声で過去を吐露する。
「オレも今になって考えれば特殊な幼少期を過ごした気がしますねぇ」
「うん、知っとる。ジュンはんと同室になるっち聞いたとき、どんなお人なんやろってちょっと調べさせてもろたから」
調べた、という言葉に多少のひっかかりを感じたものの、多幸感と微睡みに浸された脳はそういうものかとその辺に転がっていた納得の感情を引き出して、深く考えることを放棄した。
「わしら、小さい頃からこういう温もりに飢えとったんかもな」
月夜の湖面が揺れるように静かな声で零すこはくの輪郭が儚く溶けて消えてしまいそうで、手を伸ばして引き留める。
触れた頬は汗ばんで湿っていて、けれど確かな温もりがあった。
「ジュンはんは、世界から切り離されたような、他人様の温もりがどうしようもなく欲しゅうなるような、そんな気持ちになったことある?」
「さぁ?どうでしたかねぇ。もう忘れちまいましたけど。誰にもあるんじゃないです?寂しいって感じることなんて」
返した答えにぱちくりとこはくの目が瞬く。黙ったままのこはくの反応に、検討違いなことを言っただろうかと少し不安になる。
「さみしい
……
っちのはよう分からんけど、みんな同じなんやろか?」
何も知らない幼子のようなどんぐり眼にジュンが映る。寂しいという感情を初めて知ったような素振りをするこはくを温めてやれるのは、その感情を教えてしまった自分しかいない、と思った。
「そういうことっすよ」
視線がぶつかって、互いの根底にある幼い頃の侘しさにそっと触れるように、どちらからともなくふやけた唇を重ねる。
ささくれを舐めるように緩慢に舌を絡ませ合って、心の奥の脆い部分が壊れないよう、そろりと熱を交換する。心臓がゆっくりと脈打って、滲むように全身が温もっていく。
髪を撫でられたこはくの眦の縁が気持ち良さそうに淡く綻ぶ。
もう一度肌を重ねて、お互いを包み合うように抱きしめ合って瞼を閉じる。
微睡みの中で聞こえた鼻唄は幼い頃に聞いた懐かしいメロディーに似ていた。
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