三毛田
2024-10-17 20:56:32
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83 03. 匂い立つ花のように

83日目 美しい


 柔らかな甘い香りが、鼻に届く。
「パム?」
「なんじゃ」
 掃除をしていたパムを見るも、ほうきとちりとりしか持っていない。
「じゃあ、誰?」
「ふむ。この匂いは、丹恒じゃな」
「え?」
 思わず下を見ると、
「最近空き客室で、香を焚いて過ごしておる。くどくない香りを選んでいるみたいでな、女性陣からのウケもいいようじゃ」
 と返ってきて。
「ああ。それでなのがはしゃいでいたんか」
「うむ。きっと上着についていたのが座席に映ったんじゃろう。さっきまで、穹が座っていたあたりに上着を置いて掃除を手伝ってくれていたからな」
「なるほど」
 つまり、今、丹恒を抱きしめたらもっとこの香りが強くなるのか。
「無意味に邪魔をするんじゃないぞ」
「うん、大丈夫!」
 が、俺見上げるパムの表情は信じていないようで。
「怒られてもオレは知らんぞ」
「わかってるって〜」
 飲み物と今日のおやつをもらって、丹恒がいるであろう客室車両へ向かう。
「どうぞ」
 甘い香りがする部屋の前でノックすると、許可をもらえたのでそっと入る。
「穹か。どうした」
 部屋中に広がる香りの中、持ち込んだらしい椅子に腰をかけて読書をしていた丹恒は、一瞬だけ俺に視線を向けてまたすぐに本へそれを戻す。
「おやつもらったから、一緒に食べよう。味が違うから、少しずつ。どう?」
「ああ。いいな」
 俺の言葉に本を閉じ、サイドテーブルへ置いて。
 もう一脚ある椅子に腰をかけて、テーブルを引っ張ってきて広げる。
「タルト、か」
「甘いから一口だけでも大丈夫だよ。残りは、俺が食べるから」
「食べ過ぎになるんじゃ」
「大丈夫! お昼ご飯少なめだったから」
「夕飯が入らない状態にならないならいい」
「はい、あーん」
 一口サイズにカットし、口元へ持っていく。
 躊躇いなく口を開けて。
 丹恒が動くたびに、甘い香りが広がり。
 ちょっとだけ、タルトの匂いがわからなくなる。
「ん。悪くないな」
「もう一口食べる?」
「いや。別の味を食べるからいらない。が、一口サイズのであれば、二つくらいなら食べられるだろう」
「パムに伝えておくね」
「頼む」
 俺が来てから、丹恒は色々食べるようになったらしい。
 食の好き嫌いがはっきりしたともいう。
「ネットで見たんだけどさ、クラッカーにクリームチーズと生ハム? っていうのを乗せておつまみにしたのとかあるらしいんだ」
「それならいくつも食べられそうだ」
 想像したのか、ふっと目元と口元を和らげて。
 ああ。
 その姿は花のようにとても美しい。