けろか
2024-10-17 20:41:39
3184文字
Public
 

竹くく♀修学旅行ラブハプニング

竹谷くんと久々知さん♀に修学旅行ドドドドド定番の
彼女の部屋忍び込み→やべっ先生くる→お布団の中で密着ドキドキドッキーン!をやってほしいなという話です。
お布団じゃなくてベッドになっちゃった🛏️

 修学旅行、二日目の夜。八左ヱ門にとって一番楽しみにしていた時間がやってきた。もちろん、この二日間の日中もものすごく楽しかった。三ヶ月前に念願叶って付き合い始めた彼女――一組の才媛である久々知兵助。組は違うが、修学旅行委員会として働く彼女と一緒に行動する機会が多く、その几帳面さに優しさ、天然さ、可愛さ、その他諸々を間近で感じられる幸せな時間だった。観光地を巡る度に兵助が事前に調べてきた豆知識を語る姿、ところどころご当地の豆腐の話が挟み込まれるのも、もう全てが愛らしく、八左ヱ門は彼女の一挙一動にメロメロだった。と、この通り日中も満喫できたわけだが、この二日目の夜はそれよりもっと特別な意味を持っていた。というのも、修学旅行、最大のお楽しみであり最大の禁忌である“夜中に彼女の部屋にお忍びデート”を予定しているからだ。

 夜の自由時間も終わりに近づく頃。八左ヱ門は心臓の鼓動を抑えきれないまま、兵助の部屋の前に立っていた。ここまでの道のりは険しかった。まず自分の部屋の見回りはお土産で買収した級友の雷蔵や三郎に誤魔化してもらっている。ここまでの道筋は、先生の目が光る主階段を避けて裏の階段から来たし、彼女の担任の木下先生が今は明日の会議で席を外していることも確認済みだ。
 深呼吸を一つして、ドアに向かって指を伸ばす。兵助と決め打ちした、一定のリズムで数回、慎重に扉を叩いた。

 キィっと軽い音を立て扉はすぐに開かれた。滑り込むように部屋に入って、兵助の姿を視界に入れて、思わず変な声が出る。
「っあ〜!緊張したぁ〜!!なんかさ、忍者になった気分だった」
「おつかれさま。はちが忍者、なんだか似合いそう。すっごく想像できる」
「そうかぁ?」
 はい、水とミネラルウォーターを渡されて、ありがたく口に含む。柔らかな笑顔に、八左ヱ門の胸はまた高鳴り始めた。先生に見つからないかとばくばくしていた心臓が、兵助の姿を目にしてなおドキドキと続く。いつも高く結われた艶やかなポニーテールは下ろされていて、白い肌はシャワー上がりなのか火照って赤い。大きな瞳はベッドライドを反射して、暖かな光を宿していた。今し方水を流した喉が渇く。
「同じ部屋の子は?」
 八左ヱ門の声は、自分でも気づかぬうちに少し上擦っていた。
「どっかに遊びに行ったよ。だから今夜はおれひとり。って、もう、これも計画した時に話しただろ?」
「あ、そうだったな……
 知っていたことを聞いてしまった。何を話したらいいか頭の中は真っ白になっていく。日中は普通に話せたのに。そうだ、日中は観光地、目に見えるものの話をしたのだ。今目の前にあるのは、うん。ふわふわもこもこの薄橙色のパジャマに包まれた彼女の姿だった。もこもこの暖かそうな上半身と対照的に、下半身――普段は膝丈のスカートに隠されているそれが、ほぼ露わになっていて、つまり生脚が晒されている。機能的にどうなのだろうかと思わなくもないが、己の視覚を喜ばす機能としては百点満点だ。
 日中はありがたい建築物や雄大な自然の風景に「綺麗」「でかい」「大自然すげー!」だったけど、今は「可愛い」「抱きしめたい」「彼女の風呂上がりのパジャマ姿やべー!」である。昼に大きいものを見てでかいと言ったように、抱きしめたいって、素直に言えばいいのかそう行動すればいいのか?けれど、この前ようやく、本当にようやく手を繋いだばかり。それ以上の行動は、まだしていない。性急すぎるかながっついてるって思われないかな、八左ヱ門の頭の中で思考が螺旋を描く。そろそろ彼女に訝しがられそうだ、まずい、と思ったその時。
 トントン、と二回、軽いノックの音がした。
 心臓が跳ね上がって、息が詰まる。耳たぶまで熱くなり、全身から汗が出た。
「兵助?修学旅行委員会のことでちょっと話が」
 声の主は、若い。木下先生じゃない、……土井先生か。いや、木下先生じゃないだけマシとはいえまずい、そういえば土井先生って兵助のこと呼び捨てなのか、と思考が渦を乱しに乱れる中、脊髄反射的に体が勝手に動いた。具体的には、兵助を抱き寄せるようにしてベッドに倒れ込んだ。男子部屋で他の部屋に潜り込んだ時の行動、とりあえず布団の中に隠れるの術、だ。
「え、ちょ、わあっ」
 生憎ここは布団ではなくベッドで、摩擦の強いベッドシーツは咄嗟に被れない。結果的にドアの向こうに先生がいるこの状況で、彼女を押し倒したことになる。心臓の鼓動が、耳の中で轟音を奏でる。ドクン、ドクンという音が、部屋中に響き渡っているのではないかと思うほどだ。己の腕ともこもこの綿に包まれて身じろぎする兵助は、なんだか羊みたいで、食べられるのを待ってるみたいで、八左ヱ門の動悸をさらに加速させた。​​​​​​​​​​​​​​​​
「兵助、へいすけー……寝てるのかな、うーん女子生徒の部屋に無断押し入りはだめだな、明日伝えればいいかぁ、うっ胃がいたたた……
 土井先生の声が廊下の向こうに遠ざかって行く。部屋と八左ヱ門の耳を満たすのはお互いの吐息と鼓動だけになった。
……ねぇ」
 どっくんばっくんと胸が苦しくて耳が痛い中、徐に兵助が口を開く。瞳にはぴょこぴょこと跳ねた前髪の自分が映っている。目はギラギラしていて、お腹を空かせたオオカミみたいだ。
「土井先生は部屋の中までは入ってこないよ、男の先生だし。だからはちだけ隠れてればよかったのに。どうしておれまで隠そうとしたの」
……忍者の条件反射的な……
「忍者じゃないだろ」
「マジレス……さっき兵助、俺が忍者似合うって言ったじゃん」
「ふふ」
 眦が弧を描いて緩められる。よかった、怒ってないみたいだ。吐息が聞こえる距離は、彼女のまつ毛の生え際までもが見える近さだ。潤む唇の皺まで見えるようだ。ああ、この唇も食べてしまいたい。
「あれは例え話だってば。土井先生に悪いことしちゃった、また胃が悪くなっちゃうよ」
 ……他の男の名前を出すなよ、なんてドラマや少女漫画である陳腐な台詞だと思っていたけれど、一字一句同じ言葉が胸をよぎる。二人きりなのに。俺の視界は兵助しか映してないし、兵助の瞳には俺しか映ってないのに。
「兵助だってさあ」
 なぁに、とでも言いたげに黒い睫毛がはためく。体は、俺の腕に閉じ込められたままだった。思考の螺旋階段が、行き止まって結論に着く。
「土井先生が部屋に入ってこないこと知ってるのに、悪いなって思ってるのに……どうして俺を押しのけなかったの?」
「っ、それは」
 詰まった、ビンゴだ。顔に朱が走る。羊をおいしく食べるオオカミみたいな気分に本当になってきて、今度こそ唇を美味しく頂こうと、薄目になって、おでこを近づけて、ああこんなに近づくと鼻筋って当たるんだな、ドラマで見たように顔を少し傾けて、あと何センチ――というところで下から伸びた白い手に、両頬を掴まれた。
「っ!」
「ん、むぅ」
 そのまま重力方向に力が加わって、ふにゅっと上唇が二つの柔らかい肉に挟まれる。やわらかい、あたたかい、いい匂いする。見よう見まねで彼女の下唇を食む。ぴくっと華奢な肩が跳ねて、唇が外れた。ぷはっと息継ぎして、潤んだまなざしでこちらをしっかと捉える。
「ずっとこうしたかったから」
「へ」
「はちと、……八左ヱ門と今日の夜こういうことしたくて、されるのかなと思ってたから……されるがままでいた」
 顔が熱い。きっと真っ赤になっているのだろう、それを見た彼女もまた顔を赤くして嬉しそうに笑ったので、こちらも嬉しくなって、二回目は自分から口付けた。
 可愛くて聡明な彼女は食べられる時を待つ羊なだけじゃない。お腹を空かせた狼の部分だってあるのだと知った、修学旅行の夜だった。