嶋利
2024-08-07 20:58:19
2586文字
Public FE 風花雪月
 

【SS】ベルナデッタの追い詰め方

Pixivに投稿していた同名の小説の改稿中に発生した幕間です。没となりましたので供養します。カプ要素はありません。/ ポイピクから移動させました

青獅子の学級に勧誘されてから、ベルナデッタの生活はますます混沌を極めていた。
講義や訓練の時間になるとイングリットが迎えに来るようになった。扉を壊された経緯によって、いつの間にか彼女は担任のベレスから合鍵を譲り受けているくらいに熱心に関わってくる。あの学級の人々は親切ではあるけれど、ベルナデッタにとっては過干渉な人が多すぎだった。
今日は課外活動で遠征に出る。課外活動の出立は朝早い。暗いうちから動き始めることもあって、ベルナデッタは眠っているうちに連れ出されていた。
今日こそ課外活動には欠席するとそう誓って早めに起床し、予め持ち込んだ収納用の木箱に身を潜める。
隠れる場所として、この木箱の中に隠れることは名案だと購入を決めた。壁や床の色に合わせて木箱は暗めの色を選んだ。扉は内開きになっているから、寝台の足元なら侵入されても死角になるだろう。暗いの ことだけが欠点だけれど戦闘に駆り出されるくらいなら、ベルナデッタは耐えられそうだった。


いよいよ部屋の扉を叩く音がする。イングリットはいつも、鍵を持っているのに律儀に叩いて大きな声で呼び掛けてくる。だが今日は呼び掛けがない。恐らく今日はベレスだからだ。
彼女は黙って部屋に入って来たことを靴音が教えてくれた。きっと、わざと気配を消してない。誰かと話している声は届くが内容まではわからない。イングリットと話しているのだろうか。
見つかりませんように、と身体に力が入って真っ暗だというのに目を瞑る。目を瞑ってしまえば見たくないものは見ずにすむ。
ふいに、カチリと金具の音が鳴って箱がゆっくりと不安定になった。見上げても暗闇のままであるならば答えは一つだ。

(えっ!?蓋、閉められちゃった……!?)

これでは箱を密封されたまま出られない。一生このまま鍵が開かなかったら、とベルナデッタは途方に暮れた。こんなところで死にたくはない。

「出ます!出ますから!!出してえええ!!」

箱の中からドンドンと叩けば、箱はゆっくりと下方へ沈み、金具を解かれた音がした。箱から飛び出し咄嗟にベレスにしがみつく。こちらの心臓は飛び出しそうなほど強く鼓動を鳴らすのに、彼女の心は凪いだままだ。

「ごめんなさいごめんなさい!!ちゃんと講義にも訓練に参加するから殺さないで……!!」

目を丸くしたベレスはしがみつくベルナデッタの頭を撫でて微笑んだ。この笑みに負けてはいけないのだが、彼女のこの控えめな笑顔にベルナデッタは弱かった。怖い思いをしたあとにこの笑顔はまるで女神のよう――

「箱ごと連れて行かせてくれるなんて随分親切だと思ったのだけれど」

ベレスを女神だなんて、瞬時に撤回するはめになった。
彼女は本気で箱ごと連れ出す気だったのだとベルナデッタは血の気が引いた。長距離をこの施錠された箱の中で過ごしていては、出陣する前に死んでいただろう。

「先生の悪魔ぁ……
「ふふ、久しぶりにその名で呼ばれた気がするな」
「うう、そんな嬉しそうにしないでくださいっ!ベルはほんとに怖かったんですよ!!」
「じゃあ、どうする?欠席以外なら今日はディミトリがどんな運び方でもしてくれるはずだよ」
「先生、なんでもするとは言っていないぞ」

自分の部屋にディミトリも足を踏み込んでいたことにベルナデッタは今になって気が付いた。男性が自分の部屋に、それもファーガス次期国王が立ち入っていることにベルナデッタは血の気が引いていく感覚を得る。

「なっ……えっ……?」
「すまないベルナデッタ。級長として協力しないわけにはいかないと思ったんだ」
「あの、あたしは、ベルはいつもどのように運ばれてるんです……?」

初めて青獅子の学級の課題協力として連れ出された時は袋詰めにされて運ばれた。士官学校に来た時に母に袋詰めにされたことを思い出したのだろう。忘れてと言ったのにベレスはそれを覚えていたようで、幾度か同じように連れ出された。
その袋詰めの自分を、いつも次期国王に運ばせていたのでは、とベルナデッタの体は冷や汗と震えが止まらなかった。

「いつもはドゥドゥーが運んでくれているよ。今日は箱の中にいたからディミトリにお願いしたんだ」

ベレス一人で自分を運んでいたわけではなかったことに、ベルナデッタの足の力は抜けて木箱の中に座り込んだ。
転級前からディミトリが槍を何本も折っている姿を、ベルナデッタも見かけている。木箱ごと自分を運ぶなら彼が適任だろう。

「あ、あの。じゃあ着替えは?いつも制服で目が覚めるんですけど、それはさすがに先生ですよね!?」
「ああ、それはメルセデスが」

通りでいつも身綺麗な姿で目が覚めるわけだとベルナデッタは唸った。
自分を運び出すのにどれほどの人員が割かれてしまっているのかを考えれば考えるだけ恐ろしい。

「それで?やっぱり今日は箱ごと出立する?」
「それは絶対嫌!!もう馬でも徒歩でも、ちゃんと自分で移動しますから勘弁してええ」

ベルナデッタの嘆きはベレスに伝わったようで、箱詰めでの運搬を諦めてくれたようだ。軽々とベルナデッタを脇から抱えて箱から出した。

「よかった。それじゃ行こうか」
「今日の先生、なんか怖い……
「うん?何か言った?」
「何でもないです……

どうして彼女は獅子の崖落としのごとく戦場に連れ出すのか。戦闘に向いてない自覚があるだけに、ベルナデッタには到底理解できそうにもなかった。
それになぜかフェリクスの副官に指名することを辞めない。フェリクスもベルナデッタが帯同していることに対して不満を持っているようで、ベレスにもベルナデッタにも苦言を呈する。
そのうえ彼はどんどん先陣を切って戦場の中心で剣を振るう。ベルナデッタは身の置き場に困って、ただただ自分に危害を加えようとする敵を射抜くことだけしか考えられなくなる。味方を傷付ける可能性が過ぎっても本能がそうさせてしまう。
いつか味方までもを傷付けてしまうくらいなら、課外活動なんて欠席したくて堪らなかった。
だがそれも潮時なのかもしれない。これ以上干渉されたくなければ、戦場での立ち振る舞いを改めて、その上で彼らから逃げる方法を模索するべきだ。

「転級しないほうがベルの学生生活は平和だったのかなあ……