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ミイ
2024-10-16 22:05:11
2746文字
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静なつ 誕生祭
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藤乃静留 誕生祭2023
「静留、誕生日おめでとう」
なつきと出会って、なつきから何度も受け取ってきたこの言葉。それはうちがそれほど意味を見出せていなかった「誕生日」というものを、一年で最も待ち遠しいものにするには十分なものやった。
初めの年はぶっきらぼうに目ぇ逸らして。
「偶然知ったんだ」
なんて何も用意してへんやったからと自分の弁当を差し出すかいらし子。
その頃は懐き始めた子猫みたいに、微妙な距離をとりながらもうちのそばにいてくれたなつき。目に映るもの全てが敵だとでも言いたげやったその瞳にうちが映る時だけは、背伸びをやめて年相応のおなごはんになってくらはる。それがうちの勘違いやとしても、うちはなつきがほんの少しの間でも、一人で背負うてはる大きな荷物を下ろせるなら、それでよかったんどす。その日初めて、うちはなつきと一緒にお昼ご飯を食べました。それが何より、嬉しかったんどす。
その次の年もぶっきらぼうに、やけど上目遣いにうちを見つめて、「誕生日おめでとう」と同じ言葉をくれました。なつきはきっと、知らへんのやろうね。その新緑にほんのちょっとでも見つめられるだけで、うちの胸が、押さえずにはいられへんくらいにきつく締め付けられることを。
渡されたのは小さなケーキの箱。
「去年は和菓子をよくもらっていたから、あまり食べていないものをと思ってな。あ、もし苦手なら」
「苦手なわけあらへん。おおきに、なつき。うち嬉しいわぁ」
なつきの言葉を切ってしまうのは心苦しかったですけど、傷が絶えない細い手を引っ込めそうになったのをみとめてうちはすぐに手を伸ばしました。頬を染めて、ほっとしたように息を吐き出すその子が愛らしくて。プラスチックのスプーンにケーキを乗せて差し出したら、存外素直に食べてくれはって。ちょっとくらい狼狽えて欲しい思いましたけど
……
そんなことを思うのは、うちだけやね、なんて自嘲してしまいましたわ。やかて、なつきがうちのために時間を使てくれる。それが、普段は見せないようにしてる顔を思わず見せてしまうくらいに嬉しくてたまりませんでした。ただの、気を許せる友人という枠に収まっていただけだとしても。なつきのそばにいられれば、それでよかったんどす。
その次の年は、HiMEとしての戦いでそれどころではなくて。その年のなつきは今までにも増して何かと一人で戦ってはるみたいで、それに気づいているのに、何もできないのが辛かったんどす。
墓場まで持っていくつもり、やったのに。そばにいれさえすればいい、思てましたのに。
……
うまくいかないもんやねえ。想像していた告白とはかけ離れたあれを、なつきは拒絶しはった。それもそうやと思う。やって
……
なぁ? ずっと友達や思てはったんに。裏切ったのはうちの方や。それでも、なつきはうちのもんにしてみせる。そのためには
……
邪魔なもん、ぜんぶ消してしまおか。
……
愛する人のために、できることはしなあかん。そう、思ってました。
うちもあの時は
……
一番地潰すのにえらい時間かかってしもてなぁ。
なつきには余裕も時間もなかったはずやのに。うちもその年の誕生日なんて、すっかり忘れとったさかい。それやのに、あの日。なつきがきっと来るやろうって、生徒会室の机に腰掛けた刹那、それが目に入りました。
『静留、誕生日おめでとう』
差出人も書かれていないメモ。やけどそれが誰からのものかなんて、うちがわからんはずがない。
……
なんて、優しい子ぉなんやろう。うちの気持ちを知っても、ただ純粋に「友人」の誕生日を祝ってくれる。そしてその気持ちを、深読みしてしまいたくて、自分のものと同じだと思ってしまいたくなる自分に吐き気がしました。
堪忍な、なつき。うち、あんたのことが好き。
この気持ちはもう、うちの中にしまっておけるかもわかりません。一度切れた堰は戻らへん。やからどうか。どうか、あんたを想うことだけは、許してな。
そして、その次の年の今日。なつきはまた、うちのところに来はった。うちが卒業してからも、なつきは何かにつけてうちに会いにきてくれて。あんなことがあったのにどうして、なんてことは聞けずじまい。ないはずの特別を求めてしまいそうで怖い思てました。なにより、なつきの口からはっきりと聞くのが。
……
うちも大概やね。
……
出会った時よりも少し身長が伸びて大人びたように思います。やかて変わらない素直さで、優しさで、今もうちを包み込んでくらはる。あんな形で気持ちをぶつけてしもて、受け入れられることなんてないと思ってた。やのになつきは、うちと向き合って、うちのことが好きやって言ってくれた。なんて優しい子ぉなんやろうって、惚けていることしかできませんでした。
「静留、誕生日おめでとう」
なつきはその新緑でうちを見つめて、ふわりと甘く微笑んではった。少し恥ずかしがってはるんやろか、ほっぺたをりんごさんみたいに赤らめて。
「毎年おおきに。
……
なつきはほんにかぃらしなぁ」
「なっ!? 一体どこからその流れになるんだ!?」
警戒した猫のように後ずさるなつきに、一歩だけ距離を積める。一瞬で真っ赤になるのは、あの頃は見られなかった景色。
……
意識してもろてるって、自惚れてもいいんやろか。それなら、ほんの少し、今日は誕生日やから。
「なあ、なつき」
「なんだ、静留」
「わがまま言ってもええ?」
「
……
内容による」
「いけず」
「なっ! 安請け合いするよりはマシだろう!?」
すぐに大きな声でキャンキャン吠え立てるのは、出会った頃から変わってへんね。くすくす笑いながら、うちはなつきの手にそっと触れて包み込みました。
「今日が終わるまで、一緒にいてくれはる?」
「それはわがままじゃないだろう。元からそのつもりだ」
あの日振り払われてしまった手は、今ではぎゅっと握り返されて。たとえ同じ気持ちを返してもらえなくても、なつきのそばにいられるなら、うちは。
「ああ、それと」
なつきはうちの目をじっと見つめてその新緑を細めました。自分の赤がその瞳に映っているのが見えて心臓が痛いくらいに締め付けられて。なつきがふわりと浮かべはった笑顔は、最近見せるようにならはった、余裕のある愛らしい笑顔。
「静留に、大事な話があるんだ」
その言葉が何を指すのか。期待しぃひんことなんてできなくて。今すぐほしい。そう顔に出ていたんやろうね。なつきは苦笑して、そしてうちがずっと、夢見ていた。だけど諦められたはずだった、でもどこかで求めていたその言葉を、そっと甘く言祝いでくれました。
「私は、静留のことが」
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