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溶けかけ。
2024-10-16 21:59:40
2007文字
Public
ほぼ日刊
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隠し味にはたっぷりの愛情を
友人からのリクエスト「卵とじの歌詞みたいにお弁当作るフリーナ」のお話です。
原曲:卵とじ 倉橋ヨエコ
「〜♪」
フリーナは今日も早起きだ。
まだ朝靄のかかるフォンテーヌ廷は肌寒く、フリーナはコンロの火を点けながら悴んだ手足を擦り合わせた。
カッティングボードを取り出し、レシピブックをペラペラと捲る。
「うーん
……
今日はこれとこれにしよう!」
何となく立ち寄った本屋で稲妻の「お弁当」というレシピ集を見つけて以来、フリーナは弁当作りに夢中だ。そののめり込み具合たるや
……
遂にはあらゆるコネを使い、本場稲妻から弁当箱を仕入れるほどであった。
「ヌヴィレット、喜んでくれるかな?
……
ってまずい!まずい!」
土鍋が脱気用の穴から吹きこぼれぶくぶくと白い泡を吹き出しているのに気がつき、慌てて火を弱める。
「ふぅ
……
これで、よし
……
と」
カチカチと目覚まし時計の針を十三分後にセットして鍋の近くに置く。
続いて、卵を取り出して割り入れる。砂糖、醤油、出汁を入れて軽く混ぜたら熱したフライパンに三分の一ほど流し込む。固まってきたら残りの半分を流し込み、巻く。それを後一回繰り返す。
ふつふつと熱せられる卵液を見ているとつい、色んなことを考えてしまう。食べてくれる人が美味しいって言ってくれるかな、とか、いつもありがとう、だとか。だって今更、ヌヴィレット相手に大好きだとか伝えるなんて
――――
照れくさいだろう?
「よっ
……
ほっ
……
」
黄色い卵液が少し固まり、ボウルに入っていた中身を全部入れる。くるくるとヘラで巻いたら出来上がりだ。
出来た卵焼きは皿に置き、冷ましておく。出来立ての卵焼きは美味しいがお弁当には天敵だ。折角美味しく作れても傷んでしまっては台無しだからね。
「す、少しくらいなら
……
いいや、駄目だ。フリーナ。これは僕とヌヴィレットの朝食用なんだから
……
で、でも、どうせ端っこは余るから
……
」
フリーナはナイフを手に取ると卵焼きの両端を切り落として口に運んだ。半熟ふわふわも美味しいが、お弁当には不向きだから完熟だ。
「うん。悪くないね。さすがは僕だ」
コンコンという控えめなノックの音に顔を上げる。どうぞ、と声をかければそっと扉が開けられた。
「おはよう、ヌヴィレット。いま大丈夫かい?」
「勿論だとも。おはよう、フリーナ殿」
包みを抱えたフリーナがおずおずと中へと入ってくる。最近はすっかり見慣れた光景だ。
「少し待っていてくれ。この仕事が片付いたらご馳走になろう」
「お構いなく」
ソファに座って、依頼された脚本に赤を入れていく。時々、仕事をするヌヴィレットを盗み見ながら、こうしてずっとキミを見つめられる仕事があったらいいのにな、と思った。
「ど、どうだい? 今日はしょっぱめにしてみたんだけど
……
」
ヌヴィレットが卵焼きを口に運ぶ。フリーナはその様子を真剣な表情で眺めていた。ヌヴィレットは咀嚼して飲み込んだあと、フォークを奥とフリーナに向き直った。
「あぁ
……
とても美味しいと思う」
「ほ、本当かい!?」
ヌヴィレットの言葉にフリーナの顔がぱっと華やいだ。猫のような色違いの瞳を目一杯見開き、頬は僅かに興奮で赤く染まった。
「ただ
……
」
「ただ
……
?」
フリーナが心配そうな顔をする。ヌヴィレットは口に手を当てるとフリーナの視線から逃れるように俯いた。
「一口で満腹になってしまう
……
私は
……
言いにくいのだが、料理から作り手の感情に共感することが出来る
……
つまり
……
」
ヌヴィレットの話にフリーナの顔が徐々に赤くなっていく。
「うわあああ!? わ、わかった! 分かったからこれ以上は辞めてくれぇ!」
顔を両手で隠して、そっぽを向くフリーナと耳の先を赤く染めて俯くヌヴィレット。
「そ、その
……
一つ聞きたいんだけど
……
どこまで見えた
……
?」
フリーナがぽそぽそと意を決して口を開いた。ヌヴィレットは俯いたまま答える。
「すまない
……
君が考えている通り
――
全部だ
……
」
「〜〜〜〜っ!」
ヌヴィレットの言葉にフリーナが足をバタつかせる。
なんということだ! お弁当を作っていた時に思っていたことがヌヴィレット本人に筒抜けなんて、とんだ茶番だ。
「〜♪」
早朝のフォンテーヌ廷を散歩するヌヴィレットの耳に朗らかな鼻歌が聞こえてきた。歌の出どころはヴァザーリ回廊にあるフリーナの部屋である。ヌヴィレットは立ち止まると目を閉じてその歌に耳を傾ける。フリーナと朝食を共にするようになってからというもの、彼女の家の前を散歩のコースに入れるのがすっかり習慣になってしまっていた。
「ヌヴィレット、よろんこんでくれるかな? ってまずい! まずい!」
鼻歌が止み、とたぱたという音が聞こえる。ああ、止んでしまったか、と少し残念に思いながらヌヴィレットは散歩に戻る。今度は私がフリーナ殿に作って、何処かへ出かけてもいいかもしれないな、と今後の予定を思い描いた。
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