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なりしゃ
2024-10-16 12:38:03
15073文字
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わらびうた
縦書き表示が読みやすいと思います。
「KYO」の村正さんと真弓さんと真尋ちゃんの一家の話。
二次創作、散文。
此れは妄想
乱心が作りし戯言(たわごと)
其れは刀匠
此の世の記録も嘘か真か
ましてや
物語の中では
幻影(かりぞめ)の一族の 一人
若し筆を取り様ものなら、と
訳有りの野武士を転がすに
御誂え向きの茅葺(かやぶき)の屋敷
此処は 鬼と目見(まみ)える少し以前
織田が出陣し 侍が血を争い 一向一揆滅亡
元は武家屋敷
今は幽霊とて拠るまいと云う貸屋敷
鬼を連れた無宿の漢には 丁度良い
伊勢國、小山の麓にて
しがない商人と誤魔化し 棲み
御集金の日は
大家と 姉妹が付き添って 見える
姉は明るく冴え
妹はやや 怖がりか
妹は花を摘み
姉は
近場の寺に御参拝
和尚様、観音様と声がする
其の片手間に 姉は工房に立ち寄りて
アレコワイ
天照(あまてらす)がお匿(かく)れか
天目一箇命(あめのまひとつのかみ)
と論(あげつら)う
異形の漢を
神の謂(いわ)れに喩(たと)えて歌う
鬼はフラリと酒を探し
貴方此方(あなたこなた)と現れば消える
此の所は 大家は見えず
姉が使い立て 御集金に見える
此の身は絡繰人形
昔は見世物小屋
四方の扉から御出ましし
大衆の喝采を浴びた者
今はもう 古くなって
ゼンマイが廻りにくく
傍から見れば止観(しかん)の様(さま)
御役目は
鬼が殻を破るとき
槌(つち)を叩いて刀を仰ぎ
弟子を助く
仕掛けは簡単
力を蓄え、戻すのみ
ゼンマイが壊れたら其れ迄
偶(まれ)に歯が噛み合わず
心の臓は空回り
夏の昼下がり
拠る辺に萠出るは
蕨(わらび)の芽
何時の間に倒れていた所を
助けてくれた
さぞ驚かせただろう
此れは労咳(ろうがい)
穢れが感染る、御帰りと云うのに
蕨の芽は
今朝方
裏山で採れたものだと云う
わらびのおひたしに
台所の酢、煎り酒、砂糖を調達された事を
侘びながら
口に合いますか、滋養になると云う
––––––ソロソロ教エテ 歳ハ幾ツ
子供ノ頃カラ全然老イナイワ 如何シテ
今ハ三十 四十
––––––歳ハ数エ忘レテシマイ
––––––又嘘ヲ云ウ 何処ノ國カラ見エタ方ナンデスカ
其レグライ教エテ
––––––ショウガナイデスネ 秘密デスヨ
拙者ハ嘗(かつ)テ 虞(おそれ)多クモ駿河國
其ノ実 今川ノ家臣
織田ニ敗レ 主 失ウ 流レ者
–––––– ヱヽ ソウダッタノ
御侍サン 鍛冶屋二転業シタノネ
––––––生業ナンデスヨ
アノ子達ハ素人ノ趣味
名工ノ業物(わざもの)を騙(かた)ッタモノバカリ
––––––勿体無イ ズット土間ヲ工房ニシテルノニ
––––––刀ハ侍ニ賣(う)ルタメノ贋作(がんさく)
故ニ本物モ偽物モ アリマセン
本多ノ愛刀 アリマスヨ
松平ノ現物 アリマスヨ ト
––––––ナァンダ 仲見世(なかみせ)ネ
––––––ソウ 此レハ我楽多(がらくた)モ同然ト云ウノデスガ
侍ニハ飾リトテ誉(ほまれ)ノ様デ
店賃ニ 御茶代ハ妹君ト 有難ウゴザイマス
助カリマシタ
サァ 御帰リナサイ
––––––毎度アリ 萬(よろず)屋サン
サッキ アノ子達 ッテ云ッタワ
––––––嗚呼 我ガ子ノ様ニ
––––––変ナ漢(ひと)
御侍サン 萬屋サン 鍛冶屋サンハ
今度ハ気分屋サンニ 転業カシラ
––––––誤魔化セナイモノデスネ
––––––工房ノ中ノ刀 全部同ジ名前 刻ンデル
オッカナイ名前
––––––巷デハ 可笑シナ話ノ御墨付キデスヨ
––––––転々トシナキャ イケナイクライ
大所帯ヲ抜ケ出シタ
最モラシイ理由ガアルノカシラネ
御苦労ナ事
––––––何ヲ
––––––神話ノ話ヨ
––––––神
––––––御免クダサイ
明るく去る
七里の渡しを眺める國
此の町に金銀の瓦は一つも無く
すれ違えば 御早うとご挨拶
集金日ならず 娘は翌日も来る
––––––御早ウゴザイマス 元気ニナッタカシラ
昨日ハ御免ナサイ
謝リタクテ 気ニ障ッタカシラッテ
––––––イヽエ 驚クバカリデス
何モカモヲ 御見透シミタイデ
––––––御免ナサイネ
私 妹ノ事ハスグ解ルノ
今日ハ機嫌ガ悪インダトカ
好キナ漢ノ子ガ出来タンダッテ
アノ子ハ真直ニ育チスギテイルノネ
––––––妹君ハ何方ヘ
––––––知ィラナイ 放ッタラカシヨ
––––––引キ止メテシマッタ
御陰様デ元気ニナリマシタ
モウ御帰リナサイ
––––––妹ノ事ナラ大丈夫
アノネ 私何時モ云ッテアゲルノ
恋ニ敗レモ 乗エ越エテイカナイト
生キテユケレナイゾッテ
些細ナ事デ クヨクヨシナイノッテ
––––––彼奴にも云イ聞カセタイデスネ
––––––御弟子サンネ 子供ノ頃 偶ニ見カケテイタワ
––––––今ハ何処ヘヤラ
口モ効カナインデスヨ
––––––心配ネェ
––––––御酒ヲ御供エシテオキマショウ
啐啄(そったく)同時
時が来るまで待つのみ
大家見えず 御集金の日
又 娘が見える
––––––父君ハ最近 如何シタノデスカ
––––––アノ漢(ひと)ハ只ノ御百姓 父ジャナイワ
オトヤントオカヤンハ
妹ガ生マレテスグ 戦デ死ンダトカ
里親代ワリネェ
––––––スミマセン 御事情ヲ知ラズ
––––––ソンナモノヨ 不自由ハナイシ
デモ 近頃ハ一端(いっぱし)ノ女ダロウテ
私バカリ店子ノ監視
死人(シニン)探シ クワバラクワバラ
––––––御立派デスネ
只 怖クナイノデスカ
––––––何ヲ怖ガルノ
死ンダ人
曰ク付キノ屋敷ノ
其レトモ御弟子サン
––––––イヽエ 此ノ異形ノ漢ヲ
––––––アラ 私達ハ強イノヨ
何カアッタラ 蹴ッテ逃ゲルダケ
私達ノ生キ方
––––––蹴ル デスカ
––––––決マッテル
––––––アレコワイ デスネ
––––––ホラ見テ御覧ナサイ
貴方トテ容赦シナクテヨ 御殿様
––––––此レハ此レハ 逃ゲナイト
––––––笑ッテクレタワネ
其ノ眼ハ嘘ヲツカナイワ
韜晦(とうかい)の人形は
君子を欺き 鬼と共に
富士の麓の 城から逃げ
屋敷に籠り 刀を作る
屋敷には此の所 姉妹が遊びに来る
怖いもの知らずは
危ないと伝えるも 工房の中で
磨き上げたばかりの 刀を物色する
妹は軒先に立ち コワイと云う
––––––刀ハネ 神様ノ御供物ナノッテ
教エテクレタノヨ
御願イ事 シテミタラ
又 好キナ漢(ひと)ガ
妹が怖気付く
一振の刀を手に取り、申す
––––––刀ニ焼キ付ケル模様ヲ 刃文ト云ウ
見覚エガアルデショウ
––––––川ミタイ
––––––ソウ 此レハ憧憬(どうけい)表裏ニ認(したた)メタモノ
––––––渡シ ネ
––––––連レテ行ッテクレタノデスヨ
御覧ナサイ
此方(こちら)ハ木曽川
此方ハ多度山
向コウ岸カラ見レバ 山ト川ハ鏡写シ
何方(どちら)ニモ同ジ景色ガ見エマショウ
––––––綺麗
––––––サア 持ッテ御覧ンナサイ
––––––厭(いや)
コワイと云う
––––––アレコワイ
其レハ自慢ノタナゴ腹 アナ恐ロシヤ妖怪屋敷
姉が妹を脅して笑う
––––––イヽエ
此方(こちら)ハ鍛冶屋ノ庵寺(あんでら)
古里(ふるさと)ノ地ヲ寿グ屋敷
妹が又逃げた
此の小山は 菩薩が愛でた湾を臨む
寺に坐(おわ)すは十日観音像
娘の参拝は日課 御百度(おひゃくど)参りか
––––––和尚様 和尚様
––––––御加護ガアリマショウ
貴女ハ昔カラ変ワラナイ
––––––変ワラナイノハ其方様(そちらさま)
和尚様 御釈迦様 観音様
倖セニナリマス様ニッテ
何ンテネ 本当ハ
此処ノ住職 暇ナノヨ
遊ビガテラニ御説法(ごせっぽう)
欠カサズ 御釈迦様ヘ 御祈リスレバ
貴女モ 其ノウチ悟リノ境地ガ得ラレルヨッテ
––––––さとり
此の術は
言葉を具(つぶさ)に拾い 読む
悟りとは 釈迦の境地
全く似て非なるもの
––––––ヤガテ尼僧ニナリマスカ
––––––ソウネ 髪ヲ剃リ上ゲ出家シマショウ
––––––イケマセン
女ノ髪の毛ニハ大象モ繋ガル デスヨ
御髪(おぐし)ハ大事シナケレバ
観音様ノ嗜(たしな)ミデスカラ
言葉が転ぶ
姉妹が縁側に
鍔(つば)を並べて 観察
––––––子 丑 寅 卯 辰 巳 午 未 申 酉 戌 亥
縁起物ノ柄 兎サント鳥サンダケ貰ッタノネ
可愛イモノバカリ
––––––兎ハ姉サント 分ケッコシタダケ
二ツ アッタジャナイ 龍モ貰ッタワヨ
––––––ヘェ 珍シイ 狼ト獅子モ御願イシタラ
––––––其レハ干支ジャナイワ
––––––獅子ハ強イノヨ
––––––花ガ良イモン
––––––此レハ如何(いかが)
置きっぱなしの鍔
––––––マサカ 蛤(はまぐり)ノ模様
––––––刀ハ趣味 此レハ悪趣味 ネ サンハイ
其ノ手ハ喰ワナノ
––––––大嫌イ
焼き、入れ中の会話
火が片眼に飛びそうに
此処で喧嘩とは仲が良い
まさに 鍔迫り合い
とは云い得て妙
否
其の蛤は
わざと置いた物
十楽の津
七里御浜の船着場は
侍 商人 町人 仏 神の
治外法権 極楽の地
八百万の神でさえ 黙認した地
姉妹は誘い 拒み 頑固者と嘆くので
結局人に紛れて笠を被り 同行
豊臣が 織田が 徳川が 本多が 氏家が
実(まこと)しやかな噂話の中
町人が 又出たと 声を荒げ
我が名を叫ぶ
寺寺家家 連なり
職人の業前(わざまえ)は町屋
菱格子、吹寄格子に現れ
賑やかな光が漏れる
路地裏は
悪態を吐く漢どもが
喧嘩
遊女に現を抜かす漢どもが
酔い潰れ
––––––空(うつ)ケ者 又 物憂(ものう)ジ
––––––嗚呼 スミマセン
––––––満月ナノニ 其ノ本 論語ネェ 読ンデナイデショ
––––––相変ワラズ 冴エマスネ
––––––御弟子サン 帰ッテコナイノネ
––––––鰱(たなご)ノ如ク 芋羊羹ガ有レバ釣レマショウ
––––––能天気ネェ
––––––良ク云ワレマシタ
––––––ソンナ漢(ひと)ダカラヨネ
ネェ
私ノ気持チ 分カンナイデショ
––––––思召シハ
何モカモヲ御見通シ
––––––本当ニ
––––––ヱヽ
––––––私モ同ジ
––––––蹴ッテヤロウカッテ 恐ロシイ
––––––ソンナコト 考エテナイワ
––––––助平 此ノ覗キ野郎 デスネ
強(したた)カナ妹デスカラ 二人共
友達ガネ 覗キ野郎ト 罵ルンデスヨ
––––––全ク
全く
月が照らす
其の顔を見れば
––––––何故下ヲ向イタノ
––––––イエ 照レマスヨ
貴女ハ何時モ心ヲ読ミマスカラ
––––––勿論
月が明るく
罪を照らす
––––––心トハ難シイモノデスネ
––––––デハ 読ンデミマショウ
––––––是非
––––––嗚呼 駿河漢ニ伊勢女
何ガ起コルカワカラナイ
御月様ヲ怒ラセテ
勘当サレタトイウノニサ
アレコワイッタラアリャシナイ
父ト母ニ叱ラレヨ
––––––御名答
––––––ホラネ 何処マデガ当タリ
––––––全テ当タリデスヨ 流石デスネ
––––––恐ロシイ女デショ
ネェネェ 御兄弟ハ居タノ
––––––キョウダイ
貴女ト同ジク 妹ガ一人
比売神(ひめがみ)は天照(あまてらす)の妹
月読(つくよみ)と比売神は父と母
子は時を占い 数える
月、火、水、木、金、土、日、羅睺(らご)、計都(けいと)
十二支を司る
日、月、羅睺は
比売神を御隠しになる
比売神を御嘆きになり
天照は義弟(おとうと)
須佐之男命(すさのをのみこと)と大喧嘩
如何してこうなってしまったんでしょう
月は比売神に身を焦がし
羅睺は 日月を 遮らず
天照は戸に隠(こも)り
天目一箇神の振りをする
月は時量師神(ときはからし)を
日に似せる
比売神は
神々を御嘆きになり
姉の姿を翻(ひるがえ)り
天照へと転生せり
嗚呼
さめざめさめざめ
此の物語は
御伽の國の物語である
なので
––––––ラゴ ト ケイト ッテ何ヨ
––––––日曜ノ次ハ月曜デスカラネ
全ク 羅漢(らかん)サンノ様ナ顔 トハ
良ク云ッタモノ
嗚呼 此ノ話ハ虚構(ふぃくしょん)デス
偶ニハ息抜キモ必要デショ
––––––詮無キ事ヲ
––––––無駄話デシタネ 御忘レナサイ
––––––其レデ
喧嘩シタ 天照ト須佐之男命ノ結末ハ
––––––ソウデスネ 刀デ喩エヨウナラ
破門 表裏 両刃揃イ 握手
––––––台無シジャナイ
デモ 良カッタノカシラネエ
物語シテクレテ有難ウ
––––––此方(こちら)コソ
––––––デモ 今日ダケジャナイノヨ
一人デ居ルト 何時モ俯イテイル
––––––ソウデショウカ
––––––訳ハ聞カナイワ
只
其ノ眼ガネェ モット笑ッテクレナイカシラ
––––––考エテイタダケデスヨ
何ントカ ノ山ニハ孔子ノ倒レ トネ
長らく
妹が 耳を側立てているのだが
漸(ようや)く 気付いたか
––––––待タレヨ 間者ガ
––––––姉サン 邪魔ニナラナイ様ニシテタダケヨ
––––––オイデ 月ガ迎エニキマシタ 翁(おきな)ハ泣キソウデス
––––––兄サン迄
屋敷の主に姓は無い
走井山(はしいりざん)の川にて
太刀を濯(すす)ぐ背を
抱く腕(かいな)が幾重に畝(うね)り
千手の様相を成すを見て
千子(せんご)の姓を
与えようものなら
やれ大仰と観音像
水害と戦乱に交えて
行き場を失った漢どもが
女と酒を欲す
病が蔓延(はびこ)る
姉妹は幽霊屋敷なら御安心と
韜晦(とうかい)の人形に
身を寄せる
正月
––––––冷エルワネ 和尚様 大忙シ
––––––書キ入レ時デスネ
二人共 将棋ハ辞メテシマッタノカイ
––––––私ガ連勝
スグ 詰ミ モウヤリタクナイッテ 本読ンデルノ
––––––勤勉デスネ
––––––勉学ジャナイワ 色好ミナモノバカリ
良イ漢(ひと) 見ツカルト良インダケド
––––––両手ニ花デショウ
––––––選ブ程ナイワ 私ニ似テ
––––––一押シ 二金 三男
殿方ハ慎重ニ選バレルト宜シイ
––––––戯言ダワ
多度カラ白馬ニ乗ッタ御殿様ノ 御迎エデモ待ッテルノヨ
時ニ 如何(いかが)デスカ 御相手ニ願ウ
––––––願ウ相手ハ 観音様ノミト 云ウ事デ
如何(どう)ニモ不得手デネ 待ッタ ヲカケテバカリ
––––––苦手ナ事モアルノネ
勝負ハ時ノ運
ウント 大キナ 花ヲ持タセテアゲマショウカ
––––––是非 妹ニ持タセテオアゲ
優シイ姉上
––––––図ニ乗ルカラ
其レニシテモ
八百万(やおよろづ)ノ気分屋ガ居レバ
退屈ハシナイワ
何故カシラネ 此ノ髪結ノ技ハ 手慣レテイル
褒メテ遣ワス
––––––有難キ倖セニ存ジマス
––––––妙ニ
––––––特技デスヨ 刀匠ノ本業
––––––ウヽン 聞カナイワ 良イ女(ひと)ダッタンデショウカラ
––––––妬イテイルノカイ 怪訝ナ顔
––––––モウ
––––––芸妓サン
巫医(ふい)サン
庵主(あんじゅ)サン
女将(じょしょう)サン ニ
其レハ其レハ 持テタ モノデ
困ッタモノデシタ
––––––神妙ナ眼デ 嘘ネ
洒落本ノ話ハ アノ子ニ話シテアゲテ
胡散臭イ話ハ要ラナイノ
白気(しらけ)チャッタ
––––––冬場ハ ヤハリ 寒イデスネ
此ノ頭ニモ腰丈ヨリ
ズウト長ク
髪ガアリマシタノデ
––––––又
––––––其ノ姿タルハ 正ニ 女之介(おんなのすけ)
今ヤ 僧侶ニ憧レ 危ウク即身仏
––––––危ウク三行半(みくだりはん)ダワ 変ワリ者
元旦カラ縁起デモナイ
デモ 其レハ本当 ナノカシラ
––––––初髪(はつかみ)ハ縁起物
貴女ハ絹ノ様 妹ハ桜ガ染メタ真綿ノ様
––––––アノ子ノ髪ハ梳櫛(すきぐし)ガ通ラナイノヨ
––––––巻キ毛ハ慣レタモノ
ササ 気ヲ遣ワナイデ 如何ゾ御座リ
障子の影が
照れて顔を出す
互いに面映(おもはゆ)く
桜色の髪を寿の形に結い上げる
此の髪は術で伸びる
伊勢に参られた
鬼を切る刀は
天照の啓示で
罪人の髭を切る
我が刀は
天照の啓示で
罪人の髪を切り
又 伸びる髪を切り
鬼を待つ
人気の無い麓には
暖を取りに
鳥 猫 栗鼠が来る
時折 熊の子
会釈し御帰り頂く
中に、震えた狸が紛れ込む
姉妹は 揃って
ホラオイデと誘い込み
妹が遂に捕まえた
千子(せんご)山には狸がおってさ
其れを野武士が刀で切ってさ
煮てさ 焼いてさ 打ってさ
其れを鞴(ふいご)でチョイと匿せ
などと子供の様に揶揄(からか)って
泥を落としている
洗えば狸ではなく 白一色の仔犬
清浄の名を与えた
鬼は来ない
此の二字銘を見よ
全て本物
遂に手に入った と
商人を気取り 唆(そそのか)し一振
伊賀、尾張、三河、遠江、駿河
奉納、殺生の刀となり
賣嵩(うりだか)は銭わずかと告げても
綻ぶ女はらからを見る己は
伊勢は在原の如し
彼奴に貶(けな)されようか
四月十七日
鬱蒼と生い茂る
戦が東西南北
否
東海道の最果て 武蔵
腥き匂い
戦場のものでなく
同胞(どうほう)の気配
九月十六日
神の干渉を彼奴等が制し
西は負け
氏家が桑名城に籠る
町衆は刀を持ち
和平の復興を願い
闘う
人の混乱に乗じて
神々が荒ぶる
神々が天照を探す
––––––御帰リナサイ
ボロボロネ 今日ハ 御侍サン
何処マデ行ッテタノヨ
月マデ 行ッテタノカシラ
––––––十楽ノ商(あきない)モ
此ノ形(なり)デナケレバ 如何ニモ
暫ク留守ニシテスマナイネ
未ダ 富士ノ病ノ薬ガ 見ツカラナインデネ
––––––アラ 里帰リカシラ
––––––イヽエ 御月様ニ勘当サレテマスカラ
––––––兄サン 若シ 罪ノ許シヲ貰ッタラ
カグヤ姫ミタイニ 御迎エガ来ルノ
寂シイ 帰ッテシマウノネ
––––––イエイエ 帰リマセン
シテ
冗談ガ通ジルヨウニナリマシタネ
––––––冗談バカリ云ウカラ
勘当サレタンダワ
多分 シッカリ躾ヲシタ筈ダッタノヨ
上方言葉モ 治ラナイシ
––––––躾ッテ 此ノ仔ミタイ
––––––失礼デスヨ 此ノ仔ノ方ガ ズット聡イデスヨ
––––––良ク分カッテルジャナイ
ソウ云エバ 聞イテ
コォンナニ 大キナ蜘蛛を追イ払ッタノヨネ
クノ一 ミタイニネ
アンナニ コワイコワイッテ
云ッテタノニ
––––––モウ 姉サンニハ出来ナイデショ
私ハ 子供ノ頃トハ違ウノヨ
其レグライ 出来ルワヨ
––––––頼モシイ マムシモ斃セソウデスネ
炉で明かりを採り
我が襦袢を縫い直し
妹と物騒ねと他愛なき日常
此の和平は嘘(いつわり)
神々と町衆が荒ぶる中
四月の風に感じた
腥き匂いの気配
同胞が来る
死と涙さえを忘却した
同胞の美談は天誅
己が生と同じ非業を
我が身に下さんと
大黒柱は
他愛なき会話
日常に
縁側 框(かまち) 沓脱石(くつぬぎいし)
屋敷に 結界を張る
語らず
何時もの様に 半纏を纏い
商人を気取り 笠を用意し
工房の中
小刀を拵える懐(ふところ)から
––––––御武運ヲ
明るく冴える声がする
––––––月ガ御迎エニ来タノネ
––––––商(あきない) 十楽デスヨ
––––––喧嘩ハホドホドニ
帰リヲ待ッテイルワ
––––––危険デスカラ 留守ニシテスマナイネ
少シ生活ガ楽ニナル様ニ
––––––護神刀ハ賣ラナイデネ
妹ト沢山御願イ事ヲシタノヨ
––––––ソウデスネ アノ子ハ大事ダカラ
––––––護神刀
貴方ガ此処ニ来タ理由何ンデショウ
貴方ガ闘ウ理由
十楽ニ交ジルンジャナクテ
一族ノ事デショウ
言葉が冴える
––––––訊カナカッタダケヨ
一人デ旅先カラ帰ッテキタ時
綺麗ニ洗ッテキタツモリカシラ
返リ血ノ匂イ 取リ難イノヨ
貴方トハ違ウ 嫌ナ匂イ
––––––刺客ガ 側ニ来テマシタカラ
––––––噂通リ 神ノ一族ッテ凄イノネ
護ッテクレテタノネ
––––––一族同士デ 殺シ合ウンデスカラ
––––––其ノ為ノ 御弟子サンデショウ
––––––彼奴ニハ 多クノ罪ヲ
ソウデシタネ 貴女達迄ヲモ欺イタ
––––––強クナッテ帰ッテ来ルノ 楽シミネ
貴方ニ 似テ
ソウデモナキャ 貴方ハコンナ所ニ居ナイワ
一族ノ罪ヲ背負ッテ
不治ノ病 ナノネ
本当ニ 竹取物語ミタイ
––––––何処(どこ)ニモ
不治ノ病ノ 妙薬ハ 見ツカラズ終イデスガ
––––––罪ヲ負ッテ 死ンジャウナンテ 可愛イソウ
––––––頼ッテシマッタネ
––––––トテモ嬉シイワ
デモネ 貴方ハ未ダ生キテルジャナイ
死人(しびと)ナノネ
死人(しにん)ハ 見慣レテイルノヨ
––––––辛イ思イヲ サセテシマッタネ
––––––ホラホラ 其ノ眼
笑ッテヨ
手が翳される
過日 己の手が
親友(とも)に 握手を求めた様に
––––––貴女ハ
––––––握手ヨ
––––––此ノ手ハ
一族ヲ滅ボサントスル
殺戮ノ手
––––––ソウカモネ
デモ 其ノ手ハ
助ケテキタノヨ
神様
貴方ハ 只ノ漢(ひと)ヨ
諱(いみな)を匿シテ 生キテイル 只ノ刀匠
訊ク前カラ知ッテタンデショ
女ノ孤児(みなしご)ダト云ウダケデ アノ百姓ニ 集落ニ
デキソコナイ ト
蔑(さげす)マレテキタ 私達ヲ
見兼ネテ 此ノ戦乱カラ 匿ッテ 養ッテ
全部知ッテル癖ニ 云ワナイデオイテ
ネ
握り返す
––––––太陽ノ様ニ 笑ッテ
愛シテクレタノハ
一族ヲ 愛シテイルカラデショウ
同ジコトヨ
––––––何時カラ
––––––オ互イニネ
ソックリ其ノ儘(まま) 返スワ
何ンデ分カルノカッテ 眼ネ
ナラ 其ノ術 言葉ヲ読ム術 アルンデショウ
使ッテミテ
何ヲ考エテイルカ 読ンデ
––––––イヽエ
繰り寄せる
––––––頑固者
私ネ 子供ノ頃カラネ 見テタノヨ
ニコニコシテ
侍ミタイニナッタリ 鍛冶屋ミタイニナッタリ
刀持ッテ 洞窟ノ中 此ノ髪 スゴク長イ時 アルワヨネ
変ワッタ漢(ひと)ダト思ッテイタケレド
客人ガ帰ッタラ
一張羅(いっちょうら)ガ 血塗レ 俯イテ 険シイ瞳
見テイラレナカッタ
ダカラ和尚様 観音様ニ御願イシテタノヨ
彼方(あちら)ノ神様モ
病気ガ治リマス様ニ
御弟子サンニ チャント 御指導ヲシテ
長生キサレマス様ニッテ
––––––有難ウ
果報者デスネ
死ノ病ハネ
妹ガ産ンダ
親友(とも)トノ絆
一族ノ証 何ンデスヨ
––––––宝物ナノネ
私モ病ガ治ラナイミタイ
––––––貴女ハ
––––––ネェ
何処カヘ行ッチャウノカシラ
貴方 能天気ダモノ 寂シイワ
道半バ 誰ガ看病スルノヤラ
仔犬が山の上で鳴く
––––––約束シマショウ
何処ニ行ッテモ
必ズ帰ッテクルト
––––––約束スルワ
ズット一緒ヨ
一族ノ約束 ネ
––––––有難ウ
––––––楽シミダワ
若シ 貴方ガ 貴方ノ
私ガ 私ノ 御役目ヲ終エタラ
命ヲ貰イ受ケ 時ヲ数エルノヨ
月 火 水 木 金 土 日 羅睺 計都
––––––約束シマショウ
デスガ
観音様 日曜ノ次ハ月曜デスヨ
––––––アラ ソウダッタワネ 神様 御用
––––––打チ取ッテクダサイ 此ノ首ヲ
––––––ショウガナイワネェ
デハ其ノ首ノ代ワリニ
御命頂戴
––––––御意 痛ミ入リマス
––––––二人デ仲良ク 歳ヲ取ロウネ
心の言葉を読む事はなく
––––––妹ヲ頼ミマスネ
無事を念ず
––––––姉サン 兄サン 工房デ ドウシタノヨ
此ノ仔 迷子ニナッテタノ
山奥マデ探シテ ヤット見ツケタノ 又 狸ミタイ
鞴ニナッチャウ
––––––アラ 入ッテオイデナサイヨ
御願イ事ヲシテタダケ
刀ガ宝石ミタイヨ
其レトモ 未ダ コワイ
––––––馬鹿ニシナイデ
––––––オヨシナサイ 二人トモ
昔カラ 喧嘩ハ大嫌イナンデスヨ
嗚呼 傷ガ
此ノ仔ハ 忍者ニ興味ガアルンデスネ
薬草ト
綺麗ナ反物ヲ 探シテキマショウ
––––––二人デ 何ヲ話シテタノヨ
––––––気ニナル 家族ノ約束ヨ
道中
良イ玉鋼(たまはがね)ガ 見ツカルト良イワネ
行ッテラッシャイ
他愛のない会話の片隅
書簡を遣り
旅に出る
屋敷を空ける
すぐに戻る と
だが
同胞の首 終ぞ取れず
御前が 身を挺し
雨天
刀傷背負い 筋 脈 絶たれ
汗の滲む肢体に石灰を撒き
布で包むが
とうに
甦、術(すべ)なく
精、術なく
出血死
妹の箪笥の上
丁寧に手折られた風呂敷
愛と平和の物語
神と人 揃わず
大風呂敷が広がり
其のまま 終幕 金切り声
––––––彼奴ガ護神刀を奪ッテイッタノ
ネエ 兄サン 姉サンヲ助ケテ
耳を掠める
何時かの己が
––––––其レハ神ノ領域
神、足りえれば
御前を救うたか
––––––シッカリシテオクレ
握る手も 返らぬ
息も無き 御前に
非道い事を云う
––––––姉サン ネエ 起キテヨ
兄サン 兄サン 御願イ何ントカシテ
神ノ力ガ有ルンデショウ
人 有るまじき
所業を行う者を
此の世では
人でなし、と云う
満中陰(まんちゅういん)
喪乱の世では
白菊一つも无(な)し
花の作製は如何な術だったか
真似ようとも
似ず
侍 さめざめ泣きません
泣いたら天照(てんてる) 怒るので
まったく非道い漢でしょう
御天道様に叱られよ
どうか笑顔を、との願いに
兄さんこそ、と腫れた瞳は
何時しか
兄上、と
切刀(きれは)の如き 意固地な瞳になった
––––––此ノ目タ見タモノ
ズット待ッテイタノヨ
兄上ヲ裏切ル時ヲ
––––––デハ 此ノ手デ
貴女ガ手ヲ汚ス事ハナイ
––––––無理ヨ 出来ッコナイ
弟子ダッタンデショウ
兄上 神ノ一族ダッタカラ 誑(たぶら)カサレテイタノヨ
––––––神ノ一族デスカラ 容易イ事
––––––厭 仇ヲ取ルノハ私
兄上は病気ナンデショウ
其レニ
––––––心配ニハ至ラナイ
––––––ィサン ガ
兄サンガ殺スナンテ厭
何ンデコンナ事ニナッチャッタノ
––––––貴女達ヲ巻キ込ンダノハ
他ノ誰デモナク 我ガ罪
––––––兄サン オカシイ 他ニ誰ガ居ルノ
此ノ屋敷 誰モ怖ガッテ来ナイノヨ
兄サンノ留守ヲ見計ラッテ
鬼ガ来タノヨ 此ノ目デ見タノ
––––––業ハ 貰イ受ケマシタ
––––––庇イ立テデショウ 嘘
兄サン 優シイモノ
––––––此ノ手デ始末シマス
––––––無理ヨ 出来ナイワ
––––––デハ 此ノ愚兄ノ代ワリニ
彼奴ヲ殺セマスカ
––––––其レハ私ガ強クナレバ
––––––柄ガ握レマスカ
––––––兄サン
––––––好キナモノヲ御選ビ
––––––兄サン
––––––震エテイルノカイ
––––––違ウ
強かさは姉妹よく似
狂恋(きょうれん)は乱れている
窺(うかが)わずとも 分かりやすく
懐いた肩は骨張り
窶(やつ)れた
此の口が
死を見た妹に
真 を云う事はなく
人殺し の武器が陳列する工房に
妹が入る事は
無かった
隣國、伊賀集落へ書簡を遣る
徳川が 忍びの一派を手名付けた
妹には 御殿場が相応しい
如何(どう)か妹の到着を待つ様
此の命の代わりに 庇護を
旅の女には 不釣り合いな顔
縮緬の着物と か細い手足に
託すものは
強く御成と念じ
蕨を練り混んだ薬草
––––––御殿様ノ 御用達
鮟鱇(あんこう)ヲ捌ク
勝手ノ良イ料理包丁ヲ
御帰リノ日迄ニ 御用意シマショウ
過ぎた日の様に微笑むを
忘るる事なく
如何ぞ御無事であります様
其の名が示す道を
尋ね賜え、真を、と
あの屋敷には鬼が来た
人殺しがやってきた
アレコワイ、見た事か
死人の祟りが有るもんでと
商人も旅人も
立ち寄る者なく
死の病は風土病に似
巷の療法が跋扈(ばっこ)し
患えば集落の爪弾き者
できそこない と蔑まれ
息を潜めて生を乞う
雨天
伽藍堂(がらんどう)の屋敷で
只、坐す
只、
只、
只、否、雨が
漣(さざなみ)の如く
漣如(さめざめ)と
痛覚を刺激し
血の塊が零れ落つ
血、曰く、
君子は、義、安寧の滅びに諭(さと)り、
小人は、利、涙を忘却し、血に抗い、闘う事に論る
血が 縷々(るる) 論ず
悪夢を見る
一つ目の神 の大罪は 刀への腐心
我が力に法愛あらば 衆生は争わず
二つ目の神 の大罪は 天(あま)の岩戸匿れ
我が力に餓鬼愛なくば 闘いの道は無く
神に 愛 あらば
姉妹に相見える事すらなし
夢
此れは妄想
乱心が作りし戯言
乱れ 表裏 揃わぬ
嘗(かつ)て
富士の峰の工房で
老師の信念を四つに分かち賜うた
一振は、愛別(あいべつ)の猶子(ゆうし)、二対の剣
汝、一切皆苦(いっさいかいく)を説く
己の脆さに苦しむ 四三の星を救う
一振は、武神の一族、長尺の槍
汝、諸法無我(しょほうむが)を説く
諍(いさか)いを怖れる 門城を救う
一振は、君主の骨肉、双子の剣
汝、涅槃寂静(ねはんじゃくちょう)を説く
崩れ血が集(たか)る 垣(かきね)を救う
残り一振、我が掌(たなごころ)、双子の剣
汝、諸行無常(しょぎょうむじょう)を説く
道を探して、遠吠えをする 狼を救う
そう述べては
ケラケラ姉妹は笑い
大口真神(おおくちのまがみ)が住まう 一振を
屋敷の護神刀として奉った
護られたのは 神のみ
––––––兄上
昨晩
立派になった女郎蜘蛛が
絹の様に強かな 糸を臨ませ
罪人を救わんとするが
血の集る刀で罪人は脅し 糸を切る
最早
坐す事能わず
吐血
柄を握る手が霞み
力無く
臥す
御参りのみが 日課
或る日
墓前で
炊き上げた香を
突然
バサリと吹き飛ばした一羽の鳥
黄鶲(きびたき)が
火を御焚(おた)き
火を御焚きと云う
若輩の輝きを持つ 瑠璃色の眼が
説法なら御免と
ませた女子(おなご)の様に
火を焚きなさい
火を焚きなさい、と
焚き付ける
老師は
四神を司る神風の流派に
人が 知ら無い事を 業とする
無明 の名を与えた
業は 数多に
無我とは
終ぞ心得ず 境地
されど
叛逆者は
観音に乞う
衆生を憐れんだ
絡繰人形は
一族を捨て
愛 なくし彷徨い
四無量心(しむりょうしん)をもすら
忘れたのか
火を焚き
洞窟の中 玉鋼に迷い
業を 折り返すが如く 玉鋼を折り返す
槌で鋼を 苦しめど なお打ち苦しみ
鋼に裏山の土を置き
心に焼き入れるが如く 炉で熱し
神風(かぜ)の清響(こえ)を聞く耳と同じ
耳を 鋼を 研ぎ澄ます
研ぎは
同じ
絹で
肌を拭い
薄く御化粧した
此の手の所為
刃文が
天を仰ぎ
銘を切る
陽が
刀を照らし 映す
我が眼を
時 僅か
月、火、水、木、金、土、日、羅睺、計都
十二の月
躰はまだ動く
人の神
工房の炉の上 御贄(みにえ)を捧げ
人の仏
墓碑も立たぬ 墓石に焼香し
千手観音と 約束を誓う
叛逆者は
聞く
無明は無知、ならず
只 陽の当たらぬ闇
闇には 蛍の明が灯(とも)らば
天下の光明
静寂の世を見晴らす 希望となる
躰揃わば 影の中でも耳が利く
人の
自然(そのまま)の耳に
神風(かぜ)の清響(こえ)が聞こえぬか
聞く
最期の打刀は 二尺
汝、悟りの境地を説く 小太刀
護りの力に満ち
小柄だった
愛(う)い
御前に似る
切刃造(きれはづくり)
庵棟(いおりむね)
反りは少し弓形(ゆみなり)
鍛えは正目(まさめ)涙がかる肌交じり
尋常なき白気映り(しれけうつり)が立つ
刃文は互(ぐ)の目(め)心(ごころ)乱れ
匂口明るく悟る
茎(なかご)が掌(たなご)腹
刃文が弓形(ゆみなり)
由々しく
花水木(みずき)を呈し
時宣(じぎ) 司る
表裏の刃文が揃う
我が刀は
刃文を 表裏 揃える
山と川は 鏡写し 表裏 揃う
仏と人よ 表裏 揃え
神と人よ 表裏 揃え
友と友よ 種と種よ 道と道よ
彼岸と此岸
唯(ただ) 今だけ
千手千眼観世音(せんじゅせんげんかんぜおん)よ
阿鼻地獄と
表裏 揃い賜え
あの日
若し
只今(ただいま)と
只、
只、
只、云えようものなら
只、
只、
只、
只、願い 道に 向かう
我を勧請(かんじょう)する
豪胆な独眼竜よ
我を笑い賜え
死に損ないが
遂に命を乞うたと
彼奴に伝え賜え
奥州の伊達公が
誰を引き連れてきたかと思えば
徳川は葵の御紋の三男
上田は智将の六文銭
甲賀は忍術の勇士
出雲はヤヤコ踊の舞姫
そして其方(そなた)は東海道に其の名有りと
嗚呼 無事でおいでだったか
とかく
彼奴は面白い漢(おとこ)
信ずる力の伝承は
念日(はつか)有れば 十分
心は 愛敬(あいきょう)の者に
技は 手に刀を把(にぎ)り 共に行く者に
体は 此れを以て 塵とする
我等は一片も残らぬ
ゼンマイ仕掛けの絡繰人形
神に仇なし
仏にも能わず
刀身のみが残る
人でなし
然し御前は
護りの力を
我が魂に
小太刀は
愛した者と別れ
離苦を抱える者たちの
御護りになります様
灰塵は
叶うならば
裏山に萠える蕨の土塊
蕨は
歯が溢(こぼ)れた
ゼンマイを
クルリと
巻いて
歌っていた
若し
千手観音の浄土に
三悪
酢、煎り酒、砂糖が有れば
有難い
此の世では
我が名ばかりが伝説と銘打ちて
妖しげに語り継がれる事を
面白おかしく見るが
講談の中に僅かに記された
女(ひと)の事を
若し筆を取り様ものなら
あえて書き留める次第
名、「真弓」
行くあてもない私を助けてくれた女(ひと)
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
◻︎◻︎の小太◻︎ 慶長◻︎年 (◻︎◻︎)◻︎◻︎
千手観世音菩薩 ◻︎◻︎◻︎弓
切刃造(きれはづくり)。庵棟(いおりむね)。鍛えは柾目(まさめ)に肌交じり白気映り(しれけうつり)が立つ。刃文は互(ぐ)の目(め)ごころ乱れ匂口明るく冴える。茎(なかご)がたなご腹。表裏の刃文が揃う。
千子派の作風。銘は表に◻︎◻︎の小太◻︎ 慶長◻︎年 (◻︎◻︎)◻︎◻︎。裏に 千手観世音菩薩(せんじゅかんぜおんぼさつ) ◻︎◻︎◻︎弓。
仔細不明。二次創作。
此の物語はフィクションですが
敬意を込めて
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