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いを
2024-10-15 21:41:33
1068文字
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鬼斬京
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できるだけ暗いところで踊りましょう
金沢文庫
・イロさん【1_sh1_z1_ma】
お借りしています。
「それは
棗
なつめ
」
「なつめ?」
「お茶を点てるときの
……
茶を入れる入れ物です」
「ふうん」
「割れ物ですからね」
イロの手の中にガラス製の棗がある。売り物なので、もちろん茶は入っていない。これから先入ることがあるのかどうかも分からない。
店の中のものを物色しているイロを暗がりで見つめる。
棚の引きだしを引いては中に入っているかんざしや櫛などを手に取ったり取らなかったりしていた。
金沢といえばそろばんを弾きながら、ノートに売り上げを書き写している。今どきそろばんかと自分でも思うが、電卓より手の感触で分かるのでいい。
「今日も閑古鳥だな。ほんとにここやってけんのか?」
「そうですねぇ。こんな怪しいところで繁盛してしまったら目立ってしまいますし、丁度いいんじゃないですか」
ぱちん、というそろばんの音。イロの足音。客の声も足音もない。
「なあ、これなに」
上体だけ机に寄りかかり、手元に置かれたのは印籠だった。
「これは印籠。薬入れです。江戸時代頃のものですね」
指先で確認すると、芒の彫り物が施されていた。こんなものがあったとは。忘れていた。
「どこにありました?」
「そこ、かんざしと同じ棚に入ってた」
「そうですか。ふふ。店主にも忘れられていた印籠ですか」
時代が過ぎ去るごとにこのような骨董品は増えていく。彼はそのまま靴をぬぎ、小上がりに上がった。ギシ、と床が軋む音がひどく聞こえた。
そして、金沢が座る座布団のとなりに腰を下ろした。
「もうじき雨降るぞ」
「そうなんですか?」
「曇ってきた」
「じゃあもう店閉めちゃいましょうか」
いい加減だな、とイロが面白そうに呟いた。
「自営業なので」
そううそぶくと、彼は喉の奥で笑う。そろばんの玉を一度元に戻し、ノートを机の引き出しに仕舞うとゆっくりと立ち上がる。
シャッターを下ろし、扉の鍵を掛けた。締め作業はこんなものだ。従業員もいないし、ほかに人を雇うほどでもない。金沢ひとりで十分行き届く。
「ああ、雨のにおい」
コンクリートを湿らす雨のにおいが、むっとこちら側まで漂ってきた。
「金沢」
「はい」
「今日、ギョーザ作ろうぜ」
「ギョーザ?」
少し考えて、そういえば
いい肉
・・・
が入っていたのを思い出した。
「いいですね。今からつくればちょうど夕食にも間に合うかもしれません。とはいえ
……
」
餃子は分かる。分かるが作ったことは一度もない。
「私、作ったことないのでご教授願います。イロさん」
おどけてみせると、イロは吐息だけで笑った。
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